三菱商事 海外子会社でデリバティブ巨額損失

9/20 日中のニュースで知りました。三菱商事の子会社、原油・石油製品トレーディング会社のペトロダイヤモンド・シンガポール(PDS)が行っていた原油デリバティブ取引において、総額約345億円の損失が発生する見込み、、、というニュースです。

中国籍の現地プロパー社員の行為

中国籍社員が、顧客との契約にはない原油先物のデリバティブ取引を繰り返し、損失が拡大したということです。この社員は2018年11月にPDSに入社。主に中国の顧客との原油取引を担当していましたが、今年1月ごろから、顧客との取引とは関係がないデリバティブ取引を開始。原油相場が乱高下した6~8月に損失が大きく膨らんだとのこと。

デリバティブ取引で発生した損失については、PDSのリスク管理システム上のデータを変更することにより、顧客との取引に関連したヘッジ取引であるかのように装い、PDSにおける損失が社内で認識出来なくなる操作を繰り返していたそうです。

大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件

1995年、大和銀行ニューヨーク支店で米国債トレードで1100億円の損失が見つかった事件です。最初に出した5万ドルの損失を埋め合わせようとして売買を繰り返し、最後には1100億円の巨額損失。最後に犯人が精神的限界を感じて頭取宛に手紙を出し、表沙汰になったという事件でした。

今回の三菱商事の巨額損失を聞いて、大和銀行事件を思い出した方は多いのではないでしょうか。この事件でも犯人は書類を偽造し、損失をシステム上でも隠蔽していたため、10年以上も発覚しませんでした。大和銀行の内部管理も杜撰で、米国から350億円の罰金を食らってます。

それにしても、、、

許可されていなかった原油デリバティブ取引がなぜここまで続けられたのか。三菱商事やPDSの内部統制はどうなっていたのか、今後の報道に注目です。それにしても、約8か月で345億円ですか、凄いっすねぇ。大和銀行の1100億円は10年以上かかってますからねぇ。

ラック不正入札 日本貿易保険

8/29 政府出資の特殊会社「日本貿易保険」のシステム開発の入札を巡り、同社元顧問が公契約関係競売入札妨害容疑で逮捕されました。情報セキュリティ大手の「ラック」の社員らに審査基準を漏らしたり、提案書を代わりに作成した疑いだそうです。ラックの社員ら3人についても同容疑で書類送検するとのこと。

情報セキュリティ大手 ラック(3857)は、資本金10億円、従業員数2220名、売上高387億円(いずれも19年3月期末、連結ベース)で、2009年4月にJASDAQに上場している会社です。

昨年10月に発覚

実はこの事件、最初に報道されたのは昨年の10/23なんですね。日本貿易保険が調査委員会を設置して調査してきた結果として、システム開発の入札において不正があったと発表しました。ラックも同じように調査委員会を設置して事実関係の調査をしてきたうえで、10/25、12/3と、同社の社員が不当に関与したとは認識していないと発表しています。

そこから8か月後、「元顧問が逮捕され、ラックの社員ら3人についても同容疑で書類送検する」という報道になったわけです。

日本貿易保険 調査委員会の報告書

日本貿易保険は調査委員会の報告書を開示しています。報告書によると、元顧問はラック社による提案書作成への関与について、次期貿易保険システムに関する自らの構想に沿った提案がなされるよう、提案書のレビューをし、代わりに作成しただけであり、不正の意思もなかったと主張しています。

しかし、調査委員会は、元顧問の各種行為が、ラック社の提案が日本貿易保険において高い評価を得ることにかなりの貢献をしていることは明らかであり、これによって入札の公正性は著しく害されたとしています。また、これほどまでに特定の応札者(ラック社のこと)のために、便宜を図る理由が分からないとも。

個人の行為ですが・・・

報告書も完全に個人の行為としていますが、社長が惚れ込んで外部から招へいしたシステムの専門家というお墨付きの下、ほぼガバナンスの効かない状態でやりたい放題だったようです。個人の行為ではあるものの、会社としての管理責任は逃れようがありません。

ラック社としては、引き続き同社の社員が不当に関与したとは認識していないという立場ですが、このあと元顧問に対する経済的な利益の供与等の証拠が出てくるかどうかが注目されるところです。

ユニチカ検査データ改ざん 日経の取り上げ方

8/29 日本経済新聞にユニチカの検査データ改ざんに関する記事がありました。とても小さな記事であり、公表された事実を伝えたのみ。昨年度、検査データ改ざんに関するニュースが相次ぎましたが、その後終息したかと思いきや、、、というタイミングのニュースです。

2018年10月に把握もその後1年間公表せず

ユニチカのこの事案、取引先の求める基準に満たない製品が見付かっても、検査結果を書き換えるなどして出荷していたというもの。2013年8月から5年間、76製品で改ざんが行われていたとのこと。ここまでは昨年異常にに多発した検査データ改ざん事案とよく似たお話です。

しかし、同社の公表は非常に問題です。この不正について同社は社内調査で2018年10月には把握しており、ここまで隠してきたことです。隠蔽と言われてもしょうがないですね。その間、不正の公表と同様に、取引先への報告もしていません。

昨年8月にはマツダ、スズキ、ヤマハ発動機が検査データ改ざん、9月にはフジクラ、そして10月にはKYBがオイルダンパーの検査データ改ざんを公表し、世の中で叩かれました。ユニチカがこの事案を把握したのが、ちょうどこの頃になります。改ざんを公表したKYBの株価はわずか3週間弱で2500円割れ。半分になってしまいました。こうした惨状を見ながら、ユニチカの経営は何を考えたんでしょうか。

