TSR(トータル・シェアホルダー・リターン)株主総利回り(その2)

TSR 株主総利回りについては以前取り上げた通り、キャピタルゲインと配当を合わせた、株主にとっての総合投資利回りです。改正された企業内容等の開示に関する内閣府令により、有価証券報告書への記載が義務付けられました。今後、TSRの推移と役員の報酬額の推移が比較できるようになるわけですね。

利回り?

利回りという言い方をするもんですから、該当する期間の株価上昇分と同期間の配当総額を足して、直前期末の株価で割りたくなりますよね。で、利回りは10%とか、12%っていう感じです。

ところがこの法令が求めるTSRは、期末の株価(株価上昇分ではなく)と期中の配当の和を直前期末の株価で割りますので、110%とか、112%という数字になります。5年で株価が2倍になってたりすると、250%とかになるわけです。こういうのって普通利回りって言わないですよね。「期間株主総収益」とかいう名称の方がイメージしやすかったかもしれません。

株主優待は?

株主が受け取ったすべての経済的価値を指標化するのが目的だったはずですから、ここに株主優待の経済価値を上乗せするのはどうでしょう。バカなことをと怒られそうですが、経済的な価値を認めているからこそ、個人投資家は株主優待に敏感です。各上場企業の優待内容を一覧にした書籍なんかも少なくありません。

もともとTSRを有価証券報告書に・・・というアイデアは欧米から輸入したモノです。株主優待という制度が欧米にはなく、日本特有の制度であるため、今回取り入れられていませんが、十分ありだと思います。機関投資家にとっては意味のないことかもしれませんが、個人投資家・少数株主にとっては結構重要なファクターですから。

またはこれに類する他の方法により算定した割合

開示府令の株主総利回りの計算方法について規定している部分。最後のところに、「またはこれに類する他の方法により算定した割合」というのがあります。「これに類似した他の方法で計算するのもありだよ」ということですから、ここで優待制度も読んじゃいましょうか。

2019年3月期の決算短信は出そろいましたが、有価証券報告書は6月末までですね。TSRに加えて、独自の判断で株主優待を加味したTSRを載せてくる企業(もしくはオマケで載せてくる企業)が出てくるかどうか、期待したいと思います。

課徴金制度について(金商法、景品表示法、独占禁止法)

先日、TSUTAYAに対する課徴金納付命令について記事にしました。同社の動画配信サービス等に関する宣伝が、景品表示法違反にあたるとして、消費者庁が命令を出したというものです。kuniは証券会社におりましたので、金融商品取引法における課徴金には馴染みがあるものの、その他の法律に関しては詳しくありません。ということで少し整理してみました。

金融商品取引法(金商法)金融庁

金商法における課徴金制度は、証券市場の公正性や透明性を確保するため、証券市場への信頼を害する違法行為に対して、行政上の措置として違反者に対して金銭的負担を課す制度として2005年4月から導入されました。

制度の対象となるのは、不公正取引(インサイダー取引や相場操縦、風説の流布など)、有価証券報告書の不提出や虚偽記載、大量保有報告書の不提出や虚偽記載といった違反行為です。実態としてはインサイダー取引に対する命令が圧倒的に多いですね。

証券取引等監視委員会が調査を行い、課徴金の対象となる法令違反があると認めた場合、金融庁へ勧告を行います。その後金融庁長官から課徴金納付命令が出されるという手続きになります。なお、金融庁長官が課徴金納付命令を出すケースとしては、他に公認会計士法に基づくものもあります(今回は省略します)。

不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)消費者庁

2013年度に、ホテル・レストラン等で、メニュー表示とは異なる食材を使用した料理を提供していた食品偽装等が社会問題になりました。このような一連の表示問題を受け、不当表示等の適正化に向けた体制の強化や違反行為の抑止を目的として、2014年に景品表示法が改正され、課徴金制度は同法が施行された2016年4月から導入されています。意外に最近のことだったんですね。

制度の対象となるのは、食品に限らず、あらゆる商品やサービスについて、実際より著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)と、実際より著しく有利であると誤認される表示(有利誤認表示)をする行為です。冒頭紹介したTSUTAYAが最新の事例ですね。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)公正取引委員会

