スルガ銀行 会長辞任へ

8/28 日本経済新聞によると、スルガ銀行の会長が辞任する意向を固めたことがわかったようです。創業家の出身と言うことで、120年あまり続いた創業家経営に幕を下ろす、ということらしいです。

会長が辞任、それで?

会長が辞任することで創業家の支配を断ち切り、社長以下の経営陣はそのまま残るんでしょうか。今回の事件が創業家経営の闇の部分であるとの主張は分かりますよ。しかし、それを全面に出すことで、その他経営陣の責任を回避しようという目論見、ありますよね。

総入れ替えで良いじゃないですか

まずは創業家経営との決別をしっかりアピールすることで、メディアや世論の反応を見てるんですね。で、それなりに納得感が得られているという感触なら、社長以下取締役が○ヶ月間の報酬を自主返納だとか、○ヶ月減給だとかのありがちな落とし所を探ろうと。

いや、総入れ替えでしょ。少なくとも取締役は全員。会長が暴走したかもしれないけど、それを容認してきたのは取締役の責任です。既にここまでの調査で、賞罰を検討すれば再起不能になった(になるであろう)行員もたくさん居るでしょうに。下切ってお仕舞いじゃあねぇ。残る行員やその家族たちのためにも、総入れ替えで良いです。

【経済教室】膨らむ高齢者の金融資産

週末に続き、8/27 日本経済新聞に高齢者と金融に関する記事が掲載されました。一面トップ記事の次は経済教室ですか。なんか気合い入ってますね。

金融資産の高齢化

記事の中に「こうしたトラブルを回避するため、業界ごとに一定年齢以上の高齢者については慎重に契約を進めるなど自主的な取引規制を設けている。とはいうものの事業者が認知機能を巡るトラブルのリスクを回避するために、年齢のみで一律に高齢顧客を回避すれば、認知機能が高く金融商品を理解できる高齢者もリスク資産から遠ざけることになる。」という記述があり、「金融資産の高齢化はリスクマネー供給の先細りや株式市場の縮小、さらには金融市場のゆがみをもたらしかねない。」とも書かれています。

金融商品販売の現場で起きていること

実はここで指摘されているような「年齢のみで一律に高齢顧客を回避する」という想定は、既に現場で実際に起きています。各金融機関が取引規制として設けているのは、多くの場合、一律な適合性チェックの手続きであり、一律に取引を禁止しているわけではありません。しかしながら、高齢顧客の場合、顧客の適合性を十分確認するための面倒な手続きが存在すると、現場としてはどうしても高齢者を敬遠する傾向が強くなってしまうということなんです。

結果的に営業員は高齢顧客との取引を出来るだけ回避し、高齢者の保有するリスクマネーは市場に供給されにくくなっています。もう既に起きているということです。

求められる取り組み

金融ジェロントロジーという枠組みの中で考えるべきかどうかは別として、高齢化による顧客の判断能力の低下という避けて通れない現実に対しては、3つの側面から対応を考えていく必要があると思います。

  1. 判断能力がないとされた高齢者の保有資産に対する金融機関側の柔軟な対応
  2. 判断能力が低下していくことに備えた商品や取引の提供
  3. 高齢化に備えた資産形成期から始める長期投資の枠組みとしての商品開発

この中でも特に速やかな対応が求められるのは①と思われます。常識的に考えて、顧客の口座から解約出金に応じることに相応の妥当性があると思われる状況でも、金融機関として何も出来ない。既にご家族の方から念書を差し入れてもらうことで、出金対応している金融機関もあるようです。しかしながら、個々の金融機関に任せるだけではなく、成年後見制度に加えた公的な枠組みや、自主規制機関等によるガイドライン的な枠組みなど、早急に検討するべきだと思います。

高齢者認知症と金融

認知症患者、資産200兆円に 30年度 マネー凍結懸念、対策急務

8/25 日本経済新聞にこのような記事がありました。高齢者を中心に進む認知症患者、彼らが保有する金融資産が、本人の意思確認が困難なことから投資や解約、出金にいたるまでの投資行動が凍結されてしまうことについて書いています。

記事では主に、認知症患者である親の治療費や施設費用を患者名義の口座から引き出せない実態や、成年後見人制度の使い勝手の悪さなど、利用者の立場から認知症患者の課題にフォーカスしています。しかしこの問題、金融機関側にとっても非常に大きな課題となっているんです。

70歳以上の顧客の金融資産が過半に

各金融機関により多少ばらつきはあると思いますが、顧客から預かっている金融資産の半分以上が70歳以上の高齢者の資産になってきています。一方で、三菱UFJ信託銀行が公表している資料によると、年齢層ごとの認知症罹患率はこんなふうです。70~74歳で4.9%、75~79歳で10.9%、80~84歳で24.4%、85歳以上で55.5%。

金融機関が預かる金融資産の多くが高齢者に偏り、その高齢者においては上記のように認知症が進んでいるのです。なんと、85歳以上の高齢者の場合、二人に一人が認知症という状況です。

高齢者顧客との訴訟が急増

認知症が始まってきた事実を高齢者は認めたがりません。そのため、金融機関との取引に関しても、できるだけそういう素振りは見せませんし、むしろ隠そうとします。「私は大丈夫、しっかり判断できるわ」をアピールするために、積極的に営業員の話を聞いてくれたりもします。営業員にとっても認知症を見抜くことは非常に困難なのです。

