社外取締役が3分の1未満なら反対票  コーポレートガバナンス・コードの日本語が変な件

6/5付け日本経済新聞に「社外取締役が3分の1未満なら反対票 株主総会、機関投資家の監視厳しく」という記事が掲載されました。三井住友トラストAMやピクテ投信投資顧問が、社外取締役が全取締役の3分の1未満の場合は、反対票を投じると表明したという内容です。

社外取締役に求められる機能

日本企業では、長年勤めた内部昇格者で経営陣が構成されることが多く、規律のゆるみが収益性の低迷や不祥事を招きやすいという考え方が底流にあり、執行サイドとしがらみのない社外取締役による「経営への監視」という機能を強化し、ガバナンスの改善につなげることができるという考え方が主流になってきました。

そのため、機関投資家たちは社外取締役をより多く設置することを求めているわけですね。しかし、頭数だけ揃えれば良いというものでもありません。自社と独立性を有する社外の取締役ということで、多くの場合、弁護士や会計士、学者や元官僚といった人たちが選任されることが多いんですが、この人たちは企業経営の経験もなければ、実務も知りません。

それでも株主である機関投資家等から「数」を求められるものですから、しょうがないんですね。で、社外取締役は設置していたけど、不祥事が起きてしまった企業、、、が続出するわけです。こんな事いつまで続けるんだか、、、って感じです。

コーポレートガバナンス・コード 原則4-8 独立社外取締役の有効な活用

記事の中でも少しだけ紹介されていましたが、コーポレートガバナンス・コード原則4-8では独立社外取締役の有効な活用について以下の記述があります。

独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社を取り巻く環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。(引用ここまで)

いかがでしょう。前半はともかく、後半に書いてあることが理解できたでしょうか?実は18年の改定で修正したことで日本語が変になってしまってるんですね。よくこんなものをこのまま公開してるなぁ、と思うんですが。改定を巡る当時の議論を探してみたら、良いのが見つかりました。日弁連の意見書です。以下当該意見書からの引用です。

改定案は、「十分な人数」が必要であり、その最低ラインとして2名以上ないしは3分の1以上という2つのラインがあるとするものであり、その趣旨を分かりやすく表記するのが良いのではないか。例えば、

「・・・上場会社は、そのような資質を十分に備えた独立社外取締役を十分な人数選任すべきである。その数は、少なくとも2名であり、また業種・規模・事業特性・機関設計・会社を取り巻く環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の人数が必要と考える上場会社は、その人数を選任すべきである。」などとすることが考えられる。(引用ここまで)

う~ん。少しは分かりやすくなったかな。この部分については近いうち、「全取締役の3分の1以上を独立社外取締役に」と書き換えられるんでしょうね。

野村證券 東証市場区分 不適切な情報伝達事案にかかる調査結果

5/28 野村ホールディングスおよび野村證券は金融庁から業務改善命令を受けました。東京証券取引所の市場区分見直しに関する非公開の情報を、一部の投資家に伝達していたというヤツです。これに先立ち、野村ホールディングスが自ら行った特別調査の結果と改善策を公表しています。

閾値250億円という目線が急浮上

NRI(野村総合研究所)の研究員からメールで情報を取得したストラテジストがメールに掲載した一行コメントだそうです。どうやらNRIの研究員についてはそれほど責任を問うてないようで、もっぱらこのストラテジストとその先の営業員が悪者になってます。過去にも問題を起こしているこのストラテジストの行動を特別にモニタリングしておくべきだったというくだりもあります。

ストラテジストからメールを受けた営業員はと言うと、、、。当該メールの都合の悪い記述を削除し、「既に500億円という目線で売られているとしたら、買い戻される可能性があるかもしれません」という文言を加えて21社にメールした者。「250億円から500億円までの時価総額のものは買い戻されるかもしれませんので、単純ではありますが、フィルタしました。」と記載し、当該銘柄リストを添付して7社にチャットで共有した者。

で、結局、日経が250億円の閾値に関する報道をするまでの間に、250億円に言及した営業員は7名確認できたとあります。

コンプライアンスは法令遵守?

