KYB 新たな不正

10/16に不正を初めて公表してから1か月。公表後、外部調査委員会を立ち上げ、調査をしてきたところ、「追加の調査、事実確認を行うべき事項があることが判明した」とのこと。

検査工程等における不適切行為(追加事象)

KYBが公表した文書を読むと、不適切行為(追加事象)という表現をしており、「オイルダンパー検査工程において、係数補正以外の不適切行為が行われていた疑いがあることが判明しました」と説明されています。ん~、これでは何のことやら良く分かりません。

これまでに判明していた不正については、「性能検査記録のデータの書き換え」と説明されてきたので、突然「係数補正」といわれてもですねぇ。これって同じ意味で使われてるんだろうなぁ。

あった、あった。一番最初の公表資料に添付されてるパワポの補足資料7ページのこれね。検査結果が定められた範囲に収まらなかった場合、前工程に戻して調整しなおすべきところ、係数を補正して範囲に収まるようデータの書き換えをしていたっていうことね。もう少し親切に説明しないとわからないと思いますよ。

内部通報制度で発覚

このところ発覚している企業の不正・不祥事の多くが外部告発であるのに対して、KYBの場合は、製造を担当する子会社における内部通報により事態を把握しているんですね。自ら発見して公表したというところについては、世間も一定の評価を与えているように思います。内部通報制度、やはり重要です。

不適合オイルダンパーを使用した建築物の公表

また、この不適合品等を使用した建築物の公表に関しても、顧客から同意を得られた案件だけを慎重に開示しています。なかなか全容が解明しないため、批判も浴びていますが、公表されることでその建物が危険だとして資産価値が下がったり、敬遠されることで集客力が落ちたりといったことにも、配慮しているんだと思います。しかし、この事実を知らされることなく成立した取引や賃貸の契約って、あとで問題になりそうですけどね。

寡占企業が失う生産能力はどう代替するのか

実はこの問題が一番重要だと思います。KYBはすべてのオイルダンパーを交換すると表明していますが、2~3年かかるとか。その間新しい製品の供給が途絶えてしまうことの影響は甚大です。国が後ろ盾となり、メガバンクにも支援させるなどしてKYBの生産能力の増強を図るとか、同業他社への協力を求める、といった政府主導の対応はできないもんですかね。まさに国としてのBCPが問われます。

日本航空の副操縦士が英国の警察当局に逮捕された件

基準値を大幅に超えるアルコールが検出され、日本航空の副操縦士が英国の警察当局に逮捕された問題に関連し、日航が新型の感知器を導入した昨年8月以降、19件で基準値を超えるアルコールを検知していたことが15日、同社への取材で分かった。このうち12便で乗員などの手配のために遅延が発生していたことが明らかになっている。という日経の記事です。

アルコールを検知して遅延が発生したのは、いずれも新型の感知器が配備された国内の空港ということで、旧型の感知器しかない海外について問題視しています。大勢の命を預かって空を飛ぶお仕事ですから、速やかに新型を導入してほしいものです。

航空業界は失敗から学習できる組織

航空業界は、このような失敗や課題を見つけて、それを改善していくという対応が非常に優れていると言われています。平成29年交通安全白書によると、平成28年の航空事故は13件発生しているものの、大型飛行機による航空事故は、乱気流等気象に起因するものを中心に年数件にとどまっているといいます。

また、特定本邦航空運送業者(客席数が100または最大離陸重量が5万キログラムを超える航空機を使用して航空運送事業を経営する本邦航空運送事業者)における乗客死亡事故は、昭和60年の日本航空123便の御巣鷹山墜落事故以降発生していないそうです。なんと30年以上乗客死亡事故なしです。

最近、日本の代表的な企業で不正・不祥事が後を絶ちません。それも長年にわたり行われてきたものが、ここへきて一気に噴き出している感じです。これに対して、航空業界は劇的に異なると言われてるんですね。「失敗の科学(失敗から学習する組織、学習できない組織)」:マシュー・サイド著 で詳しく書かれています。kuniの超お勧め本です。

その中で航空業界について、「失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶことこそが業界の文化なのだ。彼らは失敗を「データの山」ととらえる」と、主に医療業界との対比で語っています。事故やミスをしっかり隠蔽させることなく開示させ、それを徹底的に分析し、分析結果を業界全体にフィードバックする仕組みが出来上がっているということです。

そのような業界であるにもかかわらず、なぜ海外には旧型の感知器なのか。今のところ詳しい情報はありませんが、今回の失敗を受けて、日本航空や航空業界がどのような対応をしていくのか。楽しみにしたいと思います。

スルガ銀行社長に株主代表訴訟へ

11/14 日本経済新聞電子版の記事です。正確には13日の20時過ぎの記事ですが、紙面には載ってなかったような。なんで?

シェアハウス所有者の弁護団が表明

弁護団は有国三知男社長に対して株主代表訴訟を起こす方針を固めたそうです。先に報道されている、スルガ銀行が取締役等9人に対して起こした35億円の損害請求訴訟について、有国社長を対象に含んでおらず、責任追及が不十分だと判断した。ということらしいです。この点についてはkuniが指摘していたのと同じですね。弁護団は「内容が不当で損害賠償請求の金額が少なすぎる」とも言っているようで、彼らの請求額はもともと717億円となっていました。なんとこの乖離。

有国氏だけがなぜ対象になっていないのか

たしかに第三者委員会の調査報告書では、個別の違法行為を知り得た証拠が見当たらないとされています。取締役に就任してからは監査部管掌兼CRO(最高リスク管理責任者)なんですが、約1年間の在任期間で、かつ同社のレベルの低い監査部機能では、今回発覚したような各種不正のリスクを認識することは、困難だったのではないかといった調子です。

第三者委員会のインタビューに対する有国氏の回答までリアルに載っていますが、正直何もできなかったのね。って感じで、情けない回答ばかりです。同氏に関する記述は「明らかに善管注意義務違反に該当するとまでは認められない」と括られています。

監査役の責任は?

