「ノーと言う、社員が会社の、救世主」 吉本興業 かんぽ生命

壁にかかっているコンプライアンスカレンダー。今月7月の一言は「ノーと言う社員が会社の救世主」です。あともう一週間ほどでめくられ、捨てられてしまいますけどね。この標語の通り、吉本興業では社員が救世主になったようです。正確に言うと、社員ではなく、所属タレントということかもしれませんが、会社の内部から声が上がるというのは非常に重要なことです。

吉本興業

いわゆる闇営業で反社会的勢力との付き合いが問題となり、芸人との契約解消を巡って社長が記者会見することになりました。この吉本興業、昔は上場企業だったんですよね。2010年に実質的なMBO(マネジメント・バイアウト)により、上場廃止しています。非公開会社ですのでkuniもあまりこの事件については詳しく見てきませんでした。

ただ、所属タレントが反社との関係を持っていたことについて、所属タレントを切っておしまい、みたいな会社としての対応については、いかがなものかと。加えて、会社として正式な謝罪会見も行ってなかったようですし。そんな会社に対して「ノー」と言ったのは、明石家さんま氏や松本人志氏、加藤浩次氏だったようですね。

この会社、昔から事件の多い会社でした。反社に関しても島田紳助氏が暴力団との交際が原因となり芸能界を引退してます。何度も会社として改めるチャンスはあったはず。それでもこのようなことが起きてしまうというのは、まさに会社の、経営者の、ガバナンスが改善されずに来たということだと思います。「社員のノー」が救世主になり、ガバナンス改革が進んでほしいものです。

かんぽ生命

一方で、かんぽ生命にはこのような「社員のノー」は出てきていないようです。経営はこの期に及んで、社内にかん口令を敷いているらしいですね。「不適切な販売にはあたらない」などという不用意な会見で始まり、顧客をないがしろにした営業実態が次から次へと。収拾がつかない状況です。所属タレントの声で会社が大きく動くことになりそうな吉本とは好対照ですね。

経営者のコンプライアンス感覚、リスク感覚でここまで会社がおかしくなってしまう、、、スルガ銀行やレオパレス21と肩を並べる、もしくはそれを超える事件になってしまいそうです。この会社にも、ここらでイノッチさん辺りからガツンと言ってもらった方が良いですかね。

リープフロッグ ゆでガエルを横目に

以前、リープフロッグ現象(リープフロッグ型発展)について書きました。既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まる現象ですね。金融の世界においても、重厚なインフラを作ってしまった日本とは比較にならないスピードで、スマホだけで何でもできるフィンテックを中国などが実現してしまいました。

リープフロッグ

英語では leap :飛び跳ねる 飛び越える という意味です。frog :カエル の意味です。勢いよく飛び越えていくカエルってな意味で使われるんですね。先ほど書いたように、中国はまさにこの表現がぴったりな国です。今後はインドやアフリカ諸国がこうしたリープフロッグを見せ付けるんでしょう。

ゆでガエル

中国が勢いよく飛び越えていったのは日本。日本はまさにゆでガエル状態なわけです。きっとゆでガエルを横目に飛び越えていったのでしょう。ゆでガエルとは、ビジネス環境の変化に対応することの重要性を例える言葉です。

熱湯に入れたカエルは、直ちに飛び跳ね脱出し生き延びるのに対し、穏やかに水温が上昇していく冷水に入れたカエルは、水温が上がることに気付かず(ビジネス環境の変化に気付かず、対処できず)、逃げ遅れて死んでしまう。そんな意味なんですね。

調べてみると、かなり多くの人がこのカエルの実験を実際にやっているみたいです。実験の結果、熱湯に入れれば飛び出せずに死んでしまうし、冷たい水に入れれば熱くなるにつれ運動が活発になり、熱湯になる前に飛び出してしまう。というのが真相のようです。つまり、事実に基づくお話ではないということですね。

それでもゆでガエルが次から次へと

まぁ、あくまで物事の例えなわけで、、、本当にカエルで実験することもないだろうと思いますが。そこは科学者のプライドが許さないんでしょうね。

ビジネス環境や戦況の変化、自社における企業風土の劣化を正しく認識できず、おかしなことになって行く会社が後を絶ちません。証券業界の雄だった野村證券、メガバンク、つい最近ではセキュリティ対策を怠ってセブンペイでしくじったセブン&アイ・ホールディングス。ゆうちょ銀行にかんぽ生命、大和ハウス工業、IHIなどなど。業界のトップ企業がおかしくなって行ってるのが気になりますね。

