コンプライアンス 拡大し続ける対象領域

20年ほど前のこと、kuniが初めてコンプライアンス部門の職場に異動になったとき、コンプライアンス=「法令遵守」、と教えられました。そのころ既にコンプライアンスの意味が次第に変化し始めていました。まずは「社内規則やマニュアルの遵守」も含むようになり、次に「企業倫理」にまでその対象領域を拡大してきました。

この20年でコンプライアンスの意味する領域は大きく拡大してきたわけです。そして現在では、「社会規範」までもが、コンプライアンスの領域となってきました。とうとうコンプライアンスとは、社会の要請に応えるために企業が取り組むすべてを指す言葉になってしまいました。

コンプライアンスの実務にも影響

こんなふうにカバーすべき領域が広範になってしまうと、チェックリストやマニュアルといったツールでカバーすることが困難になってしまいます。当然ですよね。それでなくても人員を潤沢に配置してもらえる部署ではありませんから。これはどこの会社も一緒だと思います。

そこでリスクベースという考え方がとられるようになります。自社が注力する事業やビジネスモデルの特長に着目して、そのビジネスを強力に推進することで、リスクが高くなると思われるゾーンにフォーカスして対処しようという考え方です。

また、予兆管理という方法もあります。一見関係なさそうに見える指標をモニタリングしていると、その指標が大きく変化する部署等で、後に大きな事件、事故が発生したりするという因果関係というか関係性に着目する手法です。例えば、ミスが顕著に増加し始めた支店や営業所で、過失ではなく従業員による不正が発生するといったこと、意外にあるんです。

「ミスの多発」と「従業員による不正」って、一見関係なさそうです。ミスが多発するのは職場に緊張感がなかったり、逆に緊張感が強すぎたり。その背景には管理職やトップの管理方法に問題があったりします。甘すぎる管理は不正を発生させる機会となりますし、厳しすぎる管理は目標を達成するための不正につながりやすかったりします。

そして、広範な対象領域に対応するためのもう一つの方法が、他部署との連携だと思います。コンプライアンス部とは別に検査部や監査部があるばあいは、当該部署との連携であったり、従来は別の対象を相手にしてきたかもしれないリスク管理部といった部署との連携も有効になってきます。

基本は法令・諸規則

こんなふうに、コンプライアンスの領域は拡大し続け、コンプライアンスを徹底していくための方法も変化を続けています。しかし、それでも重要なのは、法令・諸規則、社内ルールといったベースになるコンプライアンスを、ルーチンでしっかり押さえておくこと。

この土台が揺らいでいると先ほどまでの話は意味を持ちません。基本をしっかり押さえたうえで、プラスアルファでリスクベースでの取り組みを、他部署も巻き込んでオンしていくという枠組みを持つことですね。

電子マネー 実は高齢者に拡大

1/29 日本経済新聞の記事です。これまでほとんどのメディアや識者が指摘してきた、「高齢者は現金へのこだわりが強く、電子マネーは普及しない」説があっさりひっくり返されました。机上の空論ってやつですか。やはり、現場で実際にやってみないと分からないもんです。

70歳以上の電子マネー平均利用額が、直近5年間で87%増え、伸び率は全世代の平均(58%)を上回るんだそうです。他にも高齢者に受け入れられているというデータが示されていました。で、後講釈の上手い新聞としては、以下の4点を高齢者にとってのメリットとしてあげています。

①使える金額の上限をあらかじめ設定できる
②紛失時に利用を停止できる機能がある
③キャッシュカードを持ち歩きATMで現金を下ろして使うより安全性が高い
④年をとると手先を自由に動かしづらくなるので、お金を数えることが苦痛

子が親に電子マネーを勧める

これも気持ちは良く分かります。上にあげたメリットの①②③などは子供が親のことを心配して使わせているのが想像できます。特に③などは子として一番心配でしょう。これらはいずれも・・・だから現金より安心という理由ですね。一方で④は現役バリバリで働いている人たちには想像すらできなかったこと。高齢者の目線で考えることができなかった部分です。

ということで、nanacoやヨークベニマルで取材した「高齢者に受け入れられている」とか「使い勝手の良さが支持されている」といった、とって付けたような記事が添えられています。これは結論ありきで誘導した取材記事のようです。ただ、データは本当なんでしょう。最近統計は信用できませんけど。

本命と思われていたQRコード

高齢者に受け入れられている電子マネーだけど、ここで取り上げられているのは主にチャージして使用するカードであり、スマホを前提としたQRコードによる決済は高齢者では普及していないようです。この現象は高齢者特有の傾向なんでしょうか。

