ネットに舵を切る大手証券 野村 大和証券グループ本社

昨日も野村証券の記事を書いたところですが、今日は少し俯瞰気味にというか、もう少し大きな流れとして動向をとらえてみたいと思います。「野村「猛烈営業」転機に 店舗2割削減など発表」と「大和、ネット証券の新会社 来年にもサービス開始」という二つの日本経済新聞の記事から見えてくることについてです。

野村證券

欧州のトレーディング事業は大幅に縮小するとか、国内では店舗網を再編し、首都圏を中心に30店以上を統廃合する。さらに営業スタイルも見直す。そんな内容の構造改革が報じられたわけですが、今回一番注目したいのは、「対面営業との顧客の奪い合いを意識して、後手に回ってきた」と認めるネットを通じたサービスの強化ではないかと思います。

インターネット証券会社が乱立して以降、若年層の投資家を奪われながらも、店舗と人を軸に据えた対面販売の事業モデルを改革することができませんでした(これは他の大手も一緒ですが)。要は足元の収益のことを考えると、マスの若年層に魅力がなかったわけです。

大和証券グループ本社

こちらはストレートですが、「インターネット証券の準備会社CONNECTを設立した。主にスマートフォン(スマホ)を使った金融商品の取引を手掛け、投資の初心者や、投資になじみの薄い若年層を取り込む」というお話。日経さん、スマートフォンを(スマホ)と説明しなくても良いかと。

大和も野村同様対面との競合に躊躇してきた経緯を修正したいと考えているようで、中核子会社の大和証券ですでにネット取引サービスを提供しているにもかかわらず、別会社を設立という流れになっています。

大手証券に共通した構造問題

若年層の投資家は手数料が安く、パソコンやスマホから簡単に取引できるネットに流れることは分かっていました。しかし、そこで稼げる手数料に魅力を感じなかったわけです。そのため、金融資産が最も蓄積する高齢富裕層のコンサルティング営業に特化してきたと。ところがその高齢者たちが更に高齢化し、当局の強い指導もあってどうにも収益に結びつかなくなってきました。

このままではジリ貧。もう先が完全に見えてきたので、新たな顧客層を開拓する必要に迫られたということですね。野村がまず先に舵を切って見せました。すると大和もネット新会社設立の公表。実は野村の公表よりも大和のネット会社設立の方が4/1で先なんですけどね。

野村、大和は独立系ですので限界が見えてくるのが先だっただけ。メガバンク系の日興、三菱、みずほも置かれた状況はまったく同じです。ただメガバンク系には銀行からの紹介という、別の顧客開拓手段があるため、まだ独立系ほどの切羽詰まった状況になっていないだけ。といいますか、切羽詰まっているけど麻痺しているだけと言った方がいいでしょうか。

このあと、メガバンク系大手3社も同じ路線を志向し、公表し始めると思います。どのくらいタイムラグあるかな。

野村證券はもう限界なのか

「選択」の5月号に「野村証券は銀行傘下入りの運命」という、衝撃的なタイトルの記事が掲載されています。もともと辛口の記事が多い同誌ではありますが、今回もかなりの辛口です。ただ、銀行傘下入りかどうかについては何だか良く分からないままでしたが。。。

内紛

7年前のインサイダー事件で辞任に追い込まれた当時の社長(今は関連会社の社長)が、発言力を増してきており、同氏の周りに集まる一派が、現体制に揺さぶりをかけているというお話。その端的な例として野村アセットマネジメントの社長人事や、ハードセールスの復活があげられています。

ハードセールスの復活

こちらは2月に新規設定した投資信託「野村ハイベータ日本株1903」で750億円を集めたという話。昔だと大した金額じゃないんですが、顧客本位の業務運営を意識して以降、最近ではかなり大きな募集金額と言っていいでしょう。ちなみに、2000年頃の野村だと7000億円くらい募集してましたからね。

選択の記事では、「市場平均よりも値動きの大きい国内株式を選択して投資するものでリスクが大きい」と、その商品性を書いていますが、証券会社が取り扱っている投信の中では、それほど極端にリスクが高い商品でもないと思います。しょせん、為替もデリバもなしの「なま株」ですしね。

さらに、昨年2月にも同様の商品で顧客に損させて、訴訟になっているみたいな話も載ってます。が、その商品はおそらく「野村日本割安定位株投信」なので、今回の商品とはちょっと商品性が違うと思われます。設定は2月末ですから、昨年末のところでは大きくやられていたと思いますが、今はほぼ戻ったんじゃないでしょうか。ちなみにこの商品の新規設定額(募集額)は595億円でした。

