三井住友銀行 野村証券 ノルマ廃止

4/25 日本経済新聞に「銀行・証券、広がる「脱ノルマ」」という記事が掲載されました。先日の野村證券のニュースに続き、三井住友銀行など、金融機関での人事評価の改定が話題になっています。記事でも大和証券が2017年4月にノルマ制度を廃止したことを伝えていましたが、実はこの流れ既に2,3年前から始まっていたんですね。大御所が舵を切ったことで、ニュースバリューが出てきたということでしょう。

金融庁 森長官の唯一の功績

こうした流れが定着しつつある最大の要因は、金融庁が持ち込んだフィデュシャリー・デューティーでした。法令や規則ではないソフトローとして、金融機関が当然に果たさなければならない義務という意味です。後に世間一般にも理解できるように、顧客本位の業務運営と言い換えて、金融機関に受け入れを迫りました。

「コンプライ オア エクスプレイン」と言って、顧客本位の業務運営を約束するか、しないのであればその理由をしっかり説明しなさい。と言って迫ったんですね。そこから何年経ったでしょうか。金融庁森長官の目指したこの方向性を、遠藤長官も引き継ぎ推進。金融機関もとうとう折れてきました。

森長官の唯一の功績だと思います。しかしこの功績、劇薬でもあります。間違いなく証券や銀行の収益力は落ちますし、両業界の縮小・均衡は一気に加速すると思われます。野村やメガバンクが公表した構造改革というやつです。組織を縮小しなければ、現在ある金融機関すべてが生き延びることはできないと思います。少なくとも日本では。

収益目標から預かり資産積み上げ目標へ

ノルマがなくなったわけではありません。人事評価における評価基準から、収益達成率(フロー)がなくなっただけです。預かり資産の積み上げ(ストック)という評価基準は設けられていますし、これをノルマとして達成しに行くのは同じです。ただこの後者の達成が顧客を傷めない(顧客に不利益をもたらせない)というだけのことですね。これに加えて、顧客満足度というという評価基準を持ち込んでいます。

銀行はまだしもなんですが、証券会社にとってはこれって結構インパクトあると思うんです。営業員はお金を集めるだけ。運用はストラテジストやアナリスト、ファンドマネージャーが専業でやってくれます。最近は少なくなってきましたが、相場が好きで証券マンやってる奴らがいます。この人たちは仕事における楽しみや面白さを失い、退職していくことになりそうです。

寂しい話ですが、今以上に相場を知らない証券コンサルタントが増えていきます。そういうリアリティのない証券会社が受け入れられるんでしょうか。これはkuniみたいな古臭い株屋の杞憂かもしれませんが。

西武信用金庫 反社会的勢力に融資

4/9 日本経済新聞に掲載された記事です。金融庁が立ち入り検査をしている中で、反社会的勢力と関わりのある企業に融資していた疑いがあることが分かったということです。この検査、もとはといえば投資用不動産への不適切な審査や融資等を確認するための検査でした。いやぁ、またややこしい案件が出てきたもんです。

みずほ銀行の事件

2013年にみずほ銀行の事件で大きく取り上げられ、反社会的勢力という言葉も相当メジャーになったような気がします。当時、同行が提携先のオリエントコーポレーションの提携ローンを通じて、反社会的勢力である暴力団に対して、230件、2億円の融資をしていたと報道された事件ですね。

しかし、この事件、メディアによってかなり歪められた情報だったことが後にわかります。金融庁の指摘では、あくまで反社会的勢力としか言ってませんが、メディアはこれを暴力団と表現しました。反社会的勢力=暴力団と理解したメディアの誤報は、当時のみずほ銀行にかなりのダメージを与えたと思います。まぁ、この事件以外にもいろいろあったので、こういうバイアスが働いたのかもしれませんが。

反社会的勢力とは

みずほの事件で市民権を得た感のある「反社会的勢力」ですが、実は明確な定義がありません。一応の定義としては、「暴力団、暴力団員、暴力団を辞めて年経過しない人、準構成員、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、共生者、密接交際者などなど・・・」こんなのがあるんですが、これでも明確とは言えません。

辞めて5年経ったら反社会的勢力ではなくなるんですが、その後も暴力団との一般的な付き合いとかがあったりすると、途端にどうするべきか議論が分かれたりします。暴力団員の家族の口座は?なんてのもよくある話。密接ってどの程度のこと?みたいなのもあり。

さらに、金融機関がその属性を知り得たかどうかという問題もあります。知らなかったらどうしようもありません。今回の西武信金の記事でも少しだけ書かれてますが、「反社との関係がある顧客と知りながら融資したのか」、「知らずに融資したのなら、その後それを知ったのちに取引を排除すべく対処しているか」といった点が検査の焦点になると思われます。

慎重な報道だけど

みずほの事件で学んだからでしょうか。今回の日経は慎重に書いてますね。あくまで「暴力団など反社会的勢力と関わりのある企業」としていますし、「西武信金が疑わしい取引を認識した経緯やその後の対応を調べている」といった感じです。情報を流している当局側も気を付けてるんでしょうね。

しかし、金融庁がこういう形でリークしてるわけですから、彼らとしても行政処分まで持っていけるという自信があるんでしょう。彼らにとっては、投資用不動産への不適切融資以上に、秋のFATF調査団の来日というイベントを睨んで、マネロン関係の指摘をお土産にする方がお偉方に喜ばれたりするのかも。