PDCAサイクルの罠

最近様々な場面で求められるようになってきたPDCAサイクル。皆さんも会社で「言いっぱなし、やりっぱなしにならないように、しっかりとPDCAを回してくれ」なんて、経営や上司から言われたことあるんじゃないでしょうか。

PDCAは有効

確かに通達や連絡分を発信してお終い。新しいルールやマニュアルを社内イントラに掲載してお終い。では、なかなか従業員全員への浸透は望めません。浸透させるためには、ルールやマニュアルを作成し、それを全従業員に読み込ませ、その理解度をEーラーニング等で確認する。そのうえで、マニュアル通りに業務運営が行われているかどうかをモニタリングで確認し、出来ていない事案については是正措置を取っていきます。

そして、重要になってくるのが、新しいルールの導入等により、業務運営の実態がどれだけ改善されたのかを検証・評価するという場面です。そう、PDCAの「C」ですね。「しっかりPDCAを回してくれ」なんて、経営層から言われてたりしたら、当然この検証・評価の結果も報告することになります。

気を付けたいPDCAサイクルの短期化

経営に図ってまで導入したルールや新しい制度。導入により期待した改善がいつ実現するのか、いつ成果が現れるのか、が気になるところです。当然といえば当然ですね。kuniがいた会社もそうでしたが、経営がまだかまだかと良い結果報告を求めてくるんですね。これ絶対やっちゃダメです。

3ヶ月や6ヶ月で結果を求められると、どうしてもそれくらいの期間で実現できるような成果を目指す企画になっちゃうんですね。要するに目指す目標のレベルを下げ始めてしまうんです。目標レベルが下がれば、当然達成時期も早まります。けど、それって当初目指したものでしたっけ。ということになります。

多くの場合、課題の根本原因まで掘り下げ改善していくことって、かなり長い時間を要するものです。にもかかわらず、6ヶ月とかで成果を求められるようになると、どうしても表面的に改善していくようなプランになりがちで、従業員の意識を変えていくとか、会社のカルチャーを変えていくというような改革にはなりません。

罠に陥らないために

経営層を例に書いてきましたが、課長や部長といった管理職でも同じことが言えます。PDCAの罠に陥り、部下から「少しでも早く結果を求められるから」と思われた時点でアウトです。課題や問題の設定に加え、それを解決するための施策までがどんどん矮小化されていきます。

PDCAを回すことに異議を唱えるものではありませんが、そのサイクルをいたずらに短期化してしまうことだけは避けましょう。特にコンプライアンスのように、じっくり時間をかけないと改善できないような分野では、注意が必要だと思います。

体制と態勢

前回のガバナンス&コンプライアンスの記事の中で「体制整備」という言葉を使いました。同じ言い回しで「態勢整備」と使っているケースも見ることがあると思います。今回はこの用語の違いについて。

体制整備

体制整備という用語を使うとき、使い手は主にハード面を重視していることが多いように思います。最も適切な組織を作り、業務分掌を定める。業務規程やこれを補完するべくマニュアルを作成する。こういったハード面の整備について使われるわけですね。法令・諸規則等に従い枠組みや土台を固めることは基本の基本です。まずは体制作りが必要なわけです。

態勢整備

一方、態勢整備という言葉は、出来上がった体制に魂を入れるといいますか、形だけの体制だけではだめで、それがしっかり機能するよう、ソフト面にも十分な配慮がされたモノを指して使われることが多いようです。kuniがいた金融機関は態勢整備を使います。というか、金融庁が必ず「態勢整備」を使用してきたから、というのが実態ですが。

もうかなり昔の話になりますが、金融庁の課長補佐だか係長(だったと思います)が、「態勢は体制と違うんだ。態勢は世の中が変化し、事業環境が変化するのに合わせて、変化・対応できるモノ・・・」みたいなことを力説していたのを覚えています。

ガバナンスやコンプライアンスも時代とともに変化

社会の変化や事業環境の変化に対応していく。というのが、まさに前回の記事で書いたように、PDCAの繰り返しによる態勢の変更であり、修正なんですね。

これほど事業環境が変化し、既存の事業だけに依存していては食っていけない時代です。ガバナンスやコンプライアンスの世界でも、こうした変化への対応は非常に重要です。皆さんの会社でも、もう何年も見直していない社内規程やルール、マニュアルってありませんか?