法律の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。カルテル、入札談合等の違反行為を防止する目的で設けられています。公正取引委員会は、事業者等が課徴金の対象となる独占禁止法違反行為を行っていた場合、当該違反事業者等に対して、課徴金を国庫に納付することを命じます。独占禁止法における課徴金制度は歴史があり、その導入は1977年なんだそうです。

課徴金の対象となるのは、不当な取引制限(カルテル、談合)、排除型私的独占、支配型私的独占、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用があります。今話題になっている、ネット通販の大手に対する調査は、まさにこの優越的地位の濫用に当たるかどうかの調査ですね。

この独占禁止法にかかる課徴金については、自主申告により課徴金が減免されるという、課徴金減免制度が設けられています。自主申告した申請順位ごとに減免率が定められています。

TSR(トータル・シェアホルダー・リターン) 株主総利回り 

企業内容等開示府令の改正

昨年11/2 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案が公表され、パブリックコメントにかけられました。そして、今年1/31 パブリックコメントの結果等が公表され、同日付で交付・施行されています。

今回の改正内容は大きく3つ。有価証券報告書等の記載事項で、「財務情報および記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」となっています。

このうち「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」に関しては、役員の報酬について記載すべきことを新たに定めており、タイトルのTSR=株主総利回り についてもこの文脈の中で記載が義務付けられました。

TSR 株主総利回り

TSR=「株主総利回り」とは、株式投資により得られた収益(配当とキャピタルゲイン)を投資額(株価)で割った比率 のことです。配当までも計算に入れることで、株主が得られたすべての利益を計算することになります。

株主総利回りを開示し、役員報酬と対比して見せる(評価指標として情報提供する)ことにより、役員報酬が妥当であるかどうか、株主と建設的な対話を実現しようということのようです。

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループでの検討結果

法改正に先立って、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループで検討が行われ、その報告に基づいて改正案が作られています。ワーキングの報告では、「英国では過去10年間の株主総利回りの推移が、米国ではグラフ表示も併せて株主総利回りの記載が義務付けられている」ことを引き合いに、日本でも記載させるべきとしていました。

ところが、パブリックコメントではややトーンダウンしているような感じでしたね。役員報酬と対比させ、評価指標として情報提供するのが目的だったはずなのに、最終的に記載場所は「主要な経営指標等の推移」に落ち着いてます。この点については、パブリックコメントの中で指摘されている方がいらっしゃいました。

欧米での実態

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告から、欧米の実態について抜粋しておきます。まず英国では、全取締役の過去2年の個別の報酬内容の一覧が開示されており、、過去10年間のCEOの報酬額と、同期間の株主総利回りの推移が対比できるよう開示されているそうです。

米国では、CEO、CFOおよび報酬額上位3位までのエグゼクティブオフィサーの報酬について、過去3年間の個別の報酬内容の一覧が開示されているほか、全取締役の個別報酬についても開示されています。また、株主総利回りについても、その推移を示すグラフの開示も求められているそうです。

ということのようです。今回は個別役員ごとの報酬開示までは踏み込みませんでしたが、いずれすべて開示することになるんでしょうね。

銀行業務 高額送金 地銀波乱 人材枯渇の危機

2/20 日本経済新聞に二つの記事が掲載されました。一つ目は「銀行業務、溶ける境界 決済に続き高額送金も」。もう一つが「地銀波乱 人材枯渇の危機(上)新卒が集まらない 厳しい経営 魅力も低下」です。地銀にはWパンチですね。とうとう来るところまで来てしまったか、そんな感じです。

高額送金業務の解禁

一度に100万円を超す送金業務は銀行にしか認められていませんでしたが、法改正によりこれを銀行以外にも解禁するというお話。登録制で参入しやすい少額送金とは別の、資本金などで厳しい要件を求める高額送金業者という類型を認可制で設けるという考え方です。

LINEをはじめとする送金業者は従来100万円以下の送金しかできませんでしたが、法改正後に認可を受けることができれば、高額送金も可能になります。いわゆるフィンテック企業がどっと流れ込んできそうですね。また一枚、銀行業務の垣根が崩れることになります。新規参入で送金業務の手数料等の体系は一気に価格破壊が起き、銀行にとって従来通りの手数料収入は見込めなくなるわけです。