もうひとつ違和感が残っているのが、スルガ銀行が9人の取締役等を提訴した際、監査役の責任については問わなかった点です。弁護団の方も、この点については今のところ指摘していないのでしょうか、記事では触れられていません。

監査役二人について、第三者委員会の報告書は、シェアハウス関連の問題を知ることは可能でありながら調査をしなかったとして、「監査役としての善管注意義務に違反するものと思料する」としています。また、監査役会や社外監査役に適切な報告をしていないことについても、同様の判断をしており、合計4か所で「監査役としての善管注意義務に違反するものと思料する」という記述があります。

ここまで第三者委員会が善管注意義務を問うているにもかかわらず、スルガ銀行は訴えていません。

内部通報制度 その2

前回は企業法務の観点から見た、新しい内部通報制度の有効性について書きました。今回は内部通報制度の本来の機能について考えてみます。

ガバナンス強化による自己浄化

東証が公表しているコーポレートガバナンス・コードの基本原則2ー5では、内部通報制度に関する体制整備の重要性が示されています。違法、不正な行為等があれば、それを経営に伝えられるよう、また、伝えられた情報が客観的に検証され、適切に活用されることが重要であり、取締役会はこうした体制を整備する責務を負っているとしています

社内に存在する不正等は会社自らが発見し、これに対する対策を速やかに実施して改善していく。この体制を構築し、監督していくのが取締役の責務ということです。これが大原則です。

働き方改革法の施行と公益通報への対応拡充

セクハラやパワハラなどの各種ハラスメント、労使問題やコンプライアンスの問題など、内部通報制度が扱う課題は様々です。これらの課題ごとに別々のホットラインを設ける企業も多いと思います。

2019年4月に働き方改革関連法が施行されます。企業が遵守すべきルールが強化され、法令化されるわけですので、当然企業の取り組みに対する通報は増加すると考えられます。また、働き方改革の一環として、厚生労働省ではパワハラの防止策づくりを企業に義務付ける法律を整備するとしています。

さらに、これらの側面支援的な位置づけと思われますが、労働局における相談員の増員や、夜間や土日の相談窓口を新たに設けるといった、相談体制の拡充に取り組むとしています。公益通報への対応もしっかり進めていくということですね。

内部通報制度の実効性向上

こうなってくると、企業としても外部への通報を発生させないよう、内部通報制度を充実させていかなければなりません。外部通報、つまり先ほどの労働局の相談窓口などに相談されると、当然労働基準監督署の調査を受けたり、出頭要請を受けたりと、大変なわけですね。

問題ある企業については企業名を公表するとも言ってます。ハラスメントに真剣に取り組んでいない企業という評価を受け、これを公表されることは、絶対に避けたいところです。そのため、社内で発見して、社内で適切に対処、解決していくというプロセスが、これまで以上に重要になってくるわけです。

社内の問題や不正等を社外に流出させることなく、より早い段階で発見し、適切に解決していくためには、内部通報制度をしっかり浸透させ、機能させていく地道な努力が不可欠なんですね。

こんなところでも内部通報制度が

日本版司法取引制度

日本でも司法取引制度が動き出しています。他人の犯罪について供述したり、証拠を提出したりすることで、不起訴や罪の軽減といった見返りが得られるという制度です。対象となる主な犯罪は、脱税や粉飾決算、インサイダー取引、談合やカルテル、営業秘密侵害、贈収賄、横領などの経済犯罪。振り込め詐欺やマネロンと言った組織犯罪だそうです。

この司法取引制度、企業法務の観点からはかなり有効なツールになっていきそうです。ある事例、A社の幹部社員が他社と共謀して経済犯罪を犯してしまったとします。A社としては会社を守るため、捜査に協力する見返りに法人としての立件を見送ってもらったのです。この捜査への協力というのが、「他社との共謀の事実や証拠の提出」ですね。法人が処罰の対象となる犯罪では、社員等の犯罪をめぐり法人も司法取引が出来るということです。

ということは早い者勝ち

社内で犯罪を犯した者がいた場合、他社から指されることが最大のリスクになってきますよね。逆に自社内ではいち早く発見し、他社の犯罪を指すことで自社のリスクを排除できます。ちょっと感情的にはどうなんだかなぁって感じですが、事実です。いかにして社内にある犯罪(不正)を早く見つけることが出来るか、問題はここです。

発見統制 内部通報制度と内部監査機能

社内にある不正情報を、いち早く把握するための体制として最も重要なのは、現場管理職のマネジメントの実効性です。これが本流です。一方で、現場のマネジメントだけでは把握できない不正情報を、経営層が直接入手しようとするのが内部通報制度であり、内部監査(社内監査)機能です。

この内部通報制度の実効性や内部監査の機能を向上させることで、司法取引により被る可能性のあるリスクを排除する、という考え方が注目されているのです。

独占禁止法には課徴金減免制度も

ゼネコンなどの事業者が関与したカルテル・談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免されるという制度があります。最初に報告した事業者は100%減免、次に報告してきた事業者は60%といった具合に、これも早く報告した者勝ちの制度なんですね。ここでも、社内でいち早く不正を発見する仕組みが役立ちます。

司法取引制度や課徴金減免制度を見てきました。本来の目的とは違った、企業法務の観点から内部通報制度の重要性が、再認識されていることが分かると思います。