東証 市場区分見直し

日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所は上場市場のあり方を検討する。有識者の懇談会を設けて、東証第1部、第2部、マザーズ、ジャスダックと一般投資家向けの4つの市場の再編などを議論する。という11/3の日経記事です。

現在東証1部には2,100銘柄以上が上場しているそうで、2部の約500銘柄、ジャスダック、マザーズ合わせて約1,000銘柄とのバランスは良くないですね。記事でも書かれていたとおり、毎年昇格する銘柄は一定数あるのに、降格する銘柄がほとんどありません。

当然、1部銘柄が増えていきます。これを見直そうという動きですね。4つの市場の統廃合はもちろん、新市場の設立も視野に入れての検討になるそうです。

ガバナンスのレベル

「1部上場の企業だから」という投資家や社会からの信頼は確かにあると思います。そしてこのお墨付きはなくしてほしくないですよね。ただ一方で、そんな1部上場企業の中から、不正や不祥事を発生させ、株価も何割も下げてしまうような企業が後を絶たないのも事実です。

これでは「1部上場の企業だから」という安心感や信頼は維持できません。コーポレートガバナンス・コードまで作って浸透させていこうとしている取引所なんですから、もっとガバナンスレベルを厳しく求めていくべきなんじゃないでしょうか。

不正・不祥事発生で降格

ガバナンスのレベルという形のないモノだけに、昇格要件としては厳しい基準は設けにくいと思いますが、不正・不祥事を発生させた場合の降格基準は作れそうです。降格基準が示され、運用されることによる牽制機能も期待できると思います。ただし、実際に法令に違反していなくても不正・不祥事と認定するためには、委員会等の意志決定機関も必要になりそうですが。

上場企業は不正や不祥事が発覚すると、株価が下がります。市場での評価が下がることで制裁を受けるわけですが、この時一緒に株主も損害を受けるわけです。物言う株主として経営に対し、ガバナンスの強化を求めるという未然防止の手段はあるかもしれませんが、少数株主にはその機会はありません。

「一部上場の企業だから」という信頼を維持、回復するためにも、不祥事基準での降格要件、検討してみてはいかがでしょう。

東洋証券 証券取引等監視委員会が金融庁に行政処分の勧告

10/30 証券取引等監視委員会は金融庁に対し、東洋証券株式会社に行政処分を行うよう勧告したようです。今事務年度最初の勧告ですね。

監視委員会による勧告までの流れ

実際に立ち入り検査を行ったのは、監視委員会からの命を受けた関東財務局です。その結果が関東財務局から監視委員会へあがり、監視委員会が金融庁に対して行政処分を行った方が良いと勧告した、という流れになります。勧告というのは、検査を受けた業者に対して処分をした方が良いよ、と告げて勧めること、つまり意見することです。このあと金融庁が行政処分を下します。

大手や準大手の証券会社は監視委員会本体が担当しますが、中堅以下の証券や地方の証券会社は、その地域の財務局が担当しています。東洋証券には関東財務局が立ち入り検査したというわけですね。

勧告の内容

実際に公表された勧告内容を読んでみました。「米国株式取引の勧誘に関し、虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」という法令違反行為を指摘しており、その具体例も書かれています。全文引用します。

誤解表示の具体例
1株=1,000ドルの銘柄を1ドル=120円の時に買い付け(1,000×120=12万円で買付け)、その後、1株=1,300ドル、1ドル=100円の時に売却(1,300×100=13万円で売却)した場合、為替差損益を考慮した円ベースの損益は売却時の円換算額(13万円)から買付時の円換算額(12万円)を差し引いた額(1万円)となるところ、かかる利益額ではなく、ドルベースの利益(1,300-1,000=300ドル)を売却時のレート(1ドル=100円)で円換算した利益額(300×100=3万円)を伝えることにより、円ベースの利益額を過大に誤解させた。

理解できましたでしょうか。要するにドルベースでの値上がり益を円換算して伝えているだけで為替変動による損失分を考慮せずに損益を伝えているということですね。言うまでもありませんが、徹底的にセールストークの通話録音を聞いて指摘するという以前の検査スタイルですね。

外国株の取引においては各社で起きていたこと

米国株式が絶好調で、大きく上昇してきたこの数年。日本株では全然稼げなくなった証券会社は、当然外国株式営業に傾斜していきます。そんな中で、証券界ではこのような損益の伝え方が問題視されていました。外国株式の損益状況を外貨ベースでのみ伝えることの是非です。外貨での運用を継続してもらうのであれば、外貨ベースでの利益だけでもいいんじゃないかといった議論もありました。。。これ以上書いていくときりがないので、詳細は別の機会にしますね(外国株式営業にはいろいろ問題がありまして)。