毎日新聞の報道には、「一部報道を受けて、公表に踏み切った」というくだりがあります。どこかがすっぱ抜いたんでしょうか。いずれにせよ、この情報開示の姿勢はいただけません。

日経の記事

読売、朝日、毎日が、1年間情報開示しなかったことへの批判的な記事を書いているのに対し、日経はそういった主観はなし。ノーコメントといった感じの記事です。去年の10月に公表していれば大騒ぎになっていたけど、ここまで隠し通したら、世の中は米中関係、日韓関係、リクナビの騒ぎでかき消されてラッキー。みたいなことじゃいけませんわな。経営が現実から目をそらし、隠蔽を図るような企業は令和に生き延びる必要ありません。

ジャムコ 国土交通省から業務改善命令

8/20 国土交通省は航空機内装品製造のジャムコに対し、業務改善命令を発出しました。今年3/25、航空機シートなどの内装品の検査に不正があったとジャムコが公表していた件に対する行政処分です。この時同時に第三者による特別調査委員会の立ち上げも公表しています。

相次いだ航空業界の不正・不祥事

JALやANAの乗務員の飲酒・呼気検査に絡む度重なる不祥事、IHIによる航空機エンジンの整備不正、エンジン部品の製造工程での不正。そしてこのジャムコの内装品に関する検査不正。まぁ、出るわ出るわ。この業界の不正・不祥事はこれで膿を出し尽くしたんでしょうか。

羽田空港の国際便増発のための新たな着陸ルート。東京都心を旅客機が低空で飛ぶこの新ルートの運用は来年3/29からです。地元住民等への説明はこれから本格化しそうです。そんな中で、航空業界の安全に対する意識を疑われるような不正・不祥事の報道が続いたんじゃシャレになりません。

ずいぶんと具体性のない業務改善命令で

ジャムコは3月公表時点で不正の件数など、けっこう具体的な数字もあげていましたが、今回の業務改善命令は全く具体的な数字を明らかにしていません。第三者による特別調査委員会の報告もまだ公表されていませんから、しょうがないんでしょうけど。

1月から着手し、7/18まで、実質計14日間にわたる立ち入り検査の結果と、同社から徴収した報告に基づき、業務改善命令を発出したということのようです。行政処分を行って、この件については公にはもう終わらせたい。みたいなバイアス掛かってないよね。

業務改善命令の内容は、以下の2点です。
①外注部門が委託先担当者の印鑑を複製し、押印漏れや誤記修正時に委託先に代わって代理で押印していた事案(これある意味なんでも出来ちゃいます)
②製造委託した部品の検査を無資格検査員が実施していた事案

統計改革推進会議 有識者による再発防止策

政府は8月2日、統計改革推進会議(議長・菅義偉官房長官)を開きました。厚生労働省などで相次いだ統計不正を受け、有識者による作業部会を設けて再発防止策を議論したようです。政府統計の抜本改革策を協議するそうです。

再発防止策の検討内容

不正が長期間発見されることなく放置されていたという発生原因については、ガバナンスの強化を実施。具体的には、既に7月、内閣官房の統計改革推進室に約30人の統計分析審査官を新たに配置しており、同審査官を中心に各省庁の調査や集計を外部から点検する仕組みを整備することで、統計へのチェック体制を見直すそうです。

再発防止策の定番であるモニタリングの態勢を構築するということですね。新たにリソースを30人追加しています。

専門人材が不足していたという発生原因については、職員の研修を強化するほか、民間人材の活用で統計の水準を底上げすることも検討課題とし、人材育成をテコ入れするとしています。ここでは民間人材の投入が検討されています。

そして、業務が非効率だったという発生原因については、調査する側の手間が省けるとともに、集計作業が簡略化できてミスが発生しにくくなり、回答者の負担も減らすことができる、デジタル化を推進すると言ってます。

以上が、8/3付で日本経済新聞が報じた第1回統計改革推進会議での再発防止策の検討結果です。まだ結果というよりは現段階での議論というべきですね。厚労省の毎月勤労統計の不正問題で設置した特別監察委員会や、総務省統計委員会の点検検証部会がそれぞれまとめた報告書もたたき台として提供されているようです。

現場力を低下させないために

以前当ブログでも取り上げた日経コラムに、「現場力の低下」がありました。「不正や不祥事が発生するたび、新たな制度やルールが作られます。それら全ての規制を守ることが目的化してしまい、現場力の著しい低下を招いている」というやつです。

この会議では、現場力を低下させないための配慮もあったでしょうか、人材育成のテコ入れという施策も再発防止策に取り込まれそうです。しかしまぁ、有識者11名が参加して検討しました、というほどの内容にもなっていないような気もします。

統計とは

統計とは、現象を調査することによって数量で把握すること、または、調査によって得られた数量データ(統計量)のことだそうです。データの利活用で莫大な利益を上げる企業がある一方で、データの集め方で不正を働く霞が関。なんなんでしょうねこのコントラストは。

データが勝手に集まってくる仕組みを考えた奴らと、訪問調査や郵送調査といった昔ながらの方法から進化できなかった奴らの違いということでしょうか。どこまでデジタル化できるか注目しましょう。