初めての証券投資 発注その2

発注編の続きです。

  1. (顧客コードまたは口座番号)顧客名
  2. (銘柄コード)銘柄名
  3. 売り買いの別
  4. 価格
  5. 数量

【取り上げている注文例】

日立 3400円で2,000株の買い注文

4.価格(成行と指値)

成行(なりゆき)と指値(さしね)の2種類をまず覚えましょう。成行は価格を選ばず注文を発注し、取引所に届いた時点で最も安い売り注文の価格で約定する取引です。また、発注する時間が取引時間意外であれば、その後取引が始まった時の価格で約定します。間違いなく買えますが、取引時間中の売り注文が少ないときなど、予想以上に高い価格で約定してしまうことがあるのがデメリットです。

一方で、指値は買い付けたい価格の上限を指定する発注の仕方です。日立の株価が3,390円の時、3,400円(これが指値)で発注するとします。これは「3,400円を上限で買うよ」という意味になります。取引所に注文が届いた時点で最も安い売り注文が3,390円で出ていれば、3,390円で約定します。

また、日立の株価が3,420円の時、同じ注文を出した場合、すぐには買えません。この場合、価格が3,400円になり、他の誰かが3,400円以下の(または成行の)売り注文を出してきて買い注文とぶつかったとき、初めて約定します。つまり、デメリットは場合によっては買えないこともあるということです。

実は他にも「寄付(よりつき)」であるとか「引け(ひけ)」、「逆指値(ぎゃくさしね)」などといった価格の設定方法がありますが、初めての証券投資レベルでは必要ないと思いますので割愛します。

5.数量を間違えないために

その1で書いたように営業員とのコミュニケーション上は「にせんかぶ」を「ふたせんかぶ」と言ってあげるくらいしか思いつかないんですが、ここではもっと重要なことを。

例として使っている注文が買えると約定金額はいくらになるでしょう。3,400×2,000 で680万円になりますね。顧客が実は100万円のお金しか用意できない場合は200株の買い注文を出すはずですが、誤って2,000株で発注してしまうことが少なくないんです。68万円の買い物の予定が、680万円に化けてしまいます。電話でのやり取りといえども契約は成立しています。680万円をの債務者になるわけです。

10月から取引所での売買単位が100株単位に変更されましたが、こういったことも間違いの原因になります。数量の間違いは顧客にとって非常に苦痛を伴いますので気を付けましょう。注文を伝えた後に、「この買い注文の概算約定金額はいくらくらいになるかしら」と必ず聞いてください。「概算金額は680万円ほどです」とおしえてくれますので、そこで間違いに気が付くはずです。

6.番外編

ほとんどの証券会社では、営業員と顧客の通話を録音しています、注文内容が相違した場合もこの録音をもとに正しい注文内容を見付けて是正することになります。皆さんも約定の結果に納得できないことがあった場合は、録音内容を聞かせてほしいと申し出るのが良いかもしれません。

しかし、そんなことにならないように、ここで書いたことに留意していただき、注文を出してくださいね。ここで書いたようなやりとりを証券マンは絶対嫌がりません。しっかりしたお客さんだなと、あり難がられるくらいです。

初めての証券投資 発注その1

発注と受注

今回は実際に証券会社に注文を出す場面での注意点など。顧客(あなた)が証券会社に注文を出すことを発注といいます。これに対して証券会社は注文を受けるわけですので、受注といいます。同じ行為ですが主体が変わることで表現が変わるんですね。ちなみに第三者が同じ事を指して言う場合、受発注などと言います。

発注時の注意事項

証券会社とのやり取りで一番トラブルが多いのが、この発注の場面です。顧客が発注する際に最も重要なのが正確な注文内容を伝えることです。その際、必要な条件を4要素などといいますが、kuniの経験から5要素あげておきます。株式の場合で説明します。

  1. (顧客コードまたは口座番号)顧客名
  2. (銘柄コード)銘柄名
  3. 売り買いの別
  4. 価格
  5. 数量

これを必ず正確に伝えます。例えば山田太郎さんが日立の株を3,400円で1,000株買いたい場合の伝え方は、「山田太郎の口座で日立を3,400円で2,000株の買い」という具合です。証券マンは必ず同じ注文内容を復唱してきますので、証券マンが認識した注文内容に間違いがないか、良く確かめてください。

「山田太郎さんで日立を3,400円で1,000株の買いでよろしいでしょうか」と聞いてきます。2,000株のところを1,000株と間違って復唱しています。「ふたせんかぶだよ」と訂正します。「2000」と「1000」はよく間違いが起こるので、「にせんかぶ」より「ふたせんかぶ」の方が確実に伝わりますね。

1.顧客名を確実に伝えるために

証券会社では同姓同名の顧客をたくさん抱えています。他にも、漢字は違うけど同じ読みの人もいますし、音だけでは聞き違えてしまうこともよくあります。こうしたトラブルを避けるため、顧客コードまたは口座番号(同じ7桁程度の数字ですが、証券会社によって呼び方が違うようです)を一緒に伝えるのが一番正確に伝わります。

