資金運用とオルタナティブデータ

10連休中の日本経済新聞で「新顔データ、投資先読み「位置情報」「POS」「SNS投稿」… 欧米先行、価格は高騰」という長いタイトルの記事が掲載されていました。オルタナティブ(代替)データ」と呼ばれる情報は、公表されるデータを先読みするのに使われ、欧米ファンドが活用している情報。そのデータ価格が高騰しているというお話。

オルタナティブデータ

日経で紹介されていたのは、テスラ株式が高騰する原因にもなったケースで、スマホの位置情報を収集・分析することで、テスラの工場への作業員が増加し、フル生産になってきていることを把握できたという事例でした。工場内に一定時間とどまっている位置情報が多ければ、それだけ働いている工場作業員が多いことがわかるというわけですね。

こうしたデータとして、他にもSNS情報のほか、小売店情報、政策予測、求人情報などがあるとしています。小売店情報の中からは、クレジットカード情報や、POS(販売時点情報管理)データが紹介されてます。

さらに、上場企業の経営者の会見内容をAIで分析して、経営者の本音を探るサービスや、人工衛星画像で工場の生産状況を探るサービスなんかもあるそうです。いやぁ、凄いことになってきましたね。しかし、日本の機関投資家はこうした動きに乗り遅れているんだそうです。

当然規制も必要に

衛星画像のサービスを引き合いに日経でも書かれていましたが、当然、インサイダー取引の観点からの規制が予想されます。企業の内部者しか知り得ないインサイダー情報に限りなく近づくということと、それが可能になるのがごく一部の限られたリッチな投資家であるということがポイントです。

また、こうした限られた機関投資家だけが有利なツールを持っているとなれば、当然個人投資家は市場から退出していくことになります。敗者が居るからこそ勝者が生まれるゼロサムのマーケットです。個人投資家の離散は市場に致命傷を与えてしまうことにならないよう、規制が必要になってくるわけです。

早い者勝ちって訳でもないんですが

ただ、情報が公表されるよりも、いち早く情報を知りえることで、必ず相場で勝てるというものでもないんですけどね。相場の格言に「頭と尻尾はくれてやれ」なんていうのがあります。ある銘柄の上昇相場があったとして、相場の大底での買いや相場の天井での売りを当てようと思うな。みたいな意味で、相場の頭と尻尾の部分を上手くとらえるのは難しいもので、そんなところで失敗せずに、魚でいうと身の美味しいところを取りに行きなさいという格言なんですね。

最後に、連休前4/23の日経に出ていた記事も紹介しておきます。「東証、データ事業で実証実験 アスタミューゼと連携」。この記事って、まさにオルタナティブデータを機関投資家に提供して東証が儲けようとしているという記事です。相変らず個人投資家を軽視した胴元ぶりです。

千代田化工に1500億円支援 三菱商事

10連休最後の日の日本経済新聞の一面トップ記事です。三菱商事はプラント会社大手、千代田化工建設の経営再建を支援する方針を固めたとのこと。千代田化工は2019年3月期に大幅な最終赤字になる見通しだが、液化天然ガス(LNG)プラントの高い技術をもつ千代田化工の再建を支援していくそうです。

最終赤字は1500億円に拡大

千代田化工の2019年3月期の業績については、昨年から報道されていましたが、昨年11月時点では最終赤字1050億円とされていました。それが一気に1500億円まで拡大。主因は米ルイジアナ州で14年から工事を進めるシェール由来の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「キャメロン」。記事ではハリケーンの復興需要によるとしていましたが、労働者不足を背景に人件費の単価が上昇し、約850億円の追加工事費用が発生したということです。

自己資本比率は18年3月末の37.5%から12月末に7.7%まで落ち込んでいるようで、自己資本比率の改善のため、33.4%の株式を保有する大株主の三菱商事が再度、再建に向けた優先株による第三者割当増資を引き受け、融資も実施するということです。

プラント事業の怖さ

千代田化工がこうした危機で支援を受けるのは3度目です。ということは過去2回についてはちゃんと再建したということ。今金融の世界で起きている危機とは全く異質のような気がします。記事にもありましたが、今後の液化天然ガス(LNG)プラントに関する将来性はかなり明るく、高い技術をもつ千代田化工の再建は日本のインフラ輸出戦略の試金石となるというわけです。

