JSP(7942) 欧州子会社における資金流出事案 ビジネスメール詐欺

株式会社JSPは4/30、「当社欧州グループ会社における資金流出事案に関する調査結果及び再発防止策の策定並びに役員報酬の一部自主返上に関するお知らせ」を公表しました。この資金流出事案に関する第一報は、昨年11月に公表されています。

株式会社JSP

株式会社JSPは、東京都千代田区に本社を置く、発泡プラスチックの製造・販売を行う、日本の化学メーカー。三菱瓦斯化学が同社の発行済み株式51%を保有する連結子会社です。海外にも多数展開していますが、今回被害に遭ったのはチェコの現法ですね。

BEC

開示された情報によると、どうやらBECのようです。BEC(Business E-mail Compromise)は、業務用メールを盗み見して、経営幹部や取引先になりすまし、従業員をだまして偽口座に送金させ、資金を詐取するというサイバー攻撃の一種です。先月には、加賀電子の米国子会社において、同様の事案が発生していました。

資金流出事案

欧州グループ会社であるチェコの財務マネジャーが、悪意ある第三者から買収案件に係る資金を内密に送金するよう虚偽の指示を受け、10月20日から11月4日の間、複数回に渡り送金を実行し、合計 約10億円に上る資金を流出させた、と説明されています。「買収案件に係る資金を内密に」とありますので、犯人がなりすましたのは同社の経営幹部でしょうね。

ちょっと気になること

開示によると、「欧州グループ会社における本事案関係者の処分につきましては、解雇、降格または報酬減額といたしました」とあります。解雇されたのは財務マネジャーでしょうか。同社グループ会社役職員の資金詐取行為への関与はないとしています。騙された従業員を解雇というのは、いかがなもんでしょう。

ユニデンホールディングス 第三者委員会を設置

ユニデンホールディングス株式会社は4/30、「第三者委員会設置のお知らせ」を公表しました。昨年6月に公表した不正会計に関する「日本語版調査報告書」について、英語版調査報告書を日本語に翻訳する際、改変が行われた疑いがあることを把握したためとしています。

調査結果と改善提案

というのが昨年6月に公表した調査報告書のタイトル。その内容は明らかに英語版を翻訳しました、って感じの日本語で、読んでて気持ち悪くなってくるような報告書でした。よくこんなの公表したもんだ、、、と、当時思ったものです。

その英語版調査報告書を翻訳する際に、「調査対象事項に関する責任の所在・背景を不明瞭にする改変が行われた疑いがあることを把握した」ということです。英語版は昨年4/30に受領し(未公表)、同6/3に日本語版を公表していました。この間に改変が行われたということですね。

調査の対象となった不正

そもそもの事件は、少なくとも2017年以降、UAC(ユニデンアメリカ)、およびUAUS(ユニデンオーストラリア)で、収益を水増しするための不正会計が行われていたというもの。これを海外の会計事務所に調査依頼して出てきたのが英語版調査報告書です。

責任の所在・背景

ところが、実は和訳する段階で責任の所在をうやむやにするような工作が行われていたというわけですね。当然考えられるのが取締役等、経営陣の関与についてでしょう。

そこで気になるのが、改変が行われて3ヶ月後の9/25、創業者の代表取締役会長が退任していること。不正会計の発覚などで遅れていた2020年3月期連結決算の確定作業にめどが立ったと判断し、本人の意思で退任しています。

まぁ、この方が直接関与したかどうかはともかく、第三者に依頼した調査結果を社内で書き換えていたんではねぇ。今度こそは、まともな調査結果を期待したいものです。

ショーエイコーポレーション 従業員の不正行為 外部調査委員会を設置

ショーエイコーポレーションは4/30、「外部調査委員会設置及び決算発表予定日の延期についてのお知らせ」を公表しました。同社営業部門の従業員の関与が疑われる、不適切な取引が発覚したとのこと。外部調査委員会を設置して調査を進めるということです。

ショーエイコーポレーション

ショーエイコーポレーションは東証一部上場、プラスチックフィルムを主材料とした包装資材を企画、製造、販売しています。主力製品のヘッダー付吊り下げ袋「ネオパック」は業界トップシェアだそうです。百均やスーパーとかでみる、陳列棚に掛けられたフックに吊り下げ可能な袋のことみたいです(ちょっと自信ないけど)。

発覚した不正行為

例によって第一報かつ調査委員会設置の段階ですので、詳細は不明です。この事案、2021年3月期決算作業を進めていた際に、不適切な取引ではないかとの疑いを認識したとのこと。