取引成立。しかしその後親族が現れて、「認知症が始まっている老人に、なんでこんな取引をさせたのか。」こんな感じで訴訟が起きるわけです。それまではしっかりしていた高齢者が途端に弱気になり、「自分の意思で取引したんだ」という意思表示もしてくれず、息子、娘の言いなりに変貌してしまうのもよくあるパターンです。

訴訟においても、高齢者寄りの判断が出る事例が増加しています。ある訴訟では、争点となった金融商品取引から2年後に認知症の診断を受けた顧客に対して、「2年前の取引時点においても相応の判断力の低下があったと認めるべき」などという判決もありました。遡ってアウトってなんだよ、と当時は思ったものです。

「泣く子と地頭には勝てぬ」と言いますが、金融機関にとっては「泣く子と高齢者には勝てない」が常識になってきています。

また出た スルガ銀行

ここまでの振り返り

前年度までは地銀の中の優等生として、メディアや金融庁からも高い評価を得ていた当行でしたが、今年度に入って評価は急変。5月にはスマートデイズへのシェアハウス関連融資における審査書類の改竄や偽造など、不適切な融資の実体が表面化しました。

その後スマートデイズ社の破綻もあり、外部の弁護士で構成する第三者委員会を設置して、夏までに不正行為などの実体を調査するとしていました。

第三者委員会による調査結果 1兆円

その第三者委員会の調査の概要が21日分かったと、日本経済新聞が報じたわけです。概要としていることから、委員会の正式な発表ではないようですね。リーク?

同行の融資総額は3兆1500億円、そのうちの1兆円が審査書類の改竄など不適切な行為に基づく融資だったとのこと。はぁ?1/3が「不適切」って、ハンパない。

不適切、という表現で報じられていますが、法令違反のレベルの融資も相当量ありそうです。不適切な営業や審査に関与した行員は全体の2割以上にのぼるそうです。

普通、この2割の営業員で収益の過半を稼ぎ出すというのが、パレートの法則ですよね。前期あたりの稼ぎはほぼ不適切な融資ということでしょう。

カードローンの融資資金を預金に

記事には他にもいろいろ書かれてますが、「カードローンの融資資金を預金に」というのもありましたね。

そもそもカードローン自体がサラ金を銀行の看板のもとで行っており、自己破産が増加に転じてきたと批判されている中、その融資した資金を預金させているということのようです。先日どこやらの銀行が批判を浴びた歩積み両建てってやつですか。それを個人向けカードローンでですと。

明らかに組織として行ってきた不正と言っていいでしょう。取締役の責任は徹底的に追及されるべきですし、執行部隊の幹部も同様です。いやいや、不適切営業行為のデパート状態ですね。酷すぎます。

フィデューシャリー・デューティー(FD)やら顧客本位の業務運営とやらで、金融庁との間でモニタリング対応(アンケートへの回答や直接金融庁に足を運んでの説明など)とかしながら、さぞ美麗なご報告をしてたんでしょうね。

その裏にはこんな業務実体があったとは。これって、行政の責任問うのかなぁ。

地域金融機関 環境と経営動向に関する整理

地域金融機関を取り巻く環境

金融庁が公表している金融レポートを参考に、地域金融機関を取り巻く環境を整理してみると以下のような感じでしょうか。

  1. 日銀の低金利政策継続により、長短金利差が縮小し、収益性が低下
  2. 比較的金利の高かった既存貸し出しや保有債券が返済、償還し、新規貸し出しや債券に置き換わることで全体の運用利回りが低下
  3. 生産年齢人口の減少により、借り入れ需要が低下し貸出残高が減少
  4. 高齢者が亡くなり、地域外に居住する次世代に相続が発生することによる預かり資産の流出

その環境下での経営の動向

このような環境下で収益を確保していくために、各金融機関は当然何かしらのリスクを取って、収益が期待できる事業分野に傾注して行くことになります。その事業分野としては主に以下のようなものがあげられます。

  1. 従来よりもリスクの高い顧客層への貸し出し(信用)
  2. 大都市等、他の地域へ進出した貸し出し(主に住宅ローン)の拡大(信用・コンプラ)
  3. アパートローン(サブリース問題も含む)(コンプラ)
  4. 個人向けカードローン(コンプラ)
  5. 有価証券運用(投資信託と外債への投資が中心)(金利・価格変動・為替)
  6. 投資信託や保険等の金融商品販売(価格変動・為替)

各項目の後ろに付けた( )内は金融機関が負う主なリスクを入れてみました。

今後何が起きるのか

地域金融機関を取り巻く環境と、その中で彼らが取り組む事業の動向を整理してみましたが、いかがでしょう。「環境」については頭の隅に入れておいてください。「経営動向」については、このあと個別に触れて記事にしてみようと思います。今後マーケット環境等が変化するのにあわせ、どのリスクが顕在化し、事業や運用にどのような影響が出てくるのかも見ていきたいと思います

既に、アパートローンやカードローン、不適切な貸付など、一部の銀行で問題が発覚していますし、その他の銀行でもこうした問題が出てくるものと思われます。

金融機関って程度の差こそあれ、基本的にどこも同じようなことをやってますからね。