ガバナンス 企業統治実務指針の改定案

9/19付け日本経済新聞の記事。経済産業省が進めている企業統治実務指針の改定案を紹介していました。まだ正式には公表されていませんが。

社外取締役らによる指名委員会を設置し、次の社長や最高経営責任者(CEO)をどう選ぶのか早い段階から計画をつくり、選考過程の議事録を文書で残すよう企業に求める。後継者に求める資質を明確にし、社内で透明な議論を進められるようにする。

この企業統治実務指針というのは、東京証券取引所と金融庁が運用を始めた、コーポレートガバナンス・コードの原則を経営に取り入れる際に、実務的にどんな対応が望ましいのか各論を示す内容で、金融庁なども交えて作成している、らしいです。

第9回コーポレート・ガバナンス・システム研究会

9/5に開催されたこの研究会での資料が開示されていたので、中身を覗いてみました。ガイドライン本編で5ページにわたり、社長・CEOの後継者計画について触れています。また、別紙4として後継者計画の策定・運用の視点なる20ページの資料も添付されています。

確かにコーポレートガバナンス・コードでも後継者計画の策定や後継者候補の育成について書いているんですが、企業統治実務指針の方は少しやり過ぎな感じですね。後継者の指名に客観性と透明性を、についてはその通りだと思いますが。

違和感ありあり

「基本的には、社長・CEOが就任したときから、次の社長・CEOの後継者計画に着手するべき」であるとか、「将来有望な人材を若手の段階(30代~40代)から早期に選抜し、随時入れ替えを行いながら、十分な時間をかけて育成」とか。まぁ、いろいろと大きなお世話って感じです。

社長に就任したときから次の社長のこと考えるって、これ現実的ですかね。30代とかからの選抜・育成、今でも一次選抜組みたいなのって多くの会社であると思うけど、これもねぇ。

この世代から選抜して入れ替えして、育成するって、多分人事部の仕事になるんですよね。今の大企業で一番機能してないのが人事部だと思うんですが、更に後継者育成とかやらせちゃうんですね。部分的に見れば最適なのかもしれませんが、全体最適ではないんですよね。役所の考えることはだいたいこのパターンです。

書き物としては素晴らしいし、おっしゃるとおりって内容なんですが。ステークホルダーのために、もっと言うと物言う株主のために、ここまでやらなきゃならないんでしょうか。というのが第一印象でした。

日本の企業には副社長、専務、常務っていう取締役がいるわけで、後継者の順位も常に意識されていると思うんですが、ここまでやりますか。イーロン・マスクの気持ちが分かるような気がします。

ESG投資

ESG投資とは、従来の財務データによる分析に加え、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の観点から投資対象を評価しようというものです。今回はこの手法についてもう少し詳しく見ていきます。

そもそもの前提

「社会や環境を意識した投資は、同時に財務リターンも高く、投資リスクも小さい」という大前提があります(kuniは前者について、やや疑問視してますが)。社会や環境を意識した経営戦略は、企業利益や企業価値向上に繋がると言われています。

国連のPRI(責任投資原則)

そこに国連のPRI(責任投資原則)が導入され、世界中の機関投資家がこれに自主的に署名し参加したわけです。その6つの原則を見てみましょう。

  1. 私たちは投資分析と意志決定のプロセスにESG課題を組み込みます
  2. 私たちは活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESG課題を組み入れます
  3. 私たちは、投資対象の主体に対してESG課題について適切な開示を求めます
  4. 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います
  5. 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協同します
  6. 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します

ほぼ世界中の機関投資家たちがこんなことになってるのです。新興宗教の教義みたいですが、かなりのインパクトがありそうです。

ESG投資の種類

では、具体的にどうやって投資対象を決定したりするのか。GSIAという機関によると、7つの投資の種類があるそうです。

  1. ネガティブ・スクリーニング
  2. 国際規範スクリーニング
  3. ポジティブ・スクリーニング
  4. サスティナビリティ・テーマ投資
  5. インパクト・コミュニティ投資
  6. ESGインテグレーション
  7. エンゲージメント/議決権行使

