投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果について

個人が投資用不動産を取得するために、銀行等が行う融資に関するアンケート調査の結果を金融庁が公表しました。ここでいう投資用不動産は、アパート、マンション、シェアハウス等と定義されています。昨年秋から銀行や信金に対して行ってきたアンケート調査ですね。

銀行の融資に関する姿勢

「一棟建(土地・建物)向け融資のリスク分析」というアンケート結果では、融資の規模、収益への影響度などの指標で、1行だけが突き抜けた回答になっています。まさに、他行の追随を許さないほど際立っているんですが、これって、やっぱりスルガ銀行なんでしょうか。

「紹介業者の業務にかかる適切性の検証」では、紹介業者の不適切な行為に関して、これをチェックするという着意がなかったことがうかがえます。昨年の4月以降はこれが改善し、一定程度のチェックが聞き始めていることも認められるようです。

「融資の審査に関する結果」では、顧客が給与所得者の場合に、給与明細等の書類の原本を必ず確認する銀行は25%にとどまっており、原本またはコピーで確認すると回答した銀行が83%となっています。預金通帳等、財産の状況を示す書類についても、必ず原本を確認すると回答した銀行はわずか18%です。

そしてこれら顧客の財産や収入を示す資料を、紹介業者経由で入手する金融機関が多数となっていて、紹介業者(例えばTATERUみたいな)が書類を偽装したりすることについてのチェックが効いていない状況ということになります。

今後の方向性

アンケート結果の資料の最終ページには、「今後の方向性」というタイトルで、金融機関に求められる対応が書かれています。
・ 紹介業者・サブリース業者・管理業者の業務の適切性の検証による取引方針の明定
・ 物件の売買価格の妥当性検証
・ 融資全期間にわたる収支シミュレーション
・ 顧客の知識や経験等の属性把握と必要なリスク説明の徹底
・ これまでの融資残について顧客保護やリスク管理の在り方の適切性を点検
ざっとこんな感じでしょうか。いろいろと求められてます。これだけ色々求められ、これを徹底していくと、銀行にとっても旨味のある商売じゃなくなるでしょうね。

最初にルール無視の違反行為で大儲けする業者あり。そういう輩が見付かると、一気にルールの引き締めが行われ、それ以降は規制でコストが増加し、ビジネスとしての魅力も希薄化する。規制だらけの金融の世界ではよく見る光景です。

融資実行額は減速

今回のアンケート結果、だいたい想像通りの結果になっています。しかし、投資用不動産への融資残高は膨らんでいってますが、融資の実行額は29年3月期をピークに激減してきています。今期も上期の引き延ばしで計算すると前期比で約20%の減少、ピーク時との比較では30%の減少というところでしょうか。悪質な紹介業者、サブリース業者が駆逐されていってると良いのですが。

投資用不動産 値下がり(その2)

タイトルの通り投資用不動産の値下がりについて書いたところ、いきなり週刊東洋経済に特集記事が出ました。タイトルは「不動産バブル崩壊前夜」と、まぁセンセーショナルなこと。kuniが記事で「不動産全体のバブル崩壊はないでしょう」と書いた途端にです。

東洋経済の記事

東洋経済の記事では、主にアパートローンを中心に惨状を紹介しています。「1法人1物件スキーム」を利用した不動産投資なども紹介し、マンション、アパートなどの投資用不動産がヤバイことになっていることについて指摘していました。この部分についてはkuniもその通りだと思います。

しかし、それ以外のパーツ(首都圏中古マンションの成約価格の推移や空き家率の上昇のお話など)については、いずれもバブルと呼べるような状況ではなく、結果的にタイトルとはかけ離れた、説得力のない記事になっています。

そもそもバブルとは

時々バブルだの、バブル崩壊だのと言った刺激の強いニュース等を見かけますが、最近バブルの定義が変わってきてるんですかね。もちろん定量的な定義があるわけではないんですが、1990年からの景気後退局面をバブル崩壊と呼ぶのであれば、今の不動産にバブルはないと思います。先日書いた通り、あるとしたら投資用不動産に限定した狭いカテゴリーにおいてのみだと思います。

