こんなところでも内部通報制度が

日本版司法取引制度

日本でも司法取引制度が動き出しています。他人の犯罪について供述したり、証拠を提出したりすることで、不起訴や罪の軽減といった見返りが得られるという制度です。対象となる主な犯罪は、脱税や粉飾決算、インサイダー取引、談合やカルテル、営業秘密侵害、贈収賄、横領などの経済犯罪。振り込め詐欺やマネロンと言った組織犯罪だそうです。

この司法取引制度、企業法務の観点からはかなり有効なツールになっていきそうです。ある事例、A社の幹部社員が他社と共謀して経済犯罪を犯してしまったとします。A社としては会社を守るため、捜査に協力する見返りに法人としての立件を見送ってもらったのです。この捜査への協力というのが、「他社との共謀の事実や証拠の提出」ですね。法人が処罰の対象となる犯罪では、社員等の犯罪をめぐり法人も司法取引が出来るということです。

ということは早い者勝ち

社内で犯罪を犯した者がいた場合、他社から指されることが最大のリスクになってきますよね。逆に自社内ではいち早く発見し、他社の犯罪を指すことで自社のリスクを排除できます。ちょっと感情的にはどうなんだかなぁって感じですが、事実です。いかにして社内にある犯罪(不正)を早く見つけることが出来るか、問題はここです。

発見統制 内部通報制度と内部監査機能

社内にある不正情報を、いち早く把握するための体制として最も重要なのは、現場管理職のマネジメントの実効性です。これが本流です。一方で、現場のマネジメントだけでは把握できない不正情報を、経営層が直接入手しようとするのが内部通報制度であり、内部監査(社内監査)機能です。

この内部通報制度の実効性や内部監査の機能を向上させることで、司法取引により被る可能性のあるリスクを排除する、という考え方が注目されているのです。

独占禁止法には課徴金減免制度も

ゼネコンなどの事業者が関与したカルテル・談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免されるという制度があります。最初に報告した事業者は100%減免、次に報告してきた事業者は60%といった具合に、これも早く報告した者勝ちの制度なんですね。ここでも、社内でいち早く不正を発見する仕組みが役立ちます。

司法取引制度や課徴金減免制度を見てきました。本来の目的とは違った、企業法務の観点から内部通報制度の重要性が、再認識されていることが分かると思います。

東洋証券 証券取引等監視委員会が金融庁に行政処分の勧告

10/30 証券取引等監視委員会は金融庁に対し、東洋証券株式会社に行政処分を行うよう勧告したようです。今事務年度最初の勧告ですね。

監視委員会による勧告までの流れ

実際に立ち入り検査を行ったのは、監視委員会からの命を受けた関東財務局です。その結果が関東財務局から監視委員会へあがり、監視委員会が金融庁に対して行政処分を行った方が良いと勧告した、という流れになります。勧告というのは、検査を受けた業者に対して処分をした方が良いよ、と告げて勧めること、つまり意見することです。このあと金融庁が行政処分を下します。

大手や準大手の証券会社は監視委員会本体が担当しますが、中堅以下の証券や地方の証券会社は、その地域の財務局が担当しています。東洋証券には関東財務局が立ち入り検査したというわけですね。

勧告の内容

実際に公表された勧告内容を読んでみました。「米国株式取引の勧誘に関し、虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」という法令違反行為を指摘しており、その具体例も書かれています。全文引用します。

誤解表示の具体例
1株=1,000ドルの銘柄を1ドル=120円の時に買い付け(1,000×120=12万円で買付け)、その後、1株=1,300ドル、1ドル=100円の時に売却(1,300×100=13万円で売却)した場合、為替差損益を考慮した円ベースの損益は売却時の円換算額(13万円)から買付時の円換算額(12万円)を差し引いた額(1万円)となるところ、かかる利益額ではなく、ドルベースの利益(1,300-1,000=300ドル)を売却時のレート(1ドル=100円)で円換算した利益額(300×100=3万円)を伝えることにより、円ベースの利益額を過大に誤解させた。

理解できましたでしょうか。要するにドルベースでの値上がり益を円換算して伝えているだけで為替変動による損失分を考慮せずに損益を伝えているということですね。言うまでもありませんが、徹底的にセールストークの通話録音を聞いて指摘するという以前の検査スタイルですね。

