イーロン・マスク 株式非公開化

以前、イーロン・マスク氏がSECと和解した件を取り上げました(投稿はこちら)。今日はそもそも彼とSECが揉める事になった原因である、株式非公開化について考えてみたいと思います。

事の発端

「株式非公開化のために必要な資金調達にめどをつけた」という彼の言葉で株価は急反発、空売りを仕掛けていた投資家は大きな損失を被りました。この発言が投資家を欺いたとして、44億円の和解となったわけですね。今日考えるのは、彼はなぜ株式を非公開化しようとしたのかという点です。

彼の説明によると、「従業員が株価の上げ下げが気になって仕事に集中できない」ということも言ってますが、kuniが心配するのはこちらの発言、「四半期ごとに決算を報告する義務があるため、短期的に利益を出す必要があり、長い目で見た会社の健全性を損ないかねない」。

四半期決算についても過去の投稿で少しだけ触れました(投稿はこちら)。英国やフランスでは既に四半期決算報告を廃止しており、トランプ大統領も検証を指示したというニュースがありました。kuniも四半期決算報告のルール化はやりすぎだと思っています。

みなさんも重要な業務を担当した際、四半期(3ヶ月)ごとに進捗報告を求められることを想像してみて下さい。ちゃんと進んでいなければ批判を受けるわけで、ついつい結果を優先し、本当に必要な準備や根回しを回避することで課題を矮小化、結果抜本的な業務改善につなげられないといったことになってしまいます。経営者たちも今同じ感覚に襲われているんだと思います。

株式公開(上場)する意義の希薄化

一方で、企業が株式を公開する意義が薄れてきていることにも注意が必要です。米国では毎年のIPO(新規株式公開)件数が減少してきており、おまけに上場企業数も大幅に減少してきています。既に株式公開をめぐる環境が大きく変化してきているのです。

株式公開の最も大きな目的は、資金調達です。その資金調達が不要になりつつあるということですね。まずは、巨大な資本(資金)が必要な産業の衰退。今日ではアイデアで勝負するベンチャー企業(最近の言葉ではスタートアップ)、とりわけIT系の企業など、立ち上げから成長の過程で巨大な設備投資(資金調達)を必要としない産業が主役になってきました。

加えて、資金調達の方法についても一気に多様化が進んできました。クラウドファンディング、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)。言葉はどこかで聞いたことがあると思います。株式を公開して、投資家への十分過ぎる開示を前提に行う資金調達に比べ、投資家保護の観点でまだまだ改善の余地はあるものの、両者ともに無視できない有力な調達手段になりつつあります。

公開企業にどこまで求めるのか

このように、大きく2つの環境変化により、企業が成長段階に達したとき、株式公開を選択しなくなってきました。資金の調達は別の方法があるわけで、公開すると市場の暴力(空売り)を受けてしまうし、株主からいろいろとケチをつけられる。情報開示のために煩雑な事務作業はあるし、3ヶ月に一回決算報告しなければならない。おまけにSDGsなど本業とは別に、コストをかけて取り組むことまで求められる、ということです。イーロン・マスクの言い分も納得できちゃいますよね。

取引所や株式市場は、公開企業にどこまで求めるのか、一度考え直すべきだと思います。直接金融の抱えている喫緊の課題と言えるかもしれませんが、間接金融の世界で起きている銀行離れと似てますよね。いずれも従来の枠組みの中に安住している限り、そろそろ主役交替だよって言われているみたいです。

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