北川工業株式 TOBに関するインサイダー取引(その2)

昨日の続きです。北川工業に対するTOBに関するインサイダー取引が行われたとして、2人に対して課徴金納付命令を発出するよう、監視委員会が金融庁に勧告したというお話。TOBを仕掛けて北川工業を買収したのが日東工業でした。

情報伝達者の役員がセーフとなる法律

昨日も触れましたが、重要事実を伝達したとしても、「重要事実の公表前に売買をさせることにより他人に利益を得させる目的がなければ、違反ではない」という法令の解釈により、この役員は難を逃れたものと思われます。

インサイダー情報を伝達し、取引を推奨した者も金商法違反。この法律が導入されたのは、野村證券をはじめとした証券会社が、公募増資に係る情報を提供して売り推奨するという行為が問題視されたためです。なもんで、取引を推奨するという行為に軸足があるんですね。

しかし、今回のケースのように情報を伝達した者が役員であった場合はどうなんでしょう。儲けさせようとして取引を推奨したという証跡がなくとも、十分に処分に値する行為だと思いますね。監視委員会も悔しい思いをしてるでしょう。

課徴金払っても儲かってる?

今回課徴金が課されることになりそうな2人。課徴金の計算ルールのせいで、妙なことが起こっているかもしれません。課徴金の計算には公開買付等の実施に関する事実の公表がされた後2週間における最も高い価格を使用します。

この最も高い価格(3920円)で売却したと仮定して売却代金を計算。そこから買い付け代金を引いて残った金額が課徴金の額になります。最高値で売り抜けることは容易ではないので、課徴金払って損になる仕組みです。

ところが今回のケース、公開買付価格は3943円なんですね。今回の2人が市場で売却せず、公開買付に応募していれば、ひょっとしたら損してないかもしれません。

北川工業株式 TOBに関するインサイダー取引で課徴金納付命令の勧告

証券取引等監視委員会は9/11、北川工業に対するTOBに関してインサイダー取引が行われたとして、2人に対して課徴金納付命令を発出するよう金融庁に対して勧告を行いました。日東工業という会社が北川工業に対して実施した公開買付(TOB)を巡る取引です。

役員はセーフ

公開買付が公表されると多くの場合、株価は上昇します。そのため、公開買付を実施することを決定し、その旨を公表するまでの間にその情報を手に入れ、対象銘柄を買い付けることが出来れば、かなりの高確率で儲かるわけですね。今回は二人がお縄になりそうというお話。

一人は公開買付者である日東工業の役員から情報の伝達を受けた者(ある報道では愛知県の30代女性となっている)が235万円の課徴金。もう一人は日東工業と文書開示に係る契約を締結していた企業に勤める者から情報の伝達を受けた者、こちらも238万円の課徴金。

気になるのは、公開買付に関する情報の受領者がインサイダー取引を問われているにもかかわらず、公開買付者の役員が情報を伝達したことについては、法令違反に問われていないことです。

「重要事実の公表前に売買をさせることにより他人に利益を得させる」等の目的を有していなければ、日常会話の中で重要事実を話したとしても、基本的に規制対象とはならないものと考えられます。。。というのが金融庁の「情報伝達・取引推奨規制」に関する見解です。

当該役員が30代の女性に利益を得させることを目的に伝達・取引推奨した、、、かどうかについては立証しきれない。そういう判断なんでしょうね。それにしてもどういうご関係だったのか、気になります。

なぜかメディアが揃って間違えている件

あと一点気になるのが、多くのメディア(新聞)が日東工業株式でインサイダー取引、と伝えていることです。どこぞの間違えた記事を使いまわしてるだけでしょうが。30代女性、、、まで調べるんだったら、対象銘柄くらいは正しく伝えないと。

アジャイルメディア・ネットワーク(6573) Oakキャピタルの出資で3日連続ストップ高

アジャイルメディア・ネットワークがぶっ飛んでます。3日連続ストップ高。それも3日間比例配分のストップ高です。6/18の夕方、両社が開示しており、株式の第三者割当と新株予約権を発行することで、アジャイルMがOakキャピタルから約4億円を調達するということです。

またOakキャピタル

先日書いたパス(3840)の記事でも登場したOakキャピタル。あの地産グループ総帥竹井博友の次男である竹井博康氏が会長兼CEOを務める投資会社ですね。パスではかなりの実力者3名を新取締役として投入。そしてアジャイルMでは資金の出資で支援です。

直近期で赤字転落したアジャイルM。第三者割当等で資金調達、、、の話題でこれほどまで株価が急騰するとは。6/16には同社ホームページで、「コロナ対策の独自AIソリューションの提供開始」というニュースも公表しているので、これに反応したのかと思いましたが、株式新聞(ソースはモーニングスター)はOakからの資金調達を材料視していました。

