多角化の功罪(その2)

日本において企業は、事業の多角化により一時の繁栄にとどまることなく、継続的な存続を目指します。このことは企業が終身的に雇用を継続することにも繋がっています。平成の時代が終わろうとしていますが、この時代を通して日本の終身雇用はかなり批判を浴びてきました。終身雇用って本当にダメなんですかね。

企業はコミュニティ化 家族は孤立化

核家族という言葉も死語でしょうか。最近あまり聞かなくなりました。核家族化が進んだ歴史は企業の終身雇用、コミュニティ化と裏表のように思われます。家族は従業員の収入で支えられ、従業員は企業の終身雇用によりコミュニティに支えられています。

こう考えると、家族単位でどのコミュニティが、企業単位のコミュニティへと変化しただけのようにも見えます。であれば、日本企業の終身雇用ってそんなに悪くないなぁと、思うわけです。その終身雇用を支える日本企業の長寿化、ひいては企業の多角化に対するリスクテイクも。

COSOの内部統制フレームワーク

「2013年改正のCOSOの内部統制フレームワーク。日本における長寿産業の圧倒的な多さを考えると、日本には暗黙知としての日本的フレームワークが存在すると思われる。」 kuniのノートの端にメモったフレーズです。何を読んでメモったのか思い出せないんですが、国際的にも注目されているようです。

もう一つ、kuniのメモですが、「国際的にも説明可能で、かつ日本の実情に合った実効性のある基準」というフレーズも。これも何から控えたのか不明なんですが、日本企業の多角化とそれによる長寿化。そして従業員が安心して働けるコミュニティ、サスティナブルな企業。日本がもっと誇っていいシステムじゃないでしょうか。

これこそ日本のお家芸

海外で発明された便利な技術を取り入れ、仕入れた原材料を最高品質の商品に加工する。オリジナリティはないかもしれませんが、20世紀の世界を震撼させたのがこの日本のお家芸でした。株式会社も欧米から輸入したモノですが、それを日本のお家芸でカスタマイズ。そして、世界一の長寿企業を抱えるに至りました。

もっと、自慢していいんじゃないかな。日本の長寿企業。世界に対しても説明できそうな気がするんだけど。

多角化の功罪

少し古いんですが、1/11 日本経済新聞の大機小機に掲載された記事のタイトルです。日本の企業と米国の企業、なかなか面白い目線で比較しています。kuniも以前からなんとなく思っていたことではあるんですが、上手く説明してくれています。

日本企業の長寿化

筆者は、「日本企業は株主の投資に応えるべく、事業の多角化により一時の繁栄にとどまることなく、継続的な存続を目指す」としています。一方で米国では「多角化で企業の存続を図ること、つまりリスキーな新規事業への投資よりも、株主への還元を優先すべき」と考えるとも。

また、この考え方は株主の思考によっているとも言っています。投資している企業がリスキーな新規事業に挑戦してくれなくても、その当該事業を手掛ける別の企業に乗り換えれば良いだけのことと言うんですね。たしかに、おっしゃる通りです。そのため多角化企業は米国では好まれないんだそうです。

日米投資家の違い

こうやって考えてくると、日本の企業が目指しているものと、投資家(株主)の目指すものとのギャップが気になります。例えば最近の個人投資家はどちらかというと米国的に、短期売買を好んでいるように見えます。日本企業を支えてきたのは、政策投資等で長期に保有し続けてくれる銀行等だったのかもしれません。彼らのような安定株主に報いるために多角化や企業の継続性が重視されてきたんでしょうね。

つまり、資金を提供してくれる銀行や持ち合い先の要請に応える形で、企業は継続性を重視し、そのために事業の多角化を進めてきた。ということ。ところが米国や世界の機関投資家からはそれが歓迎されず、外圧(これ死語か?)により持ち合いや銀行の政策投資を解消させる動きになっています。

ここでも日本の強さの根源が否定され、土台が切り崩されていってるようです。長期投資家が減少するという事象に企業の経営が合わせるなら、多角化は不要という結論になります。太く短くという米国流です。しかし、これは日本人に合ってるんでしょうかね。kuniは従来のスタイルの方があっているような気がします。