かんぽ生命 全顧客に意向確認 2900万件

7/15付け日本経済新聞の記事です。「かんぽ生命保険で多数の不適切販売があった問題で、同社と販売を受託している日本郵便が、すべての契約者に保険の契約内容が希望に合っているかなどの意向を確認することが分かった」と伝えています。

手紙の送付や直接訪問を通じて、顧客と一緒に内容を確認する。意向に沿わない契約だったと申し出があれば、契約時の状況を確認し、場合によっては取り消しや保険料の返還などに応じるとしています。

契約件数 2900万件

全契約件数は2900万件に上るとも書かれています。ものすごい数ですね。契約者数とイコールではないでしょうが、意向確認の作業、大変な業務不可になりそうです。かんぽ生命のホームページでは、「かんぽ商品に係る当面の業務運営について」というプレスリリースが出ています。7/14付け、日曜日ですね。

「当面の間(7~8月)は、お客さまからのお問い合わせ、ご訪問依頼に最優先で対応させていただきます。 また、お問い合わせ等のないお客さまに対しても、ご心配をおかけしたことをお詫び申し上げるとともに、今後ご通知等を通じてご契約内容の確認等を行わせていただきます。」とあります。

顧客側から問い合わせや訪問依頼があった場合は、電話や訪問により意向確認等を実施し、なかった顧客に対しては通知等(郵送)で意向確認するということですね。

契約の取り消しや保険料の返還

ホームページのプレスリリースを受けて、日経の取材に応じたんだと思われますが、日経が書いている「意向に沿わない契約だったと申し出があれば、契約時の状況を確認し、場合によっては取り消しや保険料の返還などに応じる」というくだりは、ホームページでは確認できません。メディアには良いこと言って誠意を見せるが、ホームページの顧客向けメッセージには載せないってのはいかがなものでしょう。

また、日経の記事には、「新契約を減少させる影響があるが、販売費用の減少も見込まれるため、現時点で業績予想は修正しないとしている。」と書かれていますが、この業績予想に関するお話もホームページにはないんですね。

「新契約の減少と販売費用の減少が相殺する」という前提もかなりいい加減な話で、9月辺りに業績予想の下方修正を迫られるのは間違いなさそうです。何もかもが後手後手になっています。そして、今後の業績に関する見通し等を、一部のメディアに対してのみ提供するという脇の甘さも、、、。なんだかねぇ、これからもまだまだメディアを賑わせそうです。

ゆうちょ銀行 社内調査委員会 調査報告書(スルガ銀行への媒介の件)

一昨日、かんぽ生命、日本郵政の不正・不祥事について書きましたが、その際スルガ銀行への不動産ローンの媒介において、ゆうちょ銀行に不正はないとした社内調査委員会調査報告書について触れました。今日はこの報告書についてもう少し深掘りしてみます。

調査報告書の中身

スルガ銀行がシェアハウス関連融資問題に関する調査結果を公表したことを受け、ゆうちょ銀行としても、昨年8/31に調査委員会(1名の弁護士を除き社内メンバー)を立ち上げ、調査を実施したものです。ゆうちょ銀行がスルガ銀行に対して行ってきた不動産ローンの媒介行為についてですね。

調査結果報告書は今年2/1に公表されました。調査結果についてはここでは詳しく触れませんが、概ね「疑いのあるものはいくつか発見されているものの、不正や不適切な行為に社員が関与した事実は認められなかった」といった回答になっています。

もともと調査対象となる不動産ローン全件が257件という規模ですし、まぁこの件に関する調査結果は妥当なもののように思うんですが、気になるところも少々。

営業推進してないから不正を誘発してない

社員へのヒアリングや、デジタル・フォレンジック調査(社員のメール等を復元して調査する手法)の結果、前述のような報告となっています。が、しかし、案件に関わった不動産業者にはヒアリングを断られたことや、一部の契約者(オーナー)からもヒアリングを拒否されたことから、完全な調査ではない(任意で行う調査の限界があった)としています。

それでも、結果として問題なしとした理由の一つとして営業推進の状況を挙げています。以下に原文のまま引用します。

  • スルガ銀行から当行へ、賃貸併用住宅ローンに特化した営業推進の指示はなかった
  • 当行本社から全店舗への賃貸併用住宅ローンに特化した営業推進の指示はなかった
  • 当行におけるローン関係の営業目標は、過年度の融資実行額(実績ベース)を基準としており、その水準は過度なものになっていない

