地方銀行 投信販売

地方銀行の投信販売額等のデータに接する機会がありました。この過酷な環境下、地銀は生き残りをかけて投信や保険を売りまくっているのかと思いきや、意外にそうでもないんですね。

低迷する投資信託の販売額

地銀協のデータですので、第二地銀は含んでません。2014年度までは毎年増加していますが、この年度をピークに15年度、16年度と販売金額は減少しており、17年度(前年度)やっと増加に転じてます。とは言え15年度実績には届かない程度です。

なんとなく状況は理解できます。ピークとなった14年度の9月、金融庁が初めてフィデューシャリー・デューティーを言い出してます。ここが転機になったのでしょう。

15年度からはこのフィデューシャリー・デューティーのせいで、投信の短期乗換は睨まれるし、このころ絶頂期だった毎月分配型投信(特に通貨選択型投信)の販売は気が引けると。約2年間どうしていいのか分からないという状況だったんでしょうね。この間投信残高も減少させていて、販売も残高も大幅に伸ばした証券会社と対照的です。

アパートローン、カードローンと投信販売

投信販売が低迷していたこの期間、地銀が力を入れてきたのが、アパートローンやカードローンだと思われます。で、ご存じの通りアパートローンもカードローンも頭打ち。スルガ銀行や東日本銀行の不祥事も出てきて、やり過ぎた銀行はこれからあっせんやら訴訟やら、顧客対応に追われることでしょう。

実はこの期間、かなり株式市場は好調だったんですよね。だから証券会社は乗換ができなくても、通貨選択型投信が売れなくても、投信販売を大きく伸ばしたわけです。

ここから本気? 投信販売

これから地銀が法令を遵守しながら本気で取り組んで、ちゃんとした収益が見込める商品は、投資信託だけになったんじゃないでしょうか。保険はフロントフィー(契約時に入る手数料)の見直しがあったので、今一つ行員に人気ないだろうし。

聞くところによると、これまで投信は若手と女性行員にしか販売させてこなかったとか。マーケットが下げた時、顧客から苦情を受けるのは若手と女性だけ、そんな構図では誰も本気で取り組みませんよね。これからは支店長はじめ全員で頑張ろうって雰囲気になってきてますかね。

このマーケット環境、この水準から本気で投信販売に取り組まなきゃ、というのはどうなんでしょう。どうにも買わざるを得なくなった人たちが大挙して市場に参入してくるとき、相場は天井付けるものなんです。ちょっと嫌な予感がします。

物言う株主と総会屋

物言う株主(アクティビスト)

株主としての権利を積極的に行使し、会社を変えていこうとする投資家のことを指していて、アクティビストとも呼ばれています。最近ではスチュワードシップ・コードの制定により、こうした投資家の影響力がより一層強力になってきています。

スチュワードシップ・コードというのはコーポレートガバナンス・コードの投資家版です。機関投資家向けの行動規範ですね。こちらは2014年に「責任ある機関投資家」の諸原則として金融庁が策定・公表し、今年5月に改訂されています。これもやはり7つの原則により、投資先の企業に対して持続的成長に資するよう議決権を行使することなどを求めています。

総会屋との違い

昔の総会屋は少数の株主として株主総会に乗り込んできて、議事進行を妨げるなどの妨害をし、またはそうした行為をちらつかせて、金を脅し取るなんてことをしていました。

一方で、現在のアクティビストは議決を左右しかねないほど大量に株式を買い付け、企業の経営に直接影響力を行使してきます。取締役の選任や、増配の要求、内部留保の活用などがよく聞く彼らの要求だったりしますね。

もちろんまともなアクティビストもいるでしょう。企業経営の効率化に資することもあるでしょうが、一方で、その企業を食い物にしてしまうような輩が居ることも事実です。このように、手口は違うものの、経営陣にとっては総会屋以上に手強い相手になってきていると思われます。

そうは言っても所詮素人

経営に口を出してくると言っても、彼らが当該企業の専門性を十分理解した株主であるわけでもなさそうです。最近の事例でも、大塚家具の件で久美子社長を支持して、前社長を追い出したアクティビストもある外資系ファンドでしたが、その後大塚家具が上手く行っているという話は聞きません。

正直kuni個人としては総会屋よりタチが悪いと思ってます。大塚家具の例のように、特に影響力を行使してくるのは外資系です。日本の文化や従業員、さらには顧客に至るまで、十分に理解せずに欧米流を押し付けられるというのは、長年会社や従業員、顧客と向き合ってきた経営者にとっては、ある意味妨害でしかないかもしれません。

地方銀行もターゲットに

PBRが1倍を下回っている地方銀行などは、こうした外資系アクティビストの格好のターゲットです。PBR0.4倍の地銀なら、買って即清算させれば投資金額は2.5倍になるわけですからね。まぁ、すぐに清算なんて出来ないんですが。

