大改革「スーパーシティ特区」

3/1 ダイヤモンドオンラインの記事を紹介します。書かれたのは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の 岸 博幸教授です。2月14日に開催された特区諮問会議で、国家戦略特区に加え、新たに「スーパーシティ特区」という制度を創設することが決まりました。久々の大改革であるのに、日本のマスコミは全然これを伝えていないという憤りを表明されています。

スーパーシティ特区の制度面における2つの特徴

一つ目の特徴はスーパーシティ特区の適用を希望する自治体に対して、AIやビッグデータを活用した先進的な取り組みを行うために必要な規制改革を政府に要望する前の段階で、個人情報の収集と活用について地方議会と地域住民の同意を得るよう求めることです。規制改革の要望については、単に地域の行政(自治体)だけではなく、地域の総意により行われるようになることを意味しています。

そして二つ目の特徴が、手続き的には自治体が自らの条例で規制改革を決められる、つまり自治体主導で政府の規制改革を実現できる仕組みとすることを基本とし、規制の所管省庁は、要望内容に大きな問題がある場合などは規制改革の手続きを止めることができるという形が考えられているという点です。

通常の規制を受けずに自由に取り組めるからこそ「特区」

確かに教授がご指摘の通り、中央省庁と都度調整を必要とする従来のやり方では、日本に先進的な特区は生まれないでしょう。以前、「米国は発想の国、中国は実装の国」というのを書いたことがありますが、まさにこの「実装」を進めるにあたっての障壁をいかにして取り払うか、について配慮しているわけです。

従来の特区では自治体の側にあった挙証責任(規制改革が必要な理由を示す)を、スーパーシティ特区では政府の省庁の側に転嫁する(規制改革がダメな理由を示す)ことを意味する訳ですね。規制改革にはすべての省庁が常に後ろ向きでなかなか進まない現実を考えると、規制改革を進める観点からは大きな進歩と言うことができます。

日本経済新聞の記事

ここまで教授の記事からたくさん引用させていただきました。教授も日経の報道を「小さな字でほんの少し報道されていただけ」と書かれていましたので、ここで全文引用しておきます。

2/15 日経記事「政府は14日、首相官邸で国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)を開いた。人工知能(AI)やビッグデータを活用した新しいまちづくりをめざす国家戦略特区「スーパーシティ」の実現に向けた国家戦略特区法改正へ指針を示した。スーパーシティの公募に応じる自治体は地域住民の合意を必要とすることなどを要件とした。政府は今回の指針に基づき今国会で改正法案を提出し、夏以降に自治体を公募する計画だ。」   これで全文です。

住民の合意を必要とするというネガティブな一面だけしかとらえていないばかりか、二つ目の特徴については全く触れていませんね。この前日の電子版21時のニュースではちゃんと報道しているみたいですが、より読者の多い紙面では、、、日経の意図、皆さんはどう感じられますでしょうか。

タカタ元社員に課徴金 監視委が勧告 インサイダー取引

3/2 日本経済新聞で、証券取引等監視委員会が経営破綻したエアバッグ大手タカタの元社員9人がインサイダー取引に関わったとして、元社員に計773万円の課徴金を納付させるよう金融庁に勧告したことを伝えています。

記事では、「①事業の譲渡」という重要事実と、「②民事再生手続き開始の申し立て」という重要事実をチャンポンに書いているので非常に分かりにくかったんじゃないでしょうか。ここで少し整理しておきましょう。

重要事実①:キー・セイフティ・システムズ社への事業譲渡

平成29年6月26日にタカタはキー・セイフティ・システムズ社への事業譲渡という重要事実を公表します。それより前、業務執行を決定する機関が事業を譲渡することを決定したことを知りながら、5/11~6/6の間に6名が株式を売り抜けています。日経はこちらの重要事実である「事業譲渡」のケースを初めてだと書いてるわけですね。

重要事実②:民事再生手続開始の申し立て

同じ6月26日にタカタは民事再生手続開始の申し立てという重要事実を公表します。それより前、業務執行を決定する機関が事業を譲渡することを決定したことを知りながら、5/19~6/13の間に3名が株式を売り抜けています。このように合わせて9名の社員が重要事実を会社が公表する前に売り抜けたわけです。

課徴金の額の計算方法

9名はいずれも株価が400円~500円の間で売却しています。その後株価は下げ続け、公表日の6/26には160円まで下げました。そして公表後は2営業日で125円下げ35円になっています。課徴金の計算は、この公表後の2週間の最安値15円を基準に計算されています。

