スルガ銀行の次は西京銀行?

選択という雑誌の連載記事「地方金融の研究」というのがありまして、今月号の記事のサブタイトルが「疑惑膨らむ第二のスルガ」なんですね。TATERUというアパート経営総合支援の会社と連んでおり、融資審査の不正とその引き受けという構図で疑惑が膨らんでいるというものです。

アパートローンを巡る当局の動向

西京銀行のこのお話はネットでもかなり取り上げられていて、kuniもその後の動向気になっていたんですが、金融庁もアパートローンに関して、具体的に動き始めたようです。10/31には西武信用金庫への立ち入り検査が報道されました。

西武信金は不動産業者による資料の改ざんが見つかったということで、おそらくオフサイト・モニタリングの一環で自行の調査で見つけた事実を金融庁に届け出たんでしょうね。そこから始まった立ち入り検査だと思われます。いずれにしても、アパートやマンションなどの投資用不動産融資を強化してきた地銀や信金に対して、金融庁は立ち入り検査を順次展開して行くものと思われます。

おかしいぞ 山口県

そこで気になるのがkuniの故郷である山口県の第二地銀、西京銀行なんです。別に取引もしたことないし、知り合いもいないんですけどね。西京銀行は山口県周南市(昔の徳山市)に本店を構える第二地銀で、元は山口相互銀行でした。

今年はなぜか山口県東部の話題が多いんですよね。8月によしきちゃんが行方不明になり、スーパーボランティアの爺様が発見してくれた事件がありましたが、これが周防大島というところ。当ブログでも取り上げました。

9月には富田林署から逃走した犯人が周南市道の駅で逮捕されます。おまけにこの犯人、周防大島の道の駅にも一週間滞在したらしく、これもかなり報道されてました。

そして10月には、周防大島に渡る唯一の橋、大島大橋に貨物船が衝突して、送水管が破断。島全体が断水に陥るという事故まで発生したんです。

この地域が全国ネットのニュースで報道されるなんてほとんど記憶がありません。にもかかわらず、ここ3ヶ月で3件も。いったい何なんでしょうね。

西京銀行とTATERU 特別調査委員会の報告待ち

TATERUの設置した特別調査委員会が改ざんの経緯や企業風土について調査を行っている最中で、3ヶ月後をめどに結果を報告することになっているようです。ということは、結果が分かるのは12月の上旬あたりでしょうか。またまた山口県で第二のスルガが・・・。なんていうニュースは見たくないです。

東洋証券 証券取引等監視委員会が金融庁に行政処分の勧告

10/30 証券取引等監視委員会は金融庁に対し、東洋証券株式会社に行政処分を行うよう勧告したようです。今事務年度最初の勧告ですね。

監視委員会による勧告までの流れ

実際に立ち入り検査を行ったのは、監視委員会からの命を受けた関東財務局です。その結果が関東財務局から監視委員会へあがり、監視委員会が金融庁に対して行政処分を行った方が良いと勧告した、という流れになります。勧告というのは、検査を受けた業者に対して処分をした方が良いよ、と告げて勧めること、つまり意見することです。このあと金融庁が行政処分を下します。

大手や準大手の証券会社は監視委員会本体が担当しますが、中堅以下の証券や地方の証券会社は、その地域の財務局が担当しています。東洋証券には関東財務局が立ち入り検査したというわけですね。

勧告の内容

実際に公表された勧告内容を読んでみました。「米国株式取引の勧誘に関し、虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」という法令違反行為を指摘しており、その具体例も書かれています。全文引用します。

誤解表示の具体例
1株=1,000ドルの銘柄を1ドル=120円の時に買い付け(1,000×120=12万円で買付け)、その後、1株=1,300ドル、1ドル=100円の時に売却(1,300×100=13万円で売却)した場合、為替差損益を考慮した円ベースの損益は売却時の円換算額(13万円)から買付時の円換算額(12万円)を差し引いた額(1万円)となるところ、かかる利益額ではなく、ドルベースの利益(1,300-1,000=300ドル)を売却時のレート(1ドル=100円)で円換算した利益額(300×100=3万円)を伝えることにより、円ベースの利益額を過大に誤解させた。

理解できましたでしょうか。要するにドルベースでの値上がり益を円換算して伝えているだけで為替変動による損失分を考慮せずに損益を伝えているということですね。言うまでもありませんが、徹底的にセールストークの通話録音を聞いて指摘するという以前の検査スタイルですね。

