ハラスメントは想像力欠如

今年は、働き方改革関連法をはじめ、働き方に関連する法律が次々と施行されていく予定です。職場のパワーハラスメントを防止する措置を企業に義務付ける法案も、国会に提出される見通しとなっています。

一方で、どうやら先送りになりそうなのが、公益通報者保護法の改正です。不正の早期発見のために内部通報制度の実効性確保が求められており、こちらの改正対応についてもスピード感をもって進めてもらいたいところです。

パワーハラスメントと内部通報制度について取り上げたのは、コーポレートガバナンスを語るうえで、欠くことのできない重要な要素だからです。昨年は多くの企業の不正について調べましたし、当ブログでも取り上げてきました。企業の不正・不祥事には必ずといっていいほど、パワハラと機能しない内部通報制度がセットで登場します。

こころの健康学

日本経済新聞のコラム、「こころの健康学」で、認知行動療法研修開発センター 大野裕氏が、「ハラスメントは想像力欠如」と書かれていました。シンプルだけど、言い得てますよね。「ハラスメントをしている当の加害者は相手を傷つけているという意識がないばかりでなく、相手のことを思いやり行動していると考えていることがほとんどだ」としたうえで、その人たちに話を聞いて以下のようにおっしゃってます。

「相手のことを思いやっているようで、自分の世界ですべてを判断していることが分かる。相手がどう感じ、考えているかということを思いやる想像力が決定的に欠けているのだ。それでは一緒に仕事をしていこうという信頼関係は生まれない。」

また、そういうふうにハラスメントが発生してしまうと、「部下は無意識に仕事で手を抜くようになり、反発心からも手抜きをするようになる」と書かれ、最後に以下のように括られていました。

「立場の弱い人は、立場の強い人から強く言われると反論しづらい。だからといって言われるままに受け入れるのも釈然としない。そうすると要求された通りにしないで反感を表現するようになる。結果として仕事が思うように進まなくなったり、取り返しのつかない大きな問題が起きたりするようになる」

以前、kuniの身の回りでも、先生が指摘された通りのことが起きてしまいました。なくしていきたいですよね、こういう状況。「相手の立場になって考える」、そう簡単なことではないですが、気を付けていきたいと思います。

ガバナンス 女性役員 シニアに成果給

昨日の日本経済新聞に掲載された二つの記事。「女性役員3割 達成を」と「シニアに成果給・ポスト」という二つの記事が総合一面と二面に掲載されました。二つ続けて読むとなかなか面白いなぁと感じた次第です。

女性役員3割 達成を

英国発の推進団体とかで、機関投資家を巻き込んで実現しようという動きだとか。この団体のことはどうでもいいんですが、コーポレートガバナンス・コードも求めているように、女性役員を登用する動きは強まっています。会社法の改正案には社外取締役の義務化が盛り込まれるそうですが、役員の多様化という意味で通じるところがありそうです。

しかし、女性役員を3割とは、これは難題ですよ。もちろん、業種によってはすぐにでも対応できるほど豊富に人材抱えている会社もあるんでしょうが、kuniが見てきた金融界はそんな人材居なかったですね。重厚長大産業をはじめとした古い体質の業界はどこでもそうなんじゃないかと。

仕事のできる女性ほど、さっさと結婚退職してしまい、子育てに。子供が大きくなってみると別の会社に復職しちゃう、、、みたいな展開たくさん見てきました。要するに、彼女たちに対して会社が真剣に向き合ってこなかったんですね。で、今更そう言われても、ないものねだりというか、人材が居ないんですよ。社外取締役に女性弁護士を選べば、一石二鳥。というレベルの発想が関の山でしょう。

シニアに成果給・ポスト

一方でこちらは、労働人口の減少という要求に対する答え。やろうと思えばいつでもできます。毎年毎年、能力の高いシニアが月額20万円ほどの報酬で継続雇用されていきますが、定年前に稼いでいた金額の1/3くらいです。ほとんどの人がモチベーションを維持できず、定年再雇用という形だけを維持しているにすぎません。当然処遇に不満のある人は他社に流れます。

間違いなく60万円以上の価値を生み出す社員であっても、なかなか60万円の処遇を得ることは困難です。前提として労働人口が枯渇することは理解できているのに、会社として行動が起こせないんですね。

