金融庁検査、監督、質高める 首相答弁

スルガ銀行の不正問題に触れた野党の質問に対して、「顧客を保護し、法令などを遵守する業務運営が金融機関に確保されるよう、金融庁の検査、監督の質を高める」と答弁したという記事ですね。この機会にあらためて監視委員会の証券モニタリング基本方針をチェックしてみました。

証券モニタリング基本方針

証券取引等監視委員会が公表する、新しい事務年度のモニタリング方針です。今ではモニタリングという言葉を使いますのでピンときませんが、オンサイト・モニタリング(立ち入り検査のこと)についても方針を示すので、検査の基本方針でもあります。そのため、金融機関(特に証券会社)は証券モニタリング基本方針の内容を分析し、来たる検査の準備をするわけですね。

平成30事務年度 証券モニタリング基本方針

平成30事務年度版は9月14日に公表されました。少し遅くなりましたが内容を見ておきましょう。前年度の同方針との比較で、新たに書き足された主な記述は以下の通りです。

  1. オフサイト・モニタリングによる情報分析だけでは業務運営等の実態が必ずしも把握できない状況(検査未実施期間が長期化している場合を含む)では、今事務年度においては、積極的にオンサイト・モニタリングを実施して、深度ある検証を行っていく
  2. 「業態横断的なテーマ別モニタリング事項」については4項目で前年度と一緒ですが、順番が入れ替わり、顧客本位の業務運営が1番から3番へ。マネロン等への取り組みが4番目から1番目に繰り上がっています

細かな記述の変更等は他にもありますが、特に彼らの意図を感じる変更点はこの2カ所かと思います。

証券取引等監視委員会からのメッセージ

1の変更点には2つのメッセージが込められています。一つは、これまで前長官の下で出来なかった立ち入り検査を積極的の行うということ。二つ目は、これも前長官が嫌った、定期的な(前回検査から一定期間時間が経過した場合の)立ち入り検査を復活させるというメッセージです。

2の変更点は、来年予定されているFATF(ファトフと読みます)という国際機関による、国内金融機関への審査を意識したものと思われます。国内金融機関がマネロンやテロ資金供与対策をしっかり出来ているかを審査するもので、今回こそは良い評価を得なければならないという当局の事情があります。また、森前長官がこだわり続けた「顧客本位の業務運営」が順位を下げています。

金融庁の方針転換(脱 森金融庁)

これまでのやり方を踏襲しつつ、みたいな書きぶりで前長官への配慮はあるものの、明らかに方針転換でしょう。変更点1が最も大きな方針転換であり、冒頭の阿部首相の答弁にあるように、立ち入り検査の復活です。素人によるオフサイト・モニタリング程度では、スルガ銀行の不正の実態を見抜けなかったという失策については、当ブログでも指摘してきました。積極的なオンサイト・モニタリングによる深度ある検証(立ち入り検査の復活)がこれに対する答えなんですね。単なる先祖帰りにならなければ良いのですが。

給与のデジタルマネー払い

10/25日付け日本経済新聞の記事です。労働基準法が定める給与の支払方法において、例外的に認めている銀行振込に加える形で、銀行口座を経由することなくカードやスマホアプリなどに送金できるようにするらしいです。

デジタルマネー払いで銀行はどうなる?

記事の中ではこの点について触れていませんが、当然この疑問がわいてきます。これまで銀行は、給与振込口座を持っていれば、その口座の入出金状況を把握することが出来ました。皆さんの通帳には毎月給与という項目で入金が記帳されてますよね。出費についても同様です。

この情報を蓄積し分析することで、顧客の生活の様子がかなり詳細に分かるはずですし、その分析結果に基づき、顧客に適切な与信を行ったり出来るわけです。

このところ話題になっている情報銀行の構想にしても、銀行がこの情報を握っているというアドバンテージが前提になっていると思います。かなり重要な情報がなくなるということになります。

記事の中で「現金払いなども従業員が選択できること、カードや決済アプリに給料を入金する仕組みで入金された給与をATMなどで月1回以上、手数料なしで現金が引き出せること」が条件とされています。また、価格変動の激しい仮想通貨は対象に含まないとも。

ここで言っているATMというのは銀行店舗のATMではなく、コンビニATM等のことだと思われます。オリガミやLINE、ヤフーといった資金移動業者に対してデジタルマネーで給与が支払われ、キャッシュレス決済を後押しするが、コンビニATMで月1回以上、無手数料で現金が引き出せることを条件とする。こんな感じでしょうか。これらの業者にとって、それほど高いハードルではなさそうですね。

銀行の口座 必要なくなる?

