ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売

ゆうちょ銀行が勧誘時の健康確認を怠るなど、不適切な手続きで高齢者に投資信託を販売していたことが分かった。と、日本経済新聞は6/15に伝えました。18日には定時株主総会が開かれ、社長が冒頭のあいさつで「守るべきルールが順守されていなかった点を厳粛に受け止め、深く反省している」と述べたそうです。

ゆうちょ銀行HPには何もなし

円滑に運営し、すべての議案を可決させてほしい株主総会ではお詫びして見せたものの、ゆうちょ銀行のホームページではこの件について一切触れていません。念のため、この報道から一週間待ってみましたが、やはり何も知らせるつもりはなさそうです。

この報道があったのち、株式市場は米国の利下げ観測を材料に反発しましたが、ゆうちょ銀行は反発の気配なし。上場来安値の更新をうかがっている状況です。コーポレートガバナンス体制、コンプライアンス態勢、お客様本位の業務運営に関する基本方針に、その取り組み状況。美しいお話がそこら中に掲載されていますが、肝心な顧客と正面から接するという姿勢がない。そんな感じです。

不適切な対応とは

日経が伝えている不適切な行為というのは、以下の2点です。

①社内で定めた書式を使っていない
②勧誘時に行うべき健康状態の確認を購入の申し込み時に一緒に実施

①についてはよく分かりませんね。日本証券業協会が定めたガイドラインでは、75歳から79歳までの顧客と、80歳以上の顧客で違ったルール(手続き)を定めています。「書式」というのは、例えば80歳以上の顧客なのに、手続きが比較的シンプルな75歳から79歳までの顧客用の書式を使用していた。みたいなお話でしょうか。

②についは、本来、顧客の健康状態の確認を商品の勧誘を行う前に実施することになっているんですが、商品を勧誘し、購入することを決めた後に行っているというものです。ここでいう健康状態の確認というのは、高齢のそのお客様に認知症等の兆候が見られないか、投資信託の商品性やリスクについて理解でき、そのうえで投資を判断できる状況か、、、と言ったことを確認する作業です。

そのため、商品やリスクを説明し、顧客が「じゃぁ、買ってみようかしら」という判断をしてから、健康状態の確認をしても意味がないわけですね。この②については日証協の高齢者ガイドラインに抵触しています。①については何とも言えませんが、②のルールが守れない組織が、あらかじめ日証協のガイドラインより厳しい自社ルールを作るとは到底思えません。おそらく①についてもガイドラインに抵触していると思われます。

何も変わってないみたい

何年前だったか忘れてしまいましたが、彼らが金融庁検査でかなりたくさん指摘を受けた際に、コンプラの方が改善に向けての施策等について相談に来られたことがありました。「そんなことも出来てないの?」というレベルでしたが、あれから何も変わっていないみたいです。金融機関の中で圧倒的なアドバンテージを持っているのに、、、もったいない話です。

大和ハウス、不適切物件4000棟に倍増 ずさんな管理露呈

6/19付け日本経済新聞の記事です。国の認定を取得していない基礎を使った賃貸アパートや戸建て住宅が、新たに1900棟見つかったと公表したことを伝えています。不適切物件は従来の公表数から倍増し、3955棟になったとしています。業界大手のずさんな管理態勢に対しかなり批判的に書いてますね。

細かいんだけど

と、ここまでは日経の記事なんですが、大和ハウス工業が6/18付けで公表している「対象物件数の訂正について」というプレスリリースを読むと、4/12に公表した際の不適合対象物件数が1878棟、そして今回新たに追加したのが1885棟。ということで合計3763棟にしかならないんだけど、、、。3955棟って、どういう計算で出てきたのか。

ただ、記事の指摘通り「ずさんな管理」に間違いはなく、おっしゃる通りだと思います。前回公表時のミスについて、こんなふうに説明しています。「前回公表時に使用した『お客様物件管理システム』より不適合の対象物件を抽出する際、データ抽出の設定方法に不備があり、対象物件に漏れていた物件があることが判明しました」

ということで、今回は対象期間内に供給した全25万棟の図面を確認し、該当の有無を精査したんだそうです。こんな重要なデータなんですから、普通最初からこういう作業をやって、正確なデータであることの確認をしてから公表しますよね。こんなところにもずさんな対応というか、顧客に対する誠意を欠くカルチャーが表れています。