ちょっとヤバイかも

ということだと、明らかにインサイダーですね。正式な開示(増資に係る公表)があったのが6/18の16:00です。一方株価はというと、6/17から18、19と3日間連続のストップ高。17日と18日で出来高(ストップ高比例配分)は1万2000株。これを買った人はどう見てもインサイダー。

さらに、今回の第三者割当の発行価格は17日の終値である754円。そう、価格決定日もストップ高してるんですね。発行価格も作られているように見えてしまいます。

ここで効いてくるのが16日のAIソリューションのニュース。17日と18日の株価はこの材料に反応しただけ、、、19日はOakを材料視という言い訳も考えられなくもないか。などと妄想しております。なにせ竹井氏ですからね。監視委員会は当然調査を開始したとは思いますが。

SMBC日興証券 元社員のインサイダー取引に有罪判決

オフィス家具のイトーキが実施したTOBをめぐり、インサイダー取引を行ったとして、金融商品取引法違反に問われていた元SMBC日興証券社員鈴木直也被告。大阪地裁は懲役2年、執行猶予3年、罰金200万円の判決を言い渡しました。

事件のおさらい

事件は2016年8月ころ。ダルトン株に対するイトーキのTOBについて、公表前にその情報を知った鈴木被告は、知人の山脇氏に伝え、山脇氏がダルトン株を29万6千株(約5300万円)を買い付けたというものでした。詳細は下の関連記事をお読みいただければ。

調査によりこの事実を検知した証券取引等監視委員会は、2018年、鈴木被告を金融商品取引法違反容疑で大阪地検に告発。大阪地検特捜部は同年11月末、鈴木被告と山脇氏を逮捕しています。で、その裁判の結果が8日に出たという流れです。

SMBC日興の一人負けだね

2012年に発生した、執行役員(当時、三井住友銀行から出向中)がTOBに係るインサイダー情報を知人に提供し、3600万円の利益を得たという事件。こちらは、最終的に横浜地裁で教唆犯が成立しています。

今回のイトーキTOBに係るインサイダー取引も、とりあえず一審では有罪判決となりました。SMBC日興の役職員は二人とも有罪です。会社としての責任も重いものがあります。

さらに、SMBC日興証券が事件のおかげで社会的信用を失ったとして、この元執行役員を相手に損害賠償を求めていた件は、、、残念ながらこの請求は棄却されました。

とまぁ、同社にとって鬼門のTOB。訴訟の結果を見ても踏んだり蹴ったりです。

三信建設工業株式で仮装売買、インサイダー取引

証券取引等監視委員会は4/17、取引が活況であるように見せかけるため仮装売買をしたとして、金融商品取引法違反の疑いで、島根県に住む70代の会社役員の男性に課徴金3億3475万円を納付させるよう金融庁に勧告しました。相場操縦による個人に対する課徴金としては過去最高だそうです。

同一人物

監視委員会のホームページでは、この三信建設工業株式に係る仮装売買に対する課徴金納付の勧告と、同株式に係るインサイダー取引に対する勧告の2件が別々に記されています。見た目には課徴金納付命令対象者は別の人物のように見えますが、メディアの報道では同一人物とされています。

三信建設工業は2018年6月25日に、アクティオHD(非上場)による株式公開買付け(後に完全子会社化して上場廃止)を公表しましたが、その事実を知りながら仮装売買と内部者取引を公表日の前まで行ったというものです。この70歳の男性、TOBによる完全子会社化の契約に関する交渉をしていた人物らしいです。

売買の手口

親族や知人の口座も利用して、自身が出している売り注文に、買い注文を対当させて、権利の移転を伴わない売買を6/5まで、計27回、71,000株約定させたとのこと。TOBの価格を少しでも高く決定させたかったんでしょうかね。71,000株のうち28,000株が自己の口座での売却となっていて、自己の口座での買いはありません。

そして、6/5から6/14までの間に、5,000株を266万円で買い付けており、こちらはインサイダー取引で御用となりました。課徴金は70万円です。最後に自己の名義で1,000株だけ買ったのと、知人名義で4,000株買ったのが、インサイダー取引とされています。

売買の流れをみると、仮装売買した後の数量合わせをしただけで、インサイダー取引の意図はなかったのかもしれませんね。三信建設工業はこの70歳の会社役員について、同社の関係者ではないと公表しています。金融庁が公表しているポンチ絵でも、両社の枠の外に描かれているんですね。この70歳、会社役員って、、、どこの誰?