外国株の取引においては各社で起きていたこと

米国株式が絶好調で、大きく上昇してきたこの数年。日本株では全然稼げなくなった証券会社は、当然外国株式営業に傾斜していきます。そんな中で、証券界ではこのような損益の伝え方が問題視されていました。外国株式の損益状況を外貨ベースでのみ伝えることの是非です。外貨での運用を継続してもらうのであれば、外貨ベースでの利益だけでもいいんじゃないかといった議論もありました。。。これ以上書いていくときりがないので、詳細は別の機会にしますね(外国株式営業にはいろいろ問題がありまして)。

その後、このような説明については、是正し、改善した証券会社も多いとは思いますが、この東洋証券の勧告の話題で、朝から大騒ぎになっている証券会社もまだまだ多いと思われます。

収益優先で機能しなかったガバナンス

極めつけはこれ。「営業部門の責任者が社内検査で指摘を受けても是正してこなかった」、「経営陣は検査結果を把握していながら、再発防止の改善措置についてなにも指示しておらず、営業優先の企業風土を醸成していた」。ガバナンスの教科書に載せてくれと言わんばかりの状況です。

立ち入り検査が本格化する今日この頃、外国株式でかなり稼いできた証券会社の経営層のみなさま、御社は大丈夫ですか?

金融庁検査、監督、質高める 首相答弁

スルガ銀行の不正問題に触れた野党の質問に対して、「顧客を保護し、法令などを遵守する業務運営が金融機関に確保されるよう、金融庁の検査、監督の質を高める」と答弁したという記事ですね。この機会にあらためて監視委員会の証券モニタリング基本方針をチェックしてみました。

証券モニタリング基本方針

証券取引等監視委員会が公表する、新しい事務年度のモニタリング方針です。今ではモニタリングという言葉を使いますのでピンときませんが、オンサイト・モニタリング(立ち入り検査のこと)についても方針を示すので、検査の基本方針でもあります。そのため、金融機関(特に証券会社)は証券モニタリング基本方針の内容を分析し、来たる検査の準備をするわけですね。

平成30事務年度 証券モニタリング基本方針

平成30事務年度版は9月14日に公表されました。少し遅くなりましたが内容を見ておきましょう。前年度の同方針との比較で、新たに書き足された主な記述は以下の通りです。

  1. オフサイト・モニタリングによる情報分析だけでは業務運営等の実態が必ずしも把握できない状況(検査未実施期間が長期化している場合を含む)では、今事務年度においては、積極的にオンサイト・モニタリングを実施して、深度ある検証を行っていく
  2. 「業態横断的なテーマ別モニタリング事項」については4項目で前年度と一緒ですが、順番が入れ替わり、顧客本位の業務運営が1番から3番へ。マネロン等への取り組みが4番目から1番目に繰り上がっています

細かな記述の変更等は他にもありますが、特に彼らの意図を感じる変更点はこの2カ所かと思います。

証券取引等監視委員会からのメッセージ

1の変更点には2つのメッセージが込められています。一つは、これまで前長官の下で出来なかった立ち入り検査を積極的の行うということ。二つ目は、これも前長官が嫌った、定期的な(前回検査から一定期間時間が経過した場合の)立ち入り検査を復活させるというメッセージです。

2の変更点は、来年予定されているFATF(ファトフと読みます)という国際機関による、国内金融機関への審査を意識したものと思われます。国内金融機関がマネロンやテロ資金供与対策をしっかり出来ているかを審査するもので、今回こそは良い評価を得なければならないという当局の事情があります。また、森前長官がこだわり続けた「顧客本位の業務運営」が順位を下げています。

金融庁の方針転換(脱 森金融庁)

これまでのやり方を踏襲しつつ、みたいな書きぶりで前長官への配慮はあるものの、明らかに方針転換でしょう。変更点1が最も大きな方針転換であり、冒頭の阿部首相の答弁にあるように、立ち入り検査の復活です。素人によるオフサイト・モニタリング程度では、スルガ銀行の不正の実態を見抜けなかったという失策については、当ブログでも指摘してきました。積極的なオンサイト・モニタリングによる深度ある検証(立ち入り検査の復活)がこれに対する答えなんですね。単なる先祖帰りにならなければ良いのですが。

PDCAサイクルの罠

最近様々な場面で求められるようになってきたPDCAサイクル。皆さんも会社で「言いっぱなし、やりっぱなしにならないように、しっかりとPDCAを回してくれ」なんて、経営や上司から言われたことあるんじゃないでしょうか。