ちょっと脱線しましたが、いずれにしても昔のハードセールスでないと(顧客本位の業務運営では)食っていけないというのは本音でしょうし、営業現場にはそういう声があると思われます。そうした勢力を味方に付けた前出の元社長の一派が、昔流の営業に回帰しようとしているというシナリオでしょうか。もちろん、現経営陣の目指している方向性ではないので、内紛を起こしているという構図には見えます。

銀行系証券との合併

銀行系証券との合併なんてことがあるんでしょうか。野村が最強の時代をずっと見てきたkuniにはちょっと想像できない光景です。ただ一方で、野村が何かとおかしくなってきているのも事実です。

昔の上司、と言っても雲の上の方でしたが、野村と銀行系証券の合併を本気で考えてらっしゃる方が居ました。本人から聞いたのではなく、又聞きでしたけどね。当時は「そりゃ無理でしょ」と即答しましたが、、、今ならあるかもしれないなぁ、と思う今日この頃ではあります。

JAL 三重苦?

① JAL機長、アルコール検知で乗務交代 4月29日の便
② JALで一時システム障害 32便欠航、92便遅れ
③ JAL機トラブルで関空へ引き返し 着陸時に煙上がり滑走路が一時閉鎖

いやぁ、やってくれますねぇ、JAL。この3つ全部、昨日5/8に報道されたニュースです。①だけは4/29の事件らしいですが、②③はいずれも発生日も5/8です。3件の不名誉な事件が同じ日に報道されてしまって、、、こんなのって過去に聞いたことないかもです。

原因は全て別だけど

一見して分かるように、直接的な原因はまったく別物と思われます。従業員個人の規律の問題、システム開発もしくはメンテナンス時の考慮不足、そして機体整備の不備。それぞれ違う所管部署ですし、違う原因だとは思われますが、根っこのところは意外に同じだったりするんですかね。いわゆる真因分析ってやつ、JALはこのあと大変でしょうね。

きっと、取り巻きはこれらの事故の発生に関する真因は実は同じもので、企業風土、カルチャーに根差しているものでした。みたいな結論を期待しているでしょう。最近の流行りってやつです。「決められたルールさえ守っていれば良い」という企業文化が蔓延ってしまっていた。そのルールの目的や本来の意義を十分理解して、従業員一人一人が行動する企業文化を再構築していきたい。」そんな真因と改善策になるんですかね。

恐ろしいほどの偶然が重ならないと、この三重苦は起きなかったでしょう。そういう恐ろしいことを引き寄せてしまうこの会社、世間の反応はどうでしょうか。なにせ人の命を預かっている航空会社ですからね。かなりのJAL離れが起きそうな気がします。

酔っ払い機長に関しては、、、

①の機長がアルコール検知されて乗務交代したというニュースは、ちょっと気の毒なところがあります。社内ルールは守っていた(今のところの情報では)んだけど、搭乗時にアルコールが抜けきってなかったみたいな状況のようで、一緒に飲んでいた副操縦士はセーフみたいです。機長の体質の問題であり、それを社内ルール通りにチェックして見付け、交代させてるし、フライトに遅れも出していないんだから、、、何が悪いんだ。っていう言い分はあると思います。

「JALの二重苦」ということにしておきますか。

資金運用とオルタナティブデータ

10連休中の日本経済新聞で「新顔データ、投資先読み「位置情報」「POS」「SNS投稿」… 欧米先行、価格は高騰」という長いタイトルの記事が掲載されていました。オルタナティブ(代替)データ」と呼ばれる情報は、公表されるデータを先読みするのに使われ、欧米ファンドが活用している情報。そのデータ価格が高騰しているというお話。

オルタナティブデータ

日経で紹介されていたのは、テスラ株式が高騰する原因にもなったケースで、スマホの位置情報を収集・分析することで、テスラの工場への作業員が増加し、フル生産になってきていることを把握できたという事例でした。工場内に一定時間とどまっている位置情報が多ければ、それだけ働いている工場作業員が多いことがわかるというわけですね。

こうしたデータとして、他にもSNS情報のほか、小売店情報、政策予測、求人情報などがあるとしています。小売店情報の中からは、クレジットカード情報や、POS(販売時点情報管理)データが紹介されてます。

