中部水産の事例にみる「循環取引」とは

先日、中部水産の調査報告書の公表について書きましたが、その中で登場する循環取引についての説明がやや不足していたかと思うので、第2弾として「循環取引」とはどういうもので、何が問題なのか、などについて整理しておきます。

循環取引とは

中部水産のケースでは、「A社 → 中部水産 → B社 → A社」という商品の流れで説明しました。取引に参加しているのは3社です。お金の流れは矢印の反対で、A社から中部水産が100万円で商品を買い付け。B社は中部水産から102万円で買い付け。そして最終的にはB社からA社が104万円で買い付けるって感じです。

中部水産もB社も2万円の利益、唯一A社が4万円損をする格好です。しかし、このケースの場合、A社は資金繰りに窮しており、商品の売買契約成立後1ヶ月後に支払いが行われるとすると、3カ月間100万円の資金を手当てすることができるわけです。4万円は利息みたいなものです。商品は一切動かず、伝票だけが回っているだけです。

何が問題なのか

こうしてみるとどの企業にも損失は発生していません。何が問題なの?という疑問が出てきます。しかし、実際には商品の売買が行われていないにもかかわらず、各社売り上げが大きくなっているはずですよね。実態のない循環取引を行い、その結果を決算に反映(売り上げの過大計上など)させた場合、開示書類の虚偽記載として金融商品取引法違反に該当します。

また、循環取引による粉飾決算を行い、財務状況が良いと金融機関に誤信させて融資を受けた場合には、「詐欺罪」が成立する可能性もあります。さらに、担当役員について特別背任罪が問われる可能性もあります。ん~、ブログでこういう話を書くのはやっぱり窮屈ですね。

ラックランド もう一つの不正 売掛金の回収

先日公表された特別調査委員会による調査報告書から、社長の不正な経費精算について書きましたが、報告書ではもう一つの問題である「売掛金の不適切な回収」についてもかなりの紙面を割いていました。

問題となった売掛金

2018年度に約58億円を売上計上した物件において、約22億円もの長期売掛金を抱えてしまうという状況が発生。これを回収するために、同社から社長に対して不適切な資金が流れ、社長の資産管理会社を経由して債務を抱える取引先に返済原資として提供されたという事実が。

この社長に流れた資金の一部に、先日書いた不正な経費精算の一部が使用されていたということです。経費が私的に流用されるよりは、会社の売掛金回収のために使われる方がマシ、なように見えますが、会社の業績を良く見せるための行為であり、ここでも社長の公私混同は一緒です。

金融機関への虚偽報告

支払いに窮した取引先が銀行から融資を受けやすいように、ラックランドとして虚偽の報告書を提出したり、証券会社に対してラックランドの公募増資に関して虚偽の説明をしていたりということも報告書では指摘されています。これらは財務ライントップ3により行われていたと。

自社ではなく取引先についてではありますが、銀行に対して誤信させて融資をさせた行為に詐欺罪が適用される可能性。虚偽の情報により公募増資で資金調達したことが金商法に触れる可能性もありそうです。実はこの不適切な売掛金の回収の方が、今後の同社に与えるダメージは大きいのかもしれません。

ウエルシアホールディングス 社長の解任 イオンの執行役も

ウエルシアホールディングスは4/17、「代表取締役及び取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」を公表しました。同社は、代表取締役社長へ、代表取締役社長及び取締役を辞任することを勧告し(4月16 日)、その勧告に基づき本人からの辞任届が提出されたということです。

ウエルシアホールディングス

ウエルシアホールディングスは、「ウエルシア」をはじめとするドラッグストアを関東中心に全国展開する、業界のリーディングカンパニーです。7割以上の国内ドラッグストアで調剤薬局を併設しています。イオンの連結子会社で、国内2位のツルハHDとの経営統合を予定しています。

辞任勧告

開示によると、辞任は4/17付けで、理由については、「私生活において不適正な行為があり弊社の信用を傷つけるものであると判断したため」とだけ記されています。いやいや、これじゃあまったく分かりませんね。

報道では、「社外の女性との不倫が判明した」というのがありました。最近多いセクハラ系でしょうか。不倫相手が妊娠したりとかで会社に怒鳴り込んできたのか、週刊誌に垂れ込んだのか、今のところ分かりませんが、とにかく一発レッドカードです。

ツルハとの統合を控えており、新会社の態勢決定に向け、いろんな意味でゴシップが重視される局面ってのもあるでしょうね。ちなみに、親会社のイオンも同日、取締役会で同執行役の解任を決議したと発表しています。

ラックランド 特別調査委員会の調査結果を公表

ラックランドは4/16、「特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ」を公表しました。二代目社長による不正な経費精算(国税当局による指摘で発覚)や、売掛金の不適切な回収などが問題視されていた事案です。

不正な経費精算

社⻑の交際接待費等は2019 年度から 2023 年度までの5年間で 706百万円だそうです。凄いですね。このうち国税当局指摘事項も含めて、同委員会が不適切と認定した経費申請の⾦額規模も莫⼤で、総額 334百万円となっています。

不適切な交際接待費の⽀出類型としては、「重複精算」や「同⾏者なし経費」、「家族帯同経費」、「私的物品購⼊」といったタイトルが並んでいて、その累計は全部で5種類です。特に重複精算の総額 141百万円については、報告書でも「悪質性は顕著」であると指摘しています。

ちなみに、同社⻑の経費申請について指摘を受けた(事業関連性を否定された)のは、2020年から 2021年にかけて⾏われた前回の税務調査に続いて 2回⽬なんだそう。なんとまぁ、懲りない二代目ですねぇ。

読み易くて、なかなか手厳しく

今回の報告書は非常に読み進めやすくまとめられていて、かつ、なかなか手厳しい指摘がなされています。特に社長個人に対しては、「⼀連の社⻑の⾏動から窺われるのは、会社の資産を守るという規範意識に乏しく、会社の資産を個⼈的な⽬的に費消しても構わないという『公私混同』の意識にほかならない」などとバッサリ。経費精算も関連している⻑期売掛⾦の回収事案についてはまた後日。

中部水産株式会社 土曜日に調査報告書を公表

中部水産は4/13,「特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ」を公表しました。前回の調査報告書受領から、5日間かけて部分的な非開示措置を施し、土曜日に結果を公表するとしていた中部水産。その言葉通り土曜日に調査報告書が開示されました。

不正の概要

第一報の段階から、あくまで取引先の不正に巻き込まれただけなんです、的な書き振りや、公表が土曜日ってのもあって、どんな調査結果が出てくるのかと思っていましたが、まさにそういう同社の姿勢を確認したという結果となっています。

循環取引について、商品の流れは、「A社 → 中部水産 → B社 → A社」となっています。で、当然ですが資金の流れとしては矢印の逆に動きます。資金繰りに苦しんでいたA社がたくらみ、中部水産とB社を巻き込んだわけです。中部水産はこのことを知らずに取引に参加していたといいます。

肝心の商品はA社の倉庫に保管されたまま商品の名義変更だけが行われ、B社から中部水産への支払いは適切に行われていたため、中部水産はうすうす気づいていたものの何の対処もしていません。(ここまではA社事案)

2014年にも

その他の事案では循環取引を認識しつつ参加していた事案もあるようで、同社としてのこうした不正な取引に関する認識や社員教育の薄さが原因となっています。報告書の中で出てくるんですが、同社は2014年頃に循環取引が判明し、監査法人に指摘されたことがあったそう。その際何を学んだんでしょう。