ネガティブ・スクリーニングというのは、武器やたばこ、原子力、ポルノ、ギャンブル、化石燃料といった宗教的倫理観に反するものや、環境破壊に繋がるような業種を投資対象から除外するという方法です。最初から投資対象から除外されるというのはかなり厳しいです。

逆にポジティブ・スクリーニングというのは、ESGに優れた銘柄のみ選抜して投資対象とする手法です。このようにいろいろな角度からESGに照らして企業を分析し、投資対象を選んでいき、7のように、株主となった後には、物言う株主として議決権を行使していくんですから、投資対象となる企業も他人事ではいられません。

当然、企業としてもESGを意識し、それの実現に向けて、具体的なアクションを網羅しているSDGsを進めて行かざるを得ません。

個人投資家にとってのESG

どうでしょう。株式投資におけるESGの重さについて、実感できたでしょうか。今なお折に触れ報道される人権侵害や、各種ハラスメント等の事件。たった一つの事件であったとしても、機関投資家の投資対象や保有対象から除外するアクションに繋がりかねないということです。

逆に、ESGに関して、大きく貢献できる事業分野を見出していく企業にとっては、猛烈な追い風になります。我々一般投資家もこの目線は持っておかなければならないということですね。

ESGとSDGsの関係

ESGって何?

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、企業の長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方です。

ESGの観点は、上場企業に投資する機関投資家の間で急速に広がってきています。銘柄選定において、従来のように業績等の財務情報だけを重視するだけでなく、ESGに対する企業の取り組みも評価するスタイルを「ESG投資」と呼んでいます。

ESG投資は国連責任投資原則(PRI)により裏付けられており、世界1,500機関以上のアセットオーナーや運用会社などが署名しています。世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も2015年9月に署名をしました。

つまり、国連が主導する形で世界の運用のプロたちがPRIに賛同し、ESG投資を積極的に推進しているということです。今この記事を読んでくださる方には、一旦「ESG」は「ESG投資」として理解しておきましょう。正確ではありませんが、あとで説明する「SDGs」との関係が理解しやすいと思います。

SDGsって何?

SDGsとは、「Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)の略です。これも国連を中心として生まれた基準で、ちなみに読みは「エスディージーズ」が正解です。SDGsでは17の目標が掲げられており、それらを達成するための具体的な169のターゲット(目標を具体化した項目)が設けられています。

簡単に言うと、世界を良くして行くためにこの17項目を共有し、各国で取り組んでいくことにしたわけです。そのため政府はもちろん、これに取り組んでいくわけですが、民間企業にも積極的な取り組みが要求されています。投資との兼ね合いでもう少し明確に言うと、上場企業はこの17の目標に向けて取り組まなければならないわけです。

「SDGs」は上場企業が取り組んでいかなければならない、社会課題の解決に向けた世界共通の目標と言えるでしょう。

ESGとSDGsの関係

以上をまとめると、

企業はSDGsに積極的に取り組むことにより社会の課題を解決していき、世界の機関投資家はそうした企業を見極め、ESG投資により積極的に出資して支援していく。

という関係性で理解し、記憶しておくのが良いかと思います。次回はこのESC投資で投資の世界がどんな風に影響を受けるのか、について書いてみたいと思います。

スルガ銀行 第三者委員会

見過ごしてきた経営陣の善管注意義務違反も認定

第三者委員会の調査結果が公表されました。スルガ銀行のニュース見てると気分が悪くなってくるので、少しほっといたんですが。

経営陣の善管注意義務違反も認定とあります。一方で、「経営責任を明確にするため、創業家の岡野光喜会長、米山明広社長ら3人の代表取締役、望月和也専務、柳沢昇昭常務の計5人の役員が7日付で辞任した。」そうです。

ここでいう善管注意義務は会社法上、取締役に課せられると解釈するのが一般的で、取締役は7名(社外取締役は除く)。計5人の取締役が辞任ですから、2名については、経営責任は問わなかったが、善管注意義務違反はあったという違和感のある結論。そのうちの一人が新社長に就任するらしいです。

新社長は期待できるの?