さらに、上場企業の経営者の会見内容をAIで分析して、経営者の本音を探るサービスや、人工衛星画像で工場の生産状況を探るサービスなんかもあるそうです。いやぁ、凄いことになってきましたね。しかし、日本の機関投資家はこうした動きに乗り遅れているんだそうです。

当然規制も必要に

衛星画像のサービスを引き合いに日経でも書かれていましたが、当然、インサイダー取引の観点からの規制が予想されます。企業の内部者しか知り得ないインサイダー情報に限りなく近づくということと、それが可能になるのがごく一部の限られたリッチな投資家であるということがポイントです。

また、こうした限られた機関投資家だけが有利なツールを持っているとなれば、当然個人投資家は市場から退出していくことになります。敗者が居るからこそ勝者が生まれるゼロサムのマーケットです。個人投資家の離散は市場に致命傷を与えてしまうことにならないよう、規制が必要になってくるわけです。

早い者勝ちって訳でもないんですが

ただ、情報が公表されるよりも、いち早く情報を知りえることで、必ず相場で勝てるというものでもないんですけどね。相場の格言に「頭と尻尾はくれてやれ」なんていうのがあります。ある銘柄の上昇相場があったとして、相場の大底での買いや相場の天井での売りを当てようと思うな。みたいな意味で、相場の頭と尻尾の部分を上手くとらえるのは難しいもので、そんなところで失敗せずに、魚でいうと身の美味しいところを取りに行きなさいという格言なんですね。

最後に、連休前4/23の日経に出ていた記事も紹介しておきます。「東証、データ事業で実証実験 アスタミューゼと連携」。この記事って、まさにオルタナティブデータを機関投資家に提供して東証が儲けようとしているという記事です。相変らず個人投資家を軽視した胴元ぶりです。

千代田化工に1500億円支援 三菱商事

10連休最後の日の日本経済新聞の一面トップ記事です。三菱商事はプラント会社大手、千代田化工建設の経営再建を支援する方針を固めたとのこと。千代田化工は2019年3月期に大幅な最終赤字になる見通しだが、液化天然ガス(LNG)プラントの高い技術をもつ千代田化工の再建を支援していくそうです。

最終赤字は1500億円に拡大

千代田化工の2019年3月期の業績については、昨年から報道されていましたが、昨年11月時点では最終赤字1050億円とされていました。それが一気に1500億円まで拡大。主因は米ルイジアナ州で14年から工事を進めるシェール由来の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「キャメロン」。記事ではハリケーンの復興需要によるとしていましたが、労働者不足を背景に人件費の単価が上昇し、約850億円の追加工事費用が発生したということです。

自己資本比率は18年3月末の37.5%から12月末に7.7%まで落ち込んでいるようで、自己資本比率の改善のため、33.4%の株式を保有する大株主の三菱商事が再度、再建に向けた優先株による第三者割当増資を引き受け、融資も実施するということです。

プラント事業の怖さ

千代田化工がこうした危機で支援を受けるのは3度目です。ということは過去2回についてはちゃんと再建したということ。今金融の世界で起きている危機とは全く異質のような気がします。記事にもありましたが、今後の液化天然ガス(LNG)プラントに関する将来性はかなり明るく、高い技術をもつ千代田化工の再建は日本のインフラ輸出戦略の試金石となるというわけです。

千代田化工は、クリーンエネルギーとして注目されているLNGの製造プラントにおいて48%という驚異的なシェアを持っているそうで、これほど世界ブランドとしての地位を確立している日本企業は今では珍しいですよね。しかし、そんなブランド企業でもこんなふうに業績が一気に悪化してしまうというのがこの業界の恐ろしいところです。

工期が長く、その間の原油、LNG市況の変動や、資材の価格変動、製造要員の人繰りなど、いわゆる受注案件の工程管理の難しさがこの業界のキモのようです。その工程管理能力を向上させるために三菱商事が乗り出し、さらに今回三菱商事流の管理を浸透させようということのようで、一昨年には三菱商事出身者が社長に就任しています。

三度目の正直

とまぁ、非常に難しい業界ではありますが、三菱商事の力の入れようからもこの業界の将来性は窺えるというもの。ESGの推進という環境の後押しもあり、同社の再建が成功するのか見守っていきたいと思います。一度目の再建場面では、kuniの友人のアナリストが当時ボロ株だった同社株を強く推奨していて、その後株価が大化けした記憶があります。今回も期待したいところです。頑張れ千代建。