無駄な書面 金融審 「重要情報シート」

7/30 金融庁ホームページで、金融審議会「市場ワーキング・グループ」議事次第が公表されました。投信の比較が容易になるとかいう新たな書面のプロトタイプも掲載されています。予想通り、契約締結前交付書面と内容がカブリまくりです。

市場ワーキング・グループ

メンバーは法務の神田先生を座長に、各界から有名人が委員として参加しています。凄く賢くて、偉い方々ばかりなんでしょうが、おそらく自分で投信や仕組債を販売した経験のある方はいないでしょうね。机上の空論とはまさにこのことです。

顧客本位の業務運営をさらに進展させるための方策と、超高齢社会における金融業務の在り方。大きくはこの2本がテーマとなっています。前者のテーマの中で、「顧客にとって分かりやすい情報提供のあり方」という段落で、「重要情報シート」なる新たな書面が検討されています。

重要情報シート

投資リスクのある金融商品・サービスの提案・選別の場面において、例えば、顧客にとって分かりやすく、各行法の枠を超えて多様な商品を比較することが容易になるように配慮した書面。これが「重要情報シート」だそうです。

この重要情報シート、別添で例として提示されています。契約締結前交付書面や目論見書と内容がカブリまくり。と思ったら、委員の中にも「他の資料との役割分担を重視するべき」との意見はあったようです。

しかしまぁ、机上の空論です。資料を交付して営業員が説明すれば、顧客はそれを時間を掛けて聞いてくれて、時間を掛けて理解してくれるということが、議論の前提になってるんですよね。現場は全然そんなことないです。

あともう一つ、交付すべき書面や説明するべき項目が増えること自体が、顧客の理解を妨げるということ。完全に理解、比較してもらうためにあまりに多くの情報を提供しても、顧客はそれを受け止め、消化しきれません。委員の皆さんのように能力の高い顧客ばかりではないんです。

投信手数料比べやすく? またまた無駄な書面

金融庁は15日の金融審議会市場ワーキンググループ(WG)で、個人が投資信託などを購入する際の手数料負担を、他の商品と比べやすくする共通ルールを提案する報告書原案を示したそうです。またまた書面ですか。法定ではないといいますが、、、。

顧客に受け入れられない書面

目論見書、契約締結前交付書面など、、、いずれも顧客保護を目的とした法定書面がこれまでもありました。今度は、個人が金融商品を購入する際に、類似した他の商品と手数料やリスクを比較しやすくする共通書式の導入だそうです。日経が7/15付け記事で伝えています。

金融庁の調査によると、投資経験者の7割は他の商品との比較説明を受けていないそうです。金融機関に支払う手数料などを共通の書式で開示し、初心者でも比較しやすいようにする。元本割れリスクの説明も促すというもの。

屋上屋を重ねる。。。屋根の上に、もう一つ屋根を設けるように、無駄なものをこしらえること。いい加減やめませんかこういうの。目論見書も契約締結前交付書面も、説明を尽くせるよう盛り込み過ぎで、結局誰も読んでくれません。

今回もおそらく同様に誰も読んでくれない書面になるんでしょうね。ところで、この「比較」というのは他社の商品も含めて言ってるんだろうか。たぶんそうですよね。自社商品同士の比較と他社商品との比較、、、両方ということでしょう。

真に顧客のためにと勧めた商品。後になって類似商品で手数料が若干安い自社商品がほかにもあることが指摘される。結果、不適切な勧誘行為と言われるんですね。もうやめませんか、書面書面って。

顧客本位の業務運営と金融商品販売ルールの規制緩和(その2)

昨日はここ最近行われてきた金融商品取引業者に対する2つの規制、「契約締結前交付書面」と「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」について書きました。そして今日は3つ目の規制である「顧客本位の業務運営」です。この原則は非常にインパクト大でした。

顧客本位の業務運営

最も大きな変化をもたらした規制(と呼ぶべきではないかもしれませんが)が「顧客本位の業務運営」です。当初は「フィデューシャリー・デューティー(FD)」という言葉で導入され、業界としてうまく消化できずに、かなり混乱しました。

行為規制(ルール)として細かく明文化されるのではなく、あるべき姿、考え方だけが示されて、それを実現するための勧誘や販売、アフターフォローなどの具体的な対応方法は自分たちで考えなさい、、、って感じですから。

フィデューシャリー・デューティーは、後に顧客本位の業務運営と呼ばれるようになります。業界全体で顧客本位の業務運営を考え、対応していく過程で、最も大きな変化が現れたのが投資信託の保有期間の長期化でしょう。短期の売却・乗換が顧客のためにならない。顧客にとっての運用コストが当たり前に意識されるようになりました。やっとのことですが。

