日立金属 検査不正の後始末

トップ自ら特殊鋼・磁性材を巡る検査不正に関与し、長年にわたりそれを隠蔽し続けてきた日立金属。調査委員会の調査結果では、不正に及んだのは35生産拠点で顧客は1,747社に上りました。しかし、例によって、「調査で安全・性能上の問題は確認されなかった」、という結論に。

安全・性能上の問題

安全・性能上の問題があるかどうか、これって非常に難しい問題です。例えば農家が出荷する野菜。「こんなんじゃ売り物にならん」という小売りもいるでしょうし、「安く仕入れられるなら売ってやってもいいよ」、なんて判断もあるかもしれません。この例えが良いかどうかはよく分かりませんが。

ある企業の場合

実は、仕入れてきた粉末特殊鋼(HAP材)の品質が問題だとして、日立金属を訴えている会社さんからご連絡をいただきました。2年前から地方裁判所で、仕入れ代金の返却や材料製造瑕疵・を認めよ、という内容の訴訟を戦っているとのこと。

表向きには、「安全・性能上の問題は確認されなかった」とされてきましたが、やはり水面下ではこだわりのある業者さんから訴えられている、みたいな状況があるんですね。勉強になりました。

2022年12月末

日立金属は昨年12月末をもって上場廃止になりました。ここからは大勢の株主に対する開示義務がなくなります。これまで、「安全・性能上の問題はない」と、強気の対応をしてきたのは、個別の訴訟等の開示が怖かったからかも。ここからは世間に開示する必要もないので、個別案件の対応(損害賠償等)が本格化するのかもしれません。

日本製鋼所 新たな検査不正が

今年5月、子会社である日本製鋼所M&E 株式会社において検査不正が発覚したことを公表していた日本製鋼所。8/31には、新たに火力発電所のボイラーなどで使われる鍛造鋼管でも不正があったことを公表しました。(5月に判明したのは、タービン・発電機用ローターシャフト、発電機用リテーニングリング)

特別調査委員会

前回の不正公表後、特別調査委員会を設置して調査を続けていましたが、8月上旬に同委員会による調査により新たな不正が把握され、その後同社及びM&E社にて製造記録等の社内調査を実施して事実であることを確認したということです。

対象商品は火力発電所向けボイラー用鍛造鋼管(2014年8月~2019年3月までに製造されたもの)。顧客と合意した仕様に基づき実施すべき試験を、顧客へ説明・承認を得ることなく省略していました。なお、この不正に起因する、製品の品質・性能に影響する具体的な問題は確認されていないということです。

日野自動車と違って

調査開始後2カ月が経過したところで新たな不正が見付かったわけで、経営陣等はがっかりしたでしょうね。しかし、先日の日野自動車のように、社内調査で見落とし、特別調査委員会でも見逃して、当局の検査で見付かる展開を思うと、調査期間中に判明したことは喜ばしいことです。

不正の一部が内部通報で発覚。その後社内調査で不正の概要を一定程度まで掘り下げ、特別調査委員会を設置。その調査委員会が調査の過程で新たな不正を発見。こう整理してみると、ここまでの展開は一応理想的な流れですね(あくまで不正発見から始まる事後対応の話ね)。日野の件があったし、委員会も気が抜けません。

コスモエネルギーホールディングス株式会社 不適正検査

コスモエネルギーホールディングスは7/13、「当社グループの一部製品における不適正な検査について」を公表しました。5月に出光興産の子会社で品質検査での不正行為が判明したことから、コスモでも調査をしたところ、今回の不正が明らかになったということのようです。

コスモエネルギーホールディングス

コスモエネルギーホールディングスは純粋持株会社で、傘下に、「コスモエネルギー開発」(資源開発)、「コスモ石油」(石油製品供給)、「コスモ石油マーケティング」(石油製品販売)の中核3事業会社を抱える企業。大手石油元売りで、もちろん東証プライム市場上場企業です。

不正の概要

今年5月から社内調査を行っていた中、「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)」、「JIS規格」、ならびに取引先との取り決め等に則った試験・検査項目を、適正に実施していなかった事実が判明したということです。

