三井住友信託の投信販売 R&Iが「S」評価

6/27付け日本経済新聞の小さな記事です。「三井住友信託の投信販売を評価 R&I、2番目の『S』」というのがタイトルです。格付投資情報センターのR&Iが、三井住友信託銀行の投資信託の販売姿勢の評価を「S」に格付けしたと発表しました。「S」は5段階評価で2番目に高い評価で、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー=FD)の観点から「多くの優れた要素がある」と判断したとのこと。

半年ぶりの第2弾の公表

記事としてはこれくらいのことしか書いてなくて、三井住友信託さんには非常に気の毒というか、、、。おまけに、2番目の評価と書いていますが、最上位の「SS」は未だ取得した販売会社はありません。そのくらいは書いてあげないとね。実質的には最上位の格付です。

今回の発表は第2弾にあたり、前回の発表が昨年12月ですから、半期に一回のペースで開示していくんですかね。せっかくですので、第1弾で発表された販売会社を載せておきます。

「S」評価の販売会社
野村證券、福岡銀行、みずほFG、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、三井住友FG、三井住友銀行、SMBC信託銀行、

「A+」評価の販売会社
いちよし証券、伊予銀行、大和証券、北洋銀行、丸三証券、SMBC日興証券

「A」評価の販売会社
四国アライアンス証券

評価の概要と手続き

銀行、証券会社などが、いかに投資信託の販売において「顧客本位の業務運営」を行っているか、その取組方針や取組状況を依頼に基づき、中立的な第三者の立場から評価します。投資信託の購入に際してアドバイスを必要としている個人投資家が販売会社を選ぶ際に、この評価を参考指標として利用することを想定しています。(R&IのHPより)

この概要の中にもあるように、この格付は販売会社からの依頼(もちろん有料です)に基づき評価されます。そのため、各社ともそれなりに高い評価が得られるという自信のある販売会社だけが格付けの依頼をするものと思われますし、低い評価結果がないのはそのためだじゃないかと思います。

アドバイスを必要としている個人投資家のためになる情報提供を目指しているわけですから、「評価結果の良くなかった販売会社は公表しない」ということではないと思うわけです。しかし、そう考えると第一弾が発表された後、格付けの依頼をした販売会社が三井住友信託1社だったということになりますね。これも少し考えにくいなぁ。

格付の依頼って結構お高いですし、依頼すると必要な資料等の請求があって、この資料の提出も事務方にはかなりの負担になります。だから、思ったほどに依頼が集まっていないのかも。などと推測しますが、、、R&Iさん、こんな感じなんでしょうか?

*** あとから追記 ***

6/28付でR&Iが追加発表しています。横浜銀行は「A+」、横浜銀行の子会社である浜銀TT証券は「A」の格付けが付与されました。

ゆうちょ銀行の次はかんぽ生命

先日、「ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売」について書いたばかりですが、今度はかんぽ生命。過去の契約を新しい契約に変更する「乗り換え」などで、「不適切な販売を高齢の契約者らに繰り返した疑いがある」と朝日新聞が伝えました。

保険乗り換え実態調査「不適切と認識せず」

一方の日本経済新聞では、かんぽ生命で実態調査が行われたことと、その結果についてかんぽ生命が「不適切な募集とは認識していない」と説明しているところまでしか伝えていません。約300件については、契約者にヒアリングを実施したところ、数十件で既存契約のまま特約が付加できるケースがあり「違う提案ができたケースがあるという」。ってな感じで、不適切だったのかどうか、結論がはっきりしません。

その他の報道を見ても、不適切と言い切れるほどの話が出てきていませんので、今のところは「契約者の負担が増えるような保険の乗り換え契約をしていた」とまでしか言えないということでしょう。法令違反や規則の違反はなかったとしても、顧客本位の業務運営にこれほど神経質になっている金融の世界ですから、かんぽ生命も十分アウトです。

両社ほぼ同じタイミングで調査・公表が

昨年の取引や契約について今年になって調査を開始し、ほぼ同じ6月中旬に結果を公表というこのタイミングの一致は何を意味するんでしょう。顧客からの苦情か、内部通報による気付きなのか。いずれにしても親会社の日本郵政が各社に点検を指示したのではないかと思われます。

2017年度と2018年度の業態別投信販売額比較を見てみると、メガバンク、地方銀行、第二地銀、主要信金、大手証券、準大手証券、ネット4社、いずれも17年度に比べて投信販売額はかなり落ち込んでいます。主要信金だけが下落率10%未満と健闘していますが、メガバンクに至っては46%の減少になっています。