特に金融機関においては、今年度から金融庁や証券取引等監視委員会のオンサイト検査が本格的に再開しそうな気配です。ガバナンスやコンプライアンス関連のルールやマニュアル、この機会にチェックしておきましょう。

ガバナンスやコンプライアンスの体制整備とは

先日、kuniの会社で実際にあった質問です。「体制整備って言われても、いったいどこから始めればいいんですか?」、「ある程度出来てると思うんですが、次に何をすれば良いんですか?」。体制整備とはよく言われるものの、確かに難しいですかね。

体制整備とは何か

まずは、定義といいますか、基本の形を作ってしまった方が入りやすいかもしれません。ガバナンスもコンプライアンスも基本の形は一緒だと思っています。どんな会社でも、組織として、業務を執行していく際に遵守しなければならない法令や規則があるはずです。スタートはここからになります。

法令・規則があれば、その次に法令化はされていないけども、業界慣習や行政が要求するガイドライン等もあるはずです。これらについても考慮した社内ルールを設けることになります。自社のガバナンスやコンプライアンスの体制整備というとき、そのスタートは社内ルールの作成、つまり社内規程の整備と考えましょう。社内規程の整備を起点にPDCAを考えていくと、体制整備の全体像がイメージしやすいと思います。

体制整備のPDCA

  1. 社内規程を作成・整備する
  2. 実際の業務が社内規定に沿って運営されるようにする
  3. 社内規程から外れた業務運営を発見し、是正措置を講じる
  4. このような社内規程に沿った業務運営のプロセスの中で、実際の業務に社内規程が合わなくなっていた場合、社内規程等を追記・修正する

基本的な体制整備のPDCAはこんなふうでしょうか。既に運営されている会社の場合は、現在抱えている課題が、1から4のどの場面にあるのかを考えることになります。それぞれの番号の後ろには、その場面でやるべきことを書いていますので、今とるべきアクションが分かると思います。

今回の当社の場合

今回当社で問題視したのは、従業員からの通報(抽象的ですがこの程度の表現にとどめます)が行政機関の苦情窓口に入ってしまい、そこから「こんな話が入ってますよ、適切に対応してください」と知らされたという事例です。「なぜ社内で発見できなかったのか」、、、先ほどの1~4に照らしてみると、3に該当することが分かります。

現場で問題ある事態が発生しているなら、その実態を速やかに把握し、速やかに上席に伝え、経営がこれに対して適切な措置をとらなければなりません。このレポートラインが目詰まりしていたわけです。これを是正するための施策を考えることが、今回の体制整備です。

また、大きな組織ではこのようなレポートラインの目詰まりを完全になくすことは不可能です。そのため、目詰まりした場合に備えて、内部通報制度をしっかり機能させることも重要になります。

レポートラインの機能強化と内部通報制度の実効性確保。これが今回当社に求められる体制整備、ということになります。

金融機関における個人不正 最近の傾向

このところ上場企業による組織不正・ 不祥事が毎日のように報道されており、 当ブログでも取り上げる機会が増えてきています。 今日は企業ぐるみの不正ではなく、 金融機関で発生する個人の不正について書いてみます。

企業不正・不祥事と個人不正の違い

企業の不正・不祥事はその発覚に伴い、 第三者委員会などによる調査結果が詳細に公表されますが、 個人不正(個人行為)についてはその事実だけが公表(報道) されることはあっても、 詳細について公表されることは稀です。 これが最も大きな違いでしょうか。

そのため、金融機関においても、 他社で発生した事象の情報を入手することが難しく、調査・ 検証できるサンプルが限られ、 発生原因や未然防止への対応について考える際に情報が不足しがち です。

個人不正の傾向

kuniの場合は、情報不足を補うため、 同業他社との情報交換なども積極的にやってました。個人不正、 特にその中でも顧客のお金に手を付ける、 または会社のお金に手を付けるといった、いわゆる詐取・ 横領などの重度の不正で見られる傾向は以下の通りです。

  1. 不正を行った行為者の年齢は40歳前後が多い
  2. 収益環境が悪化するなどし、 営業員個人への数字のプレッシャーが過大
  3. 高齢の顧客との間で発生
  4. 行為者の生活の乱れ、酒やギャンブルなど遊興費が引き金
  5. 営業成績が芳しくない社員が多い

こんな感じでしょうか。 40歳前後という年齢は、住宅ローンを抱え、 子供の教育費がかさむ世代と一致しており、 ある程度の権限も持つようになる年齢ということで発生しやすいよ うです。数字のプレッシャーというのは説明不要でしょう。 高齢者との間で発生する傾向があるのも分かるような気がしますよ ね。そして酒やギャンブルについては、 これは証券会社特有なのでしょうか。実に多いんですよ。

