内部監査部門が発見した不祥事は監査役に報告

日本経済新聞で「経営陣の不祥事、監査役への報告優先を」という記事が掲載されました。経済産業省が新たにまとめるグループ会社の企業統治(ガバナンス)に関する指針の中で触れられているようです。東京証券取引所と金融庁が制定した、上場企業向けの企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を補う位置づけで、6月をめどに公表するみたいです。指針ですので、法的な拘束力はありません。

コーポレートガバナンス・コード

ということで、コーポレートガバナンス・コードではどのように書かれているかをチェック。まず、【原則2-5.内部通報】 補充原則 2-5① では以下のように、経営陣による隠ぺい等に配慮した記述があります。

「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備 すべきである。」

また、内部監査部門との関連では【原則4-13.情報入手と支援体制】 の補充原則4-13③ では、以下のような記述があります。

「上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。 また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。」

経済産業省の指針

そして今回の経産省の指針が言っているのが、「企業の内部監査部門が経営陣の関与が疑われる不正を確認した際、経営陣ではなく監査役への報告を優先させる規定を設けるのが望ましい」ということ。経営陣の関与が疑われる不祥事が内部調査で判明しても、報告先が経営幹部だともみ消されるのではないかとの懸念が消えないからだと言います。

現在のコーポレートガバナンス・コードは、内部通報する際や内部監査部門が発見した際の報告先について、取締役と監査役にという記述になっており、特に経営陣が関与している不正という前提については配慮されていなかったということですね。

しかし、なんで今回は経産省なんでしょうか。指針では、「急増するサイバー攻撃対策では、グループ会社やサプライチェーン全体の対処を進めるよう求める」なんてのもあります。こちらは経産省が推進するのも分かるんですが、内部監査部門の報告先についてはよくわかりません。

野村證券に業務改善命令

またまた野村です。金融庁は野村証券と野村ホールディングスに金融商品取引法に基づく業務改善命令を出す方針を固めたという報道です。東京証券取引所の市場区分見直しに関する情報を一部の投資家に漏えいした問題についての金融庁の判断ですね。野村証券に対する行政処分は2012年のインサイダー問題以来だそうですが、ここのところ不祥事だらけで常連さんのイメージです。

大崎貞和フェロー

情報を流したのは野村総合研究所の大崎貞和フェローという人物。東証が設置した市場区分に関して議論する有識者懇談会のメンバーです。この「市場構造の在り方等に関する懇談会」での議論・情報を野村証券のストラテジストや機関投資家を顧客に持つ営業員に伝えていたというお話。

この事件は3月下旬に発行されたFACTAという雑誌が報道していました。この情報が機関投資家に対して、野村証券のビジネスとして提供されていることから、会社ぐるみの対応ではないかとも言われています。大崎氏はこの報道を受けて政府の国会同意人事案から外されたりしてますね。

漏えいした情報

実際に機関投資家等に提供された情報というのが、「東証は一部上場・降格基準を250億円にしたい意向」というものらしいです。当時、降格基準は時価総額500億円ではないかとの観測がありました。そのため500億円未満だからとして売られていた銘柄は、買戻しが入るかも、、、みたいな感じで情報提供されているらしいです。

これって情報漏えいではなく、立派に積極的な情報提供ですよね。金融庁はインサイダー取引には当たらないとしているようですが、一連の行為は相当酷いです。ただ、一方で、「野村は主幹事企業の一部上場という地位を守るために、意図的に情報を流して議論を潰したのではないか」なんていう見立てまであるようです。

コンプライアンスの鬼門 プロフェッショナル

今回の業務改善命令、主役は政府が頼りにするほどの有識者。いわゆるプロフェッショナルはコンプラ的には非常に扱いにくい存在です。高度な専門性を有するが故、企業は非常に高い報酬で報います。高収入の彼らは一般的な社員とは別という感覚を持ちやすく、そのため会社のルールを守らない傾向が強いんですね。また、この手の輩は短期間で企業を退職し、別の企業に転職していく傾向もあり、会社に対するロイヤリティも低くなりがちという事情もあるような気がします。