財布から出して指定の場所にピッとタッチするだけ。カードの使用方法は非常に簡単です。これは顧客の年齢に関係ないですから、意外に本命はカードかもという気がしてなりません。この記事はちょっと気になりますね。

ちなみに、今現在kuniが最も頻繁に使用している電子マネーは交通系カードのpasmoなんですが、チャージが面倒なんですね。クレジットカードと連動して改札機を通るときに、自動でチャージしてくれる機能もあるみたいですが、残念なことに既存の大手クレジットカードとは連動しないみたいです。

けど、自動改札機で自動でチャージしてくれる機能、これ便利そうじゃないですか。他にもチャージが工夫されたカードがないものか、調べてみたいと思います。

クロネコヤマト行政処分 過失と故意の違いについて

1/23 国土交通省はヤマトホームコンビニエンス株式会社に対して、行政処分および事業改善命令を行いました。この件については当ブログでも2回の連載で取り上げました。調査委員会が調査結果をまとめたのが8月の末でしたから、処分までに4か月を要しています。この間、国交省は何をしてたんでしょ。

引越サービスに関して不適切な請求

国交省の報道発表資料を見ると、この事件については「引越サービスに関して不適切な請求があったことに対して・・・」と、不適切という表現がされています。不適切検査や役所の不適切調査、ここ最近の日本は不適切だらけなわけです。

kuniがコンプラの仕事をしていた証券界は、営業員に対する行為規制が最も厳しい業界の一つで、やってはならない行為が法令や規則に山ほど定められています。また、何か事件が発生して顧客に迷惑をかけた際に、顧客の損失を埋め合わせるための手続きも複雑になっています。

大昔、証券会社の損失補てんが社会問題になった時代がありました。顧客にリスクを取って投資してもらう世界で、損失を補てんしていたんじゃ自己責任が問えませんし、誰もリスクなんか取りません。この時の経験により損失補てんが法律で禁止されました。そのため、何か事故が起きた場合も、その行為が損失補てんではなく、「証券会社に責任があるから顧客への適切な対応なんだ」ということをしっかり証明する必要があるんです。

そこで証券界では損失補てんが可能な、営業員や証券会社の行為を金商法の中で明確に定めています。不適切行為、法令違反、システム障害の3行為です。これら3類型のどれかに該当しているとき、初めて合法的に顧客の損失を埋め合わせることが可能になっています。

証券界における不適切行為(未確認売買、誤認勧誘、事務処理ミス)

証券界にもこのように不適切行為という行為が定められています。これには「未確認売買」、「誤認勧誘」、「事務処理ミス」の3種類があり、それぞれ「顧客の注文内容をしっかり確認しないまま取引を成立させた」、「顧客に事実を誤って認識させるような勧誘を行い、取引を成立させた」、「過失により事務処理を誤った」というもので、いずれも故意ではないが結果的に顧客に損失を与えた取引を指しています。

一方で、営業員または証券会社が意図して行った取引は不適切〇〇などとは言いません。法令に定められた「禁止行為」または「法令違反」です。これ以上の詳細については省略しますが、このように「不適切」という言葉と「法令違反」は明確に区別され、営業員等への処罰も全く違ってくるわけです。

過失と故意の違い 不適切の濫用

前置きが長くなりましたが、過失と故意について、もう少し意識した取り扱いが必要ではないでしょうか。「伝票を作成するときに間違えてしまって顧客から引越代金を多くもらってしまったこと」と、「このお客さんは気付かないだろうから多めに請求しようと意図して過大に貰ってしまうこと」を一緒にしてしまい、不適切な請求と呼ぶのは止めませんかということです。最近非常に気になるんですね。

不適切会計なんてのも最近よく聞くようになりました。シャープや東芝辺りからだったんじゃないかと思います。以前はしっかり粉飾決算と言い切ってました。新聞やテレビにとっては上得意の広告主だから、ソフトに見せたいのかもしれませんが、、、これもいただけません。「不適切」の濫用、止めましょう。

厚労省毎月勤労統計 役所の不適切調査

厚生労働省の毎月勤労統計に端を発した、統計に関する不適切調査は、総務省のとりまとめによると、56の基幹統計のうち23の基幹統計に誤りが見つかったという結果になりました。ただ、これはあくまで各省庁が自主点検したものを総務省が取りまとめただけです。厚労省のように後から訂正してくる省庁がまだ出てくるかもしれません。

企業の不適切検査 役所の不適切調査

上場企業の不適切な検査が次から次へと表面化したと思ったら、今度は役所です。統計作成時の「不適切調査」と報じられています。ゴロを合わせただけではなく、不適切な行為が行われてきた背景や原因についても、かなり似ているような気がします。もう少し詳細が分かってきたら、この辺りも調べてみたいと思います。