外国株の取引においては各社で起きていたこと

米国株式が絶好調で、大きく上昇してきたこの数年。日本株では全然稼げなくなった証券会社は、当然外国株式営業に傾斜していきます。そんな中で、証券界ではこのような損益の伝え方が問題視されていました。外国株式の損益状況を外貨ベースでのみ伝えることの是非です。外貨での運用を継続してもらうのであれば、外貨ベースでの利益だけでもいいんじゃないかといった議論もありました。。。これ以上書いていくときりがないので、詳細は別の機会にしますね(外国株式営業にはいろいろ問題がありまして)。

その後、このような説明については、是正し、改善した証券会社も多いとは思いますが、この東洋証券の勧告の話題で、朝から大騒ぎになっている証券会社もまだまだ多いと思われます。

収益優先で機能しなかったガバナンス

極めつけはこれ。「営業部門の責任者が社内検査で指摘を受けても是正してこなかった」、「経営陣は検査結果を把握していながら、再発防止の改善措置についてなにも指示しておらず、営業優先の企業風土を醸成していた」。ガバナンスの教科書に載せてくれと言わんばかりの状況です。

立ち入り検査が本格化する今日この頃、外国株式でかなり稼いできた証券会社の経営層のみなさま、御社は大丈夫ですか?

PDCAサイクルの罠

最近様々な場面で求められるようになってきたPDCAサイクル。皆さんも会社で「言いっぱなし、やりっぱなしにならないように、しっかりとPDCAを回してくれ」なんて、経営や上司から言われたことあるんじゃないでしょうか。

PDCAは有効

確かに通達や連絡分を発信してお終い。新しいルールやマニュアルを社内イントラに掲載してお終い。では、なかなか従業員全員への浸透は望めません。浸透させるためには、ルールやマニュアルを作成し、それを全従業員に読み込ませ、その理解度をEーラーニング等で確認する。そのうえで、マニュアル通りに業務運営が行われているかどうかをモニタリングで確認し、出来ていない事案については是正措置を取っていきます。

そして、重要になってくるのが、新しいルールの導入等により、業務運営の実態がどれだけ改善されたのかを検証・評価するという場面です。そう、PDCAの「C」ですね。「しっかりPDCAを回してくれ」なんて、経営層から言われてたりしたら、当然この検証・評価の結果も報告することになります。

気を付けたいPDCAサイクルの短期化

経営に図ってまで導入したルールや新しい制度。導入により期待した改善がいつ実現するのか、いつ成果が現れるのか、が気になるところです。当然といえば当然ですね。kuniがいた会社もそうでしたが、経営がまだかまだかと良い結果報告を求めてくるんですね。これ絶対やっちゃダメです。

3ヶ月や6ヶ月で結果を求められると、どうしてもそれくらいの期間で実現できるような成果を目指す企画になっちゃうんですね。要するに目指す目標のレベルを下げ始めてしまうんです。目標レベルが下がれば、当然達成時期も早まります。けど、それって当初目指したものでしたっけ。ということになります。

多くの場合、課題の根本原因まで掘り下げ改善していくことって、かなり長い時間を要するものです。にもかかわらず、6ヶ月とかで成果を求められるようになると、どうしても表面的に改善していくようなプランになりがちで、従業員の意識を変えていくとか、会社のカルチャーを変えていくというような改革にはなりません。

罠に陥らないために

経営層を例に書いてきましたが、課長や部長といった管理職でも同じことが言えます。PDCAの罠に陥り、部下から「少しでも早く結果を求められるから」と思われた時点でアウトです。課題や問題の設定に加え、それを解決するための施策までがどんどん矮小化されていきます。

PDCAを回すことに異議を唱えるものではありませんが、そのサイクルをいたずらに短期化してしまうことだけは避けましょう。特にコンプライアンスのように、じっくり時間をかけないと改善できないような分野では、注意が必要だと思います。

体制と態勢

前回のガバナンス&コンプライアンスの記事の中で「体制整備」という言葉を使いました。同じ言い回しで「態勢整備」と使っているケースも見ることがあると思います。今回はこの用語の違いについて。