482円で4,100株を売却した社員の場合は
(482円×4,100株)-(15円×4,100株)=1,914,700円
と計算され、1万円未満の端数を切り捨てて、191万円が課徴金として課されています。

要するに、本来重要事実を知り得てから2週間以内に、最も下手な売り方をしたのと同じことになりますね。

インサイダー取引は他人事じゃない

インサイダー取引なんて言うと他人事のように思ってらっしゃる方が多いと思います。そんな悪いことしないよと。しかし、この事例はどこのサラリーマンにでも起こり得る状況です。この9名が一生懸命会社のために働いてきた社員であったとしたら、彼らも被害者です。

会社に勧められて持ち株会でコツコツためてきたのに、ある日突然無価値になるかもしれない。おまけに職も失うことになるかもしれない。200万円くらいの価値があるうちに売れれば。。。この極限状態でこういう誘惑に勝てなかったんですね。いや、法令違反になり課徴金が、、、なんてこと全く知らなかった人もいたかもしれません。

データ規制 米加州が先陣 情報銀行

2/28付け日本経済新聞の FINANCIAL TIMES 欄で読んだ記事より。英国のフィナンシャル・タイムズの記事を翻訳して週2回掲載している記事です。グローバル・ビジネス・コメンテーターのラナ・フォルハーさんという方が書いてらっしゃるみたいです。

米フェイスブックやユーチューブの直面する問題

「フェイスブックの集団訴訟の資料が公開され、オンラインゲームを楽しむ子供たちにどんどん課金できるよう同社が仕向けていた疑いが明るみに出た」とか、「グーグル傘下のユーチューブでは、子供が出てくる動画のコメント欄にわいせつな動画へのリンク等が大量に書き込まれる事態が相次ぎ、大手企業が広告出稿を停止した」といった問題を提起しています。

残念ながらkuniはここに書かれていたような実態を詳しくは知りませんでした。ユーチューブについては彼ら自身が被害者のようにも思えますが、フェイスブックの方は良くないですね。以前日本でもゲームにはまる子供への課金が問題になったことがありました。

この記事の冒頭には「自分の子供に危害が及べば、親は本気で怒る。 これがプラットフォーマーと呼ばれるIT大手に対して、最近上がっている苦情が示していることだ」と書いており、子供をダシにするあたりは、どうなんだかなぁ、という感じもしますね。

カリフォルニア州の配当金を課す法案

記事ではカリフォルニア州の新知事が、FBやグーグルといったプラットフォーマーに対し、個人情報を利用する場合は「データ配当金」なるモノを支払うことを義務付ける法案を、議会に提案しようとしていることを伝えています。

プラットフォーマーにより個人情報が使われることに対して、同意を得させるとか、利用される情報を限定する、利用されることに対する対価を検討する、といった議論は様々なところで始まっています。ところが、この記事では「この法律が導入されれば、そのビジネスモデルに終止符を打つことになるのではとの期待を集めている。」としています。

集団訴訟に参加するような、被害にあっている子供の親たちに対する政治的なパフォーマンスという色合いもあるんでしょうが、かなり過激な対立を生んでいるようです。

情報銀行の構想

記事では、プラットフォーマーの権力に立ち向かう手立てとして、ネット利用者の権利の委託者となり得る新たなタイプの組織が必要だと指摘しています。また、すべてのモノがネットにつながる Iot 時代においては、立ち向かう相手は全ての企業に拡大するはずです。日本が政府主導で検討してきた情報銀行が、まさにその新たなタイプの組織なわけですね。

三菱UFJ信託銀行や電通、富士通、日立製作所などが、既に情報銀行参入を表明していますが、昨年12月から認定の申請を受け付けています。この3月には認定が下りるそうで、一般社団法人 日本IT団体連盟のウェブサイトなどで公表されるそうです。そろそろですね。

地方銀行の人材紹介業

昨年1月、金融庁は監督指針を改正し、銀行による人材紹介業を解禁しました。「その他の付随業務等の取扱い」という項目の改正です。その他の付随業務というのも皮肉なもので、実はこの付随業務で何とか地域金融機関の生き残りをという施策なわけです。

ちなみに、その他付随業務として、記されている業務は、原文のまま引用すると、「銀行が取引先企業に対して行うコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、人材紹介業務、M&Aに関する業務、事務受託業務」という感じで、5つの業務が併記されています。人材紹介業務を含めて、すべての業務が現在の苦境を脱するために重要な業務のようです。

