かんぽ生命、保険料二重徴収 日本郵政グループ経営 不作為の罪

日本郵政グループでの不正販売等に関するニュースが止まりません。今回はかんぽ生命で、社員が故意に保険料を二重徴収していたというニュース。新規の保険契約後半年以内に既存契約を解約すると、営業員に新規保険契約の手当てが入らなくなるため、半年以上既存契約を解約させず、保険料を二重に払わせることになっているというものです。

ニュースの伝える内容を見る限り、保険販売については乗り換えではなく、新規契約をとるようインセンティブが与えられていることが分かります。乗り換えを抑止して、新規契約を促すという会社としての経営の方向性は見て取れるわけです。

ところが、こういう戦略をとったにもかかわらず、「実質的には乗り換えだけど、新規の契約に見せかける手口が横行するのではないか」というリスクを想定し、そうしたことが行われていないことを確認するためのモニタリング態勢ができていなかったという結末です。営業戦略の推進には必ずその裏側にリスクが付いてきます。経営陣の不作為と言わざるを得ません。

日本郵政の社員が販売

かんぽ生命の個人向け保険を実際に販売するのは、全国で2万局を超える郵便局の職員とのこと。かんぽ生命から委託されて販売しているんだそうです。日経の記事では「郵便局では貯金集めをしながら、投資信託と保険を一緒に販売するところもあり、専業の保険会社に比べると知識や経験で劣る」などと書かれてました。しかし、保険も投信もそれぞれ販売するための資格取得というプロセスがあります。その中で法令や規則は真っ先に学んでいるはず。全く言い訳になりません。

投資信託 保険間の乗り換え

先ほど紹介した日経の記事にもあるように、販売する部隊は保険も投資信託も扱っているようです。保険の乗り換えは自粛、投信の乗り換えも自粛というルール等があると思われます。となると、次に懸念されるのは、保険と投資信託間の乗り換え営業です。投信を売却して保険を契約する、もしくは、逆に保険を解約させて、投信を買い付けさせるという勧誘です。販売にあたる営業員は苦しくなるとこれ(業界では他商品乗換などと言います)を考えます。

顧客にとってメリットのない取引は、基本的に一部の顧客にしか通用しません。本来投資信託を買う顧客と保険を契約する顧客は別(顧客のニーズに沿う商品を勧誘するべき)のはずですが、営業員にとって都合の良い取引をさせてくれる顧客は同一なんですね。だからこうした乗り換えが生まれます。

当然、経営としてはこのルールの潜脱行為としての他商品間乗り換えに関しても、目を光らせておく必要があるわけです。しかし、保険の乗り換えだけをとってもモニタリングできていなかった会社ですから、おそらく別の商品との乗り換えをモニタリングできているとは思えません。いずれこの話題も出てくるでしょうね。多くの場合、これらの取引は、「顧客にとって経済的合理性を欠く勧誘行為」として、是正を求められることになります。

おまけ

ゆうちょ銀行は以前スルガ銀行と提携していました。住宅ローンや個人ローンの媒介ですね。調査委員会まで立てて調査を実施。ゆうちょ銀行の従業員に審査資料の偽装等の不適切な行為はなかったとして、悪いのは全てスルガです、、、な感じで、提携を解消しました。

しかし、ここまで不適切な営業行為を見せられると、あの調査委員会の報告も心配になってきますよね。実はゆうちょ銀行側にも不適切な媒介行為がありました。なんてことになりはしないかと。

クロネコヤマト 引っ越し事業再開? 駐禁回避の違反行為も

先月中旬に、日本経済新聞が伝えていました。ヤマトホールディングスの子会社であるヤマトホームコンビニエンス(YHC)が、代金の過大請求問題に対する業務改善命令を受け、全面停止していた引っ越し事業を9月から再開する方針とのこと。

受注停止からちょうど1年

YHCに対する行政処分・業務改善命令(国土交通省)は、今年に入って1月に発出されています。ただ、それよりも前、昨年の8月末から新規受注を全面停止していましたので、9月から再開ということなら、ちょうど1年ということになります。これで喪が明けたということですかね。

その間、再発防止策として代金の過大請求ができないシステムを導入するとか言ってました。見積時に担当者が使用するタブレットを導入し、荷物量に合わせて料金を自動計算するんだとか。商品設計も見直して、顧客に分かりやすい明瞭な料金体系に変更するとかも。

日経はかなりポジティブ

「今年春の引越繁忙期はこのYHCが受注を停止していたことも影響して、引っ越し料金が約10%上昇した」と日経は伝えてましたね。「秋の異動に伴う繁忙期には間に合いそうだ」とも書いていました。ちょっと違和感ありますよね。あれだけの不祥事を起こしておいて、メディアがYHCの復活を望んでいるかのような書きぶりです。