彼らとしては、滅多に潰れることがない日本の銀行で、PBRが0.4倍、そんな株を買い付ける。持ち合い解消で株が纏めて売られてますので、株式の調達には事欠きません。

買うだけ買ったら、株主への還元を厚くしろと迫る。配当金を増額させておいて、それを材料に株価が上昇したらさっさと売り抜ける。地銀同士の統合を経営に飲ませて、統合時の買い取り株価にプレミアムをつけさせて儲ける。なんてことを仕掛けてきます。

今の地銀は配当を増やそうにも、利益が出せてないわけですから配当原資がありません。含みのある有価証券を売却するとか、内部留保を吐き出して捻出するしかないですよね。これからも逆風の環境下で耐えていかなければならないのに、財務の健全性を損なうような経営へと追い詰められていくわけです。

なんだか書いてると悲しくなってきます。物言う株主、、、そろそろしっかりと対峙していくべきじゃないですかね。

コーポレートガバナンス・コード

前回の投稿で、ガバナンスとコンプライアンスについて整理してみたわけですが、そもそも日本におけるガバナンスの定義になったと思われる、コーポレートガバナンス・コードについても見ておきましょう。

コーポレートガバナンス・コードは、2013年に閣議決定された「日本再興戦略」で掲げた3つのアクションプランの一つ、「日本産業再興プラン」の具体的施策である「コーポレートガバナンス(企業統治)」の強化を実行していくうえでの規範です。金融庁が後ろ盾となって東京証券取引所が制定、2015年から適用されています。

コーポレートガバナンス・コードは規則とは言うものの、最近流行の原則を示したもので、法的拘束力はありません。「コンプライ・オア・エクスプレイン」っていいまして、「この原則を実施するか、または実施しないならその理由を説明しろ」と企業に迫ります。十分拘束力ありますわな。その後、今年6月に改定が行われ、現在の姿になっています。

コードの概要

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

という5つの基本原則で構成されており、その基本原則の中で、より具体化した原則や補充原則がいくつか設けられています(合計73原則)。

基本原則の構成だけでも分かるように、基本原則1と5は株主を意識したものであり、このコードが株主に対して大きく配慮したものになっていることが分かると思います。また、基本原則2や3においては、ESG問題への対応や開示に関する考え方なども含んでいます。

株主に対して企業が求められているもの

コーポレートガバナンス・コードが、株主に対する企業の取り組みとして求めている原則を見てみると、株主の権利の確保や、その権利行使に対する環境整備、資本政策や政策保有株式に関する考え方の説明などが並んでいます。

また、買収防衛策や株主の利益を害する可能性のある資本政策といった項目も並べ、経営陣と株主との間で利益相反のありそうな政策等について、その必要性や合理性をしっかり検討すること、株主の理解を得られるよう説明することを求めています。

こんなふうに書くと、特に違和感はないかもしれませんが、これって実は企業経営に非常に重たい足枷になるんじゃないの。ってのが第一印象でした。

その昔、総会屋というならず者が株主総会に現れて、その進行を妨げるといったことが横行していたんですが、今の世の中には物言う株主とかいう株主が居まして、この人たちと折り合いつけていくのも大変なんですね。この話もいずれ書きたいと思いますが。

コードのコンプライ率(実施率)

このように、株主に対して格段の配慮を求めるコーポレートガバナンス・コードですが、東証一部上場企業で、全原則をコンプライした企業(実施した企業)は636社(31.6%)、9割以上の原則をコンプライした企業が1,241社(61.4%)となっており、東証一部上場企業の93%がほぼこのコードを実施しているということです。(データは2017年7月時点)

kuni個人としては、コーポレートガバナンス・コードを非常に前向きにとらえていますが、この株主に対する原則については、やや違和感があると言いますか、消化不良を起こしてるんですね。次回はこのあたりも書いてみたいと思います。今日はここまで、ということで。

ガバナンスとコンプライアンス

このブログではガバナンスとコンプライアンスを一緒のカテゴリーで扱っていますが、これには違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。kuniは長年にわたりコンプライアンス業務に携わってきて、ガバナンスを論じる業務へとキャリアを移してきました。そのため、あらためてコンプライアンスとガバナンスの違いを意識することなく、お付き合いしてしまっているんだと思います。

そこでこの投稿では、コンプライアンスとガバナンスの違いについて、あくまで個人的な見解を書いてみます。

コンプライアンスとは

コンプライアンスについては「法令遵守」と訳されており、ある程度市民権を得てきたように思います。最近では、法令遵守に社内ルールを含めたり、倫理の世界も含めて、企業倫理とも訳されるようになってきました。時代の要請といいますか、行政の要請という面も大きかったと思います。

