インサイダー取引未然防止のための社員教育と態勢整備

昨日書いた小林製薬の社長会見の内容について、もう少し掘り下げてみます。「当社ではインサイダー情報について教育を行っています。その情報により売買の事前の社内許可制をとっている。インサイダー取引はないものと信じている」、というお話でしたね。

インサイダー取引未然防止策

役職員によるインサイダー取引を未然に防止するためのルール作りには、各社いろいろ工夫、苦労されていると思います。小林製薬でも「売買の事前の社内許可制」をとっているということでした。しかし、この程度は上場企業であればごく当たり前の態勢と言っていいでしょう。

一歩踏み込んで、自社株の売買を禁止するとか、売買したければ自社を通じて証券会社に注文をつなぐといった態勢も考えられます。要するに役職員の売買を完全に把握することで、保有状況までを自社で把握しておくということです。役職員の反発もあるでしょうが、「自由に株を売買したい」のであれば、自社株以外でやれ、ということですね。自社株は長期保有の観点で持株会でやれと。

インサイダー取引に関する社員教育

インサイダー取引とはそもそもどういう目的で設けられた規制なのか。どういう取引がインサイダー取引に該当してしまうのか。こういった法規制に関する研修・教育等も重要です。上場企業なんですから、主幹事証券に依頼して講師を派遣してもらうことも可能ですよ。

この社員教育で一番重要なのは、何よりもまず、社長をはじめとした取締役や執行役員への教育から始めることです。自社の業績動向やら増資に関する情報、TOBに関する交渉状況など、インサイダー取引に該当しかねない情報が常に身の回りにあるからです。実際に接してみるとビックリするくらい無知な役員が多いものです。

小林製薬 健康被害を巡るインサイダー取引はあったのか

小林製薬が販売する「紅麹」の成分が含まれた健康食品を摂取し、その後に死亡した人が5人に上るなど、同社商品の健康被害が大きな社会問題となっています。その同社株の推移を巡っては、2月上旬から同社の株価が大きく下落していることから、同社株式のインサイダー取引があった疑いが指摘されているそうです。

株価の推移

同社株は2月に入って下落を始め、同月中旬までで約10%(6,700円→6,000円)下げています。同じ時期の日経平均株価は約8%の上昇となっており、確かにインサイダー取引があったかのような印象を受けますね。

この動きについて、記者会見に参加した中国メディアから、「インサイダー取引があったのではないか」という質問があった模様。小林社長は「当社ではインサイダー情報について教育を行っています。その情報により売買の事前の社内許可制をとっている。インサイダー取引はないものと信じている」と否定したとのこと。

同じ業界を見てみると

同社株の比較対象となりそうな銘柄としては、ライオンや花王があげられると思います。両社の同じ期間の株価推移を見てみると、ライオンが約5%程度下落しており、花王も約6%ほど下落しています。日経平均が上昇するなか、この業界全体が売られていたことが分かります。

株価の推移だけではインサイダー取引があった、とまでは言えない程度の下げのように見えますね。もちろん、個別の取引見ないと分かりませんが(当然、監視委員会は既に調査を始めてると思います)。

トモニHDの公募増資 公表直前に大量の空売り

トモニHDは12/5、「新株式発行及び株式売り出しに関するお知らせ」を公表しました。公募増資により新たに2,800万株を発行。さらにオーバーアロットメントによる最大420万株の売り出しも予定するというもの。公募増資により1株利益の希薄化等を嫌気した売りを誘い、翌日の12/6はストップ安となりました。

トモニHD

トモニHDは徳島大正銀行(徳島県・大阪府地盤)、香川銀行(香川県地盤)を傘下に持つ金融持株会社。銀行業務を中心に、リース業務、カード業務、ベンチャーキャピタル業務などの金融サービスを展開する東証プライム上場企業です。