なお、4/12に公表した1878棟については、第三者機関による構造安全性能が全物件で確保されていることを確認したとしています。とりあえず、オーナー、居住者は一安心ですね。

中国子会社での不正、そしてもう一つの件も

この件も以前当ブログで取り上げましたが、同じ日に中国の件も第三者委員会の報告書が公表されています。80ページに及ぶ報告書で、用語の説明だけでも3ページ。さらに、個人のプライバシーに配慮したとかで、秘匿化処理(黒塗りやら、関与した者をu氏、y氏などと、、、)がされているため、非常に読み難いんです。申し訳ないけど、途中で断念しました。すみません。一応、大和ハウス工業本体の役職員の本件不正への関与は認められなかったようです。

大和ハウス工業の闇、あともう一つ残ってますよね。元営業所長が納入業者から4000万円の裏金をとっていた件。退職金ももらって自主退職されたとか。この件もこの際ちゃんと公表するべきでは?

社外取締役 知らぬが仏?

コーポレートガバナンス・コードをはじめ、いろいろなところでその必要性や機能、役割を期待されている社外取締役ですが、当ブログでもたびたび書いてきたように、現実にはなかなか機能していないというのが実態です。この6/14の日本経済新聞でもそういった一面を取り上げています。

情報が共有されなければただのよそ者、門外漢

社外取締役には弁護士や大学教授、元官僚や、他の業態の経営者などが多く選任されています。それぞれに高い専門性を有しているのでしょうが、会社の様々な情報がインプットされないと、期待されている機能は発揮できません。当然のことですね。

このことに加えて、記事では社外取締役が(不正等の)情報を知り得たかどうかで責任の重さが変わるという、日本特有の事情を問題視しています。事例としてスルガ銀行の件をあげています。情報を知り得たかどうか、、、整理してみると、

①情報を全く知らなかった
②情報を知る機会はあったが、積極的に調査せず、共有には至らなかった
③情報は共有されていたが、それに対する特別な行動を起こさなかった。

こんな感じでしょうか。①には積極的に調査しようとしたが拒まれ、知るに至らなかった。も含んでいると思ってください。最近の不正・不祥事の事例に関する第三者委員会の報告書等を読んでも、③のケースはほとんどありません。あったとしても②のケースまででしょうか。③は当然善管注意義務違反が問われるでしょうし、②のケースでも「機会の程度」によるでしょうが、同違反が問われることがあると思われます。

そのため、記事のタイトル「知らぬが仏」なんてことになるんですね。中途半端に知ることとなるくらいなら、いっそ何も知らない方がありがたいと。しかし、これじゃ社外取締役を置く意味がありません。

機会の程度

②について、「機会の程度」と書きました。実はここが重要だと思います。「明らかに他行と違い、利益率が突出している」、「この事業セグメントでこの利益率は高すぎる」といった情報はあるわけです。ただそれを異常と感じることができるかどうかです。スルガ銀行のケースなど、金融関係者はみんなおかしいと思っていましたが、弁護士や元IT企業役員の社外取締役には気付き(機会)にならなかったということですね(かなり良心的な解釈してますが)。

この記事、専門家のコメントも織り交ぜ、良い記事だと思います。ただ、一つだけ残念なのは、スルガ銀行の件がひと段落してから書くんだ。ということ。誰に配慮したんだか知らないけど、もっと事件が衆目を集めている最中に書くべきでした。

国土交通省 スズキに再発防止勧告  スイフト リコールも

少し前になりますが、6/7 国土交通省はスズキにおける一連の完成検査に係る不正事案に対し、再発防止に関し必要な措置を講ずべきことを勧告しました。また、特に重大な事案については、道路運送車両法違反(完成検査の一部未実施)による過料適用のため、静岡地方裁判所に通知を行っています。

過料 科料 罰金

過料(かりょう)は国や地方公共団体が、行政上の軽い禁令を犯した者(企業)に科する制裁のための金銭罰のことです。これに対して、科料(かりょう)、罰金は犯罪に科する刑罰になります。過料と科料は、おなじ「かりょう」と読みますので、過料を「あやまちりょう」、科料を「とがりょう」と呼んで区別することがあるそうです。