開示文によると、「当該従業員が関与した疑いのある、モノの手配や製作並びにプロモーション等のサービスを伴っていない取引であることが発覚した」と説明されています。また架空取引ですかぁ。

判明している範囲での本件取引の期間は2015年3月から2021年3月であり、会計期間毎の影響額は売上高 約1億円から約4億円、営業利益 約15百万円から約56百万円に及ぶとのこと。

「会計期間毎の」とありますから、売上高で1期平均2億円だとすると、掛けること7期分で14億円ということになるんですかね。平均3億円なら20億円を超えてきます。こういう表現の仕方珍しいですが、トータルでの不正金額、かなり大きくなりそうです。

決算発表

同社では、外部調査委員会の調査終了を6月中旬と見込んでおり、そのため、5/10に予定していた2021年3月期の決算発表も、6月中旬以降になる予定としています。ゴールデンウィークもあり、調査期間は実質的には1ヶ月ちょっとしかありません。間に合うんでしょうか。

東レ 従業員の不正行為

合繊最大手の東レは4/27、「当社元従業員による不正行為について」を公表しました。同社のホームページで確認できます。が、しかし、適時開示はしていません。日本を代表する企業なんですが、開示に関してはずいぶんと雑ですね。これはいただけません。

不正の概要

同社の説明によると、元従業員が担当する繊維を販売する商流において、糸加工の業務委託に関連し、長年にわたり当該業務代金を委託先から自らに環流させ、着服した不正行為とのこと。社内調査では、現在までに約2億5千万円の着服を確認しているといいます。還流させる資金を作るために、架空取引?、水増し取引?、その辺りの説明はありません。

また、当該商流の一部において、本来あるべき時期よりも早期に、販売先に対する売上を計上するという不適切な会計処理があることも確認されたとしています。不正行為が明らかになったため、当該元従業員を今年4月27日付で懲戒解雇処分としたそうです。

従業員一人の不正行為でいいのか

酷い開示ですね。行為を行った従業員の性別、年齢すらも分かりません。まず懲戒解雇ありき。こういう会社はどうも信用できません。多くの企業が第三者委員会等を設置し、企業にとって都合の悪いことまでも含めて、第三者の目線で調査してもらっています。

行為を行った者だけではなく、当該行為が発生するに至った様々な問題点を解明し、再発防止に役立てる。そういう視点がなさそうですね。まず行為者を切り捨て、被害がほかへ拡大するのを防いでいる、、、かのように見えてしまいます。

同社では2019年2月にも、従業員の不正行為(有印私文書偽造、同行使罪等)が発覚しており、この際も同従業員を懲戒解雇したという開示だけで済ませていました。経営やマネジメント等における問題は何ら解決されていないのではないか。そう感じさせますね。

ケンコーマヨネーズなど 役員退職慰労金制度の廃止

ケンコーマヨネーズ株式会社は4/27、「役員退職慰労金制度廃止に関するお知らせ」を公表しました。同じ日、モリテック スチール株式会社も、同じく役員退職慰労金制度の廃止を公表しています。最近よく目にするんですよね、この制度の廃止に関するお知らせ。

役員退職慰労金制度

役員退職慰労金とは、会社の役員である取締役や監査役が退職した際に支給する対価のこと。会社法上の規制等の違いはありますが、従業員の退職金みたいなものです。長年その企業のために尽力してきた役員に対し、その功績に報いるという目的でこの制度が使われてきました。

その役員退職慰労金制度の廃止を決定する企業が、最近目立ってきました。冒頭紹介した2社のほかにも、ここ1カ月間に、中央製作所、リゾートトラスト、カチタスの3社も決定を開示しています。株主総会に付議するためこの時期に決定するという事情もありますが、新型コロナの影響で業績が悪化し、、、というのも理由の一つでしょう。

役員報酬制度の見直し

今回紹介した5社はいずれも、役員退職慰労金制度を廃止するとともに、役員報酬制度の見直しを表明しています。ケンコーマヨネーズの開示では、「役員報酬制度の見直しの一環として、後払い的要素が強い本制度を廃止し、業績との連動性を高めた報酬制度設計へ移行する」と説明しています。

他の4社も異口同音に自社の業績との連動性を強める方向へ、役員報酬制度を見直そうとしてます。この流れは止まらないでしょうね。

現役員の制度廃止までの在任期間に対する退職慰労金は、もちろん支払われます。このことを「打ち切り支給する」と言うんですね。各社同じ言葉を使っています。初めて聞きました。

継続雇用や再雇用といった制度がない役員。退任時に入ってくる(あらかじめ計算できる)退職慰労金、ありがたいんですけどね。