ノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為

6/15に日本経済新聞で伝えられた記事です。公正取引委員会が、製造業の企業間取引で知的財産権の無償譲渡やノウハウの開示を強要されるなどの問題事例が726件あったとする調査結果を公表しました。独占禁止法で禁じる「優越的地位の乱用」にあたる事例も含まれるとみられ、違反が判明すれば厳しく取り締まるとしています。

近年、事業活動における知的財産保護の重要性が高まっています。そんな中、有識者から公正取引委員会に対して「優越的な地位にある事業者が取引先の製造業者からノウハウや知的財産権を不当に吸い上げている」といった指摘が複数寄せられていることを踏まえ、「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査」を実施したとしています。

公正取引委員会では従来、優越的地位の濫用規制に係る実態調査を行ってきたようですが、製造業者の保有する「ノウハウや知的財産権」に焦点を当てた調査を行うのは今回が初めてとのことです。

製造業3万社調査 問題事例726件

今回の調査では、3万通の調査票を製造業の全業種に送付して、事例の報告等を求める書面調査を実施(内訳:中小企業26,300社、大企業3,700社)するとともに、122件のヒアリング調査も実施しています。調査票の回収は15,875通(回収率52.9%)だったとのこと。なお、報告対象期間は平成25年10月1日から平成30年9月30日までの5年間です。

今回の調査では、製造業者641社(大企業160社、中小企業480社、資本金額無回答1社)から726件の事例報告があり、ベンチャー企業からの報告も寄せられたとのこと。報告された726件の内訳は、取引条件の内容自体を問題視するものが449件 (61.8%)、取引条件に含まれていなかったものを無償で提供するよう求められたというものが277件(38.2%)となり、取引条件の内容自体を問題視するものが半数を超えています。

不正・不祥事の新たなトレンド?

調査で報告された問題事例の分類は以下のようになっています。

① 秘密保持契約・目的外使用禁止契約無しでの取引を強要される
② 営業秘密であるノウハウの開示等を強要される
③ ノウハウが含まれる設計図面等を買いたたかれる
④ 無償の技術指導・試作品製造等を強要される
⑤ 著しく均衡を失した名ばかりの共同研究開発契約の締結を強いられる
⑥ 特許出願に干渉される
⑦ 知的財産権の無償譲渡・無償ライセンス等を強要される

ここでは、分類のタイトルにとどめ、事例の詳細については書きませんが、かなりひどい事例もありました。公正取引委員会は、今後も製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等についての情報収集に努めるとともに、違反行為に対し て厳正に対処していくとしています。

これまで検査に関する不正・不祥事というトレンドがありましたが、今後、「ノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為」というトレンドが出てくるかもしれません。

大和ハウス、不適切物件4000棟に倍増 ずさんな管理露呈

6/19付け日本経済新聞の記事です。国の認定を取得していない基礎を使った賃貸アパートや戸建て住宅が、新たに1900棟見つかったと公表したことを伝えています。不適切物件は従来の公表数から倍増し、3955棟になったとしています。業界大手のずさんな管理態勢に対しかなり批判的に書いてますね。

細かいんだけど

と、ここまでは日経の記事なんですが、大和ハウス工業が6/18付けで公表している「対象物件数の訂正について」というプレスリリースを読むと、4/12に公表した際の不適合対象物件数が1878棟、そして今回新たに追加したのが1885棟。ということで合計3763棟にしかならないんだけど、、、。3955棟って、どういう計算で出てきたのか。

ただ、記事の指摘通り「ずさんな管理」に間違いはなく、おっしゃる通りだと思います。前回公表時のミスについて、こんなふうに説明しています。「前回公表時に使用した『お客様物件管理システム』より不適合の対象物件を抽出する際、データ抽出の設定方法に不備があり、対象物件に漏れていた物件があることが判明しました」

ということで、今回は対象期間内に供給した全25万棟の図面を確認し、該当の有無を精査したんだそうです。こんな重要なデータなんですから、普通最初からこういう作業をやって、正確なデータであることの確認をしてから公表しますよね。こんなところにもずさんな対応というか、顧客に対する誠意を欠くカルチャーが表れています。

なお、4/12に公表した1878棟については、第三者機関による構造安全性能が全物件で確保されていることを確認したとしています。とりあえず、オーナー、居住者は一安心ですね。

