東洋証券 証券取引等監視委員会が金融庁に行政処分の勧告

10/30 証券取引等監視委員会は金融庁に対し、東洋証券株式会社に行政処分を行うよう勧告したようです。今事務年度最初の勧告ですね。

監視委員会による勧告までの流れ

実際に立ち入り検査を行ったのは、監視委員会からの命を受けた関東財務局です。その結果が関東財務局から監視委員会へあがり、監視委員会が金融庁に対して行政処分を行った方が良いと勧告した、という流れになります。勧告というのは、検査を受けた業者に対して処分をした方が良いよ、と告げて勧めること、つまり意見することです。このあと金融庁が行政処分を下します。

大手や準大手の証券会社は監視委員会本体が担当しますが、中堅以下の証券や地方の証券会社は、その地域の財務局が担当しています。東洋証券には関東財務局が立ち入り検査したというわけですね。

勧告の内容

実際に公表された勧告内容を読んでみました。「米国株式取引の勧誘に関し、虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」という法令違反行為を指摘しており、その具体例も書かれています。全文引用します。

誤解表示の具体例
1株=1,000ドルの銘柄を1ドル=120円の時に買い付け(1,000×120=12万円で買付け)、その後、1株=1,300ドル、1ドル=100円の時に売却(1,300×100=13万円で売却)した場合、為替差損益を考慮した円ベースの損益は売却時の円換算額(13万円)から買付時の円換算額(12万円)を差し引いた額(1万円)となるところ、かかる利益額ではなく、ドルベースの利益(1,300-1,000=300ドル)を売却時のレート(1ドル=100円)で円換算した利益額(300×100=3万円)を伝えることにより、円ベースの利益額を過大に誤解させた。

理解できましたでしょうか。要するにドルベースでの値上がり益を円換算して伝えているだけで為替変動による損失分を考慮せずに損益を伝えているということですね。言うまでもありませんが、徹底的にセールストークの通話録音を聞いて指摘するという以前の検査スタイルですね。

外国株の取引においては各社で起きていたこと

米国株式が絶好調で、大きく上昇してきたこの数年。日本株では全然稼げなくなった証券会社は、当然外国株式営業に傾斜していきます。そんな中で、証券界ではこのような損益の伝え方が問題視されていました。外国株式の損益状況を外貨ベースでのみ伝えることの是非です。外貨での運用を継続してもらうのであれば、外貨ベースでの利益だけでもいいんじゃないかといった議論もありました。。。これ以上書いていくときりがないので、詳細は別の機会にしますね(外国株式営業にはいろいろ問題がありまして)。

その後、このような説明については、是正し、改善した証券会社も多いとは思いますが、この東洋証券の勧告の話題で、朝から大騒ぎになっている証券会社もまだまだ多いと思われます。

収益優先で機能しなかったガバナンス

極めつけはこれ。「営業部門の責任者が社内検査で指摘を受けても是正してこなかった」、「経営陣は検査結果を把握していながら、再発防止の改善措置についてなにも指示しておらず、営業優先の企業風土を醸成していた」。ガバナンスの教科書に載せてくれと言わんばかりの状況です。

立ち入り検査が本格化する今日この頃、外国株式でかなり稼いできた証券会社の経営層のみなさま、御社は大丈夫ですか?

変わり始めた銀行 北國銀行

金融財政事情に「変わり始めた銀行経営」という特集が組まれており、北國銀行の成功モデルが紹介されていました。これこそ攻めのガバナンスでしょう。

北國銀行のここまでの取り組み

様々な業種の企業が北國銀行のビジネスモデル変革を学ぶために、視察に訪れているそうです。記事で紹介されている同行がここまで打ってきた各種施策は以下のようなもの。

  1. 自前主義にこだわり自社でシステム開発
  2. 清掃は外部委託せず、支店も本部も行員が行う
  3. キャッシュレス化の推進により全店の金庫廃止
  4. ペーパーレス化によりシュレッダーも基本廃止
  5. 支店長室の撤廃と支店長車の廃止、役員車も削減
  6. アクワイアリング事業への本体参入
  7. 本体でのリース事業強化
  8. コンサルティングサービスの有料化

などが紹介されています。特殊な施策というのは決して多くはありませんが、出来そうで、実はなかなか実現できないことを断行してきています。

注目すべきはその発想

1.のシステムについては、金融機関の本質がシステムであることを認識した上での決断であり、「システムのアウトソースは自分で考えることを放棄すること」と言ってます。kuniもその通りだと思います。