その後、このような説明については、是正し、改善した証券会社も多いとは思いますが、この東洋証券の勧告の話題で、朝から大騒ぎになっている証券会社もまだまだ多いと思われます。

収益優先で機能しなかったガバナンス

極めつけはこれ。「営業部門の責任者が社内検査で指摘を受けても是正してこなかった」、「経営陣は検査結果を把握していながら、再発防止の改善措置についてなにも指示しておらず、営業優先の企業風土を醸成していた」。ガバナンスの教科書に載せてくれと言わんばかりの状況です。

立ち入り検査が本格化する今日この頃、外国株式でかなり稼いできた証券会社の経営層のみなさま、御社は大丈夫ですか?

パワハラと勤怠管理が企業の不正や不祥事のキーワード

厚生労働省はパワーハラスメントの防止策を義務付ける法律を作るそうです。相談窓口の設置や発生後の再発防止策を企業に求めていくとのことで、悪質な企業は公表もするとも言ってます。ただし、罰則は設けない方向のようです。

パワハラの判断基準

厚生労働省が3月にまとめた報告書によると、パワハラの判断基準は

  1. 優越的な関係に基づいてなされる
  2. 業務の適性な範囲を超えている
  3. 身体的・精神的な苦痛を与える

の3要素だそうです。これらがすべて重なって、パワハラと認定されるということです。判断基準を示されたとしても、、、それでも判断は難しいですけどね。

企業の不正や不祥事とパワハラ

kuniがこれまで見てきた不正や不祥事、法令違反などとパワハラは、かなり密接な関係があるように思います。パワハラが背景にあるケースが多いと言った方がいいですかね。上司等から過大な要求(例えば収益目標)をされ、精神的な苦痛を常時感じている部下が、その状態に堪えられなくなった結果、法令違反を犯して営業成績を作ってしまうようなケースが典型的です。スルガ銀行がまさにこのパターンでした。

また、同じような状況で行う業務は、注意力を欠くことになりますし、コストと見なされる手間をかけた確認も省略されてしまいがちになります。その結果として重大な事故が発生してしまうのです。収益至上主義というとき、パワハラは必ずと言っていいほど同時に発生しています。

この不正・不祥事とパワハラの関係も考慮してなのかは分かりませんが、来年にはパワハラ防止法が出来るということです。企業がパワハラに対してしっかりと向き合うようになることは、不正・不祥事の未然防止や早期発見にも資すると思われます。

不正・不祥事と勤怠管理

これもkuniの経験によるんですが、不正や不祥事と密接な関係がある事象として、もう一つ、勤怠管理の不備や異常が上げられます。現場にその能力を超える要求があると、必ず異常な残業時間や、勤務時間の申告の不整合などといった現象が起きるように思います。勤怠管理については、定量的にとらえることが出来るデータですので、予兆管理にも適してますね。

現場で起きている課題を発見するための体制(発見統制)

不正や不祥事を出来るだけ初期の段階で見つけるための体制を、発見統制という言い方をします。そもそも現場で起きている問題ある状況は、直属の上司が発見し、これをさらに上席者に報告していくことで経営層が認識。経営として必要な資源を投入するなどして解決していきます。この縦の報告ルートをレポートラインと言います(メインラインとも言います)。

上の例で言うと、経営層が現場で行われている、過剰な収益至上主義に陥ったマネジメントを改めさせるということになりますね。

ところが、このレポートライン、中間管理職の機能不全等の原因で、目詰まりしてしまうことが多いです。そのような場合を想定し、多くの企業がホットラインを設けています。中間管理職を経由することなく、現場で起きている問題ある状況を経営層が認識するための体制ですね。

経営が現場を正しく認識するための体制

不正や不祥事が発生する最も大きな原因は、経営が現場で起きていることを知らない状態、つまり経営と現場の乖離です。通常のレポートラインによる適切な報告」、勤怠管理の状況に対するモニタリングにより、経営が現場の状況を常に把握しておくことが重要です。

そして、本来の組織の機能であるレポートラインが、上手く働かなかった場合の備えとしてのホットラインによる補完。少なくともこの3つの機能は、ガバナンスにおける必須の体制だと思っています。

スルガ銀行 金融庁の行政処分を受けて

ダイヤモンド オンラインに「スルガ銀行に退場の道を用意せよ」という刺激的な記事がでていました。山崎元のマルチスコープというコーナーです。今は楽天証券の経済研究所にいらっしゃる経済評論家の方ですね。

