ゆうちょ銀行の次はかんぽ生命

先日、「ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売」について書いたばかりですが、今度はかんぽ生命。過去の契約を新しい契約に変更する「乗り換え」などで、「不適切な販売を高齢の契約者らに繰り返した疑いがある」と朝日新聞が伝えました。

保険乗り換え実態調査「不適切と認識せず」

一方の日本経済新聞では、かんぽ生命で実態調査が行われたことと、その結果についてかんぽ生命が「不適切な募集とは認識していない」と説明しているところまでしか伝えていません。約300件については、契約者にヒアリングを実施したところ、数十件で既存契約のまま特約が付加できるケースがあり「違う提案ができたケースがあるという」。ってな感じで、不適切だったのかどうか、結論がはっきりしません。

その他の報道を見ても、不適切と言い切れるほどの話が出てきていませんので、今のところは「契約者の負担が増えるような保険の乗り換え契約をしていた」とまでしか言えないということでしょう。法令違反や規則の違反はなかったとしても、顧客本位の業務運営にこれほど神経質になっている金融の世界ですから、かんぽ生命も十分アウトです。

両社ほぼ同じタイミングで調査・公表が

昨年の取引や契約について今年になって調査を開始し、ほぼ同じ6月中旬に結果を公表というこのタイミングの一致は何を意味するんでしょう。顧客からの苦情か、内部通報による気付きなのか。いずれにしても親会社の日本郵政が各社に点検を指示したのではないかと思われます。

2017年度と2018年度の業態別投信販売額比較を見てみると、メガバンク、地方銀行、第二地銀、主要信金、大手証券、準大手証券、ネット4社、いずれも17年度に比べて投信販売額はかなり落ち込んでいます。主要信金だけが下落率10%未満と健闘していますが、メガバンクに至っては46%の減少になっています。

そのような環境下で、ゆうちょ銀行だけは7,306億円から8,905億円と、21.9%投信販売額を増加させているんです。スルガ銀行についても何度も書きましたが、業界の動向と大きく乖離した好成績、必ずその要因を分析しておく必要があります。多くの場合、他社がやっていないような不正が隠れているものです。

これはkuniの推測でしかありませんが、業界動向に比べて極めて好調な投信販売実績について、日本郵政が点検を指示した可能性はありそうです。だとしたら、スルガ銀行よりはマシだったということになります。しかし、貸付けができないゆうちょ銀行、投信販売を強力に推進するわけですから、当然そこにコンプライアンス・リスクがあることを前提とした経営のリスクマネジメントがあってしかるべきでした。経営陣のリスク感覚が甘すぎたのは事実です。

ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売

ゆうちょ銀行が勧誘時の健康確認を怠るなど、不適切な手続きで高齢者に投資信託を販売していたことが分かった。と、日本経済新聞は6/15に伝えました。18日には定時株主総会が開かれ、社長が冒頭のあいさつで「守るべきルールが順守されていなかった点を厳粛に受け止め、深く反省している」と述べたそうです。

ゆうちょ銀行HPには何もなし

円滑に運営し、すべての議案を可決させてほしい株主総会ではお詫びして見せたものの、ゆうちょ銀行のホームページではこの件について一切触れていません。念のため、この報道から一週間待ってみましたが、やはり何も知らせるつもりはなさそうです。

この報道があったのち、株式市場は米国の利下げ観測を材料に反発しましたが、ゆうちょ銀行は反発の気配なし。上場来安値の更新をうかがっている状況です。コーポレートガバナンス体制、コンプライアンス態勢、お客様本位の業務運営に関する基本方針に、その取り組み状況。美しいお話がそこら中に掲載されていますが、肝心な顧客と正面から接するという姿勢がない。そんな感じです。

不適切な対応とは

日経が伝えている不適切な行為というのは、以下の2点です。

①社内で定めた書式を使っていない
②勧誘時に行うべき健康状態の確認を購入の申し込み時に一緒に実施

①についてはよく分かりませんね。日本証券業協会が定めたガイドラインでは、75歳から79歳までの顧客と、80歳以上の顧客で違ったルール(手続き)を定めています。「書式」というのは、例えば80歳以上の顧客なのに、手続きが比較的シンプルな75歳から79歳までの顧客用の書式を使用していた。みたいなお話でしょうか。