不正が行われていたのは、コスモ石油株式会社、コスモ松山石油株式会社、コスモ石油ルブリカンツ株式会社の3社の製油所や石油化学製品の工場です。コスモ石油なんかは子会社といっても本体みたいなものですよね。ガソリンや重油など18品目の品質検査で不正行為が判明しています。

品確法、JIS規格、顧客との取り決めに違反している検査不正ということで、出光子会社の昭和四日市石油のケースとほぼ同じです。っていうか、他社で出てきた事例について、自社グループ内を調査したというのが本音ですかね。

出光興産同様、調査委員会を設置して調査、ということになりそうです。他社の問題を見てすぐさま自社の点検をしたというところは評価できます。しかし、この問題、まだまだ同業他社へ波及していきそうです。

三菱電機 電気用品安全法不適合を公表

三菱電機は6/22、「ビル設備用コントローラーの電気用品安全法不適合について」を公表しました。今度は、三菱電機と三菱電機ビルソリューションズ株式会社が、セキュリティー・設備監視の一部に使用しているビル設備用コントローラーが、電気用品安全法不適合であったことが 5月 31日に判明したとのこと。

今度の検査不正は

セキュリティー・設備監視の一部に使用しているビル設備用コントローラー計31,695 台において、電気用品安全法で定められた「補助端子における雑音端子電圧試験」を実施していなかったということです。よく分かりませんが、雑音端子電圧試験の許容値未達の影響として、中波放送(AM ラジオ)あるいは短波放送を近傍にて受信する際に、音声にノイズが混入する可能性があるんだそうです。

まぁそれくらいのことなら、っていう気もしますが、このぐらいのことならと現場が必要な試験を端折ってしまうというカルチャーが今問題視されているわけで、やはりこれも非常に大きな問題です。あらゆる三菱製品が信頼を失っていってるということです。

今回の電気用品安全法不適合については、三菱電機は適時開示をしていません。この期に及んでまだ「このくらいのことなら」っていうカルチャーが影響しているんでしょうかね。これじゃあ、会社変わりませんよ。調査委員会は徹底的に問題をあぶりだしているかもしれませんが、同社の姿勢が問題です。

同じ日に

同じ6/22、同社は「当社神戸製作所および電力システム製作所における ISO9001 認証の一時停止に関する件」を公表しています。こちらは適時開示で。不正があって認証を取り消されるわけですから、こちらの方が当然のお話。それより新たに見つかった不正の方を重要視するべきでは?

川崎重工業 子会社の川重冷熱工業で検査不正

川崎重工業は6/7、「川重冷熱工業における不適切行為について」を公表しました。昨年8月に完全子会社化した川重冷熱工業株式会社において、主にビルなどの空調システム用として製造・販売した一部の吸収式冷凍機の、検査などに関する不適切行為が判明したとのこと。

川重冷熱工業

川重冷熱工業は滋賀県草津市に本社を構える川崎重工の100%子会社です。昨年7月末までジャスダックに上場していましたが、完全子会社化で上場廃止となっています。オフィスビルやホテルといった公共設備の空調に使う冷凍機やボイラーが強みで、吸収式冷凍機は国内シェアで19%を占めるそうです。

検査不正の概要

冷房能力90%程度で試運転を行っているにもかかわらず、冷房能力100%での試運転結果であるようにデータを作成して検査成績書類に記載していました。不正の期間は1984~2022年で、1,950件が確認されているといいます。

また、そのうち334件については、顧客の立会で検査する場合、冷房能力100%の運転を行っていないにもかかわらず、計測器を調整(目盛りをずらして)することで冷房能力 100%の運転を行っているように偽装し、顧客に事実とは異なる説明をしていました。

さらに、1986~2009年においては、6機種、2,944 台について、JISの基準を満たしていないのに準拠しているようにカタログおよび仕様書を偽装していたという事案も。

いくつか気になる タイミング

完全子会社化されたのが2021年7月末。事件が発覚したのが2021年8月末。妙に近いタイミングなのがちょっと気になりますね。ガバナンス強化を目的として川重冷熱工業を完全子会社化したということですが。発覚から公表までに要した時間も。

6/7付けで社長が交代してるんですが、不正が行われていた当時の前社長は冷凍機の設計者で、93年から不正を把握していたんだそうです。