TSR(トータル・シェアホルダー・リターン) 株主総利回り 

企業内容等開示府令の改正

昨年11/2 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案が公表され、パブリックコメントにかけられました。そして、今年1/31 パブリックコメントの結果等が公表され、同日付で交付・施行されています。

今回の改正内容は大きく3つ。有価証券報告書等の記載事項で、「財務情報および記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」となっています。

このうち「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」に関しては、役員の報酬について記載すべきことを新たに定めており、タイトルのTSR=株主総利回り についてもこの文脈の中で記載が義務付けられました。

TSR 株主総利回り

TSR=「株主総利回り」とは、株式投資により得られた収益(配当とキャピタルゲイン)を投資額(株価)で割った比率 のことです。配当までも計算に入れることで、株主が得られたすべての利益を計算することになります。

株主総利回りを開示し、役員報酬と対比して見せる(評価指標として情報提供する)ことにより、役員報酬が妥当であるかどうか、株主と建設的な対話を実現しようということのようです。

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループでの検討結果

法改正に先立って、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループで検討が行われ、その報告に基づいて改正案が作られています。ワーキングの報告では、「英国では過去10年間の株主総利回りの推移が、米国ではグラフ表示も併せて株主総利回りの記載が義務付けられている」ことを引き合いに、日本でも記載させるべきとしていました。

ところが、パブリックコメントではややトーンダウンしているような感じでしたね。役員報酬と対比させ、評価指標として情報提供するのが目的だったはずなのに、最終的に記載場所は「主要な経営指標等の推移」に落ち着いてます。この点については、パブリックコメントの中で指摘されている方がいらっしゃいました。

欧米での実態

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告から、欧米の実態について抜粋しておきます。まず英国では、全取締役の過去2年の個別の報酬内容の一覧が開示されており、、過去10年間のCEOの報酬額と、同期間の株主総利回りの推移が対比できるよう開示されているそうです。

米国では、CEO、CFOおよび報酬額上位3位までのエグゼクティブオフィサーの報酬について、過去3年間の個別の報酬内容の一覧が開示されているほか、全取締役の個別報酬についても開示されています。また、株主総利回りについても、その推移を示すグラフの開示も求められているそうです。

ということのようです。今回は個別役員ごとの報酬開示までは踏み込みませんでしたが、いずれすべて開示することになるんでしょうね。

ソーシャルレンディング エーアイトラスト 監視委員会が再び勧告

2/22 証券取引等監視委員会はインターネット経由で融資を紹介するソーシャルレンディング業者のエーアイトラストを行政処分するよう金融庁に勧告しました。同社への処分勧告は昨年12月7日にも行われており、併せて建議も行われました。その後、12/14には金融庁から、すべての金融商品取引業務について1か月間の業務停止命令を含む行政処分が行われています。

最初に処分勧告を受けた時にも当ブログで取り上げました。「ソーシャルレンディング業者のエーアイトラスト株式会社」「ソーシャルレンディング 金融庁は」の二つの記事も併せてお読みいただければ。。。

やはり溶け出していた資金

やっぱりこの会社おかしいですね。一度の立ち入り検査で2回も処分勧告食らう会社ってkuniも聞いたことありません。前回、当ブログで取り上げた時点では、集めたお金がどうなったのかについては全く分からない状況でしたが、今回はその辺りが少し解明されたようです。

取締役の山本幸雄氏が同社に紹介したファンド貸付先から、山本氏が実質的に支配する法人に、少なくとも15億8千万円が流出しているそうです。これを受けて同社のホームページでは、山本氏を解任したという役員異動のお知らせが出ています。また、「山本氏及び同氏が実質的に支配する法人に対する法的措置を検討する」とも書かれています。

勧告の内容

一つ目は、高速道路事業を貸付対象事業とするファンでにおいて、大手ゼネコンJVの名称を用いるなどして、あたかも国土交通省から発注を受けた事業の孫請けをしている業者へのレンディングに見せかけ、実はそうした実体のない貸付だったというもの。もう一つも同様に実体のないファンドであり、この二つについては「虚偽の表示」を認めています。

三つ目に、実態のないファンド、とまでは立証できなかったようですが、取得勧誘時の「30億円をボトムラインとして」という説明の仕方が、最低でも30億円の売り上げが予定されているかのような誤解を招くとして、「誤解を生ぜしめるべき表示」であると指摘されています。こちらは「虚偽の表示」と比較するとやや軽めの指摘です。