②についは、本来、顧客の健康状態の確認を商品の勧誘を行う前に実施することになっているんですが、商品を勧誘し、購入することを決めた後に行っているというものです。ここでいう健康状態の確認というのは、高齢のそのお客様に認知症等の兆候が見られないか、投資信託の商品性やリスクについて理解でき、そのうえで投資を判断できる状況か、、、と言ったことを確認する作業です。

そのため、商品やリスクを説明し、顧客が「じゃぁ、買ってみようかしら」という判断をしてから、健康状態の確認をしても意味がないわけですね。この②については日証協の高齢者ガイドラインに抵触しています。①については何とも言えませんが、②のルールが守れない組織が、あらかじめ日証協のガイドラインより厳しい自社ルールを作るとは到底思えません。おそらく①についてもガイドラインに抵触していると思われます。

何も変わってないみたい

何年前だったか忘れてしまいましたが、彼らが金融庁検査でかなりたくさん指摘を受けた際に、コンプラの方が改善に向けての施策等について相談に来られたことがありました。「そんなことも出来てないの?」というレベルでしたが、あれから何も変わっていないみたいです。金融機関の中で圧倒的なアドバンテージを持っているのに、、、もったいない話です。

「顧客本位の業務運営に関する原則」の定着に向けた取組み

ちょっと懐かしいタイトルです。一昨年の3月に金融庁が公表した『「顧客本位の業務運営に関する原則」の定着に向けた取組み』を、久し振りに読み直してみました。当時はというと、フィデューシャリー・デューティー、顧客本位の業務運営を自社に定着させる取り組みに、金融各社が追われていたころです。

定着に向けた4つの取組み

① 金融事業者の取組みの「見える化」
② 当局によるモニタリング
③ 顧客の主体的な行動の促進
④ 顧客の主体的な行動を補う仕組み

という、4つの取り組むべき課題が最終ページに出てきます。先日「IFA(独立系金融アドバイザー)」という記事を2回にわたり書きましたが、金融庁はこうした従来の証券会社や銀行といった金融商品の販売会社等とは独立した立場でアドバイスをする者を、増やしたいんですね。④の課題の中でその辺りを書いています。

顧客の主体的な行動を補う仕組み

この課題の中で、「顧客にアドバイス等を行う担い手の多様化」をあげていて、「販売会社等とは独立した立場でアドバイスする者などに対する顧客のニーズに適切に対応できるよう、必要な環境を整備する」としています。要するにIFAのような、従来の金融機関とは独立した立場で、顧客に寄り添うアドバイザーが新たに登場できるような環境を造っていくぞ、と言ってるわけです。

実は同じ課題の中でもう一つ言っていることがあります。「第三者的な主体による金融事業者の業務運営の評価」です。「客観性、中立性、透明性が確保される形での、民間の自主的な取り組みを引き続き促進」と説明しています。

各金融事業者の取組みを横断的に分析・評価する事業者が登場してくることを、期待し、促進しようとしているわけです、、、。が、この第三者的な金融事業者の評価機関みたいな存在については、まだ確立されてないみたいですね。kuniが知らないだけかもしれませんが。

その後開催された金融審議会「市場ワーキンググループ」の議論の中にも、この部分だけは出てきてなかったように思います。モーニングスターみたいな、投信や投信運用会社を評価をする機関はありますが、金融機関(販売業者)を評価するというのは、まだ見たことないです。(ちなみに、モーニングスターはSBI傘下なので、第三者かどうかはビミョーですが)。

金融庁が外郭団体として財団なんか作っちゃったりして、天下り先兼第三者評価機関みたいなことになって行くのかな。なんて気もしますが。

IFA(独立系金融アドバイザー)(その2)

昨日書いたように、様々な部門を持ついわゆるフルラインの証券会社は、一定程度個人投資家を犠牲にすることで成り立ってきた業態と言っていいかもしれません。犠牲という言葉は良くないですかね。「依存することで」にしておきましょう。

回転売買 短期投信乗換

そんな証券界に対して「顧客本位の業務運営」が突き付けられ、数年が経過しました。株式の回転売買や、債券、投資信託の短期乗換が出来なくなり、収益が上がらなくなります。そうなると、「回転率が下がらざるを得ないなら、預かり資産を増やしてこれを補おう」という戦略をとるしかありません。各社とも手数料収入ではなく、預かり資産の増加を人事評価基準にするなどしてこれに取り組んでいます。

こんなふうに、個人投資家に依存することで成り立ってきたこの業態にとって、真に顧客本位の業務運営を続けていくということは、間違いなく収益性を低下させます。バブルの頃なら数千億円を販売していた商品でも、数百億円売るのも難しくなってくるわけです。預かり資産を増やすと言っても、また限られたパイの取り合いになるだけですよね。

