コンプライアンス(その2) 3線ディフェンス

3線ディフェンスという態勢

コンプライアンス領域の拡大に合わせて、リスクベースでコンプライアンス業務をチューニングしていくことについて前回書きました。その際に触れておくべきと思われるのが新しい態勢、3線ディフェンス(Three-line defense)です。

2008年のリーマンショックによる世界的な金融危機の反省を踏まえて、主要国の金融監督当局は、国際的な巨大金融機関について、普通の金融機関よりも厳しい規制を課すことになりました。その時に提唱された新しいコンプライアンス態勢が3線ディフェンスです。全世界で30程度の巨大金融機関に対して求められたこの態勢ですが、今では多くの企業でその態勢が取り入れられています。

3線それぞれの役割

第1線は業務執行部門、いわゆるフロントのことで、日々の業務の中でリスクの特定を行い、必要な統制を行います。リスクオーナーとしてリスクを前線でコントロールする役割です。1線の中にコンプライアンスの推進を役割とする部署、いわゆる「1.5線」とも呼ばれる機能部署を置くケースもあります。

第2線はリスク管理部門やコンプライアンス部門のことで、業務執行部門とは独立した立場で、リスクおよびその(1線における)管理状況を監視します。また、適切な助言を行い指導する立場でもあります。

そして、第3線は内部監査部門で、業務執行部門、リスク管理部門等から独立した立場から、それぞれにおけるリスクの管理状況および監視・指導の状況を最終的に確認し、取締役会等に報告。リスク管理機能、内部統制システムの合理的な保証を与えるという役割になります。

1線の新たな役割 異質な存在の重要性 

それぞれの役割についてみてきましたが、ある程度のサイズの会社であれば、2線と3線に相当する部署と機能については既に備えていると思います。従来の態勢と最も大きく違うのが1線でしょう。業務を執行するだけでなく、そこで発生するリスクを的確にとらえ、自らリスクをコントロールすることが求められます。

つまり、ここに新たな組織であったり、人員が必要になるわけです。業務を強力に推進しようとする集団の中に、基本的な指向性は一緒であるものの、リスクを見出しコントロールしようとする、周囲とは異質な存在を置くわけです。このことにより2つのメリットが生まれます。

一つ目は、その業務を推進することで発生するであろう将来のリスクをより的確に見極めることができるという点です。特に支店や工場といった本社とは物理的にも離れた組織ではこのメリットは顕著です。

二つ目は、リスク管理やコンプライアンス管理の立場から、支店長や工場長に適切な助言を行えることです。ずいぶんきれいな書き方になってしまいましたが、現実には異質な存在とトップの間でかなりの衝突も起きます。現場に放り込まれた異質な存在がその異質性を維持することはとてつもなく大変なことです。本社2線からの強力な支援が重要になります。

スルガ銀行に見る異質な存在

銀行は一部で証券仲介業を行うため、日本証券業協会の規則が適用され、支店に内部管理責任者を置くことが求められます。この内部管理責任者こそが現場における異質な存在であり、暴走しそうな支店長等に対して、コンプライアンス上の適切な助言や牽制を行う役割を担う人です。

しかしながら、スルガ銀行ではその異質性が担保されることなく、全員が同じ方向を向いてしまったわけです。本社における2線や3線が機能不全を起こしてしまっており、支援のない状況でしたから、当然1線でのけん制も効かなかったと思われます。結果的に内部通報制度すら機能しませんでした。

コンプライアンス 拡大し続ける対象領域

20年ほど前のこと、kuniが初めてコンプライアンス部門の職場に異動になったとき、コンプライアンス=「法令遵守」、と教えられました。そのころ既にコンプライアンスの意味が次第に変化し始めていました。まずは「社内規則やマニュアルの遵守」も含むようになり、次に「企業倫理」にまでその対象領域を拡大してきました。

この20年でコンプライアンスの意味する領域は大きく拡大してきたわけです。そして現在では、「社会規範」までもが、コンプライアンスの領域となってきました。とうとうコンプライアンスとは、社会の要請に応えるために企業が取り組むすべてを指す言葉になってしまいました。

コンプライアンスの実務にも影響

こんなふうにカバーすべき領域が広範になってしまうと、チェックリストやマニュアルといったツールでカバーすることが困難になってしまいます。当然ですよね。それでなくても人員を潤沢に配置してもらえる部署ではありませんから。これはどこの会社も一緒だと思います。