ついでですが、科料と罰金の違いは、科料が1000円以上1万円未満、罰金が1万円以上と決まっているようです。こうしてみると、スズキの行為はこれらの中で一番軽い扱いに見えてきますが、実際には過料の適用を求めた自動車は655台で、1台当たりの上限は30万円とのこと。この計算通り上限で決定した場合2億円近くになるそうです。

勧告の内容

かなり厳しい内容になっています。平成28年の燃費不正問題の際や、29年の他社の燃費不正問題の際も、自社の同種事案を把握するに至らなかったことをあげ、「コンプライアンス意識の低さ、自浄能力の欠如」と表現し、さらに、「不正の報告をしても取り上げてもらえない、かえって不利益を被るだろうと職員に思わせた不健全な組織風土等の結果である」とバッサリ。

さらに「経営層はこのことを、自らが招いた、会社の在り方に関わる容易には改善できない根深い問題であることを認識する必要がある」とも言っています。不正等が行われる企業におけるガバナンスの欠如について語る際、必要なキーワード(コンプライアンス意識、自浄能力、現場と乖離した経営という組織風土、経営層の責任)が全てそろっている感じです。

中でも特筆すべきこと、kuniが最も重要と考えるのが現場と経営層の乖離です。勧告では「不適切事案や不正事案を報告したとしても取り上げてもらえないだろう、かえって不利益を被るだろうと現場職員に思わせた不健全な組織風土」と表現されています。

要するに現場が経営層を信用していないということです。この関係が改善されなければ、トップがいくらコンプラを指示してもダメです。研修しようが教育を徹底しようが、現場は経営層が本気で取り組んでるとは思いませんからね。経営層が本気で取り組み、現場の声を真摯に聞く姿を見せ続けていくしかありません。

5万台リコール

さらに、6/13 スイフト計5万台(2016年12月~19年1月生産)をリコールすると国交省に届け出ました。制御プログラムが不適切なため、後部ドアを強く閉めた際、エアバッグが誤作動する恐れがあるとのこと。。。踏んだり蹴ったりですな。

RS(リストリクテッド・ストック) 譲渡制限付き株式報酬

6/13付け日本経済新聞、「変わる総会(3)役員報酬業績連動型の導入進む」という記事の中で紹介されていました。RS(リストリクテッド・ストック) 譲渡制限付き株式報酬を役員報酬として導入する企業が増加しているという内容です。記事では、トヨタや京セラが今月開催される株主総会で謀ろうとしていることを伝えてました。

役員への報酬制度については、コーポレートガバナンス・コードが「客観性・透明性ある手続きで報酬制度を設計し具体的に決定する」ことを求めています。譲渡制限付き株式報酬を導入する企業の多くが、「自社の企業価値の持続的な向上を図るインセンティブとなること」や「株主価値を共有できること」を導入の理由として表明しています。

ストック・オプションとの違い

kuniが若い頃は、役員報酬や従業員へのインセンティブという意味では、ストック・オプションが幅を利かせてました。なにせデリバティブ全盛期ですからね。全盛期=マーケットの絶頂期でもあったわけで、ストック・オプションで大儲けしたという先例の話はよく聞いたものの、国内ではあまり儲かった人はいないんじゃないでしょうか。

ストック・オプションは株価が権利行使価格を上回った場合だけ、経済的な価値があります。株価が下がってしまうと、価値がゼロなんですね。株価が恒常的に上昇する場面では非常に魅力があるんですが、最近のマーケットのように先が読めない時代には向きませんし、インセンティブにもならないことも考えられるのです。

これに対して、譲渡制限付き株式報酬は、割り当てられるのはあくまで普通株式ですので、報酬としていただいた後に株価が下げようが、その時点での 時価×数量 の経済価値があるわけです。もちろん譲渡制限が外れた時点で、株価が上がっている方が儲かりますし、儲けたいから役員は企業価値を向上させるべく、頑張るわけです。

時代を反映した選択

役員報酬の客観性や透明性がますます求められるという時代。とはいえ、株式市場(特に自社の株価)が右肩上がりで上昇するかどうか自信が持てない時代。そんな時代を反映した選択かと思われます。

おまけです。「譲渡制限付き株式報酬」でググってみたところ、自己株式の処分に関するお知らせがたくさん出てきます。自己株式を役員に割り当てるということですね。スキームの説明を読んでみると、どこの会社も、「譲渡制限期間中は野村證券株式会社に開設した専用口座で管理される」と書かれています。野村さんこういうところは強いですね。