最近の個人不正の新たな傾向

最近出てきた傾向としては、「20代社員の不正の増加」があげられます。 加えて、営業成績が良い社員でも発生し始めています。 承認欲求というやつでしょうか、SNSなんかでいう「いいね」 を欲しがる欲求みたいなもののような気がします。 デキる社員として認められていたい、 デキない奴と思われたくない、 自分が数字を達成できないことでみんなに迷惑かけたくない、といったことが原因となっているケースもありました。

また、働き方改革により残業時間が減少し、 手取り給与が減少してきていることも原因の一つになりつつあるよ うです。加えて、大学を卒業したばかりで、奨学金の返済もあり、 かなり窮屈な資金繰りとなっていることが背景にあるケースもあり ました。

そしてkuniが発生原因の一つとして感じてきたのは、 金融機関に勤めているにも関わらず、 現金を取り扱ったことがないという実体です。 kuniが営業をやっている頃は、顧客から入金のために3, 000万円、現金で鞄に入れて支店まで持ち帰る、 なんてことが普通にありました。

しかし、最近ではこうした恐い経験はすることもなく、 ほぼ全て振り込みです。現金の束を見ること持ち歩くことは滅多にありません。 すると顧客のお金もデジタルに画面に表示されるだけ、 紙に印字されているだけで、 お金としての重みがなくなってくるんですね。だから、 お金を扱うにも緊張もすることなく、慎重さにも欠ける。 一種のゲーム感覚なんだと思います。

不正に限った話ではありません。 命の次に大切なお金を預けてくれる大切な顧客、 という感覚も次第に失われていっているような気がします。

管理職が気を付けるべきこと

若年層の価値観はおじさんたちとは違うということ。 これにつきます。 おじさんたちの常識は通用しないことを大前提にすることです。 育った環境も違いますし、時代も違っています。 良くできる社員だから大丈夫、でもないんです。 こんな落とし穴に落ちてしまわないためにも、彼らの価値観、 考え方を理解した接し方に変えていかなければなりません。

変わり始めた銀行 北國銀行

金融財政事情に「変わり始めた銀行経営」という特集が組まれており、北國銀行の成功モデルが紹介されていました。これこそ攻めのガバナンスでしょう。

北國銀行のここまでの取り組み

様々な業種の企業が北國銀行のビジネスモデル変革を学ぶために、視察に訪れているそうです。記事で紹介されている同行がここまで打ってきた各種施策は以下のようなもの。

  1. 自前主義にこだわり自社でシステム開発
  2. 清掃は外部委託せず、支店も本部も行員が行う
  3. キャッシュレス化の推進により全店の金庫廃止
  4. ペーパーレス化によりシュレッダーも基本廃止
  5. 支店長室の撤廃と支店長車の廃止、役員車も削減
  6. アクワイアリング事業への本体参入
  7. 本体でのリース事業強化
  8. コンサルティングサービスの有料化

などが紹介されています。特殊な施策というのは決して多くはありませんが、出来そうで、実はなかなか実現できないことを断行してきています。

注目すべきはその発想

1.のシステムについては、金融機関の本質がシステムであることを認識した上での決断であり、「システムのアウトソースは自分で考えることを放棄すること」と言ってます。kuniもその通りだと思います。

2.の支店や社内の清掃を行員にやらせるというのは凄い。これは経営や支店長の特権も一緒に廃止するといった、経営自身が身を切ることなしに実現しない施策です。組合納得させるのにどんな苦労があったんでしょうね。

このような施策の背景にある彼らの発想として、以下のようなことも紹介されてました。

  • 物件費のコスト削減は徹底するが、行員のモチベーションを維持するため、人件費には手を付けない
  • 社内で新しい事業を検討するとき、他行がやっているか否かは議論しない
  • コンサルティング業務を進める上で、役員が最高のコンサルタントでなければならない
  • フラットな組織作りのためには、支店長室はコミュニケーションの壁でしかない

行員の人件費には手を付けないってのがしびれますね。普通はここから手を付けて、最も大事な人という資源を失っていくんですが、地銀の中にもこういう銀行が出てきてるんですね。

経営層自ら特権を返上し、本気で取り組む姿勢を見せなければ、こういう改革は進みません。経営層が既得権の上でふんぞり返ったまま、コンサルティング会社が考えたような格好良いフレーズだけで社員は動かないということです。