金融業が担うべき役割 機関投資家の評価基準

英国の生命保険大手 リーガル&ジェネラル CEO ウィルソン氏が日本経済新聞のインタビューに答えた記事を紹介します。ESG投資に力を入れていることについて、その狙いを聞かれたのに対しての答えの一部です。

「金融業が担うべき役割は、低金利を背景に国債から逃げ出した巨額の投資マネーを、社会で必要とされる分野へ回し、社会課題の解決や経済成長につなげることにある」と、なかなか良いこと言ってます。金融業の本質を言い当ててるようですよね。他にも、

「議決権行使や対話によって企業経営者や政治家など影響力のある人々に働きかけ、社会の中でのお金の流れを変える」とも言ってます。こちらは機関投資家としての使命を言ってます。

ESGへの対応

このインタビュー、日経としてはESGへの対応の重要性を書くことが目的だったようですが、金融機関のあるべき姿を見せてくれていると感じました。最近では「社会的課題を解決するスタートアップ企業」というのをよく見聞きします。が、そうした企業へお金を付けている(リスクマネーを供給している)のは、もっぱらベンチャーキャピタルだったりするわけで、この分野で伝統的な金融機関が活躍しているとは言えません。残念なことですが。

「ESGへの対応・取組みについて、社会的課題と捉え、これを解決するために金融業がお金を回す」というのが記事のお話なんですが、「ESGが社会的な課題なのかどうか」は良く分かりません。現に米国はトランプ政権になって「パリ協定」から脱退してしまいました。

社会的な課題なのかどうかに疑問があったとしても、そう捉えている世界の機関投資家たちの動向を止められないのも事実です。化石燃料からのダイベストメント(投資撤退)に踏み切った機関投資家の運用総額が6兆ドル。これを含めて、ESG投資の運用残高は30兆ドルにのぼるとか。3300兆円ですよ。

事実はどうであれ、金融経済(行き先を失った運用資金)が一方向へ動き出すと、もう止められないということですね。気候変動への取り組みが不十分と判断され、ESG評価を下げられた企業は、株価は下がるわ、融資も受けられないという悲惨な状況になるわけです。現代の魔女狩りですな。金融経済のパワーはまだまだ増していきそうです。

ILOがハラスメントを全面的に禁止する国際条約を採択

ILO(国際労働機関)がハラスメントを禁止する国際条約を採択したそうです。性的被害を告発する「#Me Too」運動が世界に広がっており、今後もかなりのうねりになりそうな気配です。この国際条約採択を機に、ハラスメントに対する取り組みも、機関投資家が企業を評価する際の一つの基準になるかもしれません。

ESG 「RE100」 「TCFD」 「SBT」(その2)

一昨日の続きです。一日遅れました。すみません。

SBT(Science Based Target)

世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えるために、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求めるイニシアティブで、2015年にWWFおよびCDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)が共同で設立しています。日本語だと、「科学的根拠に基づく目標」と呼ばれているようです。

科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出量削減目標の設定を促すことを目的としており、2019年3月時点で、世界191社が加盟し目標が認定されていて、日本からは第一三共、小松製作所、コニカミノルタ、リコー、ソニーなど39社が入っているようです。また、同時点で350社が2年以内の目標設定を表明しているんだそうです。この中には日本企業は34社だそうです。

やはり、上記の目標が認定までされている日本企業の中に、金融は含まれてませんね。目標設定を表明している34社の中には、損保3社が入ってました。

SBTに加盟することで、イノベーションの促進、規制の不確実性の軽減、投資家からの信用・信頼を高める、収益力と競争力を改善する、などの効果が期待できる。と説明されていました。

まとめ

RE100、TCFD、SBT、について見てきました。このうち、RE100とSBTについては賛同する企業が参加するイニシアティブということでしたが、他にもEP100だとか、BELOW50、EV100などなど、たくさん出てきます。「脱炭素」への取り組みなど、環境問題を重視し、世界中の企業が取り組んでいくことは非常に良いことだと思いますが、イニシアティブの乱立なんとかならんもんですかね。

