イーロン・マスク テスラ会長兼CEO

テスラ株非公開化でSECと和解

テスラ株の非公開化に関して、米国証券取引委員会から訴訟を提起されていた件ですが、早くも和解だそうです。わずか二日間で。しかし、和解金が法人と個人で22億円ずつ、合計44億円だそうです。この和解金は裁判所の管理下で被害を受けた投資家に配分されるということです。

わずか二日間というのも驚きですが、44億円があっさり動いてしまうのもまた驚きです。このニュースでは2点、押さえておきたいことがあります。「当局の指摘に対して事実認定することなく行われる和解」と「会長という和訳」です。

SECの主張を認めることも否定することもなく和解

なんなんでしょうね、これって。非公開化のための資金が手当てできたとするマスク氏の主張に対して、SECは「誤った情報で投資家を欺いた」として訴えていたわけです。その事実関係をお互いに主張し、訴訟において戦うことなく、和解金を支払っておしまい。事実(白か黒か)は分からないまま。

米国では割とあるんですね、こういう展開。相場操縦を当局から疑われた場合、普通は相場操縦ではないことを証明するか、相場操縦であったことを認めて、法令違反として課徴金等を支払うわけです。

この時、相場操縦に該当するかどうかをはっきりさせることなく、和解金を支払っておしまいにしてくれちゃう。疑われた企業等にしてみると、争えば勝てると思うようなケースでも、事実認定されてしまった場合のレピュテーショナル・リスクを嫌い、スピード解決できるメリットを選択するわけですね。

会長を退任、CEOは留任

これも分かりにくい表現ですよね。表現というか、日本語訳が日本誤訳になってるって感じです。ここで言う会長とは、取締役会議長(Chairman of the Board of Directors)のことだと思われます。

取締役会会長と訳しても良いのですが、日本では名誉職として会長と呼ばれる人(多くの場合社長を引退した人)が圧倒的に多いため、略して会長といわれるとこちらを指しているように見えてしまいます。この誤解しやすい和訳、よく出てくるので気を付けましょう。

CEOは最高経営責任者で、CEOが取締役会議長を兼任することはコンプライアンス上は好ましくないと言われています。取締役会は取締役の業務執行状況を取り締まる役割があるからで、英国では兼任を許してないらしいです。

物言う株主と総会屋

物言う株主(アクティビスト)

株主としての権利を積極的に行使し、会社を変えていこうとする投資家のことを指していて、アクティビストとも呼ばれています。最近ではスチュワードシップ・コードの制定により、こうした投資家の影響力がより一層強力になってきています。

スチュワードシップ・コードというのはコーポレートガバナンス・コードの投資家版です。機関投資家向けの行動規範ですね。こちらは2014年に「責任ある機関投資家」の諸原則として金融庁が策定・公表し、今年5月に改訂されています。これもやはり7つの原則により、投資先の企業に対して持続的成長に資するよう議決権を行使することなどを求めています。

総会屋との違い

昔の総会屋は少数の株主として株主総会に乗り込んできて、議事進行を妨げるなどの妨害をし、またはそうした行為をちらつかせて、金を脅し取るなんてことをしていました。

一方で、現在のアクティビストは議決を左右しかねないほど大量に株式を買い付け、企業の経営に直接影響力を行使してきます。取締役の選任や、増配の要求、内部留保の活用などがよく聞く彼らの要求だったりしますね。

もちろんまともなアクティビストもいるでしょう。企業経営の効率化に資することもあるでしょうが、一方で、その企業を食い物にしてしまうような輩が居ることも事実です。このように、手口は違うものの、経営陣にとっては総会屋以上に手強い相手になってきていると思われます。

そうは言っても所詮素人

経営に口を出してくると言っても、彼らが当該企業の専門性を十分理解した株主であるわけでもなさそうです。最近の事例でも、大塚家具の件で久美子社長を支持して、前社長を追い出したアクティビストもある外資系ファンドでしたが、その後大塚家具が上手く行っているという話は聞きません。

正直kuni個人としては総会屋よりタチが悪いと思ってます。大塚家具の例のように、特に影響力を行使してくるのは外資系です。日本の文化や従業員、さらには顧客に至るまで、十分に理解せずに欧米流を押し付けられるというのは、長年会社や従業員、顧客と向き合ってきた経営者にとっては、ある意味妨害でしかないかもしれません。

地方銀行もターゲットに

PBRが1倍を下回っている地方銀行などは、こうした外資系アクティビストの格好のターゲットです。PBR0.4倍の地銀なら、買って即清算させれば投資金額は2.5倍になるわけですからね。まぁ、すぐに清算なんて出来ないんですが。