デジタルマネーによる給与支払いが増加していくと、オリガミやLINE、ヤフーといった非銀行系に個人の資金移動の情報が集まりそうだ。ここまでは想像できるのですが、公共料金の引き落としの機能ってどうなるんでしょうね。kuni個人としては、勝手に引き落としてくれる機能こそ、銀行口座の一番ありがたい機能なんです。

スマホアプリで何でも出来る時代になってきましたし、家計簿アプリ等も充実してきてるようです。あとは、非銀行系の業者が自動引落の機能まで提供してくれるなら、本当に銀行口座要らなくなるかも。マジで給与はスマホで受け取りっていう人増えるかもしれませんね。

東証システム障害 社長の報酬 1カ月、10%削減

なんじゃ、こりゃ。だれがそんなもん期待してるの。東証にとっての顧客って誰なの?

お役所東証の残念な発想

「東京証券取引所は想定外の事態が起きたときの対応に不備があったとして市場運営者としての責任を認める」としながら、社長の月給1ヶ月10%の減額だと?証券会社は顧客対応でまだまだ混乱してるんですよ。東証の顧客って誰なのか真面目に考えたの? そう言いたくなります。

ほぼ同じタイミングで不正が発覚したKYBの不祥事対応、顧客対応が格好よく見えてきました。少なくとも彼らは「必要な性能を満たしていない可能性がある商品すべてを交換する」ということを、まず最初に表明しました。迷惑をかけた可能性のある顧客のことを第一に発想してますよ。社長や役員の報酬をカットするかどうかなんてその後の話でしょう。

不祥事対応の最悪なパターン

不祥事を発生させてしまった企業がとる対応の最悪パターンですね。システム障害発生の原因究明が不十分であり、原因となったシステム接続方法や障害発生に関する情報開示が迅速かつ的確に行われてきませんでした。そのうえで出した結論には、東証にとっての顧客(証券会社とその先に繋がる投資家)に対する目線がまったく感じられません。

このあと、投資家や証券会社からの批判を浴びながら責任のとり方を小出しにして行くんでしょう。報告書を提出する金融庁は受理するかもしれませんが、証券会社はこのままでは納得しません。KYBの不祥事とは違って、証券会社が被った被害は具体的な損失金額が確定しますので、訴訟へと進んでいくものと思われます。

東証の主張を整理してみると

今後さらに東証の対応が明らかになっていくと思われますが、現時点での報道をもとに、東証の主張を整理しておきましょう。

責任があるとしているのは、

  • システム障害発生に対して回線を速やかに切り替えられなかった証券会社の責任
  • 想定外の事態が起きたときの対応に不備があったという東証の責任(その責任に対して社長の報酬1ヶ月10%削減です)

これに対して責任がないとしているのが、

  • システムおよび証券会社に対する接続方法の指示内容に不備があったという東証の責任

であり、ここまでその責任等に一切触れていないのが

  • メリルリンチ日本証券の大量のデータ誤配信の責任

となります。そして最後に、顧客である証券会社と投資家に対する東証の責任については、原因究明を開始する前から完全に否定したまま現在に至っています。「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」などを制定し、上場会社に対して、ガバナンスの高度化を求める東証。今後の動向が気になります。

 

財務省再生プロジェクト

森友学園がらみで発生した決裁文書の改ざん問題などを受け(セクハラとかもありましたね)、再発防止に向けて作られたのがこの「財務省再生プロジェクト」だそうです。「上意下達の風土が不祥事に繋がったとの反省を踏まえ、法令遵守を徹底する組織に立て直す」んだそうです。

行政も民間も同じ

行政機関も一緒ですね。赤字部分だけサクっと読むと、スルガ銀行の改善策みたいじゃないですか。スルガ銀行と違って第三者委員会等による徹底した調査と開示が行われたわけではないので、その実体は分かりませんが、おそらく省内にはパワハラや労務管理の不備なんか山のようにあるんでしょうね。今年7月末からボストンコンサルティンググループの女性を登用して、民間の知恵を組織改革に生かそうとしてたわけですが、この際、スルガ銀行並みに実態把握して開示するべきです。

360度評価の導入に、内部通報制度の実効性確保。報道を見る限りでは目玉はこの二つのようです。今頃ですか?っていうのが実感ですよね。ある程度の規模の企業であれば、既にこれくらいの体制は確立できていますよ。そもそも行政が所管する企業に対して、この程度のガバナンスは求めてきたはずです。それでも自分たちは違うんだと思ってたんでしょうね。

