積水ハウス 元会長が株主提案(その2)

積水ハウスの元会長が、4月の株主総会で株主提案という形で現経営陣との戦いに挑むことになった件、当ブログでも以前取り上げました(この記事、先に読んでいただいた方が良いかも)。その時は五反田の地面師事件のおさらいが中心になってしまいましたので、今日はもう少し深掘りしておきます。

Save Sekisui House

という名前のサイトがあります。このとおりにググってもらうとすぐに出てきます。「本ウェブサイトの目的」には、次のように書かれています。

本ウェブサイトでは、積水ハウスの一部取締役に対する地面師事件及びその後の情報隠蔽の責任を追及する株主代表訴訟に関して、情報を随時更新しておりますので、頻繁に本ウェブサイトを確認されることを推奨致します。

引用した上記文章の手前には、情報提供も歓迎すると書いてあり、元会長が情報収集するために設置したサイトではないかとの見方もあるようです。

和田元会長の追放劇

2018年1月の積水ハウス取締役会。和田会長(当時)は取締役会前夜に賛同する取締役たちと、地面師事件で取引を承認した阿部社長(当時)解任動議に賛成する打ち合わせまでしていたといいます。社長解任は決定的と言っていい状況でしたが、翌日の取締役会では、和田派の取締役2名が阿部社長側に寝返ってしまいます。で、5対5の賛否同数で社長解任動議は否決されます。

その直後、逆に阿部社長が議長を稲垣副社長に交代させる動議を出し、6対5で可決(一人増えてるのは、退席していた阿部社長が戻ってきたため)。続いて和田会長の解任動議が出され、、、この時点で議長が和田会長に自発的な退任を促し、辞任に追い込まれたそうです。(以上、週刊東洋経済2019年10月19日号から引用させていただきました。)

どうでしょう、この展開。後に映画にでもなればかなり面白そうです。このような追放劇で葬られた元会長が、4月下旬に予定される株主総会に挑むわけです。しかし恐ろしい展開ですね。こんな取締役会出たくありません。

個人情報1件500円 サイバー攻撃に対するリスク感度が低すぎる

2/26付け日本経済新聞に「サイバー保険に『ベネッセの呪縛』個人情報の安さ普及阻む」という記事がありました。サイバー保険があることを知っている中小企業でも、その加入率は6.9%でしかないんだそうです。日本の個人情報の安さがその原因だとしています。

ベネッセの個人情報漏えい事件

2014年にベネッセ(進研ゼミの会社)の委託先の契約社員が個人情報を不正に外部に持ち出し、3000万件を超える個人情報が名簿業者に売却されるという事件が起きました。この事件の被害者に対し、ベネッセは金券500円を配ったというお話です。

万が一個人情報が漏えいしても、一人500円くらいなら、、、ということでインパクトがなく、日本ではサイバー保険が浸透しないということを言ってる記事ですね。確かに、GDPRやカリフォルニアの新法の下では、個人情報の漏えいでも高額の制裁金や損害賠償となります。

しかし、この記事、サイバー攻撃=個人情報漏洩、的な論調になり過ぎてますね。いまどきのサイバー攻撃は攻撃対象とした中小企業の情報だけを狙っているわけではありません。何でもかんでも繋がってる時代です。中小企業を攻撃してそこから繋がっている取引先大企業だって狙われます。ECサイトが攻撃されれば、何日も商売が止まってしまいます

メディアにも責任

新型コロナウィルスはこれでもかというほどニュースにしますが、どこかの企業がサイバー攻撃を受けて、結果どういう実害が生じたか、、、なんて調べもしないし、ニュースにもなりません。毎日のように攻撃を受けた企業が出てくるのに、ものの2~3日もしたらどこも報道しなくなります。

コロナウィルスは病気に感染する恐怖ではなく、自社で感染者を出すレピュテーショナルリスクに対する恐怖に変化しているように感じます。メディアの力、もの凄い破壊力です。サイバーリスクも同じように報道すればいいのに。自社が踏み台になって大勢の被害者を出してしまうリスクを企業経営者に実感させるような報道を。。。そう思いません?

VPP シェル子会社ゾンネンが日本で始動

昨年7月に一度取り上げましたVPP(バーチャル・パワープラント)。やはりロイヤル・ダッチ・シェルの子会社、独ゾンネンが日本で次世代電力サービスを2021年にも開始すると発表しました。2/25付の日本経済新聞、1面トップの記事です。

VPPのおさらい

コミュニティメンバー(参加する各家庭)が太陽光発電と蓄電システムを自宅に設置します。これらの世帯をネットワーク化し、メンバー同士で過剰な電力を持つ世帯から、電力が不足している世帯へ融通するというものです。初期投資で200万円くらいかかるものの、その後は電気料金ゼロで電気を使えます。

コミュニティ全体で電力が不足すれば、通常の電力網から電力を取り入れます。逆に余れば電力網に放電することもあります。このように、コミュニティの中での電力の融通や外部の電力網との電力のやりとりを、瞬時で行う技術というのが、ゾンネンのウリなんですね。

