ネット・プロモーター・スコア (NPS)

昨日の記事「三井住友銀行 野村証券 ノルマ廃止」で、金融機関が評価基準から収益目標を外す代わりに、顧客満足度というという評価基準を持ち込んでいることを書きました。三井住友銀は試験的に「ネット・プロモーター・スコア」(NPS)と呼ばれる消費者調査を導入したようです。金融商品を購入した顧客を対象に、家族や友人から相談を受けたら同じ担当者を薦めるかどうかを10段階で尋ねるんだそうです。

もともとは顧客の企業やサービスに対する継続利用意向を知るための指標で、「顧客推奨度」や「正味推奨者比率」と訳される場合もあるそうです。これを営業員の人事評価基準に適用しようとしているわけです。

NPSの概要

顧客に対して、「今回お取引いただいた営業員を、親しい友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問をします。これに対する回答を基に、点数によって営業員の評価をしようとするものです。日経では三井住友の場合は10段階で点数化するような書きぶりでしたが、正確には、0~10点の11段階で評価するのがNPSです。

米国ではこのNPS、かなり多くの企業の経営指標として使われるようになっていて、人事評価と連動させている企業も少なくないようです。顧客とのリレーションを犠牲にして得た取引なのかどうかに着目することで、利益の多寡だけではなく、利益の質を見て営業員を評価しようというわけです。

NPSの弊害を考えてみる

顧客本位の業務運営を推進していくうえで、NPSは確かに有効だと思います。まず最初に期待できるのが、顧客との間でのコミュニケーションが増加することです。自身を他の顧客にも紹介したいと思ってもらうためには、とにかくコミュニケーションをとっていかなければなりません。買ってほしい商品を一方的に勧誘するような営業をしていたのでは、NPSの結果が悲惨なことになるのは明らかです。

営業員はひたすら顧客の承認欲求を満たすことに専念するようになってしまわないか。そんな弊害がありそうな気がします。営業をやっていると、その時顧客がどう行動したがっているかはよくわかるものです。顧客の意向を肯定してあげる(承認欲求を満たしてあげる)ことで取引もしていただけるし、目先の満足もえられます。

ブティックの店員なら「どれもお似合いですよ」でいいんでしょうが、金融商品を取り扱う以上、「私はこう思います」と、顧客の意に反する意見をしてあげることも重要です。これをやると、途端に顧客の表情が曇るのがわかります。「NPS下がりそう」と思いながらも、思ったことを伝えられるか、これって結構難しいと思います。長くなってきたので今日はこの辺で。。。

三井住友銀行 野村証券 ノルマ廃止

4/25 日本経済新聞に「銀行・証券、広がる「脱ノルマ」」という記事が掲載されました。先日の野村證券のニュースに続き、三井住友銀行など、金融機関での人事評価の改定が話題になっています。記事でも大和証券が2017年4月にノルマ制度を廃止したことを伝えていましたが、実はこの流れ既に2,3年前から始まっていたんですね。大御所が舵を切ったことで、ニュースバリューが出てきたということでしょう。

金融庁 森長官の唯一の功績

こうした流れが定着しつつある最大の要因は、金融庁が持ち込んだフィデュシャリー・デューティーでした。法令や規則ではないソフトローとして、金融機関が当然に果たさなければならない義務という意味です。後に世間一般にも理解できるように、顧客本位の業務運営と言い換えて、金融機関に受け入れを迫りました。

「コンプライ オア エクスプレイン」と言って、顧客本位の業務運営を約束するか、しないのであればその理由をしっかり説明しなさい。と言って迫ったんですね。そこから何年経ったでしょうか。金融庁森長官の目指したこの方向性を、遠藤長官も引き継ぎ推進。金融機関もとうとう折れてきました。

森長官の唯一の功績だと思います。しかしこの功績、劇薬でもあります。間違いなく証券や銀行の収益力は落ちますし、両業界の縮小・均衡は一気に加速すると思われます。野村やメガバンクが公表した構造改革というやつです。組織を縮小しなければ、現在ある金融機関すべてが生き延びることはできないと思います。少なくとも日本では。

収益目標から預かり資産積み上げ目標へ

ノルマがなくなったわけではありません。人事評価における評価基準から、収益達成率(フロー)がなくなっただけです。預かり資産の積み上げ(ストック)という評価基準は設けられていますし、これをノルマとして達成しに行くのは同じです。ただこの後者の達成が顧客を傷めない(顧客に不利益をもたらせない)というだけのことですね。これに加えて、顧客満足度というという評価基準を持ち込んでいます。

銀行はまだしもなんですが、証券会社にとってはこれって結構インパクトあると思うんです。営業員はお金を集めるだけ。運用はストラテジストやアナリスト、ファンドマネージャーが専業でやってくれます。最近は少なくなってきましたが、相場が好きで証券マンやってる奴らがいます。この人たちは仕事における楽しみや面白さを失い、退職していくことになりそうです。

寂しい話ですが、今以上に相場を知らない証券コンサルタントが増えていきます。そういうリアリティのない証券会社が受け入れられるんでしょうか。これはkuniみたいな古臭い株屋の杞憂かもしれませんが。