千代田化工は、クリーンエネルギーとして注目されているLNGの製造プラントにおいて48%という驚異的なシェアを持っているそうで、これほど世界ブランドとしての地位を確立している日本企業は今では珍しいですよね。しかし、そんなブランド企業でもこんなふうに業績が一気に悪化してしまうというのがこの業界の恐ろしいところです。

工期が長く、その間の原油、LNG市況の変動や、資材の価格変動、製造要員の人繰りなど、いわゆる受注案件の工程管理の難しさがこの業界のキモのようです。その工程管理能力を向上させるために三菱商事が乗り出し、さらに今回三菱商事流の管理を浸透させようということのようで、一昨年には三菱商事出身者が社長に就任しています。

三度目の正直

とまぁ、非常に難しい業界ではありますが、三菱商事の力の入れようからもこの業界の将来性は窺えるというもの。ESGの推進という環境の後押しもあり、同社の再建が成功するのか見守っていきたいと思います。一度目の再建場面では、kuniの友人のアナリストが当時ボロ株だった同社株を強く推奨していて、その後株価が大化けした記憶があります。今回も期待したいところです。頑張れ千代建。

京王観光 JRに対するキセル 調査報告書(その2)

大阪支店や大阪西支店は、合併した桜菊観光株式会社の社員で構成されていて、交流人事を行って来なかったため、独自の組織文化が維持・継承されて、強い利益意識と合わせて、不正行為やその他の問題行為を生み出す温床となっていたという原因分析。

合併後の人事交流

企業同士の合併において、合併交渉から合併後の施策にまで、最も重要なのが両社のカルチャーの違いをどのように融和していくかという点です。多くの場合、どちらかのカルチャーに寄せていくことになると思いますが。そのため、合併後速やかに人事交流を行い、お互いの社員が打ち解けていくよう促していくものです。普通はこの作業、合併後の3年間くらいで何とかなるものなんですが、京王観光はこれを50年間ほったらかしていたということですね。ちょっと普通は考えられません。

処罰と再発防止策

代表取締役社長の「月額報酬の 30% 3 ヶ月 減俸」のほか、5人の取締役について報酬減俸とし、監査役も自主返上するとしています。また、本件不正行為に関与した社員については、着服の事実も勘案し、弊社の就業規則に基づき、解雇を含む厳正な処分をすると言ってますので、多くの旧桜菊観光社員が解雇されると思われます。

再発防止策においては、この不正行為の一因となった大阪地区の特殊な風土を改革するため、大阪支店・大阪西支店の支店長を更迭し、大阪西支店を大阪支店に統合、東京から新たな支店長を赴任させた。としていますし、今後の対応としても、この不正行為を行っていた大阪支店は閉鎖とし、既存のお客様への対応要員を東京本社直轄の駐在事務所として残すほかは、首都圏を中心とした他支店及び本社へ異動させるとしています。

解雇を免れた社員も首都圏に異動させられ、不正を働いた社員の同僚として扱われ、、、これでほぼ旧桜菊観光の社員は解雇され、または退職に追い込まれておしまいということになるんでしょう。合併後に不正の温床になりかねないカルチャーを一掃できなかったために、不正が発生したのちに社員を一掃するという結果になってしまいました。

京王電鉄社長も減俸

京王観光の不正行為を受けて、京王電鉄の役員に関する処分も公表されました。代表取締役社長の紅村氏が月額報酬の 30% 3 ヶ月を自主返上するとのこと。同氏は京王電鉄の社長に就任する前、当の京王観光の社長を務めていた人物です。

50年間にわたり大阪支店、大阪西支店を別会社扱いし、閉鎖的なカルチャーを改善できなかった張本人。当然の処分でしょうね。しかし、500人の会社をコントロールできなかった人に、2500人の会社任せてて良いんでしょうか。株主総会で一悶着ありそうですね。

京王観光 JRに対するキセル 調査報告書

連休入り直前の4/25、京王観光の例のキセル事件に関する第二次調査報告書が公表されていました。が、しかし、この件は日本経済新聞は報道していません。「京王観光に1.8億円請求 不正乗車でJR6社」という記事は確かにあったんですが、これはJR各社の側からの公表内容でしかありません。日経さん、これはちょっと不可解な対応ですね。

キセルの調査結果

4/25に京王観光のホームページでひっそりと公表された調査結果。事件の概要は以下の通りです。
(以下引用)
新幹線を利用する大型団体旅行案件の一部について、JRから貸与された同社内のJR券発券システム(マルス端末)にて、乗車している人数より少ない団体乗車券を発券し、実際の乗車人数と発券した団体乗車券との差分については、別途指定席料金込みの回数券を発券することにより旅行を催行し、検札印がない回数券が生じた場合には、旅行終了後、不正に回数券を払戻しすることにより、払い戻し額を利益として計 上していたほか、一部を個人で着服していたものです(引用ここまで)。

