働く高齢者 ひきこもり中高年 8050問題

4/16付け日本経済新聞の記事。1面には「厚生年金加入、70歳以上も」という働く高齢者に関する記事。そして、社会面には「中高年ひきこもり深刻 支える親も高齢に」という記事も。対照的な記事であり、日本を象徴する世代の今を見ているようでした。

働く高齢者

記事そのものは厚生年金への加入年齢に関する内容なんですが、注目したのは、「きょうのことば」という補足記事の方。「2018年の就業者数は、10年前に比べて255万人増え、6,664万人。15歳から64歳までの就業者数が54万人減ったのに対し、65歳以上では309万人増加した」とのこと。数字の出どころは総務省らしいです。

15歳以上64歳以下という、いわゆる生産年齢人口については、就労者数が54万人減っています。日本の場合、この生産年齢人口は今後どんどん減少していくわけですが、これを補って65歳以上が309万人も働いてくれているということですね。戦後の貧しい日本で生まれ育ち、高度成長期を支えてくれた世代。まだまだ日本を支えてくれてます。65歳以上の高齢者(この言い方は失礼ですかね)と女性の就労率拡大、日本の救世主です。

ひきこもり中高年

社会面の「中高年引きこもり深刻」。こちらはかなりショッキングです。内閣府が公表したデータですが、40歳~64歳の推計61万人が自宅に半年以上閉じこもっているとのこと。80代など高齢になった親が、ひきこもる50代ら中年の子を抱えて困窮するという現象を、福祉の現場では「8050問題」と呼ぶそうで、これが深刻になっているそうです。

収入のない中年の引きこもりですから、親を頼るしかありません。唯一社会とのつながりだったその親が高齢化してしまうと、完全に社会から孤立してしまうんですね。記事ではある教授の指摘を紹介していましたが、このひきこもりの世代が、就職氷河期で働き口を得られなかった世代なんだとか。平成10年前後、kuniのいた会社でも新人が採用できていませんでしたから、この頃の新卒の人たちだと思われます。

生産年齢人口のうち61万人もがひきこもってしまい、一方で、65歳以上の309万人もがまだ現役で頑張ってくれている。なんだか考えさせられますね。どちらもその時代や社会が産んだ日本人像、ということでしょうか。インターネットの普及でクラウドソーシング・リモートワークなど、人との交流なしで働ける機会も増加してきていると聞きます。この人たちにも頑張ってもらいたいものです。

欧米基準のESG 超々臨界圧 サーマルリサイクル

4/13 日本経済新聞に「石炭火力 狭まる包囲網 三菱UFJ、新規融資中止へ」という記事が掲載されました。石炭火力発電所の新設を取り巻く環境が厳しくなっているため、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が石炭火力発電事業への新規融資を、原則として中止する検討に入ったという記事です。程度の差こそあれ、融資を絞る動きは三菱に限りません。

超々臨界圧

この記事の中では、「CO2の排出が少ない最新鋭の『超々臨界圧』と呼ぶ発電方式も、原則として融資をやめる」と書かれていました。超々臨界圧というのは、石炭を燃焼させて作る蒸気を、従来よりもさらに高温、高圧にして発電する方式で、今の日本の技術では石油による発電とほぼ同レベルの二酸化炭素排出量を実現しています。

ところが、世界の世論はこのことを理解しようとせず、石炭火力は悪、石炭火力発電を推進する企業や、協力、支援する企業は悪。なんですね。このような国際世論が、今回三菱に新規融資の中止という決断を迫ったということですね。

石炭火力に依存する日本の発電にも大きな影響がありますし、今まさに発電能力を増強しようとしているアジアの国々に対する日本の輸出産業としても大きなダメージとなります。温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」に基づく国の目標も、「2030年度に電力に占める石炭火力発電の割合を、17年度比6ポイント減の26%とする計画」というふうに、石炭火力発電はひとくくりにされています。国際基準には勝てないんですね。

プラスチックのサーマルリサイクル

もう一つ似たような話があります。以前にも書きましたが、プラスチックのリサイクルにはいくつかの方法があって、その中に日本が得意とするサーマルリサイクルという方法があります。サーマルリサイクルというのは、廃プラスチックを焼却して熱エネルギーを回収したり、固形燃料にする方法で、日本でのリサイクル率にはこれを含めて計算されています。