ちなみに、日経が報道したその日、ヤマトホールディングスはホームページで「本日の一部報道は当社の発表に基づいたものではありません」とお知らせを出していました。

今度は駐禁回避の違反行為

業務改善命令を受けたにしろ、それを本当に真摯に受け止め、本気で改善したんだったら復帰も良いでしょうよ。くらいに思っていたわけですが、7/2のYHCのホームページでは、「ヤマトホームコンビニエンスの駐車車両に関する報道について」というお知らせが出ています。

「本件は当社社員が配達業務を行う際、駐車違反の取り締まりを避けるために行った違反行為であり、既に警察署にも本件に関する報告を行いました」と書かれています。当該報道をkuniは見ていないんですが、ググってみると、「駐禁回避のためにナンバープレートを隠して作業する」みたいな行為のようです。

これでまた引越業務の再開は延期になるんでしょうか。駐禁回避のためにドライバーが苦肉の策でやっているんだとしたら、ドライバーには少し同情するんですが。。。会社がこうした行為を指導してたり、黙認してたりということだと、これは問題ですね。

野村證券 底なしの不祥事

6/28 野村證券社員二人が20代の女性にお酒を飲ませて乱暴したとして、準強制性交容疑で逮捕されました。また、例によってプレスリリースはなし。警察が逮捕に踏み切る前に退職させているので、メディアは元社員と報じてますが、犯行時2/15はまだ社員。

会社行為 社員の行為 元社員の行為

野村証券は、東証の市場区分見直しに関する情報を利用した営業行為に対して、5/28に金融庁から業務改善命令を受けたばかりです。野村総研(NRI)も含めた野村グループぐるみの会社行為でした。

社員の犯罪行為については、以前取り上げたように、千葉県の社員寮で大麻不法所持で二人が逮捕されたばかりです。そこへ今回は婦女暴行事件。雑誌「選択」の記事によると、これ以外にも婦女暴行事件があって、会社としては事実を把握しているとか。しかしまぁ、これだけ続けて出てくると、いったいどれだけの犯罪が隠されてるんだか、って感じですよね。

さらに、昨日は本当に元社員の犯罪行為まで報道されました。こちらは野村自身がプレスリリースで公表しています。2014年入社で姫路支店在籍後、2016年9月に退職した社員(中村成治)が、退職後に設立した会社(株式会社Foresight)で架空の投資商品を提案している疑いがあるとしています。

なぜ、この不祥事だけホームページで公表したんでしょうね。それもかなり詳細に、元社員の氏名まで明示して。いろいろと勘ぐってしまいますが、公表文の中に次のようなくだりがあります。「お客様への被害拡大防止の観点から、当社社員の関りも含めて調査を進めるとともに、警察への相談を行っております」

かなり怖いお話ですね。現野村証券の営業員もこの架空商品とやらの勧誘に関与している可能性をほのめかしています。実は大手のメディアはまだ取り上げていませんが、船橋支店の営業員がこの架空商品と思われる取引を、Foresightの中村氏同席で顧客に勧誘・契約させたという被害が既にでているようです。この被害者には詐欺被害の救済と称して、また別の営業員が詐欺的な勧誘をしているとか。。。

金融庁次第かな

もうここまでくると立ち直れないかもしれませんね。非常に問題ある会社組織が、次から次へと犯罪者を育て、世に放っているかのような構図。監督する金融庁も今回はさすがに許さないんじゃないでしょうか。社長の引責辞任、、、、それだけで済むのか。「選択」さんが以前から書いているように、社長交代やメガバンク傘下入りも現実味を帯びてきましたね。

日産自動車 24億円の課徴金? 課徴金計算方法

先週、突然こういうニュースが流れ始めました。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏が役員報酬を有価証券報告書に過少記載したとして金融商品取引法違反の罪で起訴された事件で、証券取引等監視委員会は日産に対して課徴金を科すよう金融庁に勧告する方針を固めたとのこと。監視委は「報酬隠し」が投資家の判断に与えた影響は大きいと判断したもようで、課徴金額は少なくとも約24億円にのぼる見通し。

証券取引等監視委員会の告発内容

ニュースではゴーン氏逮捕の後もいろいろと余罪が聞こえてきましたが、監視委員会が告発しているのは、虚偽有価証券報告書提出について、昨年12月と今年1月の二回です。最初が23年3月期~27年3月期の5期間の有価証券報告書について。後者が、28年3月期~30年3月期の3期間の有価証券報告書について。

いずれも、それぞれ、重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した。という内容です。虚偽の記載というのが、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」欄内、「役員ごとの連結報酬等の総額等」の欄に、ゴーン氏の総報酬及び金銭報酬を実態より過少に記載したことですね。

24億円はどうやって計算?