2.銘柄を間違えられないために

これも昔から変わらず多いミスですが、銘柄が間違って伝わらないような工夫も必要です。やはり銘柄コードを一緒に伝えましょう。日本精工と日本製鋼所といった具合に非常に良く似た銘柄名や、略称で呼ぶとまったく音が同じ銘柄が存在します。

先ほどの例でいうと「銘柄コード6501の日立」と言ってあげると間違えることはないでしょう。銘柄コードは四季報や会社情報で調べることが可能です。※1

3.売りと買いを間違えられないために

顧客は相場観を駆使していろいろと考えた末に、買うことを決断して、発注しようとしています。しかし、証券マンはその辺りの事情は知りません。

顧客にとっては買いに決まってるだろうという場面でも、売りで伝わってしまうことがあるんです。意外に多いんですよ。もちろん保有していない銘柄を買おうとして売られることはありません(ない株は売れませんから)けどね。

工夫の仕方としては、「山田太郎の口座で買い注文。日立を3,400円で2,000株の買い」と伝えることで、売り買いの区別がはっきりします。

※1 四季報は東洋経済社が年に4回発行する季刊誌です、デジタル版もあります。会社情報は日本経済新聞社が提供していますが、今では冊子はなくなってデジタル版のみになってるようです。

四季報久し振りに見てみたら2,060円になってました。株式市場は高値の半分やっと越えた程度ですが、四季報はあの当時の2倍の値段になってます。長くなってきたので続きはその2で。

東証システム障害 社長の報酬 1カ月、10%削減

なんじゃ、こりゃ。だれがそんなもん期待してるの。東証にとっての顧客って誰なの?

お役所東証の残念な発想

「東京証券取引所は想定外の事態が起きたときの対応に不備があったとして市場運営者としての責任を認める」としながら、社長の月給1ヶ月10%の減額だと?証券会社は顧客対応でまだまだ混乱してるんですよ。東証の顧客って誰なのか真面目に考えたの? そう言いたくなります。

ほぼ同じタイミングで不正が発覚したKYBの不祥事対応、顧客対応が格好よく見えてきました。少なくとも彼らは「必要な性能を満たしていない可能性がある商品すべてを交換する」ということを、まず最初に表明しました。迷惑をかけた可能性のある顧客のことを第一に発想してますよ。社長や役員の報酬をカットするかどうかなんてその後の話でしょう。

不祥事対応の最悪なパターン

不祥事を発生させてしまった企業がとる対応の最悪パターンですね。システム障害発生の原因究明が不十分であり、原因となったシステム接続方法や障害発生に関する情報開示が迅速かつ的確に行われてきませんでした。そのうえで出した結論には、東証にとっての顧客(証券会社とその先に繋がる投資家)に対する目線がまったく感じられません。

このあと、投資家や証券会社からの批判を浴びながら責任のとり方を小出しにして行くんでしょう。報告書を提出する金融庁は受理するかもしれませんが、証券会社はこのままでは納得しません。KYBの不祥事とは違って、証券会社が被った被害は具体的な損失金額が確定しますので、訴訟へと進んでいくものと思われます。

東証の主張を整理してみると

今後さらに東証の対応が明らかになっていくと思われますが、現時点での報道をもとに、東証の主張を整理しておきましょう。

責任があるとしているのは、

  • システム障害発生に対して回線を速やかに切り替えられなかった証券会社の責任
  • 想定外の事態が起きたときの対応に不備があったという東証の責任(その責任に対して社長の報酬1ヶ月10%削減です)

これに対して責任がないとしているのが、

  • システムおよび証券会社に対する接続方法の指示内容に不備があったという東証の責任

であり、ここまでその責任等に一切触れていないのが

  • メリルリンチ日本証券の大量のデータ誤配信の責任

となります。そして最後に、顧客である証券会社と投資家に対する東証の責任については、原因究明を開始する前から完全に否定したまま現在に至っています。「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」などを制定し、上場会社に対して、ガバナンスの高度化を求める東証。今後の動向が気になります。

 

KYB(旧カヤバ工業)でも不祥事

油圧機器メーカーKYBでも検査データの改ざんが行われていたようです。旧会社名はカヤバ工業。kuniはこの社名の方が染み着いていて、KYBという社名見ただけではピンときませんでした。日本一のダンパー(ショックアブソーバーとも言います)のメーカーです。

ダンパー(ショックアブソーバー)とは

ちなみに、自動車の場合で説明すると、路面からタイヤ、車体に伝わる衝撃を吸収するためにバネが延び縮みするんですが、それだけではバネがずーっと伸び縮みを繰り返してしまいます。その繰り返しを収束(減衰)させるための装置がダンパーです。この機能を建物の揺れを減衰させるために使ったものが、今回話題になっている免震・制振オイルダンパーということですね。

当初はこの製品の検査員は1人だけしかいなかったということで、特定の担当者への過剰負担が不正行為の常態化に繋がったのではないかと言われていました。しかし、商品の安全性に対し、普通の配慮がなされていれば、1人体制だとか1人の責任なんて不自然な気がします。