ところが、国際機関が各国の取り組み状況としてリサイクル率を計算、比較する際は、このサーマルリサイクルとケミカルリサイクルを含まず、マテリアルリサイクルのみで計算されています。

経済協力開発機構(OECD)の報告書では、このマテリアルリサイクルで各国のリサイクル率が示されており、日本のリサイクル率は22%と、EUの30%を下回ります。ところが日本式で計算すると86%まで跳ね上がるんですね。これほどの差を生んでいるのが、サーマルリサイクルです。

二つの国際基準に悩まされる日本。独自の技術で先行してきたからこそ、こういうことが起きてしまうわけですが、ここはめげずに行きましょう。行政は理解を得るためにコツコツ世界に対して発信していく。民間は国際基準の技術をさらに発展させていく。両面からやっていかざるを得ないですね。

スズキ 完成検査不正

新車出荷前の完成検査で判明していた、検査データの書き換えなど不正事案についての調査報告書をスズキが発表しました。測定データの書き換えや試験環境が正しくなかった事例などの不正は、2018年9月の前回報告より約2500台増えて、1万1070台に拡大。これを受け200万台をリコール(回収・無償修理)して、2019年3月期連結決算で800億円の特別損失を計上するようです。

社長会見に見る無責任さ

新たにブレーキ検査などの不正が発覚。検査数値をかさ上げし、不合格の結果を「合格」としていたとのこと。ブレーキの制動能力が不合格の新車を販売してきたということですよ。ちょっと酷過ぎませんか。燃費なんかの合否とはわけが違います。だからリコールなんでしょうけど。

この会社、徹底したコスト削減で知られるそうですが、一方で品質管理を軽視してきたという実態が明らかになりました。当然、経営陣の責任を厳しく問う必要があると思います。ところが、社長会見では、「あくまで機能や品質などを確保したうえでのコストダウンと理解されるべきところが、誤った理解に結びついたのではないか」との発言も。他人事のような無責任さ。現場の理解に責任を転嫁してしまっているように聞こえました。

また、リコール対象を、「過去3年間に国内で販売して、まだ車検を迎えていない約200万台」としている点についても納得がいきません。要するに車検を一度受けていたら、その車の性能についてはもう自分たちの責任ではない。と言っているように聞こえてしまいます。

隠ぺい体質 経営の責任

「自動車業界の無資格検査は2017年、日産自動車やSUBARU(スバル)で発覚した。スズキは当時「無資格検査はない」と国土交通省に報告していた。その裏側で、検査補助者が単独で実施したことが発覚することを恐れ、書類の差し替えなどで隠蔽していた。こうした実態は課長クラスまで認識され、悪質だ。」

日経も珍しくここまでスズキの悪質性を書いています。200万台のリコールも、800億円の特別損失も、会社と株主の損失。経営者は報酬の減額ぐらいのことで、この難局を乗り切れるとでも思ってるんでしょうか。

ここ最近は老害ばかりが目立っていたスズキの会長。今回の会見等には出てきてないようですが、この人によるワンマン経営にも問題があったと思います。トップダウンで降りてくる徹底的なコストダウンに誰も逆らえない。現場で起きていることが経営に伝わらなかったと社長が言ってましたが、当然でしょう。この構図、スルガ銀行と何も変わらないですよね。

大和ハウス工業 またやりました建築基準不適合

中国の合弁子会社で横領が発覚した大和ハウス工業。今度は建築基準不適合が2,000棟見つかったとのことです。以前、東京本店の元営業所長が建設事業を巡って取引先から約4千万円のキックバックを得て、所得隠しを指摘されたという事件も。特にこのキックバックの件については、同社は何も開示しなかったため、企業としての姿勢に疑問を感じさせました。

ガバナンスは機能したのか

この件については以前書いたように、開示しなかっただけにとどまらず、当の元所長が同社から何のお咎めもなく退職金ももらって自主退職したとも言われています。中国子会社の件もまさにガバナンスが行き届いていなかった証左でしょう。そして今回の建築基準不適合。よくいわれるところの、経営と現場の乖離がかなり進んでいるように見えます。