東芝エネルギーシステムズ

日経でも少しだけ触れていましたが、昨年1月から東芝エネルギーシステムズも東京電力エナジーパートナーと組んでVPPの事業を始めています。偶然だと思いますが、同じ日の日刊工業新聞は、この東芝エネルギーシステムズの事業について報じていました。

こちらはVPPを実現するための機能を選んで利用できるサービスを開始するという内容です。例えば蓄電池の制御という機能をVPPの事業者にサブスクで提供するというサービスです。ゾンネンのような企業に対して、VPPを実現するための様々な技術を提供するプラットフォームのような感じでしょうか。

日経では電力の需給調整の技術的な難しさや制度設計の遅れが指摘されていましたが、東芝エネルギーシステムズには何とか海外勢に負けずに頑張ってほしいものです。VPPを実現する事業者としてなのか、プラットフォーマーとしてなのか、どちらが正解なのかよく分かりませんが、とにかく頑張ってほしい。残念なことに、同じ再生エネ関連の風力発電では日立が関連事業を手放してしまいましたしね。

顧客本位の業務運営と金融商品販売ルールの規制緩和(その2)

昨日はここ最近行われてきた金融商品取引業者に対する2つの規制、「契約締結前交付書面」と「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」について書きました。そして今日は3つ目の規制である「顧客本位の業務運営」です。この原則は非常にインパクト大でした。

顧客本位の業務運営

最も大きな変化をもたらした規制(と呼ぶべきではないかもしれませんが)が「顧客本位の業務運営」です。当初は「フィデューシャリー・デューティー(FD)」という言葉で導入され、業界としてうまく消化できずに、かなり混乱しました。

行為規制(ルール)として細かく明文化されるのではなく、あるべき姿、考え方だけが示されて、それを実現するための勧誘や販売、アフターフォローなどの具体的な対応方法は自分たちで考えなさい、、、って感じですから。

フィデューシャリー・デューティーは、後に顧客本位の業務運営と呼ばれるようになります。業界全体で顧客本位の業務運営を考え、対応していく過程で、最も大きな変化が現れたのが投資信託の保有期間の長期化でしょう。短期の売却・乗換が顧客のためにならない。顧客にとっての運用コストが当たり前に意識されるようになりました。やっとのことですが。

次に起きた同様の変化が、投資信託の各種手数料の低下です。当初買い付け時の手数料もそうですし、毎年ファンドから差し引かれる信託報酬にも低下の波が及んできています。そして、さらに今では株式売買における委託手数料にまで、無料化が進み始めています。

すべては資産運用を拡大するため

こうして振り返ってみると、顧客本位の業務運営という根本的な考え方(プリンシプル)が業界に浸透してきたおかげで、ルールベースの「契約締結前交付書面」や「高齢者ルール」という過去の2つの規制を緩和できる余地が生まれてきたように思われます。

どの規制も資産運用を日本で定着させることが、最終目的だったわけですから、業界として正しい方向へ進んでいく限り、過去に作られた細かな行為規制は次第に緩和されていくんでしょう。

顧客本位の業務運営と金融商品販売ルールの規制緩和

このところ金融商品販売に係る各種規制の見直しが始まっています。契約締結前交付書面の交付方法の見直しや、高齢者への金融商品販売ルールの見直しなどです。ここ10年ほどを振り返ると、金融商品取引業者から見て、重要な規制が3つ設けられました。

契約締結前交付書面

契約締結前交付書面は、金融商品を勧誘する際に、あらかじめ、または同時に交付しなければならない書面です。証券取引法あらため金融商品取引法が施行される際の目玉の規制でした。書面の記載内容から、記載時の活字の大きさに至るまで、細かく規制されました。

この書面の交付漏れを防止するため、金融商品取引業者は毎年一回、主要な書面を書面集という形にして、全顧客へ一斉送付するという方法を取りました。法施行当時は、各社が一斉に書面集を作成するため、書面に適した紙や、印刷会社のラインが不足するなんてこともありましたね。懐かしいです。

書面の改定があるごとに交付時期が各社ずれてきたので、今では各社の交付時期がバラバラになっています。規制が求める説明を事細かく文字にしたため、出来上がった書面は、「こんなのいったい誰が読むの?」っていう書面になってます。

一番の目玉のはずが、一番問題ある規制になってしまったというのが実感です。送り付けられる顧客もたまったものではありません。この契約締結前交付書面の交付方法についても見直しが行われるようです。できれば書面の内容についても見直しを進めてもらいたいところです。

高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン

この規制もインパクト大きかったですね。高齢者を75歳以上とし、80歳以上を超高齢者として、ほぼ一律に勧誘前の手続きや、受注方法、約定通知の仕方からモニタリングに至るまで、ガイドラインが設けられました。法令や規則ではないものの、監督指針にも同じものが取り込まれたため、実質的にはルール化されたようなものです。

この高齢者勧誘ルールについても今月上旬、金融庁が見直しを進めようとしていることが報じられています。人生100年時代に、最後の25年間が一律に規制されるのは確かに変な話。「年齢」が一律に資産運用のハードルになっている現状を改めるのは、とてもいいことだと思います。長くなってしまったので今日はここまで。続きは明日。