まとめ

投資家がいちいち投資先を変更することを心配することなく、企業が多角化や事業選択を適切に行うことで、長期にわたって継続的に儲けさせてくれる。このスタイルを維持していくためには、持ち合いや政策投資に代わる長期投資家を育成する必要があります。個人投資家にそれを期待するということでしょうね。

まとめ、と言いつつ、実はまとまっていません。銀行の政策投資、企業間の持ち合いを復活させる手もありだと思うんです。銀行の収益率は1%を切っています。一方で東証一部上場企業の配当利回りは2.48%にもなっています。カードローンやアパートローンで社会の信頼を裏切らなくても、政策投資で十分な収益率が維持できていたのではないか、とも考えられるわけです。

三井住友銀行 ファイアーウォール規制違反?(その3)

銀行系証券の切り札

大手独立系証券の野村、大和。これを追いかける日興、三菱、みずほ。追い掛ける3社はいずれも銀行系です。彼らが大手2社を超えていくために必須のアイテムが銀行連携だったはず。その切り札になる連携の最重要法規制であるファイアーウォール規制を、なぜこんなふうにド素人なやり口で犯してしまったのか。ここがとにかく分かりません。

みずほ、三菱に追い上げられる中、旧大手3社の一角だった日興としては、何が何でも野村への挑戦権は渡したくなかったのでしょう。銀行から降りてきた新社長が暴走した。そういうことなんでしょうかね。過去にあった日興証券のインサイダー事件も銀行から降りれきた執行役員によるものでしたからね。まぁ、とにかく銀行から来た証券マンはタチが悪いです。

銀行から証券に転じてきた人たちは、基本的に証券業をなめてるんですね。日本の金融を支えてきたという自負は良いんだけど、銀行と証券は全く別のモノ。アマチュアでしかないのに、証券を仕切れるぐらいに思っているみたいです。だから皆こういう失敗をしてしまいます。

顧客の損益という要素

前回の記事で、三井住友銀行が過去に犯した優越的地位の濫用と今回の違いを2つ指摘しました。じつはもう一つありそうなんです。三井住友銀行が犯した行為としての違いではなく、その行為が行われた環境の違いです。

今回の行為は2016年以降です。この辺りから、米国の堅調な相場に牽引され、日本の株式市場は大きく水準を切り上げてきました。今回三井住友がSMBC日興に顧客を不正に紹介し、買わせた商品がどういう商品だったのかはまだ分かりません。選択の記事を読む限り、一般的な株式の取引のようです。もしそうであれば、顧客はそれほど損してないはずです。というかむしろ回転売買とかしてなければ儲かってそうなマーケット環境でした。

彼らのこの頃の儲け頭の商品であった仕組債でも、エクイティ系の仕組債であれば損はしてないと思われます。前回社会問題になった際は、顧客が大きく損失を出しました。今回は顧客の損益という意味では、金融庁の判断に与えるインパクトはそれほど大きくなさそうなんですね。

もちろん、損してないからいいという問題ではないんですが、大損した顧客が多いと政治家やマスメディアが金融庁に圧力をかけてきます。その力は相応に影響力ありまして、金融庁も無視できないみたいです。

さぁて、金融庁はどう動きますかね。仲があまり良くなさそうな公正取引委員会との間での各種調整もあるでしょう。この後の展開、どうなっていくのか。金融庁の最終判断を待ちましょう。

三井住友銀行 ファイアーウォール規制違反?(その2)

「選択」という雑誌で報道されている三井住友銀行のファイアーウォール規制違反行為に関する第2弾。平成17年に優越的地位の濫用で公正取引委員会および金融庁から行政処分を受けた三井住友銀行が、今回またもや同じ優越的地位の濫用で処分を受けそうだというお話です。

今回は銀証連携で発生

前回と違うのは、今回は三井住友銀行の優越的な地位を利用して、SMBC日興証券が金融商品取引契約を締結していることと、金融庁の検査で行為が発見されたことです。前者については、証券界からあまりそのような話が聞こえてきません。証券側については「優越的地位の濫用について、意図して行為を行っているという認定がされていないのかもしれません。