今はスルガ銀行のホームページにも行政処分の内容が掲載されているようで、それを見てこの寄稿となったようです。こんなに酷かったのか、というのが感想のようで、これからこの方と同じように、スルガ銀行の今後に対して辛口なご意見される方が増えていくんでしょうね。

自主廃業

この方のご意見、「山一証券同様自主廃業でもいいのではないか」。おっしゃる通りだと思います。大賛成です。山一の自主廃業は発表されたのが1997年11月でしたか、kuniもよく覚えています。当時の社長が泣きながら「社員は悪くありません」って会見していた姿を。

ただ、山一は昭和40年にも一回潰れかけていて、日銀特融受けてますし、この時が2回目でした。日銀も今と違ってもっと毅然としてましたしね。加えて、この当時、毎週のように週末になる度に銀行が潰れてたんですよ。マジで。かなり特殊なというか、極限状態でしたから、自主廃業を選ばせることが出来たんでしょうね。

今はそんな状況ではなさそうです。日銀は一生懸命ETF買ってますし、金融庁は金融処分庁から金融育成庁に大変身されたようです。消費税10%やオリンピックに向け、物価を上げて、景気を良くしていきたい政府の意向も考えると、ここで「銀行が潰れちゃいました」はないでしょうね。シャレになりません。

また、これは地銀の特徴ですが、おそらくご当地の顧客からの信頼は、我々が思っているほどには失わないんじゃないでしょうか。ご当地顧客がインタビューに答えていました。「あれは都会の(東京の)お客さんが飛び付いただけ」みたいな。ご当地の顧客との間で築いてきた関係って意外に強固なのかもと思いました。

まとめ

色々書きましたが、今後も地銀100行が生き残りをかけて、崖っぷちの争いを展開していくわけです。そんな業界の経営者たちに対しては「不正なことをやったら、こんなことになってしまうんだ」という教訓にはしてほしい。そう考えると、やっぱり金融庁の行政処分だけでは甘過ぎるわけです。

自主廃業とまでは言いませんが、現在の暫定的な経営陣も含めて、今回不祥事発生時の経営層に対する責任追及はもっと厳格に行うべきだと思います。マスメディアの皆さん、そこをもっと調査して報じてくれませんかね。特に、見事にフェードアウトされた元社外取締役とかね。

クロネコヤマト 過大請求(2)

ヤマト、引っ越し「お荷物」視で綻び

9/4付け日本経済新聞2面でヤマトの記事。記事の中ではこの事件を発生させた内部要因について書いています。といっても、元幹部の証言として書いているだけで、日経が検証してるって感じではないですけどね。ただ、元幹部たちの証言は不祥事発生企業のモデルといっても良いほど、真因を指摘してると思います。

① 収益性の低い引っ越しを経営陣が軽んじ、現場任せに

まず一つ目に、経営が現場を信頼しすぎたり、自主性に任せすぎたりすることで起きる「現場任せ」。ヤマトの場合はこの事業部門の収益性が低いことから始まっているとしています。現場をしっかり見ていないくせに、収益インセンティブだけは与えているという、現場が悪さをするには最高の環境なわけです。また、こうしたケースでは、経営層が現場を知らないがゆえに、現場の実態を踏まえたルールの整備、周知が出来ません。

② 経営層と現場の従業員との間に壁

二つ目が、経営と現場の乖離です。やはりある幹部は「事なかれ主義の経営層とやらされ感で動く従業員との間に壁があり、問題解決は難しい」と証言しています。

ここからは記事になっていませんが、経営と現場の乖離においては、ほとんどの場合、中間管理層が現場の実態を把握出来ていない、もしくは実態をレポーティングライン上の経営層へ伝えることが出来ていないことが確認出来ます。

③ 内部告発を活かせなかったヤマトHDのガバナンス

そしてトドメに、ヘルプライン(コンプライアンスホットラインなど)からもたらされる情報に適切に対応しないという、究極のガバナンス欠如。「8年前に内部告発を直接受けながら適切に対応できなかった」ようです。

内部告発はいわゆる発見統制の一部ですが、本来はこうしたヘルプラインでの情報提供ではなく、現場管理層が問題を発見し、正規のレポートラインで経営層に報告。報告を受けた経営層が課題解決に向け、経営資源を投入するなどの判断をするわけです。正規のレポートラインが目詰まりすることは想定の範囲内です。そのための安全装置がヘルプラインなのです。

④ 故小倉会長の予兆管理

おまけで書かれている故小倉会長の経営手腕ですが、目の前で起きていること、仔細な変化から予兆を捕らえ、将来大きな事故を発生させないための予兆管理は、最近のガバナンスにおけるポイントとも言えます。記事では故小倉会長のカリスマなどと言ってますが、現在の企業経営層には当然求められる機能ですよ。