2.の支店や社内の清掃を行員にやらせるというのは凄い。これは経営や支店長の特権も一緒に廃止するといった、経営自身が身を切ることなしに実現しない施策です。組合納得させるのにどんな苦労があったんでしょうね。

このような施策の背景にある彼らの発想として、以下のようなことも紹介されてました。

  • 物件費のコスト削減は徹底するが、行員のモチベーションを維持するため、人件費には手を付けない
  • 社内で新しい事業を検討するとき、他行がやっているか否かは議論しない
  • コンサルティング業務を進める上で、役員が最高のコンサルタントでなければならない
  • フラットな組織作りのためには、支店長室はコミュニケーションの壁でしかない

行員の人件費には手を付けないってのがしびれますね。普通はここから手を付けて、最も大事な人という資源を失っていくんですが、地銀の中にもこういう銀行が出てきてるんですね。

経営層自ら特権を返上し、本気で取り組む姿勢を見せなければ、こういう改革は進みません。経営層が既得権の上でふんぞり返ったまま、コンサルティング会社が考えたような格好良いフレーズだけで社員は動かないということです。

東証システム障害 社長の報酬 1カ月、10%削減

なんじゃ、こりゃ。だれがそんなもん期待してるの。東証にとっての顧客って誰なの?

お役所東証の残念な発想

「東京証券取引所は想定外の事態が起きたときの対応に不備があったとして市場運営者としての責任を認める」としながら、社長の月給1ヶ月10%の減額だと?証券会社は顧客対応でまだまだ混乱してるんですよ。東証の顧客って誰なのか真面目に考えたの? そう言いたくなります。

ほぼ同じタイミングで不正が発覚したKYBの不祥事対応、顧客対応が格好よく見えてきました。少なくとも彼らは「必要な性能を満たしていない可能性がある商品すべてを交換する」ということを、まず最初に表明しました。迷惑をかけた可能性のある顧客のことを第一に発想してますよ。社長や役員の報酬をカットするかどうかなんてその後の話でしょう。

不祥事対応の最悪なパターン

不祥事を発生させてしまった企業がとる対応の最悪パターンですね。システム障害発生の原因究明が不十分であり、原因となったシステム接続方法や障害発生に関する情報開示が迅速かつ的確に行われてきませんでした。そのうえで出した結論には、東証にとっての顧客(証券会社とその先に繋がる投資家)に対する目線がまったく感じられません。

このあと、投資家や証券会社からの批判を浴びながら責任のとり方を小出しにして行くんでしょう。報告書を提出する金融庁は受理するかもしれませんが、証券会社はこのままでは納得しません。KYBの不祥事とは違って、証券会社が被った被害は具体的な損失金額が確定しますので、訴訟へと進んでいくものと思われます。

東証の主張を整理してみると

今後さらに東証の対応が明らかになっていくと思われますが、現時点での報道をもとに、東証の主張を整理しておきましょう。

責任があるとしているのは、

  • システム障害発生に対して回線を速やかに切り替えられなかった証券会社の責任
  • 想定外の事態が起きたときの対応に不備があったという東証の責任(その責任に対して社長の報酬1ヶ月10%削減です)

これに対して責任がないとしているのが、

  • システムおよび証券会社に対する接続方法の指示内容に不備があったという東証の責任

であり、ここまでその責任等に一切触れていないのが

  • メリルリンチ日本証券の大量のデータ誤配信の責任

となります。そして最後に、顧客である証券会社と投資家に対する東証の責任については、原因究明を開始する前から完全に否定したまま現在に至っています。「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」などを制定し、上場会社に対して、ガバナンスの高度化を求める東証。今後の動向が気になります。

 

KYB(旧カヤバ工業)でも不祥事

油圧機器メーカーKYBでも検査データの改ざんが行われていたようです。旧会社名はカヤバ工業。kuniはこの社名の方が染み着いていて、KYBという社名見ただけではピンときませんでした。日本一のダンパー(ショックアブソーバーとも言います)のメーカーです。

ダンパー(ショックアブソーバー)とは

ちなみに、自動車の場合で説明すると、路面からタイヤ、車体に伝わる衝撃を吸収するためにバネが延び縮みするんですが、それだけではバネがずーっと伸び縮みを繰り返してしまいます。その繰り返しを収束(減衰)させるための装置がダンパーです。この機能を建物の揺れを減衰させるために使ったものが、今回話題になっている免震・制振オイルダンパーということですね。

当初はこの製品の検査員は1人だけしかいなかったということで、特定の担当者への過剰負担が不正行為の常態化に繋がったのではないかと言われていました。しかし、商品の安全性に対し、普通の配慮がなされていれば、1人体制だとか1人の責任なんて不自然な気がします。

