野村證券 山陰合同銀行(その2) 証券仲介プラットフォーマー

山陰両県に広く強固な顧客基盤を有する山陰合同銀行グループと、金融商品取引業務に関する豊富なノウハウや商品ラインナップを有する野村證券とが相互の強みを活かし、地域経済の活性化や高齢化の進展とともに、人生100年時代への備えや次世代への資産承継など、多様化するお客様のニーズに応えるべく、全く新しい証券ビジネスモデルを構築するため本提携に至りました。(両社プレスリリースより引用)

証券仲介プラットフォーマー

以前この提携を取り上げましたが、今日はもう少し深掘りしてみたいと思います。このビジネスモデルの強みは、以下のような感じです。
① 山陰合銀、ごうぎん証券は証券システムが不要となる
② 山陰合銀、ごうぎん証券は野村のノウハウを得てコンサル機能が強化される
③ 野村は顧客対応を合銀グループに任せ、店舗を廃止し要員配置を最小化できる

冒頭で引用したように、プレスリリースではこの新しいビジネスモデルについて「全く新しい証券ビジネスモデル」とかなり強気でアピールしていますが、会見ではややトーンダウンした感じに聞こえました。今のところ最強の証券仲介プラットフォームだと思われますが、一方で少し気になることも。

①の強み、つまり合銀やごうぎん証券がこの提携で捨てることになる証券システムのことなんです。地銀や地銀の証券子会社は通常独自に証券システムを構築することはありません。証券業務用に作られ、多くの証券会社等が利用しているシステムに便乗する形でシステム導入するんです。

中堅証券や地銀等で最も多く利用されているのがSTARⅣという証券システム。その数は50社以上と言われています。で、、、このSTARⅣというシステムを提供して稼いでいるのがNRIという会社。そう、野村総合研究所なんですね。今でも野村ホールディングスが筆頭株主です。

野村證券 vs NRI

合銀グループがSTARⅣを使っているかどうかは確認できていませんが、野村證券が今後もこのビジネスモデルを拡大していくと、NRIをはじめとした証券システム会社の事業領域が一社ずつ消えていくことになるわけです。これって悩ましいですよね。野村の会見でいまいち強気の発言がなかったのはこのせい?、、、とkuniは勝手に推測しています。

SBI 島根銀行に出資 地銀連合構想

9/7の日本経済新聞の記事です。SBIホールディングス(HD)と島根銀行は、資本・業務提携すると発表しました。SBIが島根銀に25億円を出資します。SBIは全国の地方銀行と資本提携する「連合構想」を掲げていて、あらたな提携先が島根銀行ということ。地銀再編の呼び水となる可能性があります。

いきなり熱くなってきた島根県 西日本

先日、野村證券と山陰合同銀行の仲介業務について書きました。ごうぎん証券と銀行本体の証券口座を野村証券に移管し、口座管理は野村に任せてコストを抑制、山陰合銀は金融商品の販売に集中する。というもので、仲介の新しいスタイルです。その記事で島根銀行はどうするのか、、、と書きましたが、さっそく動き出しました。

苦しい現状に対する打開策が見つからない地銀に対して、証券会社が提携等を持ち掛け、陣営づくりを競い合い始めました。島根県には地銀は2行だけですので、野村證券-山陰合同銀行ペアと、SBI-島根銀行ペアのガチンコですね。これは面白そうです。

東海東京の動きも

野村、SBIのほかにも、以前から地銀との提携に力を入れてきた東海東京証券の動きも気になるところです。2007年に山口フィナンシャルグループと共同出資でワイエム証券を設立しています。山口フィナンシャルグループ傘下には、山口銀行やもみじ銀行があります。いずれも島根県に隣接する山口県、広島県の地銀ですね。さらに、福岡県の西日本シティ銀行とも西日本シティTT証券を設立してます。

本州の西端、島根、広島、山口と、関門海峡を挟んで九州は福岡。証券3社による地銀との提携、新たな収益モデルを築けるかどうか、どのビジネスモデルが成功するのか、、、今後も注目していきましょう。

野村證券 山陰合同銀行

8/26 日本経済新聞で「山陰合銀、野村と仲介業提携 20年度にも証券口座を移管」という記事がありました。山陰合同銀行とごうぎん証券が保有する証券口座を野村のシステムに移管し、野村証券松江支店が保有する証券口座も、そこへ集約するとのこと。

仲介業の新しい形

今回、野村證券と山陰合同銀行が模索する仲介は斬新だと思います。本業だけで生き残ることが難しい地方銀行にとって、手数料ビジネスとしての証券業務は不可欠です。ただし、そのためにシステムや事務といった大きなコストを負担しながらというのは、もう限界なんですね。

山陰合同銀行にとってみれば、野村の支店に出向して業務をするようなものです。極端な話、名刺だけあれば他は全部野村の装備で済んでしまいます。おまけに、当面は証券のコンサルティングノウハウまで野村の社員が教えてくれるわけです。

地方の銀行でよくある相続による顧客離反。相続が発生すると、相続人の息子や娘は東京に住んでいる。そのため手続きが終わると東京のメガバンクに口座を移され、顧客との付き合いが完全に終わってしまうという問題です。こうしたケースでも、全国に支店を持つ野村が間に入ることも可能になるかもしれません。

その他の効果

全国に展開するんですかね。地銀と証券大手の新しい関係として注目されます。東海東京やSBIに続く、地銀との新コラボ形態。野村にとっても、店舗に係るコスト削減や、社員が望まない地方転勤の回避という難しい人事上の課題を解決する糸口になるかもしれません。店舗を廃止して、その顧客は地銀の担当者に任せることができるわけですね。