そのような環境下で、ゆうちょ銀行だけは7,306億円から8,905億円と、21.9%投信販売額を増加させているんです。スルガ銀行についても何度も書きましたが、業界の動向と大きく乖離した好成績、必ずその要因を分析しておく必要があります。多くの場合、他社がやっていないような不正が隠れているものです。

これはkuniの推測でしかありませんが、業界動向に比べて極めて好調な投信販売実績について、日本郵政が点検を指示した可能性はありそうです。だとしたら、スルガ銀行よりはマシだったということになります。しかし、貸付けができないゆうちょ銀行、投信販売を強力に推進するわけですから、当然そこにコンプライアンス・リスクがあることを前提とした経営のリスクマネジメントがあってしかるべきでした。経営陣のリスク感覚が甘すぎたのは事実です。

ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売

ゆうちょ銀行が勧誘時の健康確認を怠るなど、不適切な手続きで高齢者に投資信託を販売していたことが分かった。と、日本経済新聞は6/15に伝えました。18日には定時株主総会が開かれ、社長が冒頭のあいさつで「守るべきルールが順守されていなかった点を厳粛に受け止め、深く反省している」と述べたそうです。

ゆうちょ銀行HPには何もなし

円滑に運営し、すべての議案を可決させてほしい株主総会ではお詫びして見せたものの、ゆうちょ銀行のホームページではこの件について一切触れていません。念のため、この報道から一週間待ってみましたが、やはり何も知らせるつもりはなさそうです。

この報道があったのち、株式市場は米国の利下げ観測を材料に反発しましたが、ゆうちょ銀行は反発の気配なし。上場来安値の更新をうかがっている状況です。コーポレートガバナンス体制、コンプライアンス態勢、お客様本位の業務運営に関する基本方針に、その取り組み状況。美しいお話がそこら中に掲載されていますが、肝心な顧客と正面から接するという姿勢がない。そんな感じです。

不適切な対応とは

日経が伝えている不適切な行為というのは、以下の2点です。

①社内で定めた書式を使っていない
②勧誘時に行うべき健康状態の確認を購入の申し込み時に一緒に実施

①についてはよく分かりませんね。日本証券業協会が定めたガイドラインでは、75歳から79歳までの顧客と、80歳以上の顧客で違ったルール(手続き)を定めています。「書式」というのは、例えば80歳以上の顧客なのに、手続きが比較的シンプルな75歳から79歳までの顧客用の書式を使用していた。みたいなお話でしょうか。

②についは、本来、顧客の健康状態の確認を商品の勧誘を行う前に実施することになっているんですが、商品を勧誘し、購入することを決めた後に行っているというものです。ここでいう健康状態の確認というのは、高齢のそのお客様に認知症等の兆候が見られないか、投資信託の商品性やリスクについて理解でき、そのうえで投資を判断できる状況か、、、と言ったことを確認する作業です。

そのため、商品やリスクを説明し、顧客が「じゃぁ、買ってみようかしら」という判断をしてから、健康状態の確認をしても意味がないわけですね。この②については日証協の高齢者ガイドラインに抵触しています。①については何とも言えませんが、②のルールが守れない組織が、あらかじめ日証協のガイドラインより厳しい自社ルールを作るとは到底思えません。おそらく①についてもガイドラインに抵触していると思われます。

何も変わってないみたい

何年前だったか忘れてしまいましたが、彼らが金融庁検査でかなりたくさん指摘を受けた際に、コンプラの方が改善に向けての施策等について相談に来られたことがありました。「そんなことも出来てないの?」というレベルでしたが、あれから何も変わっていないみたいです。金融機関の中で圧倒的なアドバンテージを持っているのに、、、もったいない話です。

金融業が担うべき役割 機関投資家の評価基準

英国の生命保険大手 リーガル&ジェネラル CEO ウィルソン氏が日本経済新聞のインタビューに答えた記事を紹介します。ESG投資に力を入れていることについて、その狙いを聞かれたのに対しての答えの一部です。

「金融業が担うべき役割は、低金利を背景に国債から逃げ出した巨額の投資マネーを、社会で必要とされる分野へ回し、社会課題の解決や経済成長につなげることにある」と、なかなか良いこと言ってます。金融業の本質を言い当ててるようですよね。他にも、