大阪支店、大阪西支店、福岡支店の計3支店で、当時の支店長を含む、当該3支店在籍の合計12名が関与しており、そのうち、お金の一部を私的用途に着服していた者が4名いたということです。ちなみに、この会社、全13支店で、従業員500人弱という規模です。

保存されていた最も古いデータである2007年4月以降で算定した不正は、約110件。金額にして約6000万円と公表されています。この結果を受けて、JR各社がその3倍の1億8100万円を請求するということになったわけです。京王観光は5/31までに支払うとしています。

不正を行ったのは自社の社員ではない?

この調査報告の内容で驚いたのは、このような不正を働いたのは京王観光の社員ではないとでも言っているかのような説明がされている点です。再度引用します。

1969年に関西に地盤のある桜菊観光株式会社と合併いたしました。大阪支店は、桜菊観光株式会社の流れをくむ支店です。当該支店の社員は、実態として首都圏や他地域への転勤はほとんどありませんでした。

また、東京やその他の支店からの社員の赴任もほとんどなく、現地出身の社員が内部昇格していく人事を行っていたため、独自の組織文化が維持・継承されてまいりました。前述の強い利益意識と合わせて、本件不正行為やその他の問題行為を生み出す温床となっていたものと考えております。

大阪地区の支店は改編を繰り返して現在の大阪支店へ集約されてきた経緯があるため、この組織文化は大阪地区旧2支店に共通したものとなっておりました。なお、福岡支店につきましては、2015年4月に開設した際に、大阪支店から異動した1名(本件不正行為者)が大阪支店での担当案件を引き続き福岡支店で担当し、本件不正行為を継続していたものです。(引用ここまで)

なんなんでしょうね、これ。合併会社を切っておしまいみたいな。。。長くなりましたので、本日のところはここまで。続きは次回に。

令和とクーデター

日本で新しい時代令和がスタートしましたが、これとほぼ同じタイミングでクーデターか起きた国があります。地球の裏側、南米のベネズエラです。以下日本経済新聞からの引用です。

ベネズエラの野党指導者グアイド国会議長が4月30日に呼びかけた事実上のクーデターは同調する軍人が一部にとどまり、不発に終わりつつある。独裁体制を固めるマドゥロ政権に追い詰められた野党陣営の「賭け」は自らを窮地に追いやる結果となった。野党陣営は1日、大規模デモを計画するが、政権打倒の道筋は見えにくくなった。(引用ここまで)

ベネズエラ

ベネズエラは元々コーヒーやカカオなどの農業が中心の国でしたが、20世紀前半から石油輸出額が第一次産品を抜き、1950年代にアメリカ合衆国、ソ連に次ぐ世界第三位の産油国となりました。その後1960年代、1970年代を通して高成長が続き、一人当たりGDPでは南米一に上り詰めています。

その後1983年、原油価格が下落に転じるのに合わせ、20年前の状況にまで経済状態は悪化します。このことから、ベネズエラは「失われた三十年」を経験したとの分析も存在するそうです。ちなみに原油の埋蔵量は世界一とも言われています。

資源に乏しく、そのために戦争や高度成長を経験した日本と、資源に恵まれたがゆえに原油の市況や原油を巡る外交に振り回されたベネズエラ。まったく環境の違う国ではありますが、ほぼ同じ時代に失われた30年を経験した国という共通点があるわけです。

自ら決意して変化を起こす

今回クーデターにまで発展した経緯の詳細や、クーデターが失敗しそうなことなどはともかく、グアイド国会議長たちは自ら決意してクーデターを引き起こしました。それに比べると日本の新時代は平和で計画的に訪れています。もちろん日本の方が幸せなんですが。。。

新年を迎える時も、いったんゼロリセットして新たな年というか、新たな自分をスタートさせる日本人。与えられたきっかけでしかスタートを切れない人が多いんですかね。きっかけは自分での意思で作っていきたいものです。

ほぼ同じタイミングで訪れようとした日本とベネズエラにとっての新しい時代。祝賀ムードで迎えた日本と、決死の思いで手に入れようとしたベネズエラという好対照。地球の裏側での出来事ですが、何か他人事のように思えないんですよね。