島根県にはもうひとつ、島根銀行という地銀があります。金融庁が最も心配している銀行の一つですね。野村が島根県の顧客を託す相手に選んだのは、やはり山陰合同銀行でした。残された島根銀行はどう出るでしょう。引導を渡された形になるんでしょうか。こういう形で地銀の整理が進む、なんてこともあるかもしれません。お隣の鳥取県には野村の米子支店があったはず。鳥取も注目です。

SBI証券 地銀との共同店舗拡大

6/12付の日刊工業新聞の記事です。SBI証券はいわゆるネット証券で、持ち株会社であるSBIホールディングスは東証一部上場会社です。そのSBI証券が、地域金融機関との共同店舗を拡大させ、対面営業でもその影響力を増してきているという記事ですね。

地域金融機関との関係

SBI証券は、清水銀行を皮切りに、34の金融機関と金融商品の仲介で提携しています。これに加えて、グループ会社を通じて共同店舗の運営も拡大中とのこと。記事では紹介されてませんでしたが、このグループ会社というのはSBIマネープラザという会社です。

ホームページで見てみると、直近では三重銀行、東和銀行、などと共同店舗を開設しているようですし、山形銀行との提携のニュースも出ています。このほかにも19年度中に店舗展開で10機関前後と協力するようです。地方創世の観点からも注目ですし、地域金融機関にとっては救世主ですよね。

先日IFA(独立系金融アドバイザー)について書きましたが、このSBIマネープラザでも社員IFAの募集をやっているようです。金融機関での経験を持つ人材を3,000人程度まで拡大するらしいです。3,000人というと、準大手証券を確実に超えてきますね。恐るべし。。。

今一番元気の良い証券会社

ネット証券からスタートして、グループ会社で対面営業も地域金融機関と組んで拡大、という独自のスタイルです。多くの証券会社では対面営業からスタートして、ネットに進出しましたから、全く逆ですね。そしてほとんどの店舗は地域金融機関持ちなんでしょうから、コストはかかってないんでしょう。

一昨年の夏頃でしたでしょうか、日経の記事で「SBI証券の口座数が390万口座で、証券2位の大和証券を抜いた」というニュースを見ました。今年3月には463万口座と公表してますから、1位の野村證券(534万口座)も完全に射程に入ってきました。いやいや、素晴らしいです。

本体 SBIホールディングス

SBIホールディングスのホームページもついでにチェック。いつの間にこんなに多角化してたんだ、っていうくらい凄いことになってます。SBI証券を核に、住信SBIネット銀行、生保、損保、FX、ソーシャルレンディング、EC決済事業、フィンテック関連事業、アセットマネジメントなどなど。とても書ききれないグループ企業群です。

数えてみると全部で50社も出てきます。なんと、バイオ関連事業までやっていて、健康食品から医薬品の研究開発までやってます。いやぁ、北尾さん、、、参りました。

おまけですけど、社外取締役に、竹中平蔵、五味廣文なんていうネームもありましたよ。

地方銀行の人材紹介業

昨年1月、金融庁は監督指針を改正し、銀行による人材紹介業を解禁しました。「その他の付随業務等の取扱い」という項目の改正です。その他の付随業務というのも皮肉なもので、実はこの付随業務で何とか地域金融機関の生き残りをという施策なわけです。

ちなみに、その他付随業務として、記されている業務は、原文のまま引用すると、「銀行が取引先企業に対して行うコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、人材紹介業務、M&Aに関する業務、事務受託業務」という感じで、5つの業務が併記されています。人材紹介業務を含めて、すべての業務が現在の苦境を脱するために重要な業務のようです。

続けて、「なお、実施に当たっては、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となる行為の発生防止等、法令等の厳正な遵守に向けた態勢整備が行われているかについて留意する」よう求めています。そう、優越的地位の濫用が懸念される業務であるからこそ、従来認めてこなかったわけです。

当時メガバンクの人員削減のニュースなども流れていたものですから、kuniは「この改正で銀行員の再就職支援が可能にしたのか」などと考えてしまったものです。

根付くか 地銀の人材紹介事業

週刊金融財政事情2/25号では、このタイトルで地銀の人材紹介業務の特集をやっていました。人材紹介業務の持つ可能性についてレポートされており、要点をまとめると次のような感じ。
① 地域の持続可能性を高め、事業承継の問題を解決
② 首都圏人材を地方に還流させ、地方の成長を促進
③ 人材紹介業務が、地域総合サービス業の契機に

紹介手数料は紹介した人材の年収の3割程度と言いますから、年収600万円の人材を1件紹介しても、150万円程度。これで銀行の収益が回復できるとは到底思えませんが、人材を紹介することで顧客に非常に喜んでもらい、本当の意味で顧客の懐に飛び込むことができる、そうです。

たしかに、このままだと、地方の事業は後継者がなく、事業が成り立たなくなります。つまり、銀行の顧客が確実に減少していくということです。その減少を食い止めるだけでも意味のあることですし、地域金融機関であるがこそ、顧客の内情にまで通じているという強みもあります。

過疎化が進む地方に首都圏の人材が還流し、事業承継の問題を解決し、新たな活力も与えることができる。こうしたまさに地域密着型のコンサルティング業務の延長線上に、地域総合サービス業という地銀の未来があるというお話でした。ちょっと端折りすぎですね。20ページにわたる特集ですので、地銀関係者の皆さんは必読かと。