統計改革推進会議 有識者による再発防止策

政府は8月2日、統計改革推進会議(議長・菅義偉官房長官)を開きました。厚生労働省などで相次いだ統計不正を受け、有識者による作業部会を設けて再発防止策を議論したようです。政府統計の抜本改革策を協議するそうです。

再発防止策の検討内容

不正が長期間発見されることなく放置されていたという発生原因については、ガバナンスの強化を実施。具体的には、既に7月、内閣官房の統計改革推進室に約30人の統計分析審査官を新たに配置しており、同審査官を中心に各省庁の調査や集計を外部から点検する仕組みを整備することで、統計へのチェック体制を見直すそうです。

再発防止策の定番であるモニタリングの態勢を構築するということですね。新たにリソースを30人追加しています。

専門人材が不足していたという発生原因については、職員の研修を強化するほか、民間人材の活用で統計の水準を底上げすることも検討課題とし、人材育成をテコ入れするとしています。ここでは民間人材の投入が検討されています。

そして、業務が非効率だったという発生原因については、調査する側の手間が省けるとともに、集計作業が簡略化できてミスが発生しにくくなり、回答者の負担も減らすことができる、デジタル化を推進すると言ってます。

以上が、8/3付で日本経済新聞が報じた第1回統計改革推進会議での再発防止策の検討結果です。まだ結果というよりは現段階での議論というべきですね。厚労省の毎月勤労統計の不正問題で設置した特別監察委員会や、総務省統計委員会の点検検証部会がそれぞれまとめた報告書もたたき台として提供されているようです。

現場力を低下させないために

以前当ブログでも取り上げた日経コラムに、「現場力の低下」がありました。「不正や不祥事が発生するたび、新たな制度やルールが作られます。それら全ての規制を守ることが目的化してしまい、現場力の著しい低下を招いている」というやつです。

この会議では、現場力を低下させないための配慮もあったでしょうか、人材育成のテコ入れという施策も再発防止策に取り込まれそうです。しかしまぁ、有識者11名が参加して検討しました、というほどの内容にもなっていないような気もします。

統計とは

統計とは、現象を調査することによって数量で把握すること、または、調査によって得られた数量データ(統計量)のことだそうです。データの利活用で莫大な利益を上げる企業がある一方で、データの集め方で不正を働く霞が関。なんなんでしょうねこのコントラストは。

データが勝手に集まってくる仕組みを考えた奴らと、訪問調査や郵送調査といった昔ながらの方法から進化できなかった奴らの違いということでしょうか。どこまでデジタル化できるか注目しましょう。

現場を衰退させる形式主義

7/25 日本経済新聞コラム「大機小機」に、「現場を衰退させる形式主義」というのがありました。行き過ぎた形式主義が現場の思考停止を招いている。という主張です。

再発防止策の罠(PDCAの罠)

このコラムで冒頭に新ルールについて触れています。「不正や不祥事が発生するたび、新たな制度やルールが作られます。それら全ての規制を守ることが目的化してしまい、現場力の著しい低下を招いている」。このコラムの言いたいことがここに凝縮されているように思います。

最近のかんぽ生命のニュースを見ていて分かるように、金融機関では発生した法令違反や規則違反をすべて金融庁に届出します。速やかに届け出た後に、真因分析を行い、再発防止策にまとめてそれを受理してもらうという一連の手続きがあるわけです。

再発防止策の中には、必ず、二度と発生させないための新しいルールが盛り込まれていますし、当該ルールが遵守されていることを確認するためのモニタリングも組み込まれます。定期的なモニタリングの結果を経営がきちっと確認するための会議体やレポーティング方法も定められています。そうして新しいルールを軸とした新しいPDCAが生まれ、日常業務の中に組み込まれていくわけです。

コラムでは、「全ての規制を守ることが目的化してしまい」と書かれていますが、ルールを守るだけではすみません。ルールを守っていることを別の人たちがモニタリングし、経営に報告し、結果次第でまた新たなルール、、、というところまでのPDCAも含めて、「目的化してしまっている」と言いたいんだと思います。