ここまで書いてきたこと、書ききれなかったことも含めて、環境省の「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」というページに詳細が整理されています。ご興味ありましたらご覧ください。

ESG 「RE100」 「TCFD」 「SBT」

エネルギー源を石油や石炭などの火力から、太陽光や風力へと転換する、いわゆるエネルギーシフトが世界中で急速に進んでいます。金融機関は二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電には資金を出さなくなってきましたし、商社などもこれに追随する動きを見せています。日本でも「脱炭素」への取り組みが経営の重要要素になってきてしまいました。今日はこの動きを理解していくための3つの用語について、整理しておきます。

RE100(Renewable Energy 100%)

RE100は、The Climate GroupとCDPによって運営される、企業の自然エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアティブです。企業による自然エネルギー100%宣言を可視化するともに、自然エネの普及・促進を求めるもので、世界の影響力のある大企業が参加しています。

2014年に発足したRE100には、2019年3月時点で、世界の177社が参加しています。日本企業ではソニー、リコー、富士通、コニカミノルタといった企業17社が名を連ねていました。ちょっと意外なところでは、コープさっぽろ、城南信用金庫、ワタミなんて言う名前もあります。残念ながら、金融37社の中には、城南信用金庫と芙蓉総合リースのみ。メガバンクや地銀等の名前はありません。

RE100プロジェクトに参加するには、事業運営を100%再生可能エネルギーで行うことを宣言しなければなりません。多くの現参加企業は、合わせて100%達成の年を同時に宣言しています。100%達成は、企業単位で達成することが要求され、世界各地に事業所等がある企業は、その全てで100%を達成しなければなりません。また、ここで定義される「再生可能エネルギー」とは、水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスによる発電を指していて、原子力発電は含まれないようです。

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

気候関連財務情報開示タスクフォース、だそうです。G20財務大臣・中央銀行総裁会議の指示により、金融安定理事会(FSB)が設置したTCFDの提言が2017年6月に公表されたことをきっかけに、気候変動に関する企業の取組について、投資家等からの情報開示の要請が高まっているということです。

気候変動を含むESGを、リスク管理の強化や新商品の開発といった企業競争のために、どのように活用できるかという視点で、長期戦略の問題として取り組んで行こう。という世界的な取り組みらしいです。つまりこちらは、企業が加盟するとかではなく、賛同して取り組み、投資家に開示する、といった文脈で使われることが多そうです。FSBが中心になっているということもあり、金融機関はこちらへの取り組みがメインになっている模様です。

長くなりました。SBTについては明日、その2として書きますね。

千代田化工に1500億円支援 三菱商事

10連休最後の日の日本経済新聞の一面トップ記事です。三菱商事はプラント会社大手、千代田化工建設の経営再建を支援する方針を固めたとのこと。千代田化工は2019年3月期に大幅な最終赤字になる見通しだが、液化天然ガス(LNG)プラントの高い技術をもつ千代田化工の再建を支援していくそうです。

最終赤字は1500億円に拡大

千代田化工の2019年3月期の業績については、昨年から報道されていましたが、昨年11月時点では最終赤字1050億円とされていました。それが一気に1500億円まで拡大。主因は米ルイジアナ州で14年から工事を進めるシェール由来の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「キャメロン」。記事ではハリケーンの復興需要によるとしていましたが、労働者不足を背景に人件費の単価が上昇し、約850億円の追加工事費用が発生したということです。

自己資本比率は18年3月末の37.5%から12月末に7.7%まで落ち込んでいるようで、自己資本比率の改善のため、33.4%の株式を保有する大株主の三菱商事が再度、再建に向けた優先株による第三者割当増資を引き受け、融資も実施するということです。

プラント事業の怖さ

千代田化工がこうした危機で支援を受けるのは3度目です。ということは過去2回についてはちゃんと再建したということ。今金融の世界で起きている危機とは全く異質のような気がします。記事にもありましたが、今後の液化天然ガス(LNG)プラントに関する将来性はかなり明るく、高い技術をもつ千代田化工の再建は日本のインフラ輸出戦略の試金石となるというわけです。