そして最後に、平成29年2月から30年11月までの募集総額52憶円のうち、少なくとも15億8千万円が流出していたという指摘です。態勢面では、事業実態や貸付先におけるファンド資金の使途等を把握するための管理態勢、および貸付実行後のモニタリング態勢について言及しています。

おまけ

以前この会社のHPには役員が紹介されていたと思うんですが、今は役員名簿が載ってません。さらに、今回解任された山本という取締役、就任が去年の10月なんですね。流出したお金を集めていたころはこの人取締役じゃないわけです。検査着手から取締役就任のタイミング、解任に至るまで、どうも良く分からないことが多すぎます。この取締役だけが働いた悪事ではなさそうです。なんだか大きな事件になりそうな予感がします。

キャッシュレス決済の持つ可能性

GAFAのビジネスモデル

米国の巨人たち、いわゆるプラットフォーマーが迷走し始めています。ECサイトの購買履歴やSNSの個人の情報を利用した彼らのビジネスモデルが行き詰ってきているということのようです。最も大きな要因は、個人の情報を無料で手に入れ続けてきたことと、世界各国から価値ある情報を吸い上げておいて、各国への見返り(要するに納税)がないことです。

ネットを利用した、あまりにも画期的かつ斬新なビジネスモデルであったが故、上記の要因に気づいていなかった人や国家が今頃になって寄ってたかってケチをつけているわけですね。

ネットとリアルの規模感

経済産業省の電子商取引に関する市場調査によると、2017年の国内電子商取引は16.5兆円だそうです。EC化率は5.8%ということですから、全体では284兆円になります。ということは、残りの94.2%、267兆円がリアル世界での商取引ということになります。

GAFA等が牛耳っているデータは、実はこの16.5兆円の日本であり、267兆円の日本は手付かずということですね。日本政府が目指しているように、このうち40%がキャッシュレス決済になるとすると、約107兆円規模の購買履歴等の個人データ市場が手に入るということになります。キャッシュレス決済を制する企業はGAFAの6.5倍のデータを手にするわけです。

こう考えていくと、日本におけるキャッシュレス決済って魅力的です。ソフトバンクグループが100憶円キャンペーンで仕掛けるのも理解できるというものです。

最初に創造する米国と後から改良して稼ぐ日本

自動車や家電製品を創造したのは紛れもなく米国でした。それでも日本は後から追い付き、高い技術力で改良を重ね、世界一のブランドになったわけです。今はちょっと残念なことになってますが。。。

この辺りは多くの説明は不要でしょう。ネットの世界で想像されたプラットフォームをリアルの世界で再現しようとしている今の日本って、何だか自動車や家電業界の黎明期に似てきたような気がするのはkuniだけでしょうか。

改良されたリアル世界での仕掛け

ネットの世界でGAFAがやってきたことはもう十分に研究されています。これをリアル世界で実現していく。追い掛ける側にはメリットもたくさんあります。消費者も既にそのビジネスモデルを理解していますし、ポイント還元という形でちゃんと対価も払っています。そして情報銀行も並行して整備される、情報の管理態勢は確立することでしょう。

今GAFAが苦しんでいる課題をあらかじめきちっと抑えながら、リアル世界のプラットフォームを構築できるわけです。「みずほFGが地銀60行と組んでスマホ決済に参入」というニュースがありましたが、銀行というお堅いイメージで情報銀行を兼営できることは一つの強みですね。

銀行業務 高額送金 地銀波乱 人材枯渇の危機

2/20 日本経済新聞に二つの記事が掲載されました。一つ目は「銀行業務、溶ける境界 決済に続き高額送金も」。もう一つが「地銀波乱 人材枯渇の危機(上)新卒が集まらない 厳しい経営 魅力も低下」です。地銀にはWパンチですね。とうとう来るところまで来てしまったか、そんな感じです。

高額送金業務の解禁

一度に100万円を超す送金業務は銀行にしか認められていませんでしたが、法改正によりこれを銀行以外にも解禁するというお話。登録制で参入しやすい少額送金とは別の、資本金などで厳しい要件を求める高額送金業者という類型を認可制で設けるという考え方です。