形式主義

コラムの言う形式主義は、法令や規則、ガイドラインやマニュアル、と幅広く指しているようですが、こうしたものへの依存は責任の所在を分散させ、組織的に動かすには便利な手段と一定の評価を与えつつ、問題点も指摘しています。

その問題点として、「職場での対話や各人が考えたり、五感で感じ取ったりという人間本来の能力を低下させている。」と言っています。「洞察力、思考力、対話力といった能力はいったん失われてしまうと容易には取り戻せない」とも。

誰がその業務を行ったとしても、同じように業務を遂行できるよう、マニュアルやガイドラインが整備され、ことが起きるたびにそれが追加され、詳細化してきました。詳細化により組織の縦割り、いわゆる蛸壺化もどんどん進みます。形式主義で失ってしまったのは、余人をもって代えがたい職人の技だったのかもしれません。マニュアルの世界と職人の世界。上手く融合できないものですかねぇ。

アスファルト合材 価格カルテル 課徴金399億円

道路舗装用のアスファルト合材の価格を不正に引き上げるカルテルを結んだとして、公正取引委員会は、独占禁止法違反(不当な取引制限)で、道路舗装大手8社に過去最高となる総額399億円の課徴金納付を命じました。

違反事業者 排除措置命令 課徴金

今回の独占禁止法違反、違反事業者は9社です。このうち7社に排除措置命令が出され、8社に課徴金納付命令が出ています。分かりにくいですね、一覧にしましょう。

No 違反事業者名  排除措置命令   課徴金額   課徴金減免制度の適用
1  前田道路     〇       128億円       30%
2  大成ロテック   〇       61億円
3  鹿島道路     〇       58億円
4  大林道路     〇       41億円
5  日本道路     -       34億円       50%
6  世紀東急工業   〇       29億円       30%
7  ガイアート    〇       26億円
8  東亜道路     〇       22億円       30%
9  NIPPO       -        -         免除

こんな感じです。日本道路とNIPPOを除く7社に排除命令が出て、NIPPOを除く8社に課徴金納付命令が出たということです。NIPPOは違反を最初に自主申告したことで、課徴金が免除されていますし、日本道路は2番目に自主申告したため、課徴金は50%減免されています。

課徴金総額399億円

大手各社はここ数年繰り返し独禁法違反を認定されているため、割増規定が適用され、課徴金額は600億円に膨らむのではないかと言われていましたが、6/19の独占禁止法の改正で399億円に縮小しています。それでもこの数字は平成19年に納付命令が出たごみ焼却炉建設談合の約270億円という記録を塗り替える、過去最高額だそうです。

懲りない奴ら

今回問題となった道路舗装大手9社のうち、いずれかが排除措置命令などの行政処分を受けた事例は、1980年以降に15件もあるそうです。これだけ独禁法違反の指摘を受けながら、この業界の悪弊は改善されることなく、史上最高額の課徴金納付命令につながったんですね。

公取委の調査において、記録の多くが破棄されていたそうですが、「メモを残さないのが良いコンプライアンス」などと言う記述も発見されたとか。彼らがカルテルで儲けたのは主に公共工事。支払っているのは国や地方自治体。我々の税金から支払われているわけですね。我々もこうした企業の悪事、しっかりチェックしていかなければなりません。

すてきナイスグループ 元会長ら3人を逮捕 第三者委員会報告書も

東証一部上場のすてきナイスグループの粉飾決算事件で、横浜地検が同社元会長の平田恒一郎ら3人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕しました。また、逮捕前日の7/24には、同社が設置していた第三者委員会の報告書も公表されています。

不正な売り上げ計上

報道では、在庫物件などを会計上の子会社に売却する形で、約30億円の不正な売り上げ計上があったと報道されていました。第三者委員会の報告書を読んでみると、ここで会計上の子会社とされている会社は、元会長が個人的に100%株式を保有する会社で、ナイスグループとは全く関係のない別会社の子会社です。

ちょっと分かりにくいですね。平田恒一郎氏が100%保有する「エイワ設計株式会社」という会社があり、その100%子会社に「ザナック設計コンサルタント株式会社」(以下、ザナック)という会社があります。このザナックという会社が約30億円の在庫物件を買い付けた会社です。

