コンプライアンス(その3) 日本証券業協会が定める内部管理責任者

1線におけるリスク発見・管理機能

日本証券業協会は自主規制規則として、「協会員の内部管理責任者等に関する規則」を定め、その第13条で「協会員は支店や営業所単位ごとに内部管理業務の管理職者を内部管理責任者に任命し配置しなければならない」としています。

また、第15条では「内部管理責任者は、自ら金商法その他の法令諸規則等を遵守するとともに、自らが内部管理責任者として任命された営業単位における営業活動が金商法その他の法令諸規則等に準拠し、適正に遂行されているかどうか常時監査する等適切な内部管理を行わなければならない。」としています。

証券界ではこの規則により、支店や営業所といった業務執行部門の中に異質な存在を配置することを従来から求めてきたのです。顧客の大切なお金を扱う業務でありながら、昔から不祥事が絶えなかった業界でしたので、3線ディフェンス的な発想が早くから持ち込まれていた、とみることも可能です。

さらに、第10条では「協会員は、支店や営業所に、当該営業単位の長を営業責任者に任命し、配置しなければならない。」とし、第12条で「営業責任者は、自ら金商法その他の法令諸規則等を遵守するとともに、自らが営業責任者として任命された営業単位に所属する役員又は従業員に対し、金商法その他の法令諸規則等を遵守する営業姿勢を徹底させ、投資勧誘等の営業活動、顧客管理が適正に行われるよう、指導、監督しなければならない。」としています。

1線におけるリスク管理、指導監督といった機能を営業責任者に求めていて、ここにも3線ディフェンスの機能が取り込まれています。リスクオーナーといった言葉はありませんが、支店長や営業所長が内部統制におけるまず第一の責任者であることを明示しています。kuniは、証券界はかなり先進的なリスク管理態勢を持っているのではないかと思っています。

営業責任者 内部管理責任者

このように先進的な内部管理システムを構築してきた証券界ですが、それでもやっぱりいろいろなことが起きてしまいます。まず、支店長が求められている責務を果たせないケース。支店長は当然業務執行の責任者でもあり、「収益を上げる」という役割と「内部管理を徹底する」という相反する役割を兼務することになります。

この支店長の微妙な立ち位置が収益の方に触れてしまったとき、問題が発生します。営業責任者という立場にはコンプライアンス上の脆弱性が潜んでいることを前提としておくべきで、そのために内部管理に専念する内部管理責任者を別途配置していると考えるべきでしょう。

余談ですが、会社の経営層においても同じような景色があって、取締役全員が執行役員を兼務している会社の経営陣についても似たようなことが起きているんじゃないかと思います。ここにもやはり独立取締役等が求められるわけですね。

遠隔操作と直接配置の決定的な違い

内部管理責任者という異質な存在を営業の現場に配置すること。これをルール化している業界って他にもあるんでしょうかね。これはかなり良いシステムではないかとkuniは思っていて、他の業界も検討してみたらどうかと思っています。

上場企業の不祥事においても、品質検査を行う部署が不正をしても、専門性や閉塞性のため、他の組織からはそれが発見できない。そのため何年にもわたって不正が続いてしまう。こんな状況をたくさん見ました。そう、外からでは見えてこないことが沢山あるわけです。支店や工場といった、本社から離れた組織の場合はさらに見えにくくなります。

だからこそ、直接現場組織の中に配置する意味があるわけです。本社からの遠隔操作ではなく、現場組織への直接配置の方が決定的に機能が高いと言えます。