千代田化工は、クリーンエネルギーとして注目されているLNGの製造プラントにおいて48%という驚異的なシェアを持っているそうで、これほど世界ブランドとしての地位を確立している日本企業は今では珍しいですよね。しかし、そんなブランド企業でもこんなふうに業績が一気に悪化してしまうというのがこの業界の恐ろしいところです。

工期が長く、その間の原油、LNG市況の変動や、資材の価格変動、製造要員の人繰りなど、いわゆる受注案件の工程管理の難しさがこの業界のキモのようです。その工程管理能力を向上させるために三菱商事が乗り出し、さらに今回三菱商事流の管理を浸透させようということのようで、一昨年には三菱商事出身者が社長に就任しています。

三度目の正直

とまぁ、非常に難しい業界ではありますが、三菱商事の力の入れようからもこの業界の将来性は窺えるというもの。ESGの推進という環境の後押しもあり、同社の再建が成功するのか見守っていきたいと思います。一度目の再建場面では、kuniの友人のアナリストが当時ボロ株だった同社株を強く推奨していて、その後株価が大化けした記憶があります。今回も期待したいところです。頑張れ千代建。

欧米基準のESG 超々臨界圧 サーマルリサイクル

4/13 日本経済新聞に「石炭火力 狭まる包囲網 三菱UFJ、新規融資中止へ」という記事が掲載されました。石炭火力発電所の新設を取り巻く環境が厳しくなっているため、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が石炭火力発電事業への新規融資を、原則として中止する検討に入ったという記事です。程度の差こそあれ、融資を絞る動きは三菱に限りません。

超々臨界圧

この記事の中では、「CO2の排出が少ない最新鋭の『超々臨界圧』と呼ぶ発電方式も、原則として融資をやめる」と書かれていました。超々臨界圧というのは、石炭を燃焼させて作る蒸気を、従来よりもさらに高温、高圧にして発電する方式で、今の日本の技術では石油による発電とほぼ同レベルの二酸化炭素排出量を実現しています。

ところが、世界の世論はこのことを理解しようとせず、石炭火力は悪、石炭火力発電を推進する企業や、協力、支援する企業は悪。なんですね。このような国際世論が、今回三菱に新規融資の中止という決断を迫ったということですね。

石炭火力に依存する日本の発電にも大きな影響がありますし、今まさに発電能力を増強しようとしているアジアの国々に対する日本の輸出産業としても大きなダメージとなります。温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」に基づく国の目標も、「2030年度に電力に占める石炭火力発電の割合を、17年度比6ポイント減の26%とする計画」というふうに、石炭火力発電はひとくくりにされています。国際基準には勝てないんですね。

プラスチックのサーマルリサイクル

もう一つ似たような話があります。以前にも書きましたが、プラスチックのリサイクルにはいくつかの方法があって、その中に日本が得意とするサーマルリサイクルという方法があります。サーマルリサイクルというのは、廃プラスチックを焼却して熱エネルギーを回収したり、固形燃料にする方法で、日本でのリサイクル率にはこれを含めて計算されています。

ところが、国際機関が各国の取り組み状況としてリサイクル率を計算、比較する際は、このサーマルリサイクルとケミカルリサイクルを含まず、マテリアルリサイクルのみで計算されています。

経済協力開発機構(OECD)の報告書では、このマテリアルリサイクルで各国のリサイクル率が示されており、日本のリサイクル率は22%と、EUの30%を下回ります。ところが日本式で計算すると86%まで跳ね上がるんですね。これほどの差を生んでいるのが、サーマルリサイクルです。

二つの国際基準に悩まされる日本。独自の技術で先行してきたからこそ、こういうことが起きてしまうわけですが、ここはめげずに行きましょう。行政は理解を得るためにコツコツ世界に対して発信していく。民間は国際基準の技術をさらに発展させていく。両面からやっていかざるを得ないですね。