資本上はナイスグループと一切関係ないわけですね。報告書ではこの会社をグループ外支配会社と呼んでいます。また、このザナックが買い付けに投じた30億円は、実はナイスグループから融資された資金。資本関係はないが、平田恒一郎氏が支配する会社を舞台に、在庫物件を売却して、会計上認められない売り上げを計上し、利益も上げていたということです。

おまけにこの平田恒一郎氏、「エイワ設計株式会社」の株式を100%保有しているにもかかわらず、株主名簿上では他人の名義にしていたとのこと。ナイスグループや同氏と関係があることが外形上分からなくして、いろいろと裏取引みたいなことをしてきたようです。

創業家の強い影響力

創業家の二代目であった平田恒一郎氏。筆頭株主であり、ナイスグループ内では圧倒的な影響力を持っていたようです。役員等の人事権も当然掌握してます。スルガ銀行の件と同じですね。ザナックとの取引が通常の取引とは思えない、何か問題があるのではないかと懸念したとしても、取締役をはじめ、役職員がこれをけん制することはできなかったと見ているようです。

監査役 会計監査人

監査役にもザナック案件について、事前には情報が届いていなかったようです。かろうじて期末監査の際(つまり事後的に)ザナック案件を知り、会計上の疑義を持ち、会計監査人に相談をしています。ところが、会計監査人は「会計上の問題はない」という回答をしているみたいです。監査役および会計監査人が、ザナックを実質的に支配しているのはナイスグループであることについて、どこまで知っていて判断したのかに関しては、報告書からは読み取れませんでした。。。長くなってきたので、今日はここまで。

日産自動車 人員削減 1万2500人

7/25、日産自動車は4~6月期の四半期決算を発表しました。予想通り大幅に悪化してますね。連結営業利益は前年同期比で99%減だそうです。カルロス・ゴーン会長が逮捕されたのが昨年11月のことでした。その後も次から次へと出てくるゴーン氏在任中の不正。さらにはルノーとの政争もあり、ブランドイメージは傷付きまくりです。

日産リバイバルプラン再び

決算の発表に併せて、構造改革策としての人員削減についても公表しています。1万2500人の人員削減です。この会社単独では従業員数2万2千人となっていますから、ここで言う1万人は連結ベースでの削減ですね。連結ベースでは従業員数13万9千人を抱えています。

20年前、1999年10月、カルロス・ゴーンCOO(当時)は記者会見を行い、日産リバイバルプランを発表しました。日産の再建計画ですね。5つの工場閉鎖や部品等の調達先の削減に加え、2万1千人の従業員削減が発表されたのです。かなり衝撃的な記者会見でした。

そして今から10年前、2009年リーマンショックの場面でも同様に、2万人の人員削減を実施しています。この時は技術派遣3000人を一斉に契約解除したことが、社会問題になったりもしていました。

この会社、どうも ***9年が鬼門のようで、10年ごとに人員削減に追い込まれてます。そして2019年、今回再び、、、ということになりました。が、ゴーン氏が会長職に留まっていたら1万人どころではなかったかもしれません。

事業環境の変化

20年間で3回目となる今回の人員削減ですが、これまで2回の局面との大きな違いが、事業環境の劇的な変化です。過去2回はいずれも景気全体の落ち込みに如何に対応するかという局面であり、その答えとして選択したのが人員削減であり、コストカットでした。

しかし、今回は自動車そのものが売れない時代であり、内燃機関がなくなる時代。それほどの大きな事業環境の変化が見込まれています。従業員を減らすことは正解なんでしょうか。削減する従業員次第では、次の事業環境の変化に対する適応力の低下を招きかねません。

過去2回の人員削減で、新車の開発力が落ちてしまったように、今回この事業環境の変化に適応できなかったり、適応スピードが不足してしまった場合、業界からの退場を余儀なくされるのではないか。そんな気がします。米中貿易戦争の一時的な影響とみることもできるでしょうが、今の日産が置かれている状況、それほど過少に評価するべきではないように思います。