つまり、コンプライアンス=「法令や規則・ルールに加え、明文化されていない倫理観までを含めて、違反行為を発生させないための取り組み」という感じでしょうか。そしてこのコンプライアンスというのは会社であったり、取締役、中間管理職から従業員にいたるまで、全員が取り組むべきものです。コンプライアンスに取り組むことで、会社や役職員を守ることができるわけです。

ガバナンスとは

一方でガバナンスはちょっと厄介です。このブログもそうですが、ガバナンスという言葉はコーポレート・ガバナンスの略称で使っています。日本語では「企業統治」と訳されますが、コンプライアンスほどに市民権を得ていません。

それもそのはずで、ガバナンスは一般の従業員にとっては縁がなく、一義的には経営者に対して求められる機能であり、取り組みであると考えています。なもんですから多くの従業員にはあまり理解させる必要もなかったということでしょう。これが一つ目の相違点。

そして二つ目に、ガバナンスのほうがより広範な概念であり、従業員や会社、顧客、社会、株主の利益を守るための取り組みであるということです。また、コンプライアンスが護りの色合いが強いのに対し、ガバナンスには会社の利益を最大化していくという経営判断(攻めのガバナンス)までも含んでいます。

まとめ

とまぁ、ここまで説明してきましたが、文章にするのはやっぱり難しいですね。

コンプライアンスはすべての役職員に法令や(明文化されていないものも含めた)ルールを遵守させる取り組みであり、従業員や会社、顧客を護るための取り組みである。

ガバナンスは従業員、会社、顧客、社会、株主など、すべてのステークホルダーの利益を守ることを目的とし、経営者が組織や人を適切に機能させるための取り組みであり、従業員や会社、顧客を護るコンプライアンスはその一部である。

こんな感じでしょうか。こうして整理してみると、「社会と株主の利益」がポイントかもしれませんね。kuniとしては役職員全員にルールとその遵守を促してきたんですが、(本質的には)同じことを経営者に対して促す立場になったというだけで、違和感なくきてるんですよね、今のところ。

 

 

10年周期 金融危機

リーマンショックから10年が経過

このところやたらとリーマンショックの話題を見かけます。あれから10年ということで、振り返りの記事が多いですね。ちなみに、リーマンショックというのは日本特有のネーミングらしいです。海外ではサブプライム・ショックと呼ぶのが普通だそうで、その結果としてリーマンが潰れたと。

10年というのがキリがいいからというだけではなく、この30年ほど、10年周期で金融危機が発生しているから、という背景もあるようです。このことは前回の投稿にも書きました。10年に意味があるとは思えないんですが、概ね10年ごとに起きてるんですね。

米国の政策金利との関係

この10年金融危機説、米国の政策金利との関係で語られることが多いようです。米国の金利が引き上げられ、何度か引き上げが続き、それが終わって1~2年あとに金融危機が発生しています。

景気の過熱を恐れて政策金利を引き上げます。一気に上げると影響が大き過ぎるので、一年に2回とか3回とかのペースで上げていくんですね。これをだいたい2年とか3年とか継続します。そうすることで好景気を長く継続させたいという思いと、景気が悪化し始めた場合の政策金利の下げ余地を確保するという狙いもあります。

金融危機が発生すると、先ほどの逆で、政策金利は何度も引き下げられ、次第に収束、景気も持ち直し、株価も上昇に転じていく。これを繰り返してきてるんですね。

金融危機のメカニズム

バブルという言葉は、平成以降に社会人になった人たちにはピンとこないようで、この投稿では金融危機という言葉を使ってます。念のため。投資資金は常に効率の良い投資先を探し、さまよっているのですが、金融経済は実体経済の50倍に達しており、既に投資先が枯渇しているわけです。

米国の金利がどんどん下がっていくため、米国内で行き場を失ったお金は国外に投資先を探し、アジアや新興国にも流出していきました。アジアや新興国は低い金利で資金が調達できるわけで、この間経済は拡大します。米国を例に書いてますが、同じことは日本や欧州でも起きています。メガバンクは国際金融の比率を大幅に上昇させましたし、トルコリラの急落場面では、イタリアやフランスの金融機関がトルコに大量に貸し込んでいるという話題もありました。

こんな状況で米国の金利が上昇に転じたのです。すると、これまでのお金の流れが逆流し始めます。アジアや新興国の通貨が売られドルを買って自国に戻っていきます。通貨安によってアジアや新興国の借金は膨れ上がります。このときに新興国の経済が立ち行かなくなり、失速し、資金を融通してきた金融機関の資産が毀損します。

今最も心配されている次の金融危機のシナリオはこんなところでしょうか。ただ、どんな風に危機が訪れるのか、それは誰にも分かりません。しかし、ここに書いた大きなお金の流れとその逆流の構図は頭の隅に置いておいた方がいいと思います。