体制整備

体制整備という用語を使うとき、使い手は主にハード面を重視していることが多いように思います。最も適切な組織を作り、業務分掌を定める。業務規程やこれを補完するべくマニュアルを作成する。こういったハード面の整備について使われるわけですね。法令・諸規則等に従い枠組みや土台を固めることは基本の基本です。まずは体制作りが必要なわけです。

態勢整備

一方、態勢整備という言葉は、出来上がった体制に魂を入れるといいますか、形だけの体制だけではだめで、それがしっかり機能するよう、ソフト面にも十分な配慮がされたモノを指して使われることが多いようです。kuniがいた金融機関は態勢整備を使います。というか、金融庁が必ず「態勢整備」を使用してきたから、というのが実態ですが。

もうかなり昔の話になりますが、金融庁の課長補佐だか係長(だったと思います)が、「態勢は体制と違うんだ。態勢は世の中が変化し、事業環境が変化するのに合わせて、変化・対応できるモノ・・・」みたいなことを力説していたのを覚えています。

ガバナンスやコンプライアンスも時代とともに変化

社会の変化や事業環境の変化に対応していく。というのが、まさに前回の記事で書いたように、PDCAの繰り返しによる態勢の変更であり、修正なんですね。

これほど事業環境が変化し、既存の事業だけに依存していては食っていけない時代です。ガバナンスやコンプライアンスの世界でも、こうした変化への対応は非常に重要です。皆さんの会社でも、もう何年も見直していない社内規程やルール、マニュアルってありませんか?

特に金融機関においては、今年度から金融庁や証券取引等監視委員会のオンサイト検査が本格的に再開しそうな気配です。ガバナンスやコンプライアンス関連のルールやマニュアル、この機会にチェックしておきましょう。

ガバナンスやコンプライアンスの体制整備とは

先日、kuniの会社で実際にあった質問です。「体制整備って言われても、いったいどこから始めればいいんですか?」、「ある程度出来てると思うんですが、次に何をすれば良いんですか?」。体制整備とはよく言われるものの、確かに難しいですかね。

体制整備とは何か

まずは、定義といいますか、基本の形を作ってしまった方が入りやすいかもしれません。ガバナンスもコンプライアンスも基本の形は一緒だと思っています。どんな会社でも、組織として、業務を執行していく際に遵守しなければならない法令や規則があるはずです。スタートはここからになります。

法令・規則があれば、その次に法令化はされていないけども、業界慣習や行政が要求するガイドライン等もあるはずです。これらについても考慮した社内ルールを設けることになります。自社のガバナンスやコンプライアンスの体制整備というとき、そのスタートは社内ルールの作成、つまり社内規程の整備と考えましょう。社内規程の整備を起点にPDCAを考えていくと、体制整備の全体像がイメージしやすいと思います。

体制整備のPDCA

  1. 社内規程を作成・整備する
  2. 実際の業務が社内規定に沿って運営されるようにする
  3. 社内規程から外れた業務運営を発見し、是正措置を講じる
  4. このような社内規程に沿った業務運営のプロセスの中で、実際の業務に社内規程が合わなくなっていた場合、社内規程等を追記・修正する

基本的な体制整備のPDCAはこんなふうでしょうか。既に運営されている会社の場合は、現在抱えている課題が、1から4のどの場面にあるのかを考えることになります。それぞれの番号の後ろには、その場面でやるべきことを書いていますので、今とるべきアクションが分かると思います。

今回の当社の場合

今回当社で問題視したのは、従業員からの通報(抽象的ですがこの程度の表現にとどめます)が行政機関の苦情窓口に入ってしまい、そこから「こんな話が入ってますよ、適切に対応してください」と知らされたという事例です。「なぜ社内で発見できなかったのか」、、、先ほどの1~4に照らしてみると、3に該当することが分かります。

現場で問題ある事態が発生しているなら、その実態を速やかに把握し、速やかに上席に伝え、経営がこれに対して適切な措置をとらなければなりません。このレポートラインが目詰まりしていたわけです。これを是正するための施策を考えることが、今回の体制整備です。

また、大きな組織ではこのようなレポートラインの目詰まりを完全になくすことは不可能です。そのため、目詰まりした場合に備えて、内部通報制度をしっかり機能させることも重要になります。

レポートラインの機能強化と内部通報制度の実効性確保。これが今回当社に求められる体制整備、ということになります。