確かに、ポストを空けて次世代を引き上げていくことも大切です。しかし、現場がいろいろアイデアを出したとしても、多くの場合が「前例がないから」という人事部特有の発想が邪魔してしまいます。その逃げ口上がいずれ自分たちの首を絞めることになるでしょうに。

60歳定年を65歳定年に引き上げ。成果給や新しいポストの導入など、いま自社で抱えている有能な人材を手放さないのが最初の一歩じゃないですかね。人材が居ないんじゃなくて、実際に居るわけですから、やろうと思えば出来るはずです。20年ほど前に女性に優しくなかった企業はいま、女性役員の人材不足を嘆いているところ。今シニア相手にまた同じことを繰り返しているんですね。

平成30年中の交通事故死者数について

1/5 日本経済新聞で、平成30年の交通事故死者数が過去最低となったことが報道されていました。2018年の全国の交通事故による死者は前年より162人少ない3,532人でした。これを読んで、警察庁のホームページで、統計そのものを確認してみました。

24時間以内の死者数

この統計は交通事故が発生してから、24時間以内に亡くなった方を集計しているんだそうです。つまり、集中治療室等でまる一日以上治療を受けた場合は、亡くなってもこの統計にはカウントされないということですね。

平成5年あたりからは、発生後30日以内の死者数についてもグラフが添えられていましたが、生データが提供されていないので正確な数値は読み取れません。24時間以内のデータよりも数百人多くなっているようです。

交通事故件数と負傷者数

死者数が最も多かった昭和45年を基準年としていて、この年のデータを指数:100として、その他の年と比較しているんですが、死者数は一貫して減り続け、平成30年は指数は21まで下がっています。つまり79%減少したということですね。

死者ではなく、交通事故そのものの件数を見てみると、ピークは平成16年になっています。この年負傷者数もピークを付けていて、指数でみると交通事故件数が133。昭和45年との比較で33%増加しています。負傷者数を見ても指数121。21%増加ですね。

こうしてみると、昭和45年をピークに死者数は減少してきたものの、交通事故件数は平成16年まで増加していることが分かります。まず、事故が発生した場合の衝撃を緩和するテクノロジーや、救命のためのテクノロジーが導入され、その後平成16年以降には事故そのものを発生させないためのテクノロジーが実装されていったと見ることができそうです。

月別交通事故死者数の推移

こちらは平成28年、29年、30年の3年分が集計されていましたが、やはり師走というだけあって、毎年12月が一番多くなっています。昨年で見ると、12月は410人で、最も少ない6月が235人。最も少ない月はこの3年間で2月、4月、6月となっていて、毎年違うみたいですね。

ついでにですが、去年12月の410人という死者数。月間データでみると28年12月の420人以来の400人超となっていて、約2年ぶりの高い数値になっています。

都道府県別交通事故死者数

都道府県別にみてみると、ほとんどの自治体が減少している、もしくは減少傾向を示す中、山形県、神奈川県、広島県が2年連続で死者数が増加していることが分かります。埼玉、千葉も明確な減少トレンドではないようで、人口の増加が影響しているのかもしれませんね。

以上、日経で報道されていなかった視点でまとめてみました。統計ってなかなか面白いです。

ソーシャルレンディング 金融庁は

昨年12月、関東財務局はソーシャルレンディング業者である「エーアイトラスト」に対して、1か月間の業務停止および業務改善命令を発出しました。証券取引等監視委員会の勧告による行政処分でしたが、併せて建議まで行っています。概要についてはこの記事を。

相次ぐ貸付型クラウドファンディングへの行政処分

一昨年の「みんなのクレジット」に始まり、「日本クラウド証券」、「FIPパートナーズ」、「ラッキーバンク・インベストメント」、「maneoマーケット」、そして「エーアイトラスト」。ソーシャルレンディング業者の不正が止まりません。FIPパートナーズに至っては改善の見込みがなかったためか、第二種金融商品取引業者の登録が取り消されています。

貸金業法の債務者保護

なんでこれほどまで悪行がまかり通っているのでしょう。どうやら、貸金業法が彼らの味方をしているようです。貸金業法は、例えば高利のローンで借入者が被害を受けないように貸出金利の上限を設けたりしています。つまりこの法律、融資先(債務者)の保護を目的としているわけです。

金融商品取引法の投資家保護

一方で、金商法は出資する投資家を保護する法律です。出資する対象となるモノがどういう輩かについて、徹底的に開示することを求めます。皆さんも聞いたことはあると思いますが、目論見書なんかがこれに当たります。貸金業法と金商法、それぞれの法律が相反する立場の融資先(債務者)と投資家(債権者)を保護しようとしているわけです。