次に起きた同様の変化が、投資信託の各種手数料の低下です。当初買い付け時の手数料もそうですし、毎年ファンドから差し引かれる信託報酬にも低下の波が及んできています。そして、さらに今では株式売買における委託手数料にまで、無料化が進み始めています。

すべては資産運用を拡大するため

こうして振り返ってみると、顧客本位の業務運営という根本的な考え方(プリンシプル)が業界に浸透してきたおかげで、ルールベースの「契約締結前交付書面」や「高齢者ルール」という過去の2つの規制を緩和できる余地が生まれてきたように思われます。

どの規制も資産運用を日本で定着させることが、最終目的だったわけですから、業界として正しい方向へ進んでいく限り、過去に作られた細かな行為規制は次第に緩和されていくんでしょう。

顧客本位の業務運営と金融商品販売ルールの規制緩和

このところ金融商品販売に係る各種規制の見直しが始まっています。契約締結前交付書面の交付方法の見直しや、高齢者への金融商品販売ルールの見直しなどです。ここ10年ほどを振り返ると、金融商品取引業者から見て、重要な規制が3つ設けられました。

契約締結前交付書面

契約締結前交付書面は、金融商品を勧誘する際に、あらかじめ、または同時に交付しなければならない書面です。証券取引法あらため金融商品取引法が施行される際の目玉の規制でした。書面の記載内容から、記載時の活字の大きさに至るまで、細かく規制されました。

この書面の交付漏れを防止するため、金融商品取引業者は毎年一回、主要な書面を書面集という形にして、全顧客へ一斉送付するという方法を取りました。法施行当時は、各社が一斉に書面集を作成するため、書面に適した紙や、印刷会社のラインが不足するなんてこともありましたね。懐かしいです。

書面の改定があるごとに交付時期が各社ずれてきたので、今では各社の交付時期がバラバラになっています。規制が求める説明を事細かく文字にしたため、出来上がった書面は、「こんなのいったい誰が読むの?」っていう書面になってます。

一番の目玉のはずが、一番問題ある規制になってしまったというのが実感です。送り付けられる顧客もたまったものではありません。この契約締結前交付書面の交付方法についても見直しが行われるようです。できれば書面の内容についても見直しを進めてもらいたいところです。

高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン

この規制もインパクト大きかったですね。高齢者を75歳以上とし、80歳以上を超高齢者として、ほぼ一律に勧誘前の手続きや、受注方法、約定通知の仕方からモニタリングに至るまで、ガイドラインが設けられました。法令や規則ではないものの、監督指針にも同じものが取り込まれたため、実質的にはルール化されたようなものです。

この高齢者勧誘ルールについても今月上旬、金融庁が見直しを進めようとしていることが報じられています。人生100年時代に、最後の25年間が一律に規制されるのは確かに変な話。「年齢」が一律に資産運用のハードルになっている現状を改めるのは、とてもいいことだと思います。長くなってしまったので今日はここまで。続きは明日。

レギュレーション・ベスト・インタレスト(最善の利益規制)

選択11月号に「証券業界『顧客軽視』商売に荒療治」という記事がありました。米国SEC(証券取引委員会)が公布した新規制「レギュレーション・ベスト・インタレスト」が日本でも導入され、日本の証券界が壊滅的な影響を受けるだろうと予想しています。

レギュレーション・ベスト・インタレスト

日本語では「(顧客の)最善の利益規制」などと訳されています。7月に公布され、9月10に施行されています。2020年6月30日までに遵守しなさい、とされています。この新ルール、投資家に投資推奨を行う場合に、その投資家にとっての最善の利益を追求することを義務付けるものです。

つまり、証券会社の営業員は自身の経済的な利益や、その他の利益(会社の利益や関係会社の意向など)を優先してはならないわけです。この「レギュレーション・ベスト・インタレスト」を日本の金融庁も検討していて、同様のルールを日本でも導入しようとしているというわけです。

プリンシプルベース

いわゆるプリンシプルベースのルール(原則論)ですが、日本での導入、確かにありそうですね。米国のように法令として明記するに至るかどうかはビミョーだと思います。フィデューシャリーデューティー、顧客本位の業務運営と相次いで打ち出してきましたが、法令化はしませんでした。今回初めて法令化に踏み込むのかどうか、注目されます。

また、法令化されないにしても、「顧客本位の業務運営に関する原則」の中で、各原則(メインは原則2と原則3あたり)を明確化かつ強化するような改正は十分ありそうですし、それでも証券界には相応の影響が出ると思われます。「選択」が例示していた野村への行政処分。この時金融庁が振りかざした金商法51条は、原則であっても適用可能でしょう。

ちなみに「選択」さん、「昨年5月の野村の行政処分」、と紹介されていましたが、今年5月の間違いですね。