彼らとしては、滅多に潰れることがない日本の銀行で、PBRが0.4倍、そんな株を買い付ける。持ち合い解消で株が纏めて売られてますので、株式の調達には事欠きません。

買うだけ買ったら、株主への還元を厚くしろと迫る。配当金を増額させておいて、それを材料に株価が上昇したらさっさと売り抜ける。地銀同士の統合を経営に飲ませて、統合時の買い取り株価にプレミアムをつけさせて儲ける。なんてことを仕掛けてきます。

今の地銀は配当を増やそうにも、利益が出せてないわけですから配当原資がありません。含みのある有価証券を売却するとか、内部留保を吐き出して捻出するしかないですよね。これからも逆風の環境下で耐えていかなければならないのに、財務の健全性を損なうような経営へと追い詰められていくわけです。

なんだか書いてると悲しくなってきます。物言う株主、、、そろそろしっかりと対峙していくべきじゃないですかね。

コーポレートガバナンス・コード

前回の投稿で、ガバナンスとコンプライアンスについて整理してみたわけですが、そもそも日本におけるガバナンスの定義になったと思われる、コーポレートガバナンス・コードについても見ておきましょう。

コーポレートガバナンス・コードは、2013年に閣議決定された「日本再興戦略」で掲げた3つのアクションプランの一つ、「日本産業再興プラン」の具体的施策である「コーポレートガバナンス(企業統治)」の強化を実行していくうえでの規範です。金融庁が後ろ盾となって東京証券取引所が制定、2015年から適用されています。

コーポレートガバナンス・コードは規則とは言うものの、最近流行の原則を示したもので、法的拘束力はありません。「コンプライ・オア・エクスプレイン」っていいまして、「この原則を実施するか、または実施しないならその理由を説明しろ」と企業に迫ります。十分拘束力ありますわな。その後、今年6月に改定が行われ、現在の姿になっています。

コードの概要

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

という5つの基本原則で構成されており、その基本原則の中で、より具体化した原則や補充原則がいくつか設けられています(合計73原則)。

基本原則の構成だけでも分かるように、基本原則1と5は株主を意識したものであり、このコードが株主に対して大きく配慮したものになっていることが分かると思います。また、基本原則2や3においては、ESG問題への対応や開示に関する考え方なども含んでいます。

株主に対して企業が求められているもの

コーポレートガバナンス・コードが、株主に対する企業の取り組みとして求めている原則を見てみると、株主の権利の確保や、その権利行使に対する環境整備、資本政策や政策保有株式に関する考え方の説明などが並んでいます。

また、買収防衛策や株主の利益を害する可能性のある資本政策といった項目も並べ、経営陣と株主との間で利益相反のありそうな政策等について、その必要性や合理性をしっかり検討すること、株主の理解を得られるよう説明することを求めています。

こんなふうに書くと、特に違和感はないかもしれませんが、これって実は企業経営に非常に重たい足枷になるんじゃないの。ってのが第一印象でした。

その昔、総会屋というならず者が株主総会に現れて、その進行を妨げるといったことが横行していたんですが、今の世の中には物言う株主とかいう株主が居まして、この人たちと折り合いつけていくのも大変なんですね。この話もいずれ書きたいと思いますが。

コードのコンプライ率(実施率)

このように、株主に対して格段の配慮を求めるコーポレートガバナンス・コードですが、東証一部上場企業で、全原則をコンプライした企業(実施した企業)は636社(31.6%)、9割以上の原則をコンプライした企業が1,241社(61.4%)となっており、東証一部上場企業の93%がほぼこのコードを実施しているということです。(データは2017年7月時点)

kuni個人としては、コーポレートガバナンス・コードを非常に前向きにとらえていますが、この株主に対する原則については、やや違和感があると言いますか、消化不良を起こしてるんですね。次回はこのあたりも書いてみたいと思います。今日はここまで、ということで。

ガバナンスとコンプライアンス

このブログではガバナンスとコンプライアンスを一緒のカテゴリーで扱っていますが、これには違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。kuniは長年にわたりコンプライアンス業務に携わってきて、ガバナンスを論じる業務へとキャリアを移してきました。そのため、あらためてコンプライアンスとガバナンスの違いを意識することなく、お付き合いしてしまっているんだと思います。

そこでこの投稿では、コンプライアンスとガバナンスの違いについて、あくまで個人的な見解を書いてみます。

コンプライアンスとは

コンプライアンスについては「法令遵守」と訳されており、ある程度市民権を得てきたように思います。最近では、法令遵守に社内ルールを含めたり、倫理の世界も含めて、企業倫理とも訳されるようになってきました。時代の要請といいますか、行政の要請という面も大きかったと思います。

