ソーシャルレンディング 金融庁は

昨年12月、関東財務局はソーシャルレンディング業者である「エーアイトラスト」に対して、1か月間の業務停止および業務改善命令を発出しました。証券取引等監視委員会の勧告による行政処分でしたが、併せて建議まで行っています。概要についてはこの記事を。

相次ぐ貸付型クラウドファンディングへの行政処分

一昨年の「みんなのクレジット」に始まり、「日本クラウド証券」、「FIPパートナーズ」、「ラッキーバンク・インベストメント」、「maneoマーケット」、そして「エーアイトラスト」。ソーシャルレンディング業者の不正が止まりません。FIPパートナーズに至っては改善の見込みがなかったためか、第二種金融商品取引業者の登録が取り消されています。

貸金業法の債務者保護

なんでこれほどまで悪行がまかり通っているのでしょう。どうやら、貸金業法が彼らの味方をしているようです。貸金業法は、例えば高利のローンで借入者が被害を受けないように貸出金利の上限を設けたりしています。つまりこの法律、融資先(債務者)の保護を目的としているわけです。

金融商品取引法の投資家保護

一方で、金商法は出資する投資家を保護する法律です。出資する対象となるモノがどういう輩かについて、徹底的に開示することを求めます。皆さんも聞いたことはあると思いますが、目論見書なんかがこれに当たります。貸金業法と金商法、それぞれの法律が相反する立場の融資先(債務者)と投資家(債権者)を保護しようとしているわけです。

匿名化のもたらした結果

現在のところ、この二つの法律のうち貸金業法の要請に応える形で運用されていて、ソーシャルレンディング業者は、融資先(債務者)の情報を匿名化かつ複数化して、ファンドの募集活動を行っています。当局からの要請なんですね。

仮に投資家と融資先が1対1の関係で投資ができるようになったら、実質的に投資家が貸金業をやっているのと一緒であり、問題がある。というのが当局の見解のようです。それで匿名化、かつ複数化しなさいと。

融資する先を匿名化できるし、複数化できる。要するに融資する先の実態は誰にも分らない状態で構わないという法律の要請を悪用し、実は全く実体のない融資先だったり、親会社の運転資金に充てたりといったこともできてしまうわけです。

金融庁の動向

金融庁は自らの指導で匿名化、複数化を進めてきましたが、一昨年から既に6件のソーシャルレンディング業者を行政処分してきました。こうした業者が悪いのはもちろんですが、当局も法の抜け穴のごとき状況を放置してきたと言われてもしょうがないですね。とうとう証券取引等監視委員会は建議も行いました。

金融庁にそろそろ法改正等を考えるよう促したということですね。建議の最後はこう締めくくられています。「貸付型ファンドに係る投資者保護の一層の徹底を図る観点から、投資家がより適切な投資判断を行うための情報提供や説明内容の拡充などの適切な措置を講ずる必要がある」

ここまで大きな動きはありませんでしたが、今回の建議を受けて、さすがに金融庁も動かざるを得ないでしょうね。

東洋証券に行政処分

この週末金曜日に金融庁は東洋証券に行政処分を行いました。証券取引等監視委員会の処分勧告に対する回答になります。処分の内容は業務停止が含まれていないごく一般的なものでした。

行政処分の概要

当処分内容に関する顧客への説明と適切な対応、外国株式の正確な損益を伝えるための態勢整備、再発防止策の策定と実行、役職員への研修実施、責任の所在の明確化といったことが求められています。この日から1か月間以内に改善報告書を提出することになります。その後半年間に一度の改善進捗状況の報告もセットになっています。

処分内容のレベル感

先ほど一般的と書いたように、セットメニューのような処分内容になっています。東洋証券の実態、それほど酷いものではなかったのかもしれません。うわさで聞いていた話でもそういう感触を得ていましたが、処分勧告までかなり強引に持って行ったような感じがします。

監視委員会の勧告では「会社ぐるみであり、3線の指摘に対して全く聞き入れない経営」といった構図が指摘されていましたが、そうでもなかったのでしょうか。まぁたまにあるんですよね、「経営に報告され一定の対応がとられていたとしても、実態が改善されなかったら何もしなかったと一緒」なんていう強引な検査官の言い分。やっぱり先祖返りしてるようで、検査官の質の問題もありそうです。

この後の展開

処分内容の概要からいくつか取り上げてみましょう。まず、「顧客への説明と適正な対応」というのがあります。適切な対応というのは、伝えた損益が間違っていたこと、および正しく損益を聞かされていたらその売買をしていなかったという顧客に対しては、当該売買をなかったことにしてあげる(原状回復といいます)ことを指しています。