中国子会社での不正、そしてもう一つの件も

この件も以前当ブログで取り上げましたが、同じ日に中国の件も第三者委員会の報告書が公表されています。80ページに及ぶ報告書で、用語の説明だけでも3ページ。さらに、個人のプライバシーに配慮したとかで、秘匿化処理(黒塗りやら、関与した者をu氏、y氏などと、、、)がされているため、非常に読み難いんです。申し訳ないけど、途中で断念しました。すみません。一応、大和ハウス工業本体の役職員の本件不正への関与は認められなかったようです。

大和ハウス工業の闇、あともう一つ残ってますよね。元営業所長が納入業者から4000万円の裏金をとっていた件。退職金ももらって自主退職されたとか。この件もこの際ちゃんと公表するべきでは?

社外取締役 知らぬが仏?

コーポレートガバナンス・コードをはじめ、いろいろなところでその必要性や機能、役割を期待されている社外取締役ですが、当ブログでもたびたび書いてきたように、現実にはなかなか機能していないというのが実態です。この6/14の日本経済新聞でもそういった一面を取り上げています。

情報が共有されなければただのよそ者、門外漢

社外取締役には弁護士や大学教授、元官僚や、他の業態の経営者などが多く選任されています。それぞれに高い専門性を有しているのでしょうが、会社の様々な情報がインプットされないと、期待されている機能は発揮できません。当然のことですね。

このことに加えて、記事では社外取締役が(不正等の)情報を知り得たかどうかで責任の重さが変わるという、日本特有の事情を問題視しています。事例としてスルガ銀行の件をあげています。情報を知り得たかどうか、、、整理してみると、

①情報を全く知らなかった
②情報を知る機会はあったが、積極的に調査せず、共有には至らなかった
③情報は共有されていたが、それに対する特別な行動を起こさなかった。

こんな感じでしょうか。①には積極的に調査しようとしたが拒まれ、知るに至らなかった。も含んでいると思ってください。最近の不正・不祥事の事例に関する第三者委員会の報告書等を読んでも、③のケースはほとんどありません。あったとしても②のケースまででしょうか。③は当然善管注意義務違反が問われるでしょうし、②のケースでも「機会の程度」によるでしょうが、同違反が問われることがあると思われます。

そのため、記事のタイトル「知らぬが仏」なんてことになるんですね。中途半端に知ることとなるくらいなら、いっそ何も知らない方がありがたいと。しかし、これじゃ社外取締役を置く意味がありません。

機会の程度

②について、「機会の程度」と書きました。実はここが重要だと思います。「明らかに他行と違い、利益率が突出している」、「この事業セグメントでこの利益率は高すぎる」といった情報はあるわけです。ただそれを異常と感じることができるかどうかです。スルガ銀行のケースなど、金融関係者はみんなおかしいと思っていましたが、弁護士や元IT企業役員の社外取締役には気付き(機会)にならなかったということですね(かなり良心的な解釈してますが)。

この記事、専門家のコメントも織り交ぜ、良い記事だと思います。ただ、一つだけ残念なのは、スルガ銀行の件がひと段落してから書くんだ。ということ。誰に配慮したんだか知らないけど、もっと事件が衆目を集めている最中に書くべきでした。

国土交通省 スズキに再発防止勧告  スイフト リコールも

少し前になりますが、6/7 国土交通省はスズキにおける一連の完成検査に係る不正事案に対し、再発防止に関し必要な措置を講ずべきことを勧告しました。また、特に重大な事案については、道路運送車両法違反(完成検査の一部未実施)による過料適用のため、静岡地方裁判所に通知を行っています。

過料 科料 罰金

過料(かりょう)は国や地方公共団体が、行政上の軽い禁令を犯した者(企業)に科する制裁のための金銭罰のことです。これに対して、科料(かりょう)、罰金は犯罪に科する刑罰になります。過料と科料は、おなじ「かりょう」と読みますので、過料を「あやまちりょう」、科料を「とがりょう」と呼んで区別することがあるそうです。

ついでですが、科料と罰金の違いは、科料が1000円以上1万円未満、罰金が1万円以上と決まっているようです。こうしてみると、スズキの行為はこれらの中で一番軽い扱いに見えてきますが、実際には過料の適用を求めた自動車は655台で、1台当たりの上限は30万円とのこと。この計算通り上限で決定した場合2億円近くになるそうです。

