日産自動車 24億円の課徴金? 課徴金計算方法

先週、突然こういうニュースが流れ始めました。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏が役員報酬を有価証券報告書に過少記載したとして金融商品取引法違反の罪で起訴された事件で、証券取引等監視委員会は日産に対して課徴金を科すよう金融庁に勧告する方針を固めたとのこと。監視委は「報酬隠し」が投資家の判断に与えた影響は大きいと判断したもようで、課徴金額は少なくとも約24億円にのぼる見通し。

証券取引等監視委員会の告発内容

ニュースではゴーン氏逮捕の後もいろいろと余罪が聞こえてきましたが、監視委員会が告発しているのは、虚偽有価証券報告書提出について、昨年12月と今年1月の二回です。最初が23年3月期~27年3月期の5期間の有価証券報告書について。後者が、28年3月期~30年3月期の3期間の有価証券報告書について。

いずれも、それぞれ、重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した。という内容です。虚偽の記載というのが、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」欄内、「役員ごとの連結報酬等の総額等」の欄に、ゴーン氏の総報酬及び金銭報酬を実態より過少に記載したことですね。

24億円はどうやって計算?

有価証券報告書の虚偽記載に関する課徴金の計算方法を金融庁のホームページで調べてみました。「虚偽記載等のある有価証券報告書等を提出した発行者が発行する算定基準有価証券の市場価額の総額の10万分の6又は600万円のいずれか高い額」となっています。

そこで、勉強するつもりで、日産自動車株式の時価総額を調べ、計算もしてみました。

23年3月期末  3兆3362億円   2億17万円
24年3月期末  3兆9827億円   2億3896万円
25年3月期末  4兆912億円    2億4547万円
26年3月期末  3兆8563億円   2億3137万円
27年3月期末  5兆1328億円   3億796万円
28年3月期末  4兆3435億円   2億6061万円
29年3月期末  4兆2011億円   2億5206万円
30年3月期末  4兆3170億円   2億5902万円

左側がその期末株価で計算した時価総額で、右側が時価総額に10万分の6を乗じた金額です。いずれも600万円をはるかに超えていますので、この金額が課徴金になると思われます。8期分全部合計で19億9562万円になります、、、が、こういう計算であってるんだろうか。

約4億円の差は何か?

新聞等が報じている24億円とは、約4億円の差が出てしまいました。以前東芝が、有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令を受けた際、有価証券報告書を参照書類とする発行登録追補書類を提出し、同発行登録追補書類に基づいて発行した社債券についても課徴金が課されていました。東芝のケースは純利益の過大計上ですからね。

こちらは、課徴金の計算方法が「募集・売出し総額の2.25%」となっていて、かなりインパクトデカいです。もし日産がこの期間中に1000億円のSBとかを発行していれば、それだけで22億5000万円の課徴金になります。残念ながら海外子会社まで含めた社債の発行状況まで調べられませんでした。っていうか、ここまでの計算結果についても自信がないというか、kuniの試算ということで、、、悪しからず。

欧州委員会 キャノンに制裁金34億円 ガンジャンピング

6/28付け日本経済新聞に小さく載っていた記事です。欧州連合(EU)の欧州委員会はキャノンがEUの競争法(独占禁止法)の買収ルールに違反したとして、2,800万ユーロ(約34億円)の制裁金を科すと発表したことを伝えています。

ガンジャンピング

この制裁金の決定は、2016年にキャノンが旧東芝メディカルシステムズの株式を取得した件に関するものだそうです。キャノンのホームページでも既に開示されていました。「ガンジャンピング」にあたるとして制裁金を科しているとの記述がありまして、、、「ガンジャンピング」ってなに?、ということで調べてみました。

M&Aにおける競争法(独占禁止法)に関係する論点の一つ。ガンジャンピングは Gun jumping のことだそうで、つまり陸上競技におけるフライングの意味なんだそうです。企業が合併や買収を行う際に、当局の承認を得る前に行ってはならない行為をフライングしてしまうことです。