また、「責任の所在明確化」というのは、まぁ言葉通りではあるんですが、社内的に誰の責任を問うかということでして、通常は誰かを社内処分してこれに応えることになります。1か月間の間に金融庁へ改善報告書を提出することになるんですが、この改善報告の中で役員等の降格や減給といった処分内容を報告するとともに、東洋証券自身のプレスリリースでその処分内容を公表することになります。

東洋証券に関する監視委員会の検査結果をここまでトレースしてきました。森長官退任後に金融庁がどう変わっていくのか、検査のやり方やその結果の評価である程度見えてくると思われます。コンプライアンス等の業務にかかわっていない証券マンの皆さんも、当局の考え方や検査の傾向は知っておいた方が良いですよね。良かったらこの後も一緒に見ていきましょう。

契約締結前交付書面(その2)

金融審議会 市場ワーキンググループ資料

資料では「契約締結前交付書面について、顧客に対して重要情報を提供するという趣旨を損なうことなく、顧客利便や環境への配慮等の観点から交付の合理化・効率化を図るとともに、複雑な商品等については顧客本位の説明等が確保されるようにする」

「併せて、本書面や広告等の記載事項や方法を工夫し、より認識・理解しやすいものにするなど、情報技術の進展等に対応した顧客への情報提供のあり方について、市場関係者と連携しながら検討していく」と書かれています。

複雑な商品等については顧客本位の説明等が確保されるようにする

前回途中までしか書けなかったので続きです。複雑な商品については多分あまり大きな合理化・効率化はないでしょう。全く変更なしかもしれません。金融庁が路線変更したとたんに、複雑な投信や仕組債が社会問題になったりしたら大変です。役所が一番敏感なところです。

逆に言うと、合理化・効率化が図られるのは主力商品であり、上場有価証券、国債、円貨建て債券、外貨建て債券、IPOぐらいということになります。投資信託は目論見書も兼ねているため、ここでは対象とならないと思います。

本書面や広告等の記載事項や方法

契約締結前交付書面と広告に共通している部分は「当社の概要」という部分で、自社の称号や所在地、加入協会などを記載している部分になります。この部分については不要なものはあると思いますが、それを削除しても効率化や合理化においてそれほど影響はありません。7~8行でしかありませんので。

情報技術の進展等に対応した顧客への情報提供のあり方

この部分は前回書いたネット上での閲覧やメールでの送信を指していると思われます。しかしながら、ネットやケータイを上手く操れないお年寄りのことを考えると、これらだけで可とすることは難しいかもしれません。こうした顧客への書面の交付は残るものと思われます。

金商法上「交付」ではなく、「提供・公表」が義務付けられている書面として、外国証券情報というのがあります。ここでは説明を省略しますが、この書面については、あらかじめ顧客から同意を得ることでネットで閲覧可能な顧客という整理ができるようになっています(実際にそういうPC環境等を保有しているかどうかに関係ありません)。

同意が得られた顧客は書面交付の対象から外れますので、書面発送顧客の大幅な絞り込みは可能になります。この考え方は取り入れられるのではないかと思っています。実務上は同意してくれない顧客から回答をいただくという方がナッジ的には良いと思いますが。

契約締結前交付書面

以前、金融審議会の資料から、金融庁が現在検討している金商法の改正案のうちの一つとして、契約締結前交付書面を紹介しました。今回はもう少し詳しく書いてみます。

金融審議会 市場ワーキンググループ資料

資料では「契約締結前交付書面について、顧客に対して重要情報を提供するという趣旨を損なうことなく、顧客利便や環境への配慮等の観点から交付の合理化・効率化を図るとともに、複雑な商品等については顧客本位の説明等が確保されるようにする」

「併せて、本書面や広告等の記載事項や方法を工夫し、より認識・理解しやすいものにするなど、情報技術の進展等に対応した顧客への情報提供のあり方について、市場関係者と連携しながら検討していく」と書かれています。

顧客利便や環境への配慮等の観点

この表現の中で笑えるのが「環境への配慮等」というところ。何のことやら意味不明だと思います。おそらくこれは証券会社が全顧客に一斉送付する契約締結前交付書面集のことを指していると思われます。数種類の商品の契約締結前交付書面を冊子にし、その他リーフレット等も一緒に封入して、年に1回送るのが通常で、ほぼすべての総合証券会社が行っています。