有価証券報告書の虚偽記載に関する課徴金の計算方法を金融庁のホームページで調べてみました。「虚偽記載等のある有価証券報告書等を提出した発行者が発行する算定基準有価証券の市場価額の総額の10万分の6又は600万円のいずれか高い額」となっています。

そこで、勉強するつもりで、日産自動車株式の時価総額を調べ、計算もしてみました。

23年3月期末  3兆3362億円   2億17万円
24年3月期末  3兆9827億円   2億3896万円
25年3月期末  4兆912億円    2億4547万円
26年3月期末  3兆8563億円   2億3137万円
27年3月期末  5兆1328億円   3億796万円
28年3月期末  4兆3435億円   2億6061万円
29年3月期末  4兆2011億円   2億5206万円
30年3月期末  4兆3170億円   2億5902万円

左側がその期末株価で計算した時価総額で、右側が時価総額に10万分の6を乗じた金額です。いずれも600万円をはるかに超えていますので、この金額が課徴金になると思われます。8期分全部合計で19億9562万円になります、、、が、こういう計算であってるんだろうか。

約4億円の差は何か?

新聞等が報じている24億円とは、約4億円の差が出てしまいました。以前東芝が、有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令を受けた際、有価証券報告書を参照書類とする発行登録追補書類を提出し、同発行登録追補書類に基づいて発行した社債券についても課徴金が課されていました。東芝のケースは純利益の過大計上ですからね。

こちらは、課徴金の計算方法が「募集・売出し総額の2.25%」となっていて、かなりインパクトデカいです。もし日産がこの期間中に1000億円のSBとかを発行していれば、それだけで22億5000万円の課徴金になります。残念ながら海外子会社まで含めた社債の発行状況まで調べられませんでした。っていうか、ここまでの計算結果についても自信がないというか、kuniの試算ということで、、、悪しからず。

ゆうちょ銀行の次はかんぽ生命

先日、「ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売」について書いたばかりですが、今度はかんぽ生命。過去の契約を新しい契約に変更する「乗り換え」などで、「不適切な販売を高齢の契約者らに繰り返した疑いがある」と朝日新聞が伝えました。

保険乗り換え実態調査「不適切と認識せず」

一方の日本経済新聞では、かんぽ生命で実態調査が行われたことと、その結果についてかんぽ生命が「不適切な募集とは認識していない」と説明しているところまでしか伝えていません。約300件については、契約者にヒアリングを実施したところ、数十件で既存契約のまま特約が付加できるケースがあり「違う提案ができたケースがあるという」。ってな感じで、不適切だったのかどうか、結論がはっきりしません。

その他の報道を見ても、不適切と言い切れるほどの話が出てきていませんので、今のところは「契約者の負担が増えるような保険の乗り換え契約をしていた」とまでしか言えないということでしょう。法令違反や規則の違反はなかったとしても、顧客本位の業務運営にこれほど神経質になっている金融の世界ですから、かんぽ生命も十分アウトです。

両社ほぼ同じタイミングで調査・公表が

昨年の取引や契約について今年になって調査を開始し、ほぼ同じ6月中旬に結果を公表というこのタイミングの一致は何を意味するんでしょう。顧客からの苦情か、内部通報による気付きなのか。いずれにしても親会社の日本郵政が各社に点検を指示したのではないかと思われます。

2017年度と2018年度の業態別投信販売額比較を見てみると、メガバンク、地方銀行、第二地銀、主要信金、大手証券、準大手証券、ネット4社、いずれも17年度に比べて投信販売額はかなり落ち込んでいます。主要信金だけが下落率10%未満と健闘していますが、メガバンクに至っては46%の減少になっています。

そのような環境下で、ゆうちょ銀行だけは7,306億円から8,905億円と、21.9%投信販売額を増加させているんです。スルガ銀行についても何度も書きましたが、業界の動向と大きく乖離した好成績、必ずその要因を分析しておく必要があります。多くの場合、他社がやっていないような不正が隠れているものです。

これはkuniの推測でしかありませんが、業界動向に比べて極めて好調な投信販売実績について、日本郵政が点検を指示した可能性はありそうです。だとしたら、スルガ銀行よりはマシだったということになります。しかし、貸付けができないゆうちょ銀行、投信販売を強力に推進するわけですから、当然そこにコンプライアンス・リスクがあることを前提とした経営のリスクマネジメントがあってしかるべきでした。経営陣のリスク感覚が甘すぎたのは事実です。