LINEをはじめとする送金業者は従来100万円以下の送金しかできませんでしたが、法改正後に認可を受けることができれば、高額送金も可能になります。いわゆるフィンテック企業がどっと流れ込んできそうですね。また一枚、銀行業務の垣根が崩れることになります。新規参入で送金業務の手数料等の体系は一気に価格破壊が起き、銀行にとって従来通りの手数料収入は見込めなくなるわけです。

記事では最後に少しだけ触れていましたが、マネーロンダリングやテロ資金供与に関する護りのガバナンスにおいて、どれだけ確固たる対策を準備できるかが問題になってきます。かなりのコストを要することでもありますし、一度制裁を受けると再起できない程の金額になることもあります。ここはあえて少額送金業者にとどまるという判断もありかもしれません。

地銀波乱 人材枯渇の危機

昨年12月のお話として伝えていますが、翌年4月入社の新卒採用をまだ募集していたという話。例として取り上げていたのが、西京銀行です。まぁ、よりによって西京ですか。記事では西京銀行に限らず、昨年末の時点でなお採用活動を続けていた地銀は少なくないと書いてましたが。。。

TATERUと西京銀行でアパートローン。こんな不祥事で全国区で有名になってしまった第二地銀ですからね。そりゃ人は採れないですよ。入行したと思ったらいきなり行政処分。気が付いたら流出する預金を繋ぎ止めるのが新人の初仕事、なんてのはシャレになりません。

最近念仏のようによく聞く言い回し。全国の地銀は105行。およそ半分の52行で2期以上連続本業損益が赤字。さらにその半分の23行は5期以上にわたり連続して赤字。この記事でも書かれてます。

19年新卒へのアンケート結果 最も敬遠したい業界 メガバンク・信託銀行

アンケート結果も添えられており、就活中の文系学生が最も敬遠したい業界として、第3位に地銀がランクインしています。昨年10位から大幅に順位を上げたとか。しかし、むしろ気になるのは1位がメガバンク・信託銀行になってるところです。採用枠をグッと絞ったメガバンクは、大丈夫だったんですかね。

KYB 住友精密、人件費の水増し請求 防衛省向け

少し前のことになりますが、1/29 日本経済新聞の記事です。両社ともに防衛省に納入した航空機部品で代金を課題に請求していた事例が見付かったことを公表したという報道でした。この時は何で同じ日に公表?くらいにしか思っていませんでした。

KYBに関しては、例の免振装置の改ざんに関する調査の過程で、従業員らが自己申告して発覚したといいます。まぁ、このプロセスは理解できますよね。KYBにとっても横展開ということで、当然炙り出すべきものが炙り出せたということになります。

住友精密がほぼ同じタイミングで公表してきたところがよく分かりません。KYBは航空機のブレーキなどの部品、住友精密は航空機の脚部で9割以上のシェアがあるといいますから、脚部に関しては両社で作っていたんでしょうか。防衛省に対する報告タイミングとしては同日だったようですが、KYBが「過大に計上した可能性がある」と報告したのに対し、住友精密は「報告を準備している」と連絡してきたということらしいです。何となく状況推測できますね。

防衛省に対する過大請求

防衛省ってかなり適当な管理しかしてないんですかね。昔も確かあったよな、、、と思いながら調べてみると、やはりありました。2008年には極東貿易、2012年には三菱電機、住友重機、これらの関係会社5社が、2013年には島津製作所が防衛省に対する過大請求を公表しています。

また、2018年には東京航空計器という非上場会社が26憶円を過大請求していたとして、延滞金、違約金も含め70億円を防衛省に納入しています。

これらの中でも三菱電機の件は強烈です。防衛事業では40年近く、宇宙事業では20年にわたって、過大請求をしていました。過大請求が確認できた過去17年間を対象に、グループ会社含めて合計374億円を過大請求。返納金、違約金、延滞利息の合計773億円を返還しています。この事件今だったら大変なことになってますよね。

防衛省が支払うのは血税です

防衛省への過大請求、我々民間人に直接被害が及ぶわけではありませんから、騒ぎが大きくならないように思います。今回の2社の件についても、今のところそれほど大きく取り上げられていません。

しかし、防衛省が支払うのは我々国民の血税ですからね。請求する方も支払う方も真剣な対応をしてもらわなければ困ります。防衛省に群がる防衛装備等納入業者、しっかりチェックしていきたいところ、今後の調査結果公表を待ちましょう。