「議決権行使や対話によって企業経営者や政治家など影響力のある人々に働きかけ、社会の中でのお金の流れを変える」とも言ってます。こちらは機関投資家としての使命を言ってます。

ESGへの対応

このインタビュー、日経としてはESGへの対応の重要性を書くことが目的だったようですが、金融機関のあるべき姿を見せてくれていると感じました。最近では「社会的課題を解決するスタートアップ企業」というのをよく見聞きします。が、そうした企業へお金を付けている(リスクマネーを供給している)のは、もっぱらベンチャーキャピタルだったりするわけで、この分野で伝統的な金融機関が活躍しているとは言えません。残念なことですが。

「ESGへの対応・取組みについて、社会的課題と捉え、これを解決するために金融業がお金を回す」というのが記事のお話なんですが、「ESGが社会的な課題なのかどうか」は良く分かりません。現に米国はトランプ政権になって「パリ協定」から脱退してしまいました。

社会的な課題なのかどうかに疑問があったとしても、そう捉えている世界の機関投資家たちの動向を止められないのも事実です。化石燃料からのダイベストメント(投資撤退)に踏み切った機関投資家の運用総額が6兆ドル。これを含めて、ESG投資の運用残高は30兆ドルにのぼるとか。3300兆円ですよ。

事実はどうであれ、金融経済(行き先を失った運用資金)が一方向へ動き出すと、もう止められないということですね。気候変動への取り組みが不十分と判断され、ESG評価を下げられた企業は、株価は下がるわ、融資も受けられないという悲惨な状況になるわけです。現代の魔女狩りですな。金融経済のパワーはまだまだ増していきそうです。

ILOがハラスメントを全面的に禁止する国際条約を採択

ILO(国際労働機関)がハラスメントを禁止する国際条約を採択したそうです。性的被害を告発する「#Me Too」運動が世界に広がっており、今後もかなりのうねりになりそうな気配です。この国際条約採択を機に、ハラスメントに対する取り組みも、機関投資家が企業を評価する際の一つの基準になるかもしれません。

「顧客本位の業務運営に関する原則」の定着に向けた取組み

ちょっと懐かしいタイトルです。一昨年の3月に金融庁が公表した『「顧客本位の業務運営に関する原則」の定着に向けた取組み』を、久し振りに読み直してみました。当時はというと、フィデューシャリー・デューティー、顧客本位の業務運営を自社に定着させる取り組みに、金融各社が追われていたころです。

定着に向けた4つの取組み

① 金融事業者の取組みの「見える化」
② 当局によるモニタリング
③ 顧客の主体的な行動の促進
④ 顧客の主体的な行動を補う仕組み

という、4つの取り組むべき課題が最終ページに出てきます。先日「IFA(独立系金融アドバイザー)」という記事を2回にわたり書きましたが、金融庁はこうした従来の証券会社や銀行といった金融商品の販売会社等とは独立した立場でアドバイスをする者を、増やしたいんですね。④の課題の中でその辺りを書いています。

顧客の主体的な行動を補う仕組み

この課題の中で、「顧客にアドバイス等を行う担い手の多様化」をあげていて、「販売会社等とは独立した立場でアドバイスする者などに対する顧客のニーズに適切に対応できるよう、必要な環境を整備する」としています。要するにIFAのような、従来の金融機関とは独立した立場で、顧客に寄り添うアドバイザーが新たに登場できるような環境を造っていくぞ、と言ってるわけです。

実は同じ課題の中でもう一つ言っていることがあります。「第三者的な主体による金融事業者の業務運営の評価」です。「客観性、中立性、透明性が確保される形での、民間の自主的な取り組みを引き続き促進」と説明しています。

各金融事業者の取組みを横断的に分析・評価する事業者が登場してくることを、期待し、促進しようとしているわけです、、、。が、この第三者的な金融事業者の評価機関みたいな存在については、まだ確立されてないみたいですね。kuniが知らないだけかもしれませんが。

その後開催された金融審議会「市場ワーキンググループ」の議論の中にも、この部分だけは出てきてなかったように思います。モーニングスターみたいな、投信や投信運用会社を評価をする機関はありますが、金融機関(販売業者)を評価するというのは、まだ見たことないです。(ちなみに、モーニングスターはSBI傘下なので、第三者かどうかはビミョーですが)。

金融庁が外郭団体として財団なんか作っちゃったりして、天下り先兼第三者評価機関みたいなことになって行くのかな。なんて気もしますが。