クロネコヤマト 過大請求(2)

ヤマト、引っ越し「お荷物」視で綻び

9/4付け日本経済新聞2面でヤマトの記事。記事の中ではこの事件を発生させた内部要因について書いています。といっても、元幹部の証言として書いているだけで、日経が検証してるって感じではないですけどね。ただ、元幹部たちの証言は不祥事発生企業のモデルといっても良いほど、真因を指摘してると思います。

① 収益性の低い引っ越しを経営陣が軽んじ、現場任せに

まず一つ目に、経営が現場を信頼しすぎたり、自主性に任せすぎたりすることで起きる「現場任せ」。ヤマトの場合はこの事業部門の収益性が低いことから始まっているとしています。現場をしっかり見ていないくせに、収益インセンティブだけは与えているという、現場が悪さをするには最高の環境なわけです。また、こうしたケースでは、経営層が現場を知らないがゆえに、現場の実態を踏まえたルールの整備、周知が出来ません。

② 経営層と現場の従業員との間に壁

二つ目が、経営と現場の乖離です。やはりある幹部は「事なかれ主義の経営層とやらされ感で動く従業員との間に壁があり、問題解決は難しい」と証言しています。

ここからは記事になっていませんが、経営と現場の乖離においては、ほとんどの場合、中間管理層が現場の実態を把握出来ていない、もしくは実態をレポーティングライン上の経営層へ伝えることが出来ていないことが確認出来ます。

③ 内部告発を活かせなかったヤマトHDのガバナンス

そしてトドメに、ヘルプライン(コンプライアンスホットラインなど)からもたらされる情報に適切に対応しないという、究極のガバナンス欠如。「8年前に内部告発を直接受けながら適切に対応できなかった」ようです。

内部告発はいわゆる発見統制の一部ですが、本来はこうしたヘルプラインでの情報提供ではなく、現場管理層が問題を発見し、正規のレポートラインで経営層に報告。報告を受けた経営層が課題解決に向け、経営資源を投入するなどの判断をするわけです。正規のレポートラインが目詰まりすることは想定の範囲内です。そのための安全装置がヘルプラインなのです。

④ 故小倉会長の予兆管理

おまけで書かれている故小倉会長の経営手腕ですが、目の前で起きていること、仔細な変化から予兆を捕らえ、将来大きな事故を発生させないための予兆管理は、最近のガバナンスにおけるポイントとも言えます。記事では故小倉会長のカリスマなどと言ってますが、現在の企業経営層には当然求められる機能ですよ。

大正製薬HD、早期退職948人

全従業員の15%、市場縮小に備え

「大正製薬ホールディングス(HD)は31日、7月から募集していた早期退職制度の募集結果を発表した。応募人数は948人で、全従業員(約6300人)の15%にあたる。」

この週末はいろいろ不祥事やらニュースが多くて、遅くなってしまいましたが、こんな記事もありました。

私、kuni自身も30年の会社人生において、早期退職募集という場面を3回経験してきましたが、どのケースも会社も、業界もかなりヤバい状況下でした。退職しても再就職先が見つからない人も多く、まさに辞めるも地獄、残るも地獄って感じです。

18年3月期の連結純利益は前期比10%増の316億円と好調

ところが大正製薬さんはどうでしょう。前期までの決算は好調でありながら、「今後は少子高齢化など市場環境が縮小する可能性があることから、業績が好調なうちに組織をスリム化する」という戦略だそうです。財務内容が非常によい大正製薬ですら?ってのが正直な感想です。

製薬業界について調べてみた

この業界、2018年はまさにリストラの年と言っていいほど、多くの会社がリストラを敢行してるみたいです。大正以外にも武田、塩野義などが公表済み。第一三共も計画しているとか。確かにこの業界、武田のシャイアー7兆円買収の話ぐらいしかチェックできてませんでした。

原因はどうやら、主軸商品の特許切れ(それに替わる新薬が出せていない)と、薬価改定制度の改革のようです。二つともかなり難しいので説明は省略します。で、今後の業績悪化に備えての人員削減、という感じみたいですね。業界をあげてリストラしてるんですね、勉強不足、知りませんでした。

金融界はこれまで基本的に、にっちもさっちも行かなくなってからリストラ。ところが製薬業界のこのリストラってどうでしょう。地味なんだけど、これ凄いことだと思います。

9/1 日本経済新聞 大機小機

昔から人気のあったコラムですが、この日の大機小機はいただけません。

架空預金証書の記憶

スルガ銀行の不正融資事件が、1991年日本興業銀行が大阪の料亭の女将に2000億円超の資金を貸し付けた事件に酷似しているかのような書きぶりになっています。女将とは、尾上 縫(おのうえ ぬい)のことですね。55歳以上の金融関係者であれば知らない人は居ないと思います。分からない人は聞いてみてください。

たしかに架空預金証書に基づく巨額の融資という点は似ているかもしれませんが、この預金証書を偽造したのは当時の東洋信用金庫の支店長であり、日本興業銀行ではなかったと記憶してます。偽造であることは承知の上で融資していたという指摘なんでしょうかね。