今さら、この程度の実態把握なしの改善策では・・・

法令遵守を徹底する。こんな掛け声でコンプライアンスを推進していたのって、kuniの経験では15年前のことです。少なくとも10年前辺りからは、法令遵守なんて当たりまえ、コンプライアンスは企業倫理や職業倫理に踏み込んでいました。法令守るだけじゃなくて、法令や規則に定められていなくても、倫理に悖る行為はダメだろう。そんなレベルです。

ここ数年は、といっても金融機関の場合ですが、「顧客本位の業務運営」が求められてきたわけです。こんなのどこの法令にも規則にも書かれてません。企業がそれぞれ考え、顧客に選ばれるために、法令を超えた領域で努力しているわけです。

内部通報制度にしても同様です。制度を設け、その存在をしっかり周知し、通報者の保護が図られることをどうやって末端の職員にまで浸透させていくか。先行している民間の企業もまだまだ苦しんでいます。

現状をしっかり把握して、まずは膿を出しきるべきでした。これまでパワハラしてきた上司たちがそのまま残った中で、表面だけ取り繕ってお終い、では何も変わりません。その組織の風土であったり、カルチャーの領域まで変えていかない限り、また違った形で事件が発生するだけです。

と、ここまでは報道された内容に基づいて(かなり限られた情報を基に)書いてます。この再生プロジェクト、調査結果も含めて是非開示してほしいですよね。

株式市場 急落? 調整?

10日の米国株式市場でダウ工業株30種平均が831ドル安、続く11日も545ドル安で、2日間合計で下げ幅は1376ドルになりました。その手前でも若干下げてますので、高値からは約2000ドル下げたことになります。率にして7.4%の下落です。

メディアと下落のサイン

新聞等ではとにかく下げを強調したいため、今年何番目の下げ幅みたいな書き方をしますが、下落率で見ればこの程度です。また、NYダウが10000ドルの時と26000ドルの今では、下げ幅の831ドルの意味合いが全然違います。前者は8.3%の下落ですが、後者(今回)では3.2%でしかありません。メディアはとにかくこんな風に誇張しますので、みなさん煽られないように気を付けてくださいね。

日経平均株価はというと、10月2日に24,271円の高値を付けたわけですが、9月29日付けの日本経済新聞では日本株に超強気の記事を書いてました。「日本株、稼ぐ力に再評価」「日経平均27年ぶり高値圏、割安感と安定感、海外マネー呼ぶ」。面白いもので、こんなふうにメディアがその気になったときは、だいたい天井を打つんです。

そしてもう一つ。取引所が新たな商品や制度を開始すると天井、というのも何度も経験してきました。ちなみに、この10月1日からは、全銘柄の売買単位が100株に変更されました。

健全な調整

目の前で相場が大きく下げるのを見せられると、その下げが永遠に続くかのような怖さを感じるものですが、下げたものはまた上がりますから。今回の下げの原因については色々と言われてますが、一義的にはFRBによる利上げだと思います。まだこの後も利上げを継続すると言ってます。

景気の拡大、株式市場の高騰に対して、利上げでそのスピード等を調整する目的でやっているわけですから、調整局面を迎えることはFRBの意図したとおりです。そうした調整がありながらも、まだまだ拡大、上昇するだろうとの読みがあるからこそ、この後も利上げするぞ、と言ってるわけです。過去の暴落場面はいずれも金利の引き上げを止めてからなんですね。

kuniとしてはとても健全な調整が入ったんじゃないかと思っています。米中貿易戦争も気になるところではありますけど、トランプは中間選挙明けから対中姿勢を軟化させてくるんじゃないかと思ってるんですね。北朝鮮との時もそう、一時はマジで戦争始めるんじゃないかと、みんな心配しましたよね。けど、実は強かに、かつ計画的に実利を取るんですよ、この男。

今年2月にもよく似た下げ方がありました。この時は、日経平均は24,000円から3,500円程度下げて切り返しています。下落率は15%弱ですね。今回はその時よりも少し浅めの押しで切り返してくれると面白くなるんですけどね。

どうでしょう、中間選挙で議席減らしちゃった、って辺りが底になるんじゃないかとも思っています。そうそう、今回の下げの第2の原因は、Taylor Swift さんのつぶやきだったのかもしれません。