続けて、「なお、実施に当たっては、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となる行為の発生防止等、法令等の厳正な遵守に向けた態勢整備が行われているかについて留意する」よう求めています。そう、優越的地位の濫用が懸念される業務であるからこそ、従来認めてこなかったわけです。

当時メガバンクの人員削減のニュースなども流れていたものですから、kuniは「この改正で銀行員の再就職支援が可能にしたのか」などと考えてしまったものです。

根付くか 地銀の人材紹介事業

週刊金融財政事情2/25号では、このタイトルで地銀の人材紹介業務の特集をやっていました。人材紹介業務の持つ可能性についてレポートされており、要点をまとめると次のような感じ。
① 地域の持続可能性を高め、事業承継の問題を解決
② 首都圏人材を地方に還流させ、地方の成長を促進
③ 人材紹介業務が、地域総合サービス業の契機に

紹介手数料は紹介した人材の年収の3割程度と言いますから、年収600万円の人材を1件紹介しても、150万円程度。これで銀行の収益が回復できるとは到底思えませんが、人材を紹介することで顧客に非常に喜んでもらい、本当の意味で顧客の懐に飛び込むことができる、そうです。

たしかに、このままだと、地方の事業は後継者がなく、事業が成り立たなくなります。つまり、銀行の顧客が確実に減少していくということです。その減少を食い止めるだけでも意味のあることですし、地域金融機関であるがこそ、顧客の内情にまで通じているという強みもあります。

過疎化が進む地方に首都圏の人材が還流し、事業承継の問題を解決し、新たな活力も与えることができる。こうしたまさに地域密着型のコンサルティング業務の延長線上に、地域総合サービス業という地銀の未来があるというお話でした。ちょっと端折りすぎですね。20ページにわたる特集ですので、地銀関係者の皆さんは必読かと。

課徴金制度について(金商法、景品表示法、独占禁止法)

先日、TSUTAYAに対する課徴金納付命令について記事にしました。同社の動画配信サービス等に関する宣伝が、景品表示法違反にあたるとして、消費者庁が命令を出したというものです。kuniは証券会社におりましたので、金融商品取引法における課徴金には馴染みがあるものの、その他の法律に関しては詳しくありません。ということで少し整理してみました。

金融商品取引法(金商法)金融庁

金商法における課徴金制度は、証券市場の公正性や透明性を確保するため、証券市場への信頼を害する違法行為に対して、行政上の措置として違反者に対して金銭的負担を課す制度として2005年4月から導入されました。

制度の対象となるのは、不公正取引(インサイダー取引や相場操縦、風説の流布など)、有価証券報告書の不提出や虚偽記載、大量保有報告書の不提出や虚偽記載といった違反行為です。実態としてはインサイダー取引に対する命令が圧倒的に多いですね。

証券取引等監視委員会が調査を行い、課徴金の対象となる法令違反があると認めた場合、金融庁へ勧告を行います。その後金融庁長官から課徴金納付命令が出されるという手続きになります。なお、金融庁長官が課徴金納付命令を出すケースとしては、他に公認会計士法に基づくものもあります(今回は省略します)。

不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)消費者庁

2013年度に、ホテル・レストラン等で、メニュー表示とは異なる食材を使用した料理を提供していた食品偽装等が社会問題になりました。このような一連の表示問題を受け、不当表示等の適正化に向けた体制の強化や違反行為の抑止を目的として、2014年に景品表示法が改正され、課徴金制度は同法が施行された2016年4月から導入されています。意外に最近のことだったんですね。

制度の対象となるのは、食品に限らず、あらゆる商品やサービスについて、実際より著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)と、実際より著しく有利であると誤認される表示(有利誤認表示)をする行為です。冒頭紹介したTSUTAYAが最新の事例ですね。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)公正取引委員会

法律の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。カルテル、入札談合等の違反行為を防止する目的で設けられています。公正取引委員会は、事業者等が課徴金の対象となる独占禁止法違反行為を行っていた場合、当該違反事業者等に対して、課徴金を国庫に納付することを命じます。独占禁止法における課徴金制度は歴史があり、その導入は1977年なんだそうです。

課徴金の対象となるのは、不当な取引制限(カルテル、談合)、排除型私的独占、支配型私的独占、共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用があります。今話題になっている、ネット通販の大手に対する調査は、まさにこの優越的地位の濫用に当たるかどうかの調査ですね。

この独占禁止法にかかる課徴金については、自主申告により課徴金が減免されるという、課徴金減免制度が設けられています。自主申告した申請順位ごとに減免率が定められています。