この禁止されている行為というのが、「企業結合規制によって必要とされる事前手続きを取らないままにM&A取引を実行」する行為(届出義務違反)であったり、「事前手続きの完了後でなければ許されない行為を完了前に実施」する行為(待機義務違反)なんだそうです。他にも、競争機微情報の交換というカルテル規制違反とかもあるようです。キャノンのケースは届け出義務違反の嫌疑です。

企業結合規制

今回のキャノンによる東芝メディカルシステムズの買収、もちろん日本における日本企業同士の企業結合です。日本企業同士であっても、海外で事業を行っている場合は、こんなふうに外国の独占禁止法による制裁金を科されることがあるということです。

この規制の内容が各国で違っているみたいで、そういった規制を知らずに後から刺されて制裁金を食らってしまうケースが多いとのこと。今回のキャノンのケースも調べてみると、日本の公正取引委員会が注意喚起したのに加え、中国から30万人民元の罰金なんてのも出てきました。問題視しているのは欧州委員会だけではなかったようです。

スマホに押されて本業のカメラが不調のキャノン。前年度メディカルシステム部門で売上の11%、4,375億円を稼ぐほどこのM&Aの成果が出ています。ここで34億円といえどもケチを付けられたくないでしょう。ホームページでは以下のようにコメントしています。

「キャノンとしては、欧州委員会の判断は、根拠となる先例を欠き、EU企業結合規則および欧州司法裁判所の判例法にも矛盾するものであることから、同意できるものではないと考えています。そのため、キャノンは、本決定については欧州司法裁判所に提訴する予定です。」

三井住友信託の投信販売 R&Iが「S」評価

6/27付け日本経済新聞の小さな記事です。「三井住友信託の投信販売を評価 R&I、2番目の『S』」というのがタイトルです。格付投資情報センターのR&Iが、三井住友信託銀行の投資信託の販売姿勢の評価を「S」に格付けしたと発表しました。「S」は5段階評価で2番目に高い評価で、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー=FD)の観点から「多くの優れた要素がある」と判断したとのこと。

半年ぶりの第2弾の公表

記事としてはこれくらいのことしか書いてなくて、三井住友信託さんには非常に気の毒というか、、、。おまけに、2番目の評価と書いていますが、最上位の「SS」は未だ取得した販売会社はありません。そのくらいは書いてあげないとね。実質的には最上位の格付です。

今回の発表は第2弾にあたり、前回の発表が昨年12月ですから、半期に一回のペースで開示していくんですかね。せっかくですので、第1弾で発表された販売会社を載せておきます。

「S」評価の販売会社
野村證券、福岡銀行、みずほFG、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、三井住友FG、三井住友銀行、SMBC信託銀行、

「A+」評価の販売会社
いちよし証券、伊予銀行、大和証券、北洋銀行、丸三証券、SMBC日興証券

「A」評価の販売会社
四国アライアンス証券

評価の概要と手続き

銀行、証券会社などが、いかに投資信託の販売において「顧客本位の業務運営」を行っているか、その取組方針や取組状況を依頼に基づき、中立的な第三者の立場から評価します。投資信託の購入に際してアドバイスを必要としている個人投資家が販売会社を選ぶ際に、この評価を参考指標として利用することを想定しています。(R&IのHPより)

この概要の中にもあるように、この格付は販売会社からの依頼(もちろん有料です)に基づき評価されます。そのため、各社ともそれなりに高い評価が得られるという自信のある販売会社だけが格付けの依頼をするものと思われますし、低い評価結果がないのはそのためだじゃないかと思います。

アドバイスを必要としている個人投資家のためになる情報提供を目指しているわけですから、「評価結果の良くなかった販売会社は公表しない」ということではないと思うわけです。しかし、そう考えると第一弾が発表された後、格付けの依頼をした販売会社が三井住友信託1社だったということになりますね。これも少し考えにくいなぁ。

格付の依頼って結構お高いですし、依頼すると必要な資料等の請求があって、この資料の提出も事務方にはかなりの負担になります。だから、思ったほどに依頼が集まっていないのかも。などと推測しますが、、、R&Iさん、こんな感じなんでしょうか?