今回の例でいえば、本社は基準に適合するためのルールや手順を適切に定めた。ただ、現場がその手順を守っていなかった。ということ。現場で手順等がしっかり守られているかを、本社、経営がしっかりチェックする態勢に不備があったと言わざるを得ません。今回、唯一の救いは、同社の内部通報によりこの事案が表面化したこと。と言いたいところですが、なんとこの内部通報、2016年の12月だそうです。丸2年以上かかってたんじゃ、、、話になりませんな。

不正の連鎖

しかし、今回の大和ハウスの建築基準不適合。同社の立ち消えになりそうだった内部通報が日の目を見たのは、おそらくレオパレス21の施工不良事件が世間を騒がせたからだと思われます。界壁の問題に始まり、防音性や耐火性能など、かなり専門的なレベルで施工不良が見つかり、メディアがこぞって報道してきました。そのため、これら施工不良に対する世の中の目線が、かなり上がってきています。

「オイオイ、うちの物件のケースもヤバいんじゃないか」とか、「こうなったら公表するしかない」、「公表するんなら早めの方が良いんじゃないか」といった見方が社内に醸成され始めたんでしょう。自動車各社で検査関係の不正が一気に他社に飛び火して行きましたが、これと同じメカニズムです。

これまでであれば、「まぁこの程度の施工不良や手順違いはこの業界には付き物だ」、くらいに思われてきたようなことが、一気に社会悪に見えてき始めます。検査関係の不正でも見られた不正の連鎖。建設業界でも同じことが起きそうですね。大和ハウスの建築基準不適合はまだ始まりにすぎないのかもしれません。

レオパレス21 アップデートが間に合わないよ

つい先日アップデートしたと思ったのに、またまた施工不良が拡大したとのニュース。調査すりゃ、出てくる出てくるみたいな。アップデートが間に合いません。で、これまでに公表していた数字との関係性が良く分からなくなってきました。ということで、ちょっとその辺りを整理してみましょう。

物件不備1万4千棟に拡大 レオパレス、調査の7割超

これ、4/11の産経新聞のタイトルです。「調査を終えた約2万棟のうち、7割を超える1万4599棟に拡大したことが分かった」と伝えてるんですね。どえらい数字になったなぁ、というインパクトありです。で、記事の最後の方で、このうち7514棟は隙間があるなど、軽微な不備としています。メディアもこれだけ話題になってくると、できるだけ読者の目を引く数字を使いたいんでしょうが、これは少しやり過ぎかと。

公表される数字に一貫性がないというか、基準をしっかり押さえておきたいですよね。ということで、今回レオパレス21が3/31時点で公表したデータを基準に数字を整理しておきます。

 レオパレス全棟合計 39,085棟
 調査判定済み合計  20,285棟(判定済み率51.9%)
 不備あり  合計  7,085棟(不備率34.9%)
 

7割を超える1万4599棟 とは

レオパレス21の公表した一覧表形式の資料としては、上記のような構成になっています。そのうえで注記として、不備ありとはカウントしていない、軽微な不備7,514棟を確認していることが記載されているんですね。詳細については書かれていないんですが、この軽微な不備は随時補修を進めるとしていますので、入居者の転居等が必要ないもののように見えます。新聞各紙はこの数字を上乗せして、1万4599棟を強調しています。

転居しなければならない人達

以前の新聞記事で、「400棟に住む4518戸の入居者が転居を迫られる」という表現がありました。ここから1棟10人程度の入居者が居るとします。すると、3月末で判明している不備ありとされた7,085棟をかけると、7万850人の転居が必要になります。

さらに、調査判定をこれから実施する対象が、ほぼ2万棟残っているということは、この2倍にあたる14万人が転居を要することになります。いやぁ、もの凄いことになってきますね。kuniの田舎は人口3万人くらいの市です。その街の住民が全員、かつ5回転居するようなものです。

今回の試算はあくまで足元までのデータで、かつ、軽微な不備とされたものは転居不要との前提を置いたうえで、引き延ばしてみたものです。あくまでご参考ということで。