調査の過程で行われた意識調査アンケートでは、今回の不適切な情報伝達に関し、「重要事実や法人関係情報に該当しないから問題ない」と評価する意見も一部に見られたとしています。また、ストラテジストのメールを受信した社員の誰からも問題提起がなかったことも含めて、コンプライアンスを単なる法令遵守に限定してしまっていることを問題視しています。

コンプライアンスは、社会常識あるいは社会の期待に応えることを含めた概念であることを看過し、市場のゲートキーパーとして証券会社の役割を果たすという意識が未だ全社員に徹底されていないとしています。おっしゃる通りですね。

「コンダクト」の考え方を浸透・定着

改善策もてんこ盛りなんですが、その中の一つに、「コンダクトの考え方を浸透・定着させるための取組」というのがあります。「コンダクト・リスク」、一昨年くらいから金融庁が使い始めた横文字です。コンダクト・リスクというのは金融機関が求められる社会規範や倫理を逸脱することで、顧客保護や市場の健全性に悪影響を及ぼすリスクというような意味で使っているようですが、、、これを浸透させるとかって結構難しそうですね。

今さらコンダクトという言葉を持ち出さなくても、コンプライアンスの範囲を再定義して、社員一人一人に自分で考えさせる習慣をつけさせる方が良いんじゃないかなぁ。とkuniは思います。

DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)

今年1月、スイスの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席した安倍総理が、演説の中で発言した構想がDFFTです。日本語的には「信頼ある自由なデータ流通」ですね。首相は「消費者や企業活動が生み出す膨大なデータについて、自由に国境をまたげるようにしないといけない」と主張していました。

G20で本格的な議論がスタート

今や成長のエンジンは石油ではなく、デジタルデータだと言われます。そのデータを一握りの巨大企業に独占させるのではなく、また国家が独占するのでもない。新しい、信頼のあるデータ流通の基盤を作ろうということです。6月に大阪で開催されるG20首脳会議で本格的な議論がスタートすることになります。

日本が議長国を務める今回のG20を「世界的なデータ・ガバナンスが始まった機会として長く記憶される場としたい」と首相は言っており、世界貿易機関(WTO)加盟国による交渉の枠組みを設けることも提案し、交渉開始の合意形成を目指しています。

日本発の提言

米国企業によるデータの囲い込み、対する欧州のデータ規制。そして国家で囲い込もうとする中国。これらの間に入って、3極の対立構造を打開し、幅広い企業がデータ流通の恩恵を受けられるインフラを、、、いかにも日本らしい立ち回りですし、日本らしい発想ですよね。

データガバナンスは今や国家戦略ですし、そう簡単にはまとまらないでしょう。とはいっても、役者を見渡しても、やはりこの役回りは日本にしかできなさそうです。G20に先立って6/8から行われる貿易・デジタル経済大臣会合が一連の議論の皮切りになるらしいです。

消費者のネットにおける購買データに関しては、完全に米国に先を越されましたが、日本には工場におけるモノづくりに関する技術と膨大なデータがあります。こうしたデータを成長力に結び付けていこうという発想。これもまた日本らしいところです。

大阪G20、米中貿易戦争を解決する米中首脳会談、、、みたいな希望的観測もあり、最も気になるところではありますが、日本が提唱するDFFTに関する議論についても注目してみましょう。

内部監査部門が発見した不祥事は監査役に報告

日本経済新聞で「経営陣の不祥事、監査役への報告優先を」という記事が掲載されました。経済産業省が新たにまとめるグループ会社の企業統治(ガバナンス)に関する指針の中で触れられているようです。東京証券取引所と金融庁が制定した、上場企業向けの企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を補う位置づけで、6月をめどに公表するみたいです。指針ですので、法的な拘束力はありません。