銀行が優越的地位を濫用して、証券の商品を買い付けるようお膳立てしておき、のちに証券から連絡させて実際の取引をさせる。証券マンの方にはお膳立ての場面が見えているわけではないので、違反行為までは問えない。ただし、多くの取引の実態を検証すれば銀行の違法行為に関する疑義を持つことはできたのではないか?金融庁もこの辺りについて改善を求める程度ですかね。

金融庁の検査で発覚

問題はもう一つの、「金融庁が検査で発見したこと」の方です。平成18年に三井住友銀行は行政処分を受けたわけですが、それから間もなく、金商法のファイアーウォール規制が緩和されています。当時の国会では、「こんな事件が起きていて、舌の根の乾かぬうちに、ファイアーウォール規制の緩和とは一体どういうことだ」、と金融庁長官が野党議員から問い詰められたりしていました。

こうした世論を押し切って、金融庁は規制緩和を実行したわけです。さすがに当時の金融庁長官は、今では年収2億円といわれる(というか自分で自慢しているらしいですが)森長官ではありませんでしたけどね。とにかく、金融庁が頑張って規制緩和したら、また同じ三井住友銀行がやりやがった。そういう展開なわけですね。

金融庁はどう動くのか

ここまでの規制緩和の流れや三井住友銀行事件の歴史を踏まえ、金融庁はどういう判断を下すのでしょうか。せっかくメガバンクのガバナンスを信じて規制緩和してやったのに、裏切られた。よって極刑に処すんでしょうか。

それとも、メガバンクといえども、証券や信託との連携なしには、今後のビジネスモデルを考えることはできない。極刑に処して、連携ビジネスを抑え込んでしまうようなことにでもなると、揚げたばかりの「金融育成庁」の看板に傷がついてしまう。ここはグッと我慢して「トップとの議論」、「深度ある対話」で改善させていくのでしょうか。

三井住友銀行 ファイアーウォール規制違反?

「選択」という雑誌の2019年1月号に「三井住友銀が悪質金商法違反」という記事が掲載されました。ここで言っている金商法違反というのは、ファイアウォール規制違反のことで、中でも主に「優越的地位の濫用」という違反行為のようです。

違反行為が行われた経緯と行為の概要

2016年4月に、三井住友銀行副頭取だった人物がSMBC日興証券の社長に就任し、人材交流として証券から銀行の法人営業部隊にも営業員を積極的に出向させます。いわゆる銀証連携を強力に推進しようとしたわけです。証券マンが銀行員と一緒に法人回りをしながら、証券の商品を買わせたり、証券に口座を作らせたりしたというお話です。

その際問題になるのが、ファイアーウォール規制で、今回問題視されているのが優越的地位の濫用という違反行為です。銀行は顧客に融資をしていたり、これから融資しようとしているとき、顧客に対して優越的な関係にあります。お金を借りたい顧客に、その弱みに付け込んで顧客が必要としていない商品を買い付けさせる、といった行為を優越的地位の濫用といいます。

もともとは独占禁止法の定める不公正な取引方法であり、銀行が単独でこの行為を行った場合も違反となりますが、金商法が銀行と証券を分離するファイアーウォール規制の中に取り込みました。ということで、今回指摘されている行為は、銀行の優越的な地位を利用して、グループ会社の日興証券の商品を買わせたという整理になります。

三井住友銀行事件 金融機関の独占禁止法違反

実は平成17年に、公正取引委員会は三井住友銀行に対し、独占禁止法違反を理由として違反行為の排除措置を取るよう勧告を行っています。これを受け、平成18年に金融庁は三井住友銀行に対して行政処分を行っているんです。記憶されている方もいらっしゃると思いますが、優越的地位を利用して金利デリバティブ(金利スワップ)を売り付けていたあの事件です。

行政処分では、金利系デリバティブ商品の取り扱い6か月間の業務停止であったり、法人営業部の新設禁止、内部管理態勢の改善などの命令が出ています。国会でも議論になったりしていた記憶があります。にもかかわらず、なんでまた、こんな、同じようなことを?というのがkuniの率直な感想です。顧客本位の業務運営が求められ、それをいかに実現していくかを各金融機関が知恵を絞っているこの時代にですよ。理解不能です。

もう少し突っ込みどころがあるんですが、少し長くなりましたので、本日のところはこの辺にしておきます。続きは次回ということで。