公表前に大量の空売りが

ある株主さんがSNSに投稿されているのを見て知ったのですが、12/5の取引終了後に公表されたこの公募増資。しかし、この日の取引時間中に約53万株の空売りが入ってるんですね。それまでの空売り残高は4万株程度ですから、めちゃくちゃ目立つ空売りです。その後の残高をみると今現在も空売りしたままのようです。

470円台を空売りして現在の株価は380円台。まさに濡れ手に粟。このある株主さんはインサイダー取引を疑い、トモニHDに対し調査を依頼。証券取引等監視委員会に対しても、日証金のデータをも示し、告発されたんだそう。不正は許してはいけません。素晴らしい。

日証金へ貸株の申し込みをした証券会社もすぐに分かりますし、当該証券会社を通じて誰が売ったのかも速攻で分かります。トモニHDや引き受けに関わった業者は監視委員会による調査結果を待つことなく、自社調査等により事実を公表すべきですね。

フェローテックホールディングス 大泉製作所株式に対する公開買付けを公表

フェローテックホールディングスは11/10、「株式会社大泉製作所株式(証券コード:6618)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を公表しました。このTOBに関する公表は、同日の15:30に行われています。

フェローテックホールディングス 大泉製作所

フェローテックは、半導体・FPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置向け製品と電子デバイス製品の製造販売・サービス提供を行う企業。コア技術として、磁性流体(磁石に反応する液体)とサーモモジュール(電流によって発熱・吸熱を制御する半導体素子)を持っています。

一方でTOBを仕掛けられる大泉製作所は、熱・温度変化によって電気抵抗値が変化する半導体セラミックスのサーミスタを利用した各種電子部品のメーカー。サーミスタ温度センサのリーディングカンパニーです。

フェローテックは大泉製作所の株式を既に51%保有しており、今回発行済株式の全てを取得し、大泉製作所を完全子会社化するという情報だったんですね。公開買付け価格は1,300円です。

ド派手なインサイダー取引

11/10の引け後(15:30)に1,300円でのTOBを公表。ところが11/10の取引時間中に株価は急騰し、この日の終値は1,035円(+150円のストップ高)です。さらにそれ以前の数日間も不自然に上昇(150円ほど)しており、明らかにどこからかTOBの情報が洩れている様子がうかがえます。

どこから漏れたんでしょうね。これだけド派手なインサイダー取引も珍しいです。既に各証券会社には、自主規制機関や監視委員会から問い合わせ(買付顧客のリスト提出要請)が来てると思います。

ZOZO インサイダー取引で中国子会社役職員に課徴金 1,300万円

証券取引等監視委員会は9/8、「株式会社ZOZO社員から伝達を受けた海外居住者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について」を公表しました。2019年にヤフー株式会社(現Zホールディングス株式会社)がゾゾ株式の公開買付を行った際のインサイダー取引ですね。

取引の概要

TOBの重要事実公表前に、TOBに関する情報がヤフー側からゾゾの役員に伝達され、役員が従業員に伝達。この従業員が中国子会社の役職員に伝えたところ、当該役職員が公表前に約5,500万円でゾゾ株を買い付けたというものです。実際には日本にいる知人名義で買い付けています。

平均買付単価は約2,113円で、公表後2,615円まで上昇しており、中国子会社役職員に課される課徴金の額は1,303万円だそうです。海外居住者と表現されてるので、やっぱ中国人なんでしょうかね。この事件の調査には中国証券監督管理委員会が協力したんだそう。

ポンと5,500万円出して知人に送金できる人ですから、それなりの人物だと思われます。資産家の多くは中国共産党員だといわれてるし、共産党員だったんだろうか。最近は党員の不正に対して厳しく対処しているからなぁ。などと別のところに興味が・・・。わざわざ「役職員」と表現してるので多分役員ですね。

あと一つ不思議なのは、公開された監視委員会の資料によると、買付株数が2万5,977株となっているところ。どうやってこんな端数を買った?知人も少しだけ相乗りしてたから案分してこうなったのかな?