コーポレートガバナンス・コード

ということで、コーポレートガバナンス・コードではどのように書かれているかをチェック。まず、【原則2-5.内部通報】 補充原則 2-5① では以下のように、経営陣による隠ぺい等に配慮した記述があります。

「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備 すべきである。」

また、内部監査部門との関連では【原則4-13.情報入手と支援体制】 の補充原則4-13③ では、以下のような記述があります。

「上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。 また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。」

経済産業省の指針

そして今回の経産省の指針が言っているのが、「企業の内部監査部門が経営陣の関与が疑われる不正を確認した際、経営陣ではなく監査役への報告を優先させる規定を設けるのが望ましい」ということ。経営陣の関与が疑われる不祥事が内部調査で判明しても、報告先が経営幹部だともみ消されるのではないかとの懸念が消えないからだと言います。

現在のコーポレートガバナンス・コードは、内部通報する際や内部監査部門が発見した際の報告先について、取締役と監査役にという記述になっており、特に経営陣が関与している不正という前提については配慮されていなかったということですね。

しかし、なんで今回は経産省なんでしょうか。指針では、「急増するサイバー攻撃対策では、グループ会社やサプライチェーン全体の対処を進めるよう求める」なんてのもあります。こちらは経産省が推進するのも分かるんですが、内部監査部門の報告先についてはよくわかりません。

野村證券に業務改善命令

またまた野村です。金融庁は野村証券と野村ホールディングスに金融商品取引法に基づく業務改善命令を出す方針を固めたという報道です。東京証券取引所の市場区分見直しに関する情報を一部の投資家に漏えいした問題についての金融庁の判断ですね。野村証券に対する行政処分は2012年のインサイダー問題以来だそうですが、ここのところ不祥事だらけで常連さんのイメージです。

大崎貞和フェロー

情報を流したのは野村総合研究所の大崎貞和フェローという人物。東証が設置した市場区分に関して議論する有識者懇談会のメンバーです。この「市場構造の在り方等に関する懇談会」での議論・情報を野村証券のストラテジストや機関投資家を顧客に持つ営業員に伝えていたというお話。

この事件は3月下旬に発行されたFACTAという雑誌が報道していました。この情報が機関投資家に対して、野村証券のビジネスとして提供されていることから、会社ぐるみの対応ではないかとも言われています。大崎氏はこの報道を受けて政府の国会同意人事案から外されたりしてますね。

漏えいした情報

実際に機関投資家等に提供された情報というのが、「東証は一部上場・降格基準を250億円にしたい意向」というものらしいです。当時、降格基準は時価総額500億円ではないかとの観測がありました。そのため500億円未満だからとして売られていた銘柄は、買戻しが入るかも、、、みたいな感じで情報提供されているらしいです。

これって情報漏えいではなく、立派に積極的な情報提供ですよね。金融庁はインサイダー取引には当たらないとしているようですが、一連の行為は相当酷いです。ただ、一方で、「野村は主幹事企業の一部上場という地位を守るために、意図的に情報を流して議論を潰したのではないか」なんていう見立てまであるようです。

コンプライアンスの鬼門 プロフェッショナル

今回の業務改善命令、主役は政府が頼りにするほどの有識者。いわゆるプロフェッショナルはコンプラ的には非常に扱いにくい存在です。高度な専門性を有するが故、企業は非常に高い報酬で報います。高収入の彼らは一般的な社員とは別という感覚を持ちやすく、そのため会社のルールを守らない傾向が強いんですね。また、この手の輩は短期間で企業を退職し、別の企業に転職していく傾向もあり、会社に対するロイヤリティも低くなりがちという事情もあるような気がします。

終身雇用や年功制が廃止される方向に進んでいますが、一方で会社を次から次へと渡り歩く専門性の高い社員達に対して、コンプライアンスをいかにして徹底していくか。これは意外に大きくて、新しい課題だと思います。