実際ある報道によると、元従業員と責任者とのやりとりの録音が入手されていて、組織ぐるみでのデータ改竄と隠蔽があったのではないかとも言われているようです。真相はまだまだ見えてきていませんが、普通に考えて一個人の行為とは思えません。

データの改ざんが行われた15年間には東洋ゴムの不正事件も

2015年には東洋ゴムが「免震ゴム」、「防振ゴム」と立て続けにデータ改ざんを行っていたことが明るみになり、これらに対して行われた社内調査の杜撰さも併せて、社会の批判を浴びました。

この時、KYBのデータ改ざんを行っていた当事者たちはどう感じたんでしょうね。真実を告げると先輩たちを売ることになるという思いで、不正行為は引き継がれていったのではないかと思います。不正のトライアングル※1で言うところの「正当化」ですね。

それでも、この時ばかりは「自社においてもこういうことが起きていないか調査して見つけてほしい」、「この機会に自社も真実を公表してほしい」。そう考えたんじゃないでしょうか。不正を働いた者は、その行為を継続するうちに自身の行為を正当化し始めます。「納期を守るためにはしょうがない」とか「こういう行為を正そうとしない会社が悪いんだ」といった具合です。

これはkuniが見てきた経験ですが、行為者たちは早く発見してほしいと願うようにもなります。自分自身は不正を正すことができない、しかしやってはならないことを続けている。その葛藤の中で他の力に頼り始めるんですね。こんな心理状態で相当疲弊していくんです。

残念ながら、東洋ゴムの不正が批判を浴びたこの場面では、KYBの不正が表面化することはありませんでした。ガバナンスの観点では「他社で発生した事例については、自社の事業についても必ず点検を行う」のが基本動作ですが、このとき経営は動かなかったようです。

今回のデータ改ざんの事実がどのようにして発見されたのか。これについてもまだ明らかにされていません。当事者によるのか、別の従業員によるのか。内部通報なのか、外部機関やメディアへの通報なのか。同じくガバナンスの観点では、発見統制がどう機能したのかというところですね。

※1 不正のトライアングルとは

不正行為は、①機会、②動機、③正当化という不正リスクの3要素がすべてそろった時に発生すると言われていて、これを不正のトライアングルと呼んでいます。

財務省再生プロジェクト

森友学園がらみで発生した決裁文書の改ざん問題などを受け(セクハラとかもありましたね)、再発防止に向けて作られたのがこの「財務省再生プロジェクト」だそうです。「上意下達の風土が不祥事に繋がったとの反省を踏まえ、法令遵守を徹底する組織に立て直す」んだそうです。

行政も民間も同じ

行政機関も一緒ですね。赤字部分だけサクっと読むと、スルガ銀行の改善策みたいじゃないですか。スルガ銀行と違って第三者委員会等による徹底した調査と開示が行われたわけではないので、その実体は分かりませんが、おそらく省内にはパワハラや労務管理の不備なんか山のようにあるんでしょうね。今年7月末からボストンコンサルティンググループの女性を登用して、民間の知恵を組織改革に生かそうとしてたわけですが、この際、スルガ銀行並みに実態把握して開示するべきです。

360度評価の導入に、内部通報制度の実効性確保。報道を見る限りでは目玉はこの二つのようです。今頃ですか?っていうのが実感ですよね。ある程度の規模の企業であれば、既にこれくらいの体制は確立できていますよ。そもそも行政が所管する企業に対して、この程度のガバナンスは求めてきたはずです。それでも自分たちは違うんだと思ってたんでしょうね。

今さら、この程度の実態把握なしの改善策では・・・

法令遵守を徹底する。こんな掛け声でコンプライアンスを推進していたのって、kuniの経験では15年前のことです。少なくとも10年前辺りからは、法令遵守なんて当たりまえ、コンプライアンスは企業倫理や職業倫理に踏み込んでいました。法令守るだけじゃなくて、法令や規則に定められていなくても、倫理に悖る行為はダメだろう。そんなレベルです。

ここ数年は、といっても金融機関の場合ですが、「顧客本位の業務運営」が求められてきたわけです。こんなのどこの法令にも規則にも書かれてません。企業がそれぞれ考え、顧客に選ばれるために、法令を超えた領域で努力しているわけです。

内部通報制度にしても同様です。制度を設け、その存在をしっかり周知し、通報者の保護が図られることをどうやって末端の職員にまで浸透させていくか。先行している民間の企業もまだまだ苦しんでいます。

現状をしっかり把握して、まずは膿を出しきるべきでした。これまでパワハラしてきた上司たちがそのまま残った中で、表面だけ取り繕ってお終い、では何も変わりません。その組織の風土であったり、カルチャーの領域まで変えていかない限り、また違った形で事件が発生するだけです。

と、ここまでは報道された内容に基づいて(かなり限られた情報を基に)書いてます。この再生プロジェクト、調査結果も含めて是非開示してほしいですよね。