つまり、コンプライアンス=「法令や規則・ルールに加え、明文化されていない倫理観までを含めて、違反行為を発生させないための取り組み」という感じでしょうか。そしてこのコンプライアンスというのは会社であったり、取締役、中間管理職から従業員にいたるまで、全員が取り組むべきものです。コンプライアンスに取り組むことで、会社や役職員を守ることができるわけです。

ガバナンスとは

一方でガバナンスはちょっと厄介です。このブログもそうですが、ガバナンスという言葉はコーポレート・ガバナンスの略称で使っています。日本語では「企業統治」と訳されますが、コンプライアンスほどに市民権を得ていません。

それもそのはずで、ガバナンスは一般の従業員にとっては縁がなく、一義的には経営者に対して求められる機能であり、取り組みであると考えています。なもんですから多くの従業員にはあまり理解させる必要もなかったということでしょう。これが一つ目の相違点。

そして二つ目に、ガバナンスのほうがより広範な概念であり、従業員や会社、顧客、社会、株主の利益を守るための取り組みであるということです。また、コンプライアンスが護りの色合いが強いのに対し、ガバナンスには会社の利益を最大化していくという経営判断(攻めのガバナンス)までも含んでいます。

まとめ

とまぁ、ここまで説明してきましたが、文章にするのはやっぱり難しいですね。

コンプライアンスはすべての役職員に法令や(明文化されていないものも含めた)ルールを遵守させる取り組みであり、従業員や会社、顧客を護るための取り組みである。

ガバナンスは従業員、会社、顧客、社会、株主など、すべてのステークホルダーの利益を守ることを目的とし、経営者が組織や人を適切に機能させるための取り組みであり、従業員や会社、顧客を護るコンプライアンスはその一部である。

こんな感じでしょうか。こうして整理してみると、「社会と株主の利益」がポイントかもしれませんね。kuniとしては役職員全員にルールとその遵守を促してきたんですが、(本質的には)同じことを経営者に対して促す立場になったというだけで、違和感なくきてるんですよね、今のところ。

 

 

福山通運、日曜の配達停止

9/21 日本経済新聞 「福山通運は10月から順次、日曜日の企業向け荷物の配達を取りやめる。トラック運転手が休みやすい環境をつくり、人手確保につなげる。総務省も郵便物の配達を平日のみとする検討に入るなど、働き方改革の動きが広がってきた。人手不足は業種を超えて深刻さを増しており、同様の動きが他の業界にも広がる可能性がある。」(記事より引用)

働かせ方改革、顧客第一主義の修正という文脈で

記事では働き方改革の動きとして捉えてますが、顧客第一主義の見直し(または従業員第一主義)という文脈で書いてほしかったですね。当ブログではこの視点で何度か問題を指摘してきました。

日本には本来必要なかった「顧客第一主義」の推進により、何より従業員が追い込まれ、悲惨な状況に陥ってきていること。もっと従業員を幸せにしてやらないと、顧客への高いサービス提供を維持することが困難なこと。それでも顧客第一を掲げたいなら、会社としてこれ以上は従業員に求めない、ということを顧客に対してしっかり伝えていくこと。

まさに福山通運のこの判断は、従業員を顧客から守る政策なんだと思います。

有効求人倍率は7月に2.86倍

厚生労働省によると、トラック運転手を含む「自動車運転の職業」の有効求人倍率は7月に2.86倍で、職種全体の1.47倍を大きく上回っているらしいです。この事実から何を読み取るべきか。

顧客対応をしてもらう従業員を採用する、もしくは配置する場合、その従業員に顧客対応させて大丈夫か、当社の信用を傷つけてしまうような不適切な応対をしないだろうか。企業は必ずそこを考えるはずです。求人倍率が全体の2倍になっているという現場では、採用や配置に際して、人の見極めが甘くなっていくのはやむをえません。この時点で既に、顧客へのサービスの品質は劣化し始めているのではないでしょうか。

そんなことになるくらいなら、企業としてサービスの範囲を限定することで、従業員に求める顧客第一の範囲を明確にしてあげる。これが第一歩だと思います。

今回の福山通運や郵便局のこうした動き、まだまだ影響範囲は限定的ですが、このような対応を見せる企業には、必ず質の高い労働力が向かうはずです。また、これをきっかけにして、業界としてさらに踏み込んだ対応に展開していけるのではないでしょうか。

企業経営に携わるみなさん、従業員をもっと大切にしてやってください。