勧告の内容

かなり厳しい内容になっています。平成28年の燃費不正問題の際や、29年の他社の燃費不正問題の際も、自社の同種事案を把握するに至らなかったことをあげ、「コンプライアンス意識の低さ、自浄能力の欠如」と表現し、さらに、「不正の報告をしても取り上げてもらえない、かえって不利益を被るだろうと職員に思わせた不健全な組織風土等の結果である」とバッサリ。

さらに「経営層はこのことを、自らが招いた、会社の在り方に関わる容易には改善できない根深い問題であることを認識する必要がある」とも言っています。不正等が行われる企業におけるガバナンスの欠如について語る際、必要なキーワード(コンプライアンス意識、自浄能力、現場と乖離した経営という組織風土、経営層の責任)が全てそろっている感じです。

中でも特筆すべきこと、kuniが最も重要と考えるのが現場と経営層の乖離です。勧告では「不適切事案や不正事案を報告したとしても取り上げてもらえないだろう、かえって不利益を被るだろうと現場職員に思わせた不健全な組織風土」と表現されています。

要するに現場が経営層を信用していないということです。この関係が改善されなければ、トップがいくらコンプラを指示してもダメです。研修しようが教育を徹底しようが、現場は経営層が本気で取り組んでるとは思いませんからね。経営層が本気で取り組み、現場の声を真摯に聞く姿を見せ続けていくしかありません。

5万台リコール

さらに、6/13 スイフト計5万台(2016年12月~19年1月生産)をリコールすると国交省に届け出ました。制御プログラムが不適切なため、後部ドアを強く閉めた際、エアバッグが誤作動する恐れがあるとのこと。。。踏んだり蹴ったりですな。

京王観光 JRに対するキセル 調査報告書(その2)

大阪支店や大阪西支店は、合併した桜菊観光株式会社の社員で構成されていて、交流人事を行って来なかったため、独自の組織文化が維持・継承されて、強い利益意識と合わせて、不正行為やその他の問題行為を生み出す温床となっていたという原因分析。

合併後の人事交流

企業同士の合併において、合併交渉から合併後の施策にまで、最も重要なのが両社のカルチャーの違いをどのように融和していくかという点です。多くの場合、どちらかのカルチャーに寄せていくことになると思いますが。そのため、合併後速やかに人事交流を行い、お互いの社員が打ち解けていくよう促していくものです。普通はこの作業、合併後の3年間くらいで何とかなるものなんですが、京王観光はこれを50年間ほったらかしていたということですね。ちょっと普通は考えられません。

処罰と再発防止策

代表取締役社長の「月額報酬の 30% 3 ヶ月 減俸」のほか、5人の取締役について報酬減俸とし、監査役も自主返上するとしています。また、本件不正行為に関与した社員については、着服の事実も勘案し、弊社の就業規則に基づき、解雇を含む厳正な処分をすると言ってますので、多くの旧桜菊観光社員が解雇されると思われます。

再発防止策においては、この不正行為の一因となった大阪地区の特殊な風土を改革するため、大阪支店・大阪西支店の支店長を更迭し、大阪西支店を大阪支店に統合、東京から新たな支店長を赴任させた。としていますし、今後の対応としても、この不正行為を行っていた大阪支店は閉鎖とし、既存のお客様への対応要員を東京本社直轄の駐在事務所として残すほかは、首都圏を中心とした他支店及び本社へ異動させるとしています。

解雇を免れた社員も首都圏に異動させられ、不正を働いた社員の同僚として扱われ、、、これでほぼ旧桜菊観光の社員は解雇され、または退職に追い込まれておしまいということになるんでしょう。合併後に不正の温床になりかねないカルチャーを一掃できなかったために、不正が発生したのちに社員を一掃するという結果になってしまいました。

京王電鉄社長も減俸

京王観光の不正行為を受けて、京王電鉄の役員に関する処分も公表されました。代表取締役社長の紅村氏が月額報酬の 30% 3 ヶ月を自主返上するとのこと。同氏は京王電鉄の社長に就任する前、当の京王観光の社長を務めていた人物です。

50年間にわたり大阪支店、大阪西支店を別会社扱いし、閉鎖的なカルチャーを改善できなかった張本人。当然の処分でしょうね。しかし、500人の会社をコントロールできなかった人に、2500人の会社任せてて良いんでしょうか。株主総会で一悶着ありそうですね。