公益通報制度 内部通報者への不利益処分に罰則

企業や官公庁の不正を告発した内部通報者への解雇や懲戒といった不利益処分に対し、消費者庁が刑事罰を導入する方針であることが5日分かったということです。同庁の有識者検討会が今後、具体的に議論するんだそう。

公益通報制度

公益通報者保護法は2006年に施行されました。職場での刑事罰、過料の対象となる不正を通報した際に解雇を無効とし、降格・減給などの不利益な取り扱いを禁じています。その後2022年に施行した改正法では、従業員が300人を超える事業者に通報窓口の設置を義務付け。告発者捜しにつながる行為も原則禁止しました。

刑事罰

兵庫県前知事が内部告発された問題などでも制度の課題が指摘されてましたね。現在は内部通報者への不利益な取り扱いは禁止していますが、罰則がなく、「抑止効果が不十分」との声が出ていました。

刑事罰は解雇や減給といった懲戒処分など「不利益性が客観的に明確で労働者への影響が大きい」行為を対象に想定するんだそう。客観的に明確で労働者への影響が大きいって、またずいぶん分かりにくい定義だこと。

さらに、配置転換は定期的に人事異動を行う日本企業の人事や労務管理に影響があるとして対象外となる見通しだとか。こんなんでこの改正法機能するのか?

消費者庁 内部通報制度に関する調査結果

消費者庁は2/29、「内部通報制度に関する就労者1万人アンケート調査の結果について」を公表しました。制度の内容を「よく知っている」、「ある程度知っている」と答えた人は4割に満たないという結果になっています。

内部通報制度

内部通報制度は、従業員等から勤務先の法令違反等に関する相談・通報を受付け、調査を行い、是正する制度です。2022年6月に改正された公益通報者保護法は、労働者が301人以上の事業者に対し、内部通報に対応する窓口の設置や内部規定の策定などを義務付けています。

今回の調査では、制度の内容を「よく知っている」、「ある程度知っている」と答えた人は4割に満たない(38.6%)という結果でした。ただし、この結果は従業員数3人以上といった小さな企業までを含んだ結果。法が求める従業員数が301人以上の企業では、従業員数が「300人超1,000人以下」の場合、42.4%、「5,000人超」の場合、52.3%となっています。

通報窓口

また、勤め先の内部通報窓口の存在については、従業員数が「300人超1,000人以下」の場合で65.4%、「5,000人超」の場合、45.7%が、未設置または認知していないという結果となっています。こちらの結果の方がショッキングですよね。制度は知っていても、自社の通報窓口を知らなければどうにもなりません。

今の時代、外部の窓口(特に週刊誌等)に通報され、取材をもとに叩かれ始めたらもうどうにもなりません。企業としては対象者(被通報者)等を切ってお終いにするしかありませんし、経営陣も大きな責任を負うことになります。そうならないように、もう一度社内で制度の趣旨や窓口についてしっかり周知しましょう。

内部告発の報復か 介護士雇い止め訴訟

11/27付けの日本経済新聞に、「 介護士雇い止め訴訟 『虐待』内部告発、報復か」という記事がありました。派遣先の老人ホームで施設職員の暴力行為があったとして40代の男性介護士が自治体に通報。直後に雇い止めに遭い、慰謝料や未払い賃金などを求めて派遣会社を訴えたという事案。

結果的には暴力行為は認められず

4年超に及ぶ訴訟の結果、「虐待は認められなかった」という結論に。調査結果については意見する立場にありませんが、一つ気になったことが。派遣会社側が主張していた、「通報前にまず(派遣)会社への報告をするべきだった」という主張について、判決がこれを認めたことです。

派遣会社とはいえ、自社が派遣している社員が派遣先で不祥事を起こしていたという事実はできれば公になってほしくない、というバイアスがかかります。高齢者虐待防止法は、虐待の疑いを発見した段階で行政への通報を広く求めているんだそう。