以前から指摘しているように、取締役なんですから、このお二人にも辞めてもらうべきでした。残した二人に再建までの責任を果たしてもらい、軌道に乗ったら退任、なんてシナリオがあるんでしょうか、、、? ないな。

この新社長、ラスボスの会長が取締役に選んだ使い勝手の良い人物だったのか、それとも社長と同期入社ながら後塵を拝してきた、会長にはちょっと扱いにくい「No」と言える人物だったのか。前者のような気がしますけどね。

株主代表訴訟や顧客からの訴訟

一旦これで落ち着いちゃうんでしょうが、今後想定される訴訟においては、また違った結論が出る可能性が高いと思われます。会社法上の善管注意義務違反では新社長の責任が認められ、監査役にまでその責任が及ぶ可能性もあります。今後も目が離せませんね。

そういえば、金融庁の検査も続行中でした。今回の第三者委員会の報告書も踏まえ、どのような行政処分を下すのか。委員会報告や役員人事を覆したりすることあるんだろうか。ちょっと期待したりして。

クロネコヤマト 過大請求(2)

ヤマト、引っ越し「お荷物」視で綻び

9/4付け日本経済新聞2面でヤマトの記事。記事の中ではこの事件を発生させた内部要因について書いています。といっても、元幹部の証言として書いているだけで、日経が検証してるって感じではないですけどね。ただ、元幹部たちの証言は不祥事発生企業のモデルといっても良いほど、真因を指摘してると思います。

① 収益性の低い引っ越しを経営陣が軽んじ、現場任せに

まず一つ目に、経営が現場を信頼しすぎたり、自主性に任せすぎたりすることで起きる「現場任せ」。ヤマトの場合はこの事業部門の収益性が低いことから始まっているとしています。現場をしっかり見ていないくせに、収益インセンティブだけは与えているという、現場が悪さをするには最高の環境なわけです。また、こうしたケースでは、経営層が現場を知らないがゆえに、現場の実態を踏まえたルールの整備、周知が出来ません。

② 経営層と現場の従業員との間に壁

二つ目が、経営と現場の乖離です。やはりある幹部は「事なかれ主義の経営層とやらされ感で動く従業員との間に壁があり、問題解決は難しい」と証言しています。

ここからは記事になっていませんが、経営と現場の乖離においては、ほとんどの場合、中間管理層が現場の実態を把握出来ていない、もしくは実態をレポーティングライン上の経営層へ伝えることが出来ていないことが確認出来ます。

③ 内部告発を活かせなかったヤマトHDのガバナンス

そしてトドメに、ヘルプライン(コンプライアンスホットラインなど)からもたらされる情報に適切に対応しないという、究極のガバナンス欠如。「8年前に内部告発を直接受けながら適切に対応できなかった」ようです。

内部告発はいわゆる発見統制の一部ですが、本来はこうしたヘルプラインでの情報提供ではなく、現場管理層が問題を発見し、正規のレポートラインで経営層に報告。報告を受けた経営層が課題解決に向け、経営資源を投入するなどの判断をするわけです。正規のレポートラインが目詰まりすることは想定の範囲内です。そのための安全装置がヘルプラインなのです。

④ 故小倉会長の予兆管理

おまけで書かれている故小倉会長の経営手腕ですが、目の前で起きていること、仔細な変化から予兆を捕らえ、将来大きな事故を発生させないための予兆管理は、最近のガバナンスにおけるポイントとも言えます。記事では故小倉会長のカリスマなどと言ってますが、現在の企業経営層には当然求められる機能ですよ。