そこでリスクベースという考え方がとられるようになります。自社が注力する事業やビジネスモデルの特長に着目して、そのビジネスを強力に推進することで、リスクが高くなると思われるゾーンにフォーカスして対処しようという考え方です。

また、予兆管理という方法もあります。一見関係なさそうに見える指標をモニタリングしていると、その指標が大きく変化する部署等で、後に大きな事件、事故が発生したりするという因果関係というか関係性に着目する手法です。例えば、ミスが顕著に増加し始めた支店や営業所で、過失ではなく従業員による不正が発生するといったこと、意外にあるんです。

「ミスの多発」と「従業員による不正」って、一見関係なさそうです。ミスが多発するのは職場に緊張感がなかったり、逆に緊張感が強すぎたり。その背景には管理職やトップの管理方法に問題があったりします。甘すぎる管理は不正を発生させる機会となりますし、厳しすぎる管理は目標を達成するための不正につながりやすかったりします。

そして、広範な対象領域に対応するためのもう一つの方法が、他部署との連携だと思います。コンプライアンス部とは別に検査部や監査部があるばあいは、当該部署との連携であったり、従来は別の対象を相手にしてきたかもしれないリスク管理部といった部署との連携も有効になってきます。

基本は法令・諸規則

こんなふうに、コンプライアンスの領域は拡大し続け、コンプライアンスを徹底していくための方法も変化を続けています。しかし、それでも重要なのは、法令・諸規則、社内ルールといったベースになるコンプライアンスを、ルーチンでしっかり押さえておくこと。

この土台が揺らいでいると先ほどまでの話は意味を持ちません。基本をしっかり押さえたうえで、プラスアルファでリスクベースでの取り組みを、他部署も巻き込んでオンしていくという枠組みを持つことですね。

電子マネー 実は高齢者に拡大

1/29 日本経済新聞の記事です。これまでほとんどのメディアや識者が指摘してきた、「高齢者は現金へのこだわりが強く、電子マネーは普及しない」説があっさりひっくり返されました。机上の空論ってやつですか。やはり、現場で実際にやってみないと分からないもんです。

70歳以上の電子マネー平均利用額が、直近5年間で87%増え、伸び率は全世代の平均(58%)を上回るんだそうです。他にも高齢者に受け入れられているというデータが示されていました。で、後講釈の上手い新聞としては、以下の4点を高齢者にとってのメリットとしてあげています。

①使える金額の上限をあらかじめ設定できる
②紛失時に利用を停止できる機能がある
③キャッシュカードを持ち歩きATMで現金を下ろして使うより安全性が高い
④年をとると手先を自由に動かしづらくなるので、お金を数えることが苦痛

子が親に電子マネーを勧める

これも気持ちは良く分かります。上にあげたメリットの①②③などは子供が親のことを心配して使わせているのが想像できます。特に③などは子として一番心配でしょう。これらはいずれも・・・だから現金より安心という理由ですね。一方で④は現役バリバリで働いている人たちには想像すらできなかったこと。高齢者の目線で考えることができなかった部分です。

ということで、nanacoやヨークベニマルで取材した「高齢者に受け入れられている」とか「使い勝手の良さが支持されている」といった、とって付けたような記事が添えられています。これは結論ありきで誘導した取材記事のようです。ただ、データは本当なんでしょう。最近統計は信用できませんけど。

本命と思われていたQRコード

高齢者に受け入れられている電子マネーだけど、ここで取り上げられているのは主にチャージして使用するカードであり、スマホを前提としたQRコードによる決済は高齢者では普及していないようです。この現象は高齢者特有の傾向なんでしょうか。

財布から出して指定の場所にピッとタッチするだけ。カードの使用方法は非常に簡単です。これは顧客の年齢に関係ないですから、意外に本命はカードかもという気がしてなりません。この記事はちょっと気になりますね。

ちなみに、今現在kuniが最も頻繁に使用している電子マネーは交通系カードのpasmoなんですが、チャージが面倒なんですね。クレジットカードと連動して改札機を通るときに、自動でチャージしてくれる機能もあるみたいですが、残念なことに既存の大手クレジットカードとは連動しないみたいです。

けど、自動改札機で自動でチャージしてくれる機能、これ便利そうじゃないですか。他にもチャージが工夫されたカードがないものか、調べてみたいと思います。