終身雇用や年功制が廃止される方向に進んでいますが、一方で会社を次から次へと渡り歩く専門性の高い社員達に対して、コンプライアンスをいかにして徹底していくか。これは意外に大きくて、新しい課題だと思います。

10連休 システム障害 まとめ

新元号「令和」への改元に伴い、10日間の大型連休となった今年のゴールデンウィークでしたが、予想されていた通り連休の前後でいくつかのシステム障害が発生しました。それでも想定範囲のうちですかね。なにせ、過去に経験のない10連休と改元を一緒にやってしまったわけですから、、、。ということで、備忘も兼ねて、報道されたシステム障害等を整理しておきます。

楽天銀行

連休明けの7日、午後0時30分頃、ネット銀行サービスで障害発生。連休明けで利用者のアクセスが集中し、瞬間的にシステムへの負荷が平常時の10倍以上に高まったのが原因とのこと。この障害の影響で、グループのフリーマーケットアプリ「ラクマ」では、顧客の売上金の振り込みが遅延したほか、楽天証券では銀行の口座から証券への入出金が一時出来なくなりました。

横浜銀行 北海道銀行 北陸銀行

この地銀3行では、連休前の26日、コンビニのATMで画面と利用明細において、振込予約日の日付が誤って表示されるというトラブルが発生しました。振込自体はすべて正常に処理されていたものの、本来の予約日である「2019年5月7日」と表示されるところが、「1989年5月7日」と表示されたとのこと。3行からみずほ銀行やJAバンクなどの口座に振り込むと発生したようです。

3行はNTTデータが運用する共同利用型の勘定系システム「メジャー」を利用しています。このシステムとコンビニATMの間をつなぐゲートウェイシステムとして、日本IBMの接続ソフト「FIG」を使っています。各行とも22日にメジャーの改元対応を済ませていましたが、障害が起きた26日時点では、FIGの対応をしていなかったことが原因とのこと。

メジャーのシステム内部では、振込予約日を西暦で管理していて、その予約日をFIGに送るときに元号を省いた和暦に変換します。つまり、2019年5月7日は令和元年なので、01年5月7日と変換して送信。ところが受け取る側のFIGがまだその時点で改元に未対応だったため、01年を平成元年と判断。これを西暦表示してしまったため、1989年5月7日になってしまったということのようです。3行はFIGの対応を4月30日に行う予定だったそうです。

日本航空

8日午前6時50分頃から、8時45分までの約2時間、羽田空港や関西空港など国内線の全ての空港で自動チェックインなどの手続きができなくなりました。乗客の搭乗手続きに時間がかかったことで欠航や遅れが発生し、約2万人の乗客が影響を受けました。

2系統あるシステムのサーバーの片方に過負荷がかかることで障害が発生したそうで、そのサーバーを切り離すことでシステムを回復させたようです。しかし、当日はサーバーの復旧までには至らず、終日片方の一台だけでの運用となったとのこと。ちなみに、今のところ過負荷となった原因については究明されてないようです。

三菱UFJ銀行 180店舗削減 とか

三菱UFJフィナンシャル・グループは、2023年度までに三菱UFJ銀行の店舗数を約180店舗減らす方針を明らかにしたとのこと。従来は17年度末の515店舗から2割にあたる約100店舗を減らす計画だったが、削減率を35%に積み増すんだそうです。2017年の年末辺りから、メガバンク各行が支店の統廃合競争に入りましたが、期をまたぐ毎に削減店舗数が増加するなど、わけわかんなくなってきたので、今回は三菱UFJ銀行の店舗戦略を整理しておきます。

店舗数の推移

            2016年度末   2017年度末   2018年度末
来店型店舗       665        525       509
(本支店 出張所)    624        515       500

こんな感じです。17年度から支店のカテゴリーが変更になっていますので、2016年度の本支店・出張所の数は参考程度に。こうしてみると既に100店舗以上減ってきてるんですね。