にもかかわらず、まずは派遣会社へ報告するべきだったという判断はいかがなものでしょう。企業における内部通報で例えるなら、通報窓口の弁護士事務所に通報する前に会社に相談するべきだった。と言われているようなものです。

裁判所としては、虐待は認められなかったという調査結果を前提に、ほぼ和解させたいという意図で、お互いの主張を一部ずつ認めた、というような判決なのかもしれませんが、通報制度の根幹を揺るがすような判断はするべきではなかったと思います。

日本通運 内部告発した元従業員と和解

ある報道で見付けた記事。不正行為を内部告発したことで報復的に懲戒解雇されたのは不当として、日本通運子会社の元従業員が、日通と子会社に地位確認などを求めた訴訟で、和解していたことが分かったとのこと。子会社が懲戒解雇を撤回、会社都合での退職とするんだそう。

日本通運

現在上場しているのはNIPPON EXPRESSホールディングスで、国内外で事業を手掛ける総合物流企業。トラックで貨物を運ぶ貨物自動車運送業のほか、倉庫業、利用航空運送業、海上運送業、港湾運送業など幅広く事業を手掛けています。この持株会社の傘下に日本通運があります。

事案の概要

日通の子会社「日通三河運輸」で労働組合の幹部だった元従業員が、日通支店営業所と取引先の間で不正取引が行われていると内部告発。不正行為を内部告発したことで報復的に懲戒解雇されたということらしいです。

元従業員が、日通と子会社に地位確認などを求めた訴訟が、名古屋地裁で和解していたことが7/6、関係者への取材で分かったとのこと。子会社が懲戒解雇を撤回、会社都合での退職とすることになったそうな。和解は6/29付け。

いくつかのメディアが取り上げてるんですが、どれもこれも共同通信の記事のコピペで、上記以上の詳細が分かりません。不正行為ってどんな行為だったのか、それを隠蔽するために解雇したのか、なんでこんな中途半端な和解(要するに退職金をもらえたってこと)になったのか。疑問だらけです。

りらいあコミュニケーションズ 顧客との通話記録を改ざん

6/16 りらいあコミュニケーションズは、鹿児島センターにおいて不適切な電話勧誘や、録音の改ざん・捏造が行われていたことに関する調査の結果を公表しました。発生原因に加えて今後の再発防止に対する取り組みについても公表しています。

朝日新聞のニュース

りらいあコミュニケーションズは東京電力エナジーパートナーから電話勧誘業務を受託していました。東京電力から他社へ乗り換えた顧客を対象に、再度東京電力に切り替えてもらうのが目的です。この電話勧誘業務は成約数に応じて業務料が支払われる契約形態です。

この電話勧誘が高齢者等を相手にかなり強引に行われており、その証拠となる通話録音が改ざん・捏造されているというニュースを朝日新聞が報道します。6/11のことです。この報道を受けて、りらいあコミュニケーションズは事実を初めて公表しました。

なんと、不正の事実は今年1月、内部通報により把握していたんですね。その後社内での調査も行われていたようで、16日の開示では具体的な不正の件数等についても公表しています。朝日がニュースにしなければ、このまま隠しきるつもりだったんでしょうか。

不正は全部で44件。一部音声を削除したものが33件。新たに一から音声を作成したもの10件。一部音声を削除し、該当箇所に新たに作成した音声を差し込んだもの1件となっています。

このうち「新たに一から音声を作成したもの10件」とは、要するに顧客になりすました別人が契約を切り替えるヤラセの通話をしているわけです。これは酷いですね。なんでもできてしまいます。

成約数に応じて業務料が支払われる契約形態

成約件数が業務の業績に直結するこの契約形態。契約内容は明かされていませんが、インセンティブが大きいほど不正を招く可能性が高まります。自社でやればよい業務を、こういう業態の会社に委託して、ある意味強引な電話勧誘を期待したりする側(委託者)にも問題はないのか。その辺りが気になります。