記事では最後に少しだけ触れていましたが、マネーロンダリングやテロ資金供与に関する護りのガバナンスにおいて、どれだけ確固たる対策を準備できるかが問題になってきます。かなりのコストを要することでもありますし、一度制裁を受けると再起できない程の金額になることもあります。ここはあえて少額送金業者にとどまるという判断もありかもしれません。

地銀波乱 人材枯渇の危機

昨年12月のお話として伝えていますが、翌年4月入社の新卒採用をまだ募集していたという話。例として取り上げていたのが、西京銀行です。まぁ、よりによって西京ですか。記事では西京銀行に限らず、昨年末の時点でなお採用活動を続けていた地銀は少なくないと書いてましたが。。。

TATERUと西京銀行でアパートローン。こんな不祥事で全国区で有名になってしまった第二地銀ですからね。そりゃ人は採れないですよ。入行したと思ったらいきなり行政処分。気が付いたら流出する預金を繋ぎ止めるのが新人の初仕事、なんてのはシャレになりません。

最近念仏のようによく聞く言い回し。全国の地銀は105行。およそ半分の52行で2期以上連続本業損益が赤字。さらにその半分の23行は5期以上にわたり連続して赤字。この記事でも書かれてます。

19年新卒へのアンケート結果 最も敬遠したい業界 メガバンク・信託銀行

アンケート結果も添えられており、就活中の文系学生が最も敬遠したい業界として、第3位に地銀がランクインしています。昨年10位から大幅に順位を上げたとか。しかし、むしろ気になるのは1位がメガバンク・信託銀行になってるところです。採用枠をグッと絞ったメガバンクは、大丈夫だったんですかね。

IR (Integrated Resort) 統合型リゾート

金融財政事情の最新号で「大穴候補が巻き返し、三つの座を巡るIR椅子取り合戦」という記事がありました。勉強不足ですねぇ、IRの意味がすぐには分かりませんでした。証券の世界でIRと言うときは investor relations であり、「企業が株主や投資家に対して、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供する活動全般」を指すんですが。

IR(統合型リゾート)

ここでいうIRは統合型リゾートのことでして、法律上は「特定複合観光施設」というのが正確な名称のようです。法律の名称も「特定複合観光施設区域整備法」となっています。昨年末に、全国9か所で行われた同法に関する説明会で使用した資料が、分かりやすく書かれています。

当該資料によると、IR(統合型リゾート)とは、
① 「観光振興に寄与する諸施設」と「カジノ施設」が一体となっている施設群
② カジノの収益により、大規模な投資を伴う施設の採算性を担保
③ 民間事業者の投資による、集客及び収益を通じた観光地域振興
④ 民間事業者の投資による、新たな財政への貢献
と、冒頭でこんなふうに説明されています。

施設群の内訳としては、カジノ、ホテル、レストラン(ショッピングモール)、エンターテイメント施設(劇場、水族館等)、MICE(国際会議場、国際展示場)が紹介されており、これらを一体的に整備・運用するとしています。

そして、「我が国におけるIR導入に関する根本原則」を「我が国におけるIRの導入は、単なるカジノ解禁ではなく、また、IR事業を認めるだけのものではなく、世界の人々を惹きつけるような我が国の魅力を高め、大人も子供も楽しめる新たな観光資源を創造するものでなければならない」と謳っています。何だかずいぶんと美しくなりましたね。

認定区域整備計画は上限3

特定複合観光施設の区域整備は3か所までと法律で定められています。三つの座というのがこのことですね。現状では、大阪市と苫小牧市が候補地としてリードしているようですが、他にも北海道留寿都村、和歌山、名古屋、静岡県牧之原、といった自治体が名乗りを上げているそうです。で、なんといっても東京が本命とか。

今のところ具体的な話は出てないようですが、そもそも石原都知事の「お台場カジノ構想」で始まったようなもの。今は様子を見ていますが、東京がド本命というのが、この記事の見立てでした。

おまけ

この特定複合観光施設区域整備法には妙に3がたくさん出てきます。指定する地域が3か所、事業者免許の有効期間3年、日本人の入場規制は7日間で3日、入場料は3,000円など。また、カジノ事業者の儲けは、国庫と自治体それぞれに15%の納付を義務付けてますから、合計30%ですね。