つまり、スルガも当行も積極的に営業推進しておらず、期初に割り当てる目標(ノルマ)も過大なものではないことから、行員が不正を働く誘因性は小さかった。ということを言っているわけです。

投信不正販売と保険不正契約との関係

この報告書が2/1に公表されていることから、遅くとも1月中には、「積極的な推進をしていないから大丈夫」という視点、逆に「積極的な推進をしている商品は大丈夫か?」という視点が経営陣の中で認識されていたと思われます。

ゆうちょ銀行における、高齢者に対する投資信託の不正販売は、今年2月の社内アンケートで実態が発覚しました。かんぽ生命が当初公表した保険契約の不正については、昨年11月の1か月分に関する調査結果でした。

おそらく、相当きついノルマをかけている投信と保険については、調査してみた方が良いんじゃないか、、、という雰囲気になったのが12月から1月にかけてだったんでしょうね。スルガ銀行絡みのこの調査が、結果的に今回の不正を発見するきっかけになったのかもしれません。

かんぽ生命、保険料二重徴収 日本郵政グループ経営 不作為の罪

日本郵政グループでの不正販売等に関するニュースが止まりません。今回はかんぽ生命で、社員が故意に保険料を二重徴収していたというニュース。新規の保険契約後半年以内に既存契約を解約すると、営業員に新規保険契約の手当てが入らなくなるため、半年以上既存契約を解約させず、保険料を二重に払わせることになっているというものです。

ニュースの伝える内容を見る限り、保険販売については乗り換えではなく、新規契約をとるようインセンティブが与えられていることが分かります。乗り換えを抑止して、新規契約を促すという会社としての経営の方向性は見て取れるわけです。

ところが、こういう戦略をとったにもかかわらず、「実質的には乗り換えだけど、新規の契約に見せかける手口が横行するのではないか」というリスクを想定し、そうしたことが行われていないことを確認するためのモニタリング態勢ができていなかったという結末です。営業戦略の推進には必ずその裏側にリスクが付いてきます。経営陣の不作為と言わざるを得ません。

日本郵政の社員が販売

かんぽ生命の個人向け保険を実際に販売するのは、全国で2万局を超える郵便局の職員とのこと。かんぽ生命から委託されて販売しているんだそうです。日経の記事では「郵便局では貯金集めをしながら、投資信託と保険を一緒に販売するところもあり、専業の保険会社に比べると知識や経験で劣る」などと書かれてました。しかし、保険も投信もそれぞれ販売するための資格取得というプロセスがあります。その中で法令や規則は真っ先に学んでいるはず。全く言い訳になりません。

投資信託 保険間の乗り換え

先ほど紹介した日経の記事にもあるように、販売する部隊は保険も投資信託も扱っているようです。保険の乗り換えは自粛、投信の乗り換えも自粛というルール等があると思われます。となると、次に懸念されるのは、保険と投資信託間の乗り換え営業です。投信を売却して保険を契約する、もしくは、逆に保険を解約させて、投信を買い付けさせるという勧誘です。販売にあたる営業員は苦しくなるとこれ(業界では他商品乗換などと言います)を考えます。

顧客にとってメリットのない取引は、基本的に一部の顧客にしか通用しません。本来投資信託を買う顧客と保険を契約する顧客は別(顧客のニーズに沿う商品を勧誘するべき)のはずですが、営業員にとって都合の良い取引をさせてくれる顧客は同一なんですね。だからこうした乗り換えが生まれます。

当然、経営としてはこのルールの潜脱行為としての他商品間乗り換えに関しても、目を光らせておく必要があるわけです。しかし、保険の乗り換えだけをとってもモニタリングできていなかった会社ですから、おそらく別の商品との乗り換えをモニタリングできているとは思えません。いずれこの話題も出てくるでしょうね。多くの場合、これらの取引は、「顧客にとって経済的合理性を欠く勧誘行為」として、是正を求められることになります。

おまけ

ゆうちょ銀行は以前スルガ銀行と提携していました。住宅ローンや個人ローンの媒介ですね。調査委員会まで立てて調査を実施。ゆうちょ銀行の従業員に審査資料の偽装等の不適切な行為はなかったとして、悪いのは全てスルガです、、、な感じで、提携を解消しました。

しかし、ここまで不適切な営業行為を見せられると、あの調査委員会の報告も心配になってきますよね。実はゆうちょ銀行側にも不適切な媒介行為がありました。なんてことになりはしないかと。