9/1 日本経済新聞 大機小機

昔から人気のあったコラムですが、この日の大機小機はいただけません。

架空預金証書の記憶

スルガ銀行の不正融資事件が、1991年日本興業銀行が大阪の料亭の女将に2000億円超の資金を貸し付けた事件に酷似しているかのような書きぶりになっています。女将とは、尾上 縫(おのうえ ぬい)のことですね。55歳以上の金融関係者であれば知らない人は居ないと思います。分からない人は聞いてみてください。

たしかに架空預金証書に基づく巨額の融資という点は似ているかもしれませんが、この預金証書を偽造したのは当時の東洋信用金庫の支店長であり、日本興業銀行ではなかったと記憶してます。偽造であることは承知の上で融資していたという指摘なんでしょうかね。

リスクを取ることと、たがが外れてモラルがゆがむこととの境界はあいまい

「リスクを取ることと、たがが外れてモラルがゆがむこととの境界はあいまいだ。そして、モラルのゆがみがバブルを生むことを我々は経験的に知っている。デフレを止め、雇用情勢を改善したと称賛されるアベノミクスのもう一つの断面である。(原文そのまま引用)」

企業経営において「リスクを取ること」と「モラルがゆがむ」ことはまったく別のものです。「リスクを取ること」と「リスク感覚が麻痺すること」の境界線は確かにあいまいかもしれません。しかし、これらにより行われた行為と「法令・諸規則に違反する」行為は、明確に区別されるべきであり、法令に違反する行為により引き起こされてしまった結果に対する経営責任の重さは、別の次元で検討されるべきです。

要するにここで書かれている境界線は明確なのです。よって、「モラルのゆがみがバブルを生む」のではなく、「リスク感覚の麻痺がバブルを生む」のであり、「バブルの中で非常に卑劣な、法令に違反してでも儲けようとする輩が現れる」のです。それがスルガ銀行なんです。

 

クロネコヤマト 過大請求 31億円

9/1 日本経済新聞によると、ヤマトホールディングスは31日、個人も含めた全ての引っ越しサービスの新規受注を中止すると発表した。子会社が代金を過大請求していた問題を受けた措置。外部の専門家による調査では、過大請求の16%が「悪意」のある上乗せと認定した。

引っ越しを手がける子会社ヤマトホームコンビニエンス

社名のとおり、ヤマトホールディングスは持ち株会社なので、実際に不祥事を起こしたのは、子会社のヤマトホームコンビニエンスということです。調べてみると2003年にヤマト運輸㈱から引越事業を継承してますね。従業員数5000人、株主はヤマトホールディングス100%となってます。

ヤマトホームコンビニエンス社長は 和田 誠 氏。7月だったか謝罪会見してた人ですが、今年4月に社長就任なので、実質的な責任はその前の社長ということになります。今年3月まで社長してたのは 市野 厚史さんという人で、この4月からは同じ子会社のヤマトロジスティクス株式会社の社長になってますね。

この人、1988年にヤマト運輸に入社して、2004年にヤマトパッキングサービス㈱の社長になってる。新卒入社で16年目で子会社とはいえ社長です。相当なやり手なんでしょうね。で、2011年から7年間ヤマトホームコンビニエンスの社長を務めてます。

第三者委員会は過大請求について「2010年ごろから徐々に始まり全国的に増えていった」と言ってますから、ほぼこの社長の下で行われた悪事です。発覚直後にほかの子会社に退避とはね。現ヤマト運輸代表取締役社長の山内雅喜氏はヤマトロジスティクス社長から異動してますから、市野さん、まだコース乗ってるってこと?

31億円騙し取って、月額報酬の3分の1を3カ月間自主返上

調査報告書によると、過大請求額は、伝票からさかのぼれる2016年5月~18年6月の2年2カ月間で約17億円。また過去5年間では約31億円と見積もっているらしいです。

主力の宅配事業では、200億円を超える大規模な残業代の未払いが発覚しましたし、「クール宅急便」の低温管理ができていなかった品質問題も。そして今回の引越代金の過大請求。過大請求っていう表現もおかしくないかい?

で、例によって「グループガバナンス改革室」を設置してグループ全体のガバナンス改革に取り組むんだそうです。ヤマトホールディングスは木川真会長や山内社長、神田副社長の3人が月額報酬の3分の1を3カ月間自主返上する。としか書いてないけど、ホントにこれだけで済ましちゃうの?