個人投資家への販売量が減少するということは、引受サイドでも引受金額を絞る必要が出てきます。投資信託の募集にしてもそうです。裾野にあたる個人投資家への販売量が減少することで、証券会社の全部門がシュリンクしてしまいます。

おそらく今、野村証券をはじめ大手各社で同じことが起きていて、全体収益が落ちてくるスピードに預かり資産の増加が追い付かないので、コストを削減せざるを得ないといいう状況なんだと思います。こうなってくると、人員削減もいずれ始まるでしょうから、IFAに流れる人も増加するでしょう。IFAが増加しつつ、顧客の信頼を得ていくようだと、旧来の証券会社はますます厳しくなっていきます。証券会社にとって、なんだかこんなふうに負のスパイラルが始まっているというわけです。

IFAだったら安心?

ここまで、IFAやその将来性に関してポジティブなことばかり書いてきましたが、これはあくまで業界内勢力の動向を説明してきたにすぎません。IFAとして働いている人が皆信頼できると言ってるわけではありませんので、そこは間違えないでくださいね。

IFAに身を転じた人たちの中にも、コンプラがうるさいから会社を辞めてIFAに。という人たちは少なくないと思います。もちろん、本当に顧客のためにという夢をもってIFAになってる人も沢山いるでしょう。良い担当者を、しっかり見極めて、お付き合いしていただきたいと思います。IFAの教育係とか監督者としてのオファー来ないかな?

IFA(独立系金融アドバイザー)

6/4付け日本経済新聞に「独立アドバイザー 存在感 資産形成で個人に助言 金融機関に属さず中立性強み 業界団体、今夏に設立」という記事がありました。何だか記事の見出しが最近やたらと長いんですが、、、。

kuniが証券界に居たころから既に気配はありました。支店の営業員がパラパラと辞めていき、気が付くとどうやら繋がりのある営業員がセットで退職してIFAに、、、なんていうことが。まぁ、退職の理由はいろいろなんでしょうが、IFAになるというのはかなり有力な選択肢になりつつあることは確かなようです。

顧客本位の業務運営

証券会社、特に総合証券の営業員は3年に一回とかの転勤があり、顧客と長いお付き合いが難しいという問題がありました。顧客側からも担当者がころころ変わることに対する不満はよく聞きましたね。そういう面では、転勤のないIFAは生涯のパートナーになりうるというわけです。

また、もう一つ大きいのが、営業員が顧客に勧めたいと思わない商品でも、販売しなければならない場面があるということ。引受をやっている限り、引き受けた商品(株式や債券)を必ず誰かに買ってもらわなければなりません。たとえ、営業員が今この商品を買うべきではないと思っていたとしてもです。独立系ではこのようなお家の事情がありません。

一方で、引受部門があるからこそ、IPO(新規公開株)が手に入る、なんていうメリットもありますが、これもすべての顧客に渡せるわけではありません。トータルで見ると独立系の方が顧客に優しいでしょうね。記事が書いているように、まだまだこれからIFAになる証券マンは増加すると思います。

証券会社側にも組織上の問題が

このように証券会社から独立したIFAの方が、顧客にとっては頼りになりそうなんですが、証券会社側にも似たような事情があるような気がします。調査部門、引受部門、海外部門、法人部門といった部門をたくさん持つ総合証券会社では、部門間で様々な問題が発生します。

先ほどの、引受玉(引き受けた商品のことで「ギョク」と読みます)の問題もそうですね。引受部門が顧客に喜ばれるようなディールでは、それを販売した顧客には喜ばれない結果になることが少なくありません。一種の利益相反が起こるわけです。昨年のソフトバンクのIPOなんかがそうです。

また、引受部門や調査部門が非公開情報を入手した場合は、その情報が営業に使われないように、高度な情報管理が要求されます。この情報隔離という管理が破綻した事例が、今回の野村證券の東証市場区分情報の漏えいという事例であり、SMBC日興で起きたインサイダー取引等です。

システム投資も含め、相応にコストをかけて情報管理するわけですが、それでも上手く管理しきれなかった場合は、世の中の信用を失うという、さらに大きなコストを迫られることになるわけです。全国に支店を構えて営業員を配置していることも含めて、これらの膨大なコストを抱えたままでは採算が合わなくなってきているということですね。ちょっと長くなりましたので、続きは明日にでも。