冊子は20ページから30ページにもなり、家族で口座開設していたらその家族分が自宅宛てに送られてきます。これを顧客はほとんど読むことなくそのまま廃棄している。つまり、環境に優しくない。ということをやっと理解したということなんですね。使用する紙の量は半端ないです。総合証券会社ですと顧客数は数十万件以上。大手証券だと100万件を超え、用紙の手当て、印刷、郵送の費用を合計すると、数億円を浪費するのです。

合理化・効率化の内容

金融庁はこの1年に1回一斉送付することで交付したとする現行の方式を認めていますので、これを環境に配慮して合理化、効率化するとすれば、以下のような改正ではないかと考えます。

  1. ネット上での閲覧を希望する顧客には、契約締結前交付書面の交付を不要とする
  2. 口座開設時に交付していれば、その後は重要情報の変更があった場合のみ交付すればよい
  3. 書面に記載すべき項目を大幅に見直し、簡略化する。その代わりに顧客が要求する場合は詳細版を別途交付できる体制を作らせる
  4. 顧客にとって重要なリスク等の情報を、証券会社自身が商品ガイドのような形で提供することで可とする。

kuniのおすすめ

kuniのおすすめは4番です。顧客本位の業務運営(自分たちで考えて各社が実行します)をあれだけ求めてきているわけです。投信のラインアップや保有期間など、各社の取り組みが比較できるような枠組みも出来上がりました。契約締結前交付書面に関しても、最低限のリスク項目だけを指定し、その表現やその他の事項をどこまで取り入れて商品ガイドにするかを証券会社に考えさせればいいと思います。そのうえで、各社の取り組みとして比較可能にすればいいでしょう。

商品ガイドはネット上で閲覧を可能とさせ1番や2番と組み合わせるのもありですね。どうでしょうこんなんで。書ききれなかったので続きは(その2)で。

「デジタル鑑識」金商法で規定へ 契約締結前交付書面見直しも

12/18付け日本経済新聞で報道されていました金融庁の新たな取り組みの話題です。紙面では「悪質な違反事件などで・・・」という前提しか書かれていないため、非常に分かりにくい記事になっていました。金融庁のHPではもう少しわかりやすく説明されてます。

犯則調査における証拠収集・分析手続

17日に開催された金融審議会「市場ワーキング・グループ第18回」で配布された事務局資料の中に、「直接金融市場に関する現行規制の点検」という資料がありました。その中で2番目の話題として掲載されています。

金融商品取引法には、刑事訴訟法や国税通則法等に導入されている電磁的記録に係る差押え等の規定が整備されておらず、押収物たるパソコン等の外部にある電磁的記録の取得等を行う場合、任意の協力を求めるしかない状態になっている。とのことで、あくまで犯則調査における証拠収集・分析手続についての法整備をするということのようです。

犯則調査における・・・、としていますから、金融庁や監視委員会が銀行や証券会社に対して実施する検査ではなく、告発して刑事訴追することを目的とした犯則事件の調査において、ということのようです。この辺りが明確に書かれていなかったので、記事読んだ感触では通常の検査の話題と混同した人も少なくなかったのではないでしょうか。

契約締結前交付書面等の見直し

同じ資料の1番目の話題として掲載されているのが「契約締結前交付書面等の見直し」です。こちらは日経では取り上げられていません。金商法施行時に目玉であった顧客向け法定交付書面ですので、その見直しについては金融庁もかなり気を使っているフシがあります。日経にも取り上げないでくれとか言ってるんですかね。こちらは見直しを検討していく、というステータスのようです。

証券界にはこちらの話題の方が圧倒的に重要な話題です。この書面、証券会社が取り扱う商品ごとに作られていて、その商品を買い付けるまでの間に交付しなければなりません。株式や国債、普通社債や外国債券といった一般的な書面については、交付漏れ(これは法令違反になります)を防止するために、書面集といった形にして年に1回全顧客に一斉送付しています。

証券会社でお取引のある方でしたら、年に1回分厚い書面集が届くのをご存知だと思います。これが契約締結前交付書面集というやつだったんですね。ただし、中身をじっくり読まれた方はほとんどいらっしゃらないと思います。証券会社の営業員でも良く分からない箇所がたくさんですから。

投資家に商品をよく理解してもらうために導入された書面のはずが、証券会社が責任を回避するための書面になってしまい、一般の投資家には非常に難解な内容になっています。金融庁と日本証券業協会が証券会社と調整しながら作成しました。こんな法律は早く廃止しましょう。契約締結前交付書面とは別に、本当に投資家にわかりやすく作った資料を各社用意してますから。