匿名化のもたらした結果

現在のところ、この二つの法律のうち貸金業法の要請に応える形で運用されていて、ソーシャルレンディング業者は、融資先(債務者)の情報を匿名化かつ複数化して、ファンドの募集活動を行っています。当局からの要請なんですね。

仮に投資家と融資先が1対1の関係で投資ができるようになったら、実質的に投資家が貸金業をやっているのと一緒であり、問題がある。というのが当局の見解のようです。それで匿名化、かつ複数化しなさいと。

融資する先を匿名化できるし、複数化できる。要するに融資する先の実態は誰にも分らない状態で構わないという法律の要請を悪用し、実は全く実体のない融資先だったり、親会社の運転資金に充てたりといったこともできてしまうわけです。

金融庁の動向

金融庁は自らの指導で匿名化、複数化を進めてきましたが、一昨年から既に6件のソーシャルレンディング業者を行政処分してきました。こうした業者が悪いのはもちろんですが、当局も法の抜け穴のごとき状況を放置してきたと言われてもしょうがないですね。とうとう証券取引等監視委員会は建議も行いました。

金融庁にそろそろ法改正等を考えるよう促したということですね。建議の最後はこう締めくくられています。「貸付型ファンドに係る投資者保護の一層の徹底を図る観点から、投資家がより適切な投資判断を行うための情報提供や説明内容の拡充などの適切な措置を講ずる必要がある」

ここまで大きな動きはありませんでしたが、今回の建議を受けて、さすがに金融庁も動かざるを得ないでしょうね。

コーポレートガバナンス 社外取締役

平成の30年間でコーポレートガバナンスはどれほど進化したんでしょうか。確かに社外取締役は多くの企業で採用され、上場企業の93%が1人以上の社外取締役を置いていると言われています。ところが、2018年を振り返ってみると、それでどれだけ会社が良くなったの?社外取締役は機能しているの?という疑問は残ります。

社外取締役は機能するのか

はっきり言ってkuniは機能しないと思っています。例のスルガ銀行で不正が頻繁に行われていたころの社外取締役は、かの有名な元日本マイクロソフト社長ですよ。経営に関してはプロ中のプロが就任していたにもかかわらず・・・なんです。

なぜかというと、それはあまりにもその業界のことを知らないから。その会社のことを知らないからです。kuniも取締役会の根回しで何度も社外取締役を訪ねて行って、議案の事前説明をしてきましたが、とにかく骨が折れます。的を射た質問であればよいのですが、ほとんどが見当はずれ。本番の取締役会でも進行の足を引っ張るだけです。

会社とは異質な人材として、より広い視界で見地を提供できると言われますが、そうもいかないのが現実だと思います。スルガ銀行の件でも、「当行だけこんな高い利益率っておかしいだろ」という感覚が持てなければ、何の疑問も持たないわけです。全くその業界に関する知識のない社外取締役はそろそろ考え直した方が良いと思います。

社外取締役に求められる機能

会社執行部隊との異質性を求めて招聘された社外取締役。社内で何か経営陣に都合の悪い事実が出てきたとき、経営陣は何を考えるか。知られてしまうと面倒な奴が出てくる取締役会には議案としてあげることなく、内々に決済してしまおう。こう考えるのは当然のことです。

ではどんな社外取締役が必要なのか。経営陣にとって不都合な事実を隠し続けることが困難な、そんな事実に気付いてしまいそうな取締役ということになります。つまり、異質性と同時に、業界情報、社内情報への理解度が相応にある人材ということになるわけです。

大株主から社外取締役を

そこで考えられるのが、大株主や主要取引先からの社外取締役です。米国では社外取締役の要件として株主を排除する規定がありません。実態としても大株主から派遣されている社外取締役は多いそうです。これは日本においてもヒントになるのではないでしょうか。(ここではグループや系列、機関投資家といった大株主は意識していません)

当然、少数株主や他の取引先への悪影響が考えられますが、これらの問題は本質が明確であり、他の取締役による牽制は常に効かせることが可能だと思われます。どうでしょう。報酬稼ぎだけが目的のお飾り取締役ではなく、本当に機能する社外取締役。今年は本気で考えないといけない年になりそうです。