*** あとから追記 ***

6/28付でR&Iが追加発表しています。横浜銀行は「A+」、横浜銀行の子会社である浜銀TT証券は「A」の格付けが付与されました。

ゆうちょ銀行の次はかんぽ生命(その2)

いやいや、かんぽ生命、、、書いた途端に新しいニュースです。「顧客が新しい保険契約に乗り換えできずに不利益を被った事例が18,900件」出てきました、、、だと。

これはかなりひどい話ですね。乗り換えを勧められて、既存の契約を解約し、新しい契約を結ぼうとしたら、健康状態や病気を理由に断られる。って、こんなの顧客はよく我慢してきたもんです。たぶん相当の苦情等が来ているはず。

保険金の上限が2,000万円に決まっていて、新旧の契約を併存させにくいとか、契約転換の制度がない(そのため乗り換えでしか対応できない)とか、いろいろ言いたいことはあるのかもしれませんが、顧客のためにならないことはやっちゃいけません。で、こうして大問題になってから、契約転換システムを導入します、、、って、できるんじゃんって話です。

自社の都合や事情で顧客に不利益を与え続けてきたかんぽ生命。さらに、十分な調査が行われる前に「不適切な販売にはあたらない」と発言してしまう執行役員まで。平時の顧客対応も、緊急時の経営判断も、三流ですね。こりゃスルガ級の不正・不祥事に発展するかもしれません。

ゆうちょ銀行の次はかんぽ生命

先日、「ゆうちょ銀行、高齢者向け投信で不適切販売」について書いたばかりですが、今度はかんぽ生命。過去の契約を新しい契約に変更する「乗り換え」などで、「不適切な販売を高齢の契約者らに繰り返した疑いがある」と朝日新聞が伝えました。

保険乗り換え実態調査「不適切と認識せず」

一方の日本経済新聞では、かんぽ生命で実態調査が行われたことと、その結果についてかんぽ生命が「不適切な募集とは認識していない」と説明しているところまでしか伝えていません。約300件については、契約者にヒアリングを実施したところ、数十件で既存契約のまま特約が付加できるケースがあり「違う提案ができたケースがあるという」。ってな感じで、不適切だったのかどうか、結論がはっきりしません。

その他の報道を見ても、不適切と言い切れるほどの話が出てきていませんので、今のところは「契約者の負担が増えるような保険の乗り換え契約をしていた」とまでしか言えないということでしょう。法令違反や規則の違反はなかったとしても、顧客本位の業務運営にこれほど神経質になっている金融の世界ですから、かんぽ生命も十分アウトです。

両社ほぼ同じタイミングで調査・公表が

昨年の取引や契約について今年になって調査を開始し、ほぼ同じ6月中旬に結果を公表というこのタイミングの一致は何を意味するんでしょう。顧客からの苦情か、内部通報による気付きなのか。いずれにしても親会社の日本郵政が各社に点検を指示したのではないかと思われます。

2017年度と2018年度の業態別投信販売額比較を見てみると、メガバンク、地方銀行、第二地銀、主要信金、大手証券、準大手証券、ネット4社、いずれも17年度に比べて投信販売額はかなり落ち込んでいます。主要信金だけが下落率10%未満と健闘していますが、メガバンクに至っては46%の減少になっています。

そのような環境下で、ゆうちょ銀行だけは7,306億円から8,905億円と、21.9%投信販売額を増加させているんです。スルガ銀行についても何度も書きましたが、業界の動向と大きく乖離した好成績、必ずその要因を分析しておく必要があります。多くの場合、他社がやっていないような不正が隠れているものです。

これはkuniの推測でしかありませんが、業界動向に比べて極めて好調な投信販売実績について、日本郵政が点検を指示した可能性はありそうです。だとしたら、スルガ銀行よりはマシだったということになります。しかし、貸付けができないゆうちょ銀行、投信販売を強力に推進するわけですから、当然そこにコンプライアンス・リスクがあることを前提とした経営のリスクマネジメントがあってしかるべきでした。経営陣のリスク感覚が甘すぎたのは事実です。