実際ある報道によると、元従業員と責任者とのやりとりの録音が入手されていて、組織ぐるみでのデータ改竄と隠蔽があったのではないかとも言われているようです。真相はまだまだ見えてきていませんが、普通に考えて一個人の行為とは思えません。

データの改ざんが行われた15年間には東洋ゴムの不正事件も

2015年には東洋ゴムが「免震ゴム」、「防振ゴム」と立て続けにデータ改ざんを行っていたことが明るみになり、これらに対して行われた社内調査の杜撰さも併せて、社会の批判を浴びました。

この時、KYBのデータ改ざんを行っていた当事者たちはどう感じたんでしょうね。真実を告げると先輩たちを売ることになるという思いで、不正行為は引き継がれていったのではないかと思います。不正のトライアングル※1で言うところの「正当化」ですね。

それでも、この時ばかりは「自社においてもこういうことが起きていないか調査して見つけてほしい」、「この機会に自社も真実を公表してほしい」。そう考えたんじゃないでしょうか。不正を働いた者は、その行為を継続するうちに自身の行為を正当化し始めます。「納期を守るためにはしょうがない」とか「こういう行為を正そうとしない会社が悪いんだ」といった具合です。

これはkuniが見てきた経験ですが、行為者たちは早く発見してほしいと願うようにもなります。自分自身は不正を正すことができない、しかしやってはならないことを続けている。その葛藤の中で他の力に頼り始めるんですね。こんな心理状態で相当疲弊していくんです。

残念ながら、東洋ゴムの不正が批判を浴びたこの場面では、KYBの不正が表面化することはありませんでした。ガバナンスの観点では「他社で発生した事例については、自社の事業についても必ず点検を行う」のが基本動作ですが、このとき経営は動かなかったようです。

今回のデータ改ざんの事実がどのようにして発見されたのか。これについてもまだ明らかにされていません。当事者によるのか、別の従業員によるのか。内部通報なのか、外部機関やメディアへの通報なのか。同じくガバナンスの観点では、発見統制がどう機能したのかというところですね。

※1 不正のトライアングルとは

不正行為は、①機会、②動機、③正当化という不正リスクの3要素がすべてそろった時に発生すると言われていて、これを不正のトライアングルと呼んでいます。

日本企業のIT投資が不足

多くのシステムが老朽化

皆さんの会社でも当てはまりますか?金融機関や証券会社では、かなり深刻な問題になっています。30年も40年も前に基本設計されたシステムがいまだに現役で使用されているんですね。その間、税制や金融の制度等が変更されるたび、新しい商品や取引が始まるたびに、増改築を続けてきた結果、そのシステムに詳しいベテランIT人材もいなくなってしまっているという悲惨な状況です。

kuni自身も最近まで実態を知りませんでしたが、こうした古いシステム、減価償却は終わっていても、システムの運用そのものに巨大な費用がかかっているんです。運用・保守という業務ですね。これもやはりITに掛かる費用、つまり統計上はIT投資に含まれているようです。

経産省によると、日本のIT投資のうち、新規案件に回っているのは全体の2割程度でしかなく、43%の企業はIT関連費用のうち9割を保守に使っているそうです。

最先端のシステムの話題と現実

AI、ビッグデータ、IoT、X-テックなど、最先端のシステム開発やこれらのシステムによるニュービジネスは毎日のようにメディアを賑わせていますが、そうした先頭を走る企業の後ろには、「前向きなIT投資なんて、とても、とても」という企業がほとんどということです。

確かにこれが実体だろうと思います。だからこそスタートアップ企業に利があり、レガシーを抱える大企業にはそうした機動性がないという基本的な構図が生まれるわけですね。

と、理屈は理解するものの、米国に比べてこうした前向きなIT投資が非常に少ないという事実(米国の投資額は日本の4倍だそうです)は、深刻ですね。システム更新を先送りし、捨てられずに使っている古いシステムも、いずれ使えなくなるわけですから。経産省は来年度から、企業にシステム更新を指南する専門家を派遣するそうです。

しかし、最先端の企業とその他多くの企業、このギャップってどうなんでしょう。今はおそらく第何次だか知りませんが、ITブームの最中にあって、メディアに煽られて、先頭集団の映像ばかり見せられているのかもしれませんね。後ろを振り返ってみるとほとんど誰も付いて来てないみたいな。そして、何年か後にはITバブルとか言われてるんだろうか。などと考えてしまいました。これがフィンテックの実像なのでしょうか。もう少し勉強してみます。