総務省が公表した基幹統計の点検結果を読んでみると、冒頭書いたように23の基幹統計に誤りがあったとしていますが、「毎月勤労統計のように、承認された計画や対外的な説明内容に照らして、実際の調査方法、復元推計の実施状況に問題のある事案はなかった。」とされています。行為としては悪質なものはなかったということのようです。

あくまで役所の統計

今回の厚労省の統計に関する不適切調査が自爆テロなのかどうかは、引き続き注意してみていきたいと思いますが、一連の不適切調査に関して、一橋大学の北村教授が良いお話をされていました。日経の「統計不信 識者に聞く」という記事です。

特別監察委員会の再調査に求めることは?という記者の質問に答えて、「不適切調査の本質は何だったのか可能な限り客観的な情報や証拠に基づいて公正に評価し、1回目以上に情報開示すべきだ。与野党で批判が高まっているが、過度に政治問題化すべきではない。国民経済の実態を正確に捉えるため、統計調査は本質として政治から中立であるべきだ。建設的な議論を進めてほしい」

通常国会が召集され、野党はこの国会で「統計に関する不適切調査問題」を最大の争点にしてくると思われます。2007年の「消えた年金」問題で第一次安倍政権を追及した時と同様の展開がありそうですね。

しかし、北村教授の言葉にもあるように、政治と役所の統計調査をチャンポンにしないよう注意が必要です。「消えた年金」のような、巧みな言葉が躍り始めるでしょうが、この問題は役所の怠慢であり、政治とは切り離すべきという基本を押さえておきたいところです。そのうえで厚生労働省の内部で責任の所在を明確にし、しっかり改善してもらいましょう。

統合政府論

昨日の記事では、最後に統合政府論を紹介しました。お勧めした本の著者も、この統合政府論を支持していると思われます。もっとも、本の中で「統合政府」という言葉は使用されてませんが。今日の記事ではこの統合政府論について書いてみます。

統合政府論とは、「日本銀行は政府の子会社とみなせるため、日本銀行が買い入れた国債は政府の負債と相殺されるのだから、日本の財政再建は着実に進んでいる」という考え方です。統合政府論については肯定派と否定派真っ二つで、今のところ決着がついていないという感じです。

いったん「」内の定義は否定派の一人、白井さゆり氏(元日銀審議委員)の表現を引用させてもらいました。また、この後紹介する、政府債務額と日銀国債保有額は白井氏が書いている本で使われているデータをそのまま使用しています。

現在、日本政府は約1000兆円の債務を抱えています。つまり長期国債が1000兆円発行されているということです。一方で日銀は金融緩和政策の一環で約400兆円の長期国債を買い入れてきました。つまり、約400兆円の国債が資産に計上されているということです。

ここで、日本政府のバランスシートと日銀のバランスシートを連結すると、政府債務の400兆円は日銀資産の400兆円と相殺されてしまい、政府の債務は差し引き600兆円になるという考え方です。しかも、今後国債を買い入れていくと、もっと政府の債務は減少していくことになります。

「日本の財政再建は日銀による異次元緩和の継続により、すでに完了していて、財務省だけがそれを隠して消費増税をしようとしている」とするのが、昨日紹介した「官僚と新聞・テレビが伝えないじつは完全復活している日本経済」の著者、上念氏の見解。これに対して統合政府論を元日銀審議委員として否定する白井氏。お互いの主張を読み比べるとなかなか面白いですよ。白井氏の著書は「東京五輪後の日本経済」です。

2018年10月の IMF 国際通貨基金 財政モニター

昨年10月に公表されたIMFの財政モニターでは、統合政府とほぼ同じ概念の公的部門のバランスシートが示されていて、国の財政についても企業のバランスシートと同じ見方をしています。これまで国のことになると債務にばかり目が行ってましたが、資産側もしっかり見ることを推奨しているように思えます。

企業のバランスシートを見るとき、その会社の資産の額を抜きに、ただ負債が大きいことを危険視することはあり得ません。国の財政についても同じ見方の方がしっくりします。IMFの立ち位置の変化も踏まえ、kuni個人としては統合政府論を支持したいと思います。

書き忘れていましたが、元祖統合政府論を唱えられたのは、高橋洋一氏だと思います。それから、最後に、上念氏も、白井氏も同じようにIMFの見立てを紹介し、自身の見解の正当性を訴えてらっしゃるんですよね。にもかかわらず、正反対の見解になってしまうというのも面白いです。