スルガ銀行 社長、専務も辞任

8/30 日本経済新聞一面の記事。スルガ銀行はシェアハウスを含む投資用不動産向けの不適切な融資が横行していた問題の責任を取り、3人いる全ての代表取締役が辞任する人事を固めた。らしいです。

何だかなぁ、この記事

「3人いる全ての代表取締役が辞任」とか「全員辞めるのは異例のこと」とか。いかにも取締役が全員辞めるかのような見え方がして良くないです。取締役はここまで出てきた3人以外にあと4人居るでしょ。社外取締役も4人。日経、記事書きにくい理由でもあるのかな。

企業文化・ガバナンス改革委員会(委員長=木下潮音弁護士・東工大副学長)

これもよく分かりませんね。委員長は過去にも名前を聞いたことある弁護士だけど、あまり評判良くないのかな?ネットではネガティブな話が結構あるみたいだけど。

で、この弁護士、調べてみたら少なくとも2016年6月~今年の5月までスルガ銀行の社外監査役やってんのね。取締役の職務の執行を監査しなければならない立場にありながら、このような執行状況を看過してきた責任はどうなった?そして、この6月から社外取締役って、どうよ、これ。

他にも超有名人がこの6月に社外取締役退任してたりとか、ツッコミどころ満載。マスメディアって、こういうところにツッコんでいくんじゃないの。

スルガ銀行 会長辞任へ

8/28 日本経済新聞によると、スルガ銀行の会長が辞任する意向を固めたことがわかったようです。創業家の出身と言うことで、120年あまり続いた創業家経営に幕を下ろす、ということらしいです。

会長が辞任、それで?

会長が辞任することで創業家の支配を断ち切り、社長以下の経営陣はそのまま残るんでしょうか。今回の事件が創業家経営の闇の部分であるとの主張は分かりますよ。しかし、それを全面に出すことで、その他経営陣の責任を回避しようという目論見、ありますよね。

総入れ替えで良いじゃないですか

まずは創業家経営との決別をしっかりアピールすることで、メディアや世論の反応を見てるんですね。で、それなりに納得感が得られているという感触なら、社長以下取締役が○ヶ月間の報酬を自主返納だとか、○ヶ月減給だとかのありがちな落とし所を探ろうと。

いや、総入れ替えでしょ。少なくとも取締役は全員。会長が暴走したかもしれないけど、それを容認してきたのは取締役の責任です。既にここまでの調査で、賞罰を検討すれば再起不能になった(になるであろう)行員もたくさん居るでしょうに。下切ってお仕舞いじゃあねぇ。残る行員やその家族たちのためにも、総入れ替えで良いです。

また出た スルガ銀行

ここまでの振り返り

前年度までは地銀の中の優等生として、メディアや金融庁からも高い評価を得ていた当行でしたが、今年度に入って評価は急変。5月にはスマートデイズへのシェアハウス関連融資における審査書類の改竄や偽造など、不適切な融資の実体が表面化しました。

その後スマートデイズ社の破綻もあり、外部の弁護士で構成する第三者委員会を設置して、夏までに不正行為などの実体を調査するとしていました。

第三者委員会による調査結果 1兆円

その第三者委員会の調査の概要が21日分かったと、日本経済新聞が報じたわけです。概要としていることから、委員会の正式な発表ではないようですね。リーク?

同行の融資総額は3兆1500億円、そのうちの1兆円が審査書類の改竄など不適切な行為に基づく融資だったとのこと。はぁ?1/3が「不適切」って、ハンパない。

不適切、という表現で報じられていますが、法令違反のレベルの融資も相当量ありそうです。不適切な営業や審査に関与した行員は全体の2割以上にのぼるそうです。

普通、この2割の営業員で収益の過半を稼ぎ出すというのが、パレートの法則ですよね。前期あたりの稼ぎはほぼ不適切な融資ということでしょう。

カードローンの融資資金を預金に

記事には他にもいろいろ書かれてますが、「カードローンの融資資金を預金に」というのもありましたね。

そもそもカードローン自体がサラ金を銀行の看板のもとで行っており、自己破産が増加に転じてきたと批判されている中、その融資した資金を預金させているということのようです。先日どこやらの銀行が批判を浴びた歩積み両建てってやつですか。それを個人向けカードローンでですと。

明らかに組織として行ってきた不正と言っていいでしょう。取締役の責任は徹底的に追及されるべきですし、執行部隊の幹部も同様です。いやいや、不適切営業行為のデパート状態ですね。酷すぎます。

フィデューシャリー・デューティー(FD)やら顧客本位の業務運営とやらで、金融庁との間でモニタリング対応(アンケートへの回答や直接金融庁に足を運んでの説明など)とかしながら、さぞ美麗なご報告をしてたんでしょうね。

その裏にはこんな業務実体があったとは。これって、行政の責任問うのかなぁ。