PDCAは有効

確かに通達や連絡分を発信してお終い。新しいルールやマニュアルを社内イントラに掲載してお終い。では、なかなか従業員全員への浸透は望めません。浸透させるためには、ルールやマニュアルを作成し、それを全従業員に読み込ませ、その理解度をEーラーニング等で確認する。そのうえで、マニュアル通りに業務運営が行われているかどうかをモニタリングで確認し、出来ていない事案については是正措置を取っていきます。

そして、重要になってくるのが、新しいルールの導入等により、業務運営の実態がどれだけ改善されたのかを検証・評価するという場面です。そう、PDCAの「C」ですね。「しっかりPDCAを回してくれ」なんて、経営層から言われてたりしたら、当然この検証・評価の結果も報告することになります。

気を付けたいPDCAサイクルの短期化

経営に図ってまで導入したルールや新しい制度。導入により期待した改善がいつ実現するのか、いつ成果が現れるのか、が気になるところです。当然といえば当然ですね。kuniがいた会社もそうでしたが、経営がまだかまだかと良い結果報告を求めてくるんですね。これ絶対やっちゃダメです。

3ヶ月や6ヶ月で結果を求められると、どうしてもそれくらいの期間で実現できるような成果を目指す企画になっちゃうんですね。要するに目指す目標のレベルを下げ始めてしまうんです。目標レベルが下がれば、当然達成時期も早まります。けど、それって当初目指したものでしたっけ。ということになります。

多くの場合、課題の根本原因まで掘り下げ改善していくことって、かなり長い時間を要するものです。にもかかわらず、6ヶ月とかで成果を求められるようになると、どうしても表面的に改善していくようなプランになりがちで、従業員の意識を変えていくとか、会社のカルチャーを変えていくというような改革にはなりません。

罠に陥らないために

経営層を例に書いてきましたが、課長や部長といった管理職でも同じことが言えます。PDCAの罠に陥り、部下から「少しでも早く結果を求められるから」と思われた時点でアウトです。課題や問題の設定に加え、それを解決するための施策までがどんどん矮小化されていきます。

PDCAを回すことに異議を唱えるものではありませんが、そのサイクルをいたずらに短期化してしまうことだけは避けましょう。特にコンプライアンスのように、じっくり時間をかけないと改善できないような分野では、注意が必要だと思います。

体制と態勢

前回のガバナンス&コンプライアンスの記事の中で「体制整備」という言葉を使いました。同じ言い回しで「態勢整備」と使っているケースも見ることがあると思います。今回はこの用語の違いについて。

体制整備

体制整備という用語を使うとき、使い手は主にハード面を重視していることが多いように思います。最も適切な組織を作り、業務分掌を定める。業務規程やこれを補完するべくマニュアルを作成する。こういったハード面の整備について使われるわけですね。法令・諸規則等に従い枠組みや土台を固めることは基本の基本です。まずは体制作りが必要なわけです。

態勢整備

一方、態勢整備という言葉は、出来上がった体制に魂を入れるといいますか、形だけの体制だけではだめで、それがしっかり機能するよう、ソフト面にも十分な配慮がされたモノを指して使われることが多いようです。kuniがいた金融機関は態勢整備を使います。というか、金融庁が必ず「態勢整備」を使用してきたから、というのが実態ですが。

もうかなり昔の話になりますが、金融庁の課長補佐だか係長(だったと思います)が、「態勢は体制と違うんだ。態勢は世の中が変化し、事業環境が変化するのに合わせて、変化・対応できるモノ・・・」みたいなことを力説していたのを覚えています。

ガバナンスやコンプライアンスも時代とともに変化

社会の変化や事業環境の変化に対応していく。というのが、まさに前回の記事で書いたように、PDCAの繰り返しによる態勢の変更であり、修正なんですね。

これほど事業環境が変化し、既存の事業だけに依存していては食っていけない時代です。ガバナンスやコンプライアンスの世界でも、こうした変化への対応は非常に重要です。皆さんの会社でも、もう何年も見直していない社内規程やルール、マニュアルってありませんか?

特に金融機関においては、今年度から金融庁や証券取引等監視委員会のオンサイト検査が本格的に再開しそうな気配です。ガバナンスやコンプライアンス関連のルールやマニュアル、この機会にチェックしておきましょう。