例えば、東洋経済の記事で紹介されている、首都圏中古マンションの成約価格ですが、2012年末辺りで2,500万円だったものが、2019年に入って3,500万円まで上昇しています。これをもってバブルと呼びたいようですが、本当のバブルはこんなものではありませんでした。2,500万円の不動産が数年間で7,500万円に上昇する、そんなレベルです。そしてバブルの崩壊で元の価格に戻ってしまう。

この記事を書いた記者はお幾つの方なんでしょうね。既にバブルは30年前のことです。今現在30代や40代の人ではバブルのことを直接は知らないわけです。上がったものが下がるからバブル崩壊ではありません。現状もバブルではなく、「やや過熱してきているかな」というのが実態ではないでしょうか。だから、この後少し冷めてしまうことはあると思いますよ。

外国人の買いが消えた

前回書けなかったのですが、海外からの不動産投資が急減速しています。この手のお金はまさに不動産投資として入ってきているお金です。東洋経済も書いていましたが、これには中国における規制強化が影響しているようです。

記事では深刻な事情などと表現していますが、インタビューに答えた専門家は「価格の上昇で期待利回りが低下したから」とか「物件も品薄で投資意欲があっても買いにくい」などと答えており、海外の投資家も理にかなった投資行動をとっていることがうかがえます。。。だから、バブルではないのです。さらに、言っておくと、バブルだの暴落だのと言っているときは大丈夫なもんです。本当に怖いのは、みんながまだ上がると思い始めるときです。

投資用不動産 値下がり

3/17 日本経済新聞に「投資用不動産 苦渋の圧縮」という記事が掲載されました。不動産業界で、アパートやマンションなど投資用物件の在庫を圧縮する動きが拡大し始めているとのこと。まさにサブリースショックによる不動産の値下がりが始まったわけです。

逆回転が始まった

今回記事になったのは、投資用不動産を主に扱う不動産業者ということなんでしょうか、6社の投資用不動産の在庫状況を伝えています。サムティ、ムゲンエステート、アルデプロ、ADワークス、TATERU、スターマイカといった企業が在庫の圧縮に動いているということです。

スルガ銀行やTATERUの不正で業界の実態が明るみに出て、レオパレス21の建築不正で大炎上。そして今回も金融庁が監視・牽制を強化したことで銀行の融資が大きく絞られました。これが止めを刺したという恰好です。1990年に当時の大蔵省が行った総量規制と同じ構図ですね。

1990年に始まったバブルの崩壊では、大蔵省の予想をはるかに超える急激な景気後退(いわゆるバブル崩壊)を日本経済にもたらし、不動産価格は急落、銀行の不良債権に繋がり、その後の「失われた20年」を日本に繋がるといった悪循環のトリガーになりました。

不動産バブルは崩壊するのか

結論から言うと、今回の投資用不動産の値下がりが、不動産全体に波及する可能性は低いと思います。1980年代の不動産は何もかもが値上がりし、不動産としての収益率で説明できない水準まで上昇していました。ただひたすら、値上がりするから誰もが買いたがる。裏では銀行の信用創造が無限に拡大していく。そんな世界だったんですね。今の若い人は知らないと思いますが、当時、山手線の内側の土地売却代金でアメリカ全土が買える計算になるほどの値上がりだったんです。

今回起きていることは、投資用不動産(アパートやマンション)、中でも特にサブリースという枠組みに取り込まれた対象物件だけが異常な価格に吊り上げられ、枠組みを形成する業者が大儲けし、当該案件のオーナーだけが食い物にされた。そんな構図だと思っています。おまけにこの枠組み、本来入ってこないはずの投資家が大勢取り込まれましたしね。

この枠組みにおける不動産オーナーはリピーターが非常に多いと言います。そのため銀行による信用創造、レバレッジがかなり効いており、逆回転し始めるとそれなりの勢いになる可能性がありそうですが、その他の不動産ではそれほどではないと思います。もちろん、都内の高層マンションなど、ちょっとやり過ぎじゃないのって物件は既に多いですけどね。

今回は投資用不動産の値下がりについてでしたが、もう一つ怖いのが海外からの不動産投資の状況ですね。こちらについてもまた機会があれば考えてみたいと思います。