削減店舗数の上積み

今回のニュースは、2017年度の本支店・出張所515店舗を基準にしています。この基準に対して従来20%の100店舗を削減すると言っていましたが、今回それに上積みして35%削減すると言ってます。515店舗を180店舗削減するということですね。

一方で、有人対顧客窓口を有するフルバンク型の支店は50%削減とも言っています。つまり、260店舗程度だけを残して、180店舗を削減。約170店舗を機能特化型店舗に衣替えするという計画のようです。ちなみに、機能特化型店舗はMUFG NEXTなどのコンサルティングオフィスを軸に展開するという説明がされています。

また、人員についてはかなり気を使った感じで、今回も2023年までに6000人程度の人員減少を見込むとしていますが、これも自然減だとしています。業務量の削減見通しは当初の9500人分から1万人超相当分まで積み上げてますが、、、。この辺りの言い回しが三菱らしいです。

日経の社説より

5/18付け日本経済新聞の社説で「メガバンクは次世代金融へ脱皮が急務だ」というのがありました。全国に配置した支店や人員はいまや重荷だ。リテールの数少ない成長分野がシニア金融だ。ノルマを排したコンサル型営業を徹底するべきだ。海外展開やM&A助言など付加価値を高めよ。株式持ち合いを解消してその資金をスタートアップへ積極的に振り向けよ。異業種と連携してノウハウを取り込め。

こんなことが書かれてました。多くの有識者たちが異口同音にこのようなことを言ってますし、メガバンクだって既にそういう対応してますよね。こんなふうに誰もがその通りだと思う状態、みんなの意見が一致する状況で、相場は天底を打つものです。実はみんながそう思っている時代はもう終わりに近付いてたりするんですね。また今回も金融界の戦略は外れてしまうのでしょうか。外れるとしたらどの戦略でしょうか。この辺りはまた別の機会に考えてみたいと思います。

内部通報制度 国の認証制度 消費者庁

5/16 日本経済新聞の夕刊で、「適切な内部通報制度、国が認証 不正発見実効性高める まず伊藤忠・MS&AD」という記事が出ていました。第一号がこの両社ということで、5/10までに認証されたのは他に計8社。さらに十数社が手続き中ということです。

内部通報制度とは

社内にある不正や不祥事などを従業員が発見した場合、その不正や不祥事を会社の経営陣に直接告発する制度のことですね。経営陣に直接というのは実務上無理があるので、経営陣に権限を委譲された従業員や外部の弁護士などが、実務上の通報窓口になります。

内部通報制度はヘルプラインとも呼ばれます。不正等を発見した社員は本来、レポートラインに沿って、つまり直属の上司に報告し、その上司からまた直属の上司に報告され、、、これを繰り返して、その不正や不祥事を解決する機能を持つレベルの上席者が解決に動くべきです。この本来のレポートラインが目詰まりし、機能しなかったときのためにと設けられるのがヘルプライン、つまり内部通報制度ということです。

レポートラインの目詰まり

最近多くの企業の不正・不祥事が伝えられるところですが、必ずレポートラインが目詰まりし、もしくは検査等の一部の組織が経営から乖離した状態になっています。平成の30年間で日本の多くの企業で同様に進行してきた病状と言っていいかもしれません。

停滞する景気に後退する企業の競争力、さらには金融危機による資金不足など。厳しい環境の中で何とか利益を出すために、無理な業務拡大や経費削減に取り組んできました。前者はスルガ銀行のような不正を生みましたし、後者は自動車メーカー等にみる検査不正を生んできたわけですね。

内部通報制度認証の仕組み

少々脱線気味ですが、今回取り上げた認証制度の話に戻りましょう。消費者庁が指定する指定登録機関(現在は商事法務研究会だけのようです)に、事業者が自ら認証基準に適合している旨申請します。指定登録機関がその申請に基づき審査を行い、認証し、WCMSマークの使用を許諾する。という流れのようです。

適合すべき認証基準はと言うと、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」に基づく内部通報制度認証基準、だそうです。ながっ。 また、この記事の左上に付けた画像が、WCMSマークらしいです。御上のお墨付きってことで、このマークを名刺や会社案内とかに印刷して使うんでしょうね。