リスクを取ることと、たがが外れてモラルがゆがむこととの境界はあいまい

「リスクを取ることと、たがが外れてモラルがゆがむこととの境界はあいまいだ。そして、モラルのゆがみがバブルを生むことを我々は経験的に知っている。デフレを止め、雇用情勢を改善したと称賛されるアベノミクスのもう一つの断面である。(原文そのまま引用)」

企業経営において「リスクを取ること」と「モラルがゆがむ」ことはまったく別のものです。「リスクを取ること」と「リスク感覚が麻痺すること」の境界線は確かにあいまいかもしれません。しかし、これらにより行われた行為と「法令・諸規則に違反する」行為は、明確に区別されるべきであり、法令に違反する行為により引き起こされてしまった結果に対する経営責任の重さは、別の次元で検討されるべきです。

要するにここで書かれている境界線は明確なのです。よって、「モラルのゆがみがバブルを生む」のではなく、「リスク感覚の麻痺がバブルを生む」のであり、「バブルの中で非常に卑劣な、法令に違反してでも儲けようとする輩が現れる」のです。それがスルガ銀行なんです。

 

クロネコヤマト 過大請求 31億円

9/1 日本経済新聞によると、ヤマトホールディングスは31日、個人も含めた全ての引っ越しサービスの新規受注を中止すると発表した。子会社が代金を過大請求していた問題を受けた措置。外部の専門家による調査では、過大請求の16%が「悪意」のある上乗せと認定した。

引っ越しを手がける子会社ヤマトホームコンビニエンス

社名のとおり、ヤマトホールディングスは持ち株会社なので、実際に不祥事を起こしたのは、子会社のヤマトホームコンビニエンスということです。調べてみると2003年にヤマト運輸㈱から引越事業を継承してますね。従業員数5000人、株主はヤマトホールディングス100%となってます。

ヤマトホームコンビニエンス社長は 和田 誠 氏。7月だったか謝罪会見してた人ですが、今年4月に社長就任なので、実質的な責任はその前の社長ということになります。今年3月まで社長してたのは 市野 厚史さんという人で、この4月からは同じ子会社のヤマトロジスティクス株式会社の社長になってますね。

この人、1988年にヤマト運輸に入社して、2004年にヤマトパッキングサービス㈱の社長になってる。新卒入社で16年目で子会社とはいえ社長です。相当なやり手なんでしょうね。で、2011年から7年間ヤマトホームコンビニエンスの社長を務めてます。

第三者委員会は過大請求について「2010年ごろから徐々に始まり全国的に増えていった」と言ってますから、ほぼこの社長の下で行われた悪事です。発覚直後にほかの子会社に退避とはね。現ヤマト運輸代表取締役社長の山内雅喜氏はヤマトロジスティクス社長から異動してますから、市野さん、まだコース乗ってるってこと?

31億円騙し取って、月額報酬の3分の1を3カ月間自主返上

調査報告書によると、過大請求額は、伝票からさかのぼれる2016年5月~18年6月の2年2カ月間で約17億円。また過去5年間では約31億円と見積もっているらしいです。

主力の宅配事業では、200億円を超える大規模な残業代の未払いが発覚しましたし、「クール宅急便」の低温管理ができていなかった品質問題も。そして今回の引越代金の過大請求。過大請求っていう表現もおかしくないかい?

で、例によって「グループガバナンス改革室」を設置してグループ全体のガバナンス改革に取り組むんだそうです。ヤマトホールディングスは木川真会長や山内社長、神田副社長の3人が月額報酬の3分の1を3カ月間自主返上する。としか書いてないけど、ホントにこれだけで済ましちゃうの?

スルガ銀行 社長、専務も辞任

8/30 日本経済新聞一面の記事。スルガ銀行はシェアハウスを含む投資用不動産向けの不適切な融資が横行していた問題の責任を取り、3人いる全ての代表取締役が辞任する人事を固めた。らしいです。

何だかなぁ、この記事

「3人いる全ての代表取締役が辞任」とか「全員辞めるのは異例のこと」とか。いかにも取締役が全員辞めるかのような見え方がして良くないです。取締役はここまで出てきた3人以外にあと4人居るでしょ。社外取締役も4人。日経、記事書きにくい理由でもあるのかな。

企業文化・ガバナンス改革委員会(委員長=木下潮音弁護士・東工大副学長)

これもよく分かりませんね。委員長は過去にも名前を聞いたことある弁護士だけど、あまり評判良くないのかな?ネットではネガティブな話が結構あるみたいだけど。

で、この弁護士、調べてみたら少なくとも2016年6月~今年の5月までスルガ銀行の社外監査役やってんのね。取締役の職務の執行を監査しなければならない立場にありながら、このような執行状況を看過してきた責任はどうなった?そして、この6月から社外取締役って、どうよ、これ。

他にも超有名人がこの6月に社外取締役退任してたりとか、